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 仕事始めの一週間は挨拶回りや関西出張などで読書時間がほとんど取れず。というかむちゃくちゃハードワークで疲れる一週間であった。この週末にようやく少しはのんびりできるが、外回りの分、中の仕事がたまってしまったので、月曜の祝日は出勤しないとだな(泣)。

 そんな中、かろうじて読んだのが英国の四大女流推理作家の一人、マージェリー・アリンガムの『ホワイトコテージの殺人』。アリンガムの作品といえばアルバート・キャンピオンのシリーズが有名だが、本作は彼女が初めて書いた長編ミステリでノンシリーズものである。
 ちなみに初の長編は『Blackkerchief Dick』だが、こちらはミステリではなく海賊をネタにした歴史もののようだ。

 まずはストーリーから。
 1920年代の英国ケント州。とある村をドライブ中の青年ジェリー・チャロナーは、美しい娘に出会い、帰宅先の白亜荘(ホワイトコテージ)まで送ることにする。だが、そこで殺人事件に遭遇。ジェリーはスコットランドヤードの敏腕警部として知られる父、W・T・チャロナーを呼び寄せた。
 被害者は白亜荘の隣に住むエリック・クラウザー。その評判はすこぶる悪く、誰もが彼を憎んでいたが、決定的な証拠は見つからない。だがクラウザーと同居する男チェリーニが突然姿をくらましたことから、容疑が濃厚となる……。

 ホワイトコテージの作品

 アリンガム初の長編ミステリというだけでなく、二十三歳のときの作品ということだが、まあ確かに若書きを感じるところは多々あるけれども、同時になかなか意欲的な作品でもある。
 それがもっとも顕著なのがやはりプロットやストーリーになるだろう。館ものというオーソドックスな導入から舞台を海外へと移したり、国際謀略的なネタを絡ませたり、はたまたロマンス要素を多めに取り込んだりと、地味になりがちな本格ミステリをショーアップする工夫は悪くない。
 真相のインパクトも当時としては十分だろうし、謎解きをああいう形で見せるのも、やはり型に嵌らないものにしたいというアリンガムの意識の表れではないだろうか。

 ただ、先に書いたように気になるところもちらほら。
 特に警察の捜査という点に関してはかなりアバウトさが目立ち、まるで素人探偵のように思えるほどだ。ジェリー・チャロナーが素人探偵として独立して動くのであればいいのだけれど、警部のW・T含めてそうなので、このあたりは適当というか、著者にとって興味の範囲外だったのかもという印象である。
 ラストについてもそういう意味では乱暴な作りなのだが、これは作中で度々語られるW・T・チャロナー警部の捜査方針と微妙にリンクしており、作品全体を貫くテーマとしてはなかなかいい。ところが残念なことに著者はこれまたけっこうあっさりと流しており、何とももったいないかぎりだ。このテーマありきで全体をブラッシュアップすれば、また違った印象になったろうになぁ。

 ということで過剰な期待はしないほうがいいけれど、それなりには楽しめるし、若きアリンガムの目指すところはうかがえる一作。クラシックミステリのファンであれば。


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 今年最初の読了本は論創ミステリ叢書から『藤村正太探偵小説選I』。
 帯に『川島郁夫探偵小説選』第一巻とあるように、本書は藤村正太が川島郁夫名義で書いた探偵小説を集めたものだ。藤村正太は1963年に『孤独なアスファルト』で乱歩賞を受賞したこともあって、社会派として名が通っているところもあるが、けっこう通俗的なものもあったり意外にその作風は幅広いようで、時代の求めに応じていろいろ書き分けてきた印象もある。
 そんな藤村正太だが、昭和二十五年のデビューから十年ほどはガッツリと本格探偵小説に向き合っており、その当時のペンネームが川島郁夫である。つまり本書は藤村正太の初期本格探偵小説集というわけだ。

 藤村正太探偵小説選I

「黄色の輪」
「接吻物語」
「盛装」
「虚粧
「或る自白」
「謎のヘヤーピン」
「田茂井先生老いにけり」
「筈見敏子殺害事件」
「液体癌の戦慄」
「暴力」
「断層」
「その前夜」
「法律」
「武蔵野病棟記」
「或る特攻隊員」

 収録作は以上。川島郁夫名義の作品はいくつかアンソロジーで読んでおり、その印象は悪くなかったが、いやこれだけまとまると圧巻である。これだけ多くの本格を書いていたのかという驚きがあり、しかも、その一作一作がけっこう濃い。また、本格中心ではあるけれど、なかにはユーモアを打ち出したもの、歴史物などもあって、バラエティに富んでいるのは後期に共通するところといえるだろう。
 ただ、ネタの詰め込みすぎだったり、強引すぎたり、プロットがわかりにくかったりと、全体的にけっこう粗は目立つし、完成度の低さは気になるところだ。アイデアは悪くないのだが、それを探偵小説としてまとめるテクニックがまだ不足しているという感じで、実にもったいない。

 そんななか気に入った作品をあげると、まずは「接吻物語」。これは「黄色の輪」と同時に懸賞に応募した作品で、結果としては「黄色の輪」が三等入賞となったのだが、個人的には事件の様相をガラッとひっくり返してみせた「接吻物語」のほうが上と思う。ちなみに乱歩も同じ意見だったようだ(苦笑)。
 「盛装」も懸賞応募作品。こちらは中編部門ということで、なかなか読み応えがある。密室ものではあるがむしろアリバイトリックが興味深い。
 「液体癌の戦慄」は本格というより変格といった方が適切か。レベルは落ちるが、ネタ自体の面白さで引き込まれた。
 「断層」も本格としてはいかがなものかという気もするが、この設定自体には惹かれる。というかこれでは純文学になってしまうか(苦笑)。
 ネタを詰め込みすぎてプロットがおかしくなりがちという話を上で書いたが、ボリュームのある作品はそのあたりが多少は緩和されて割といいものが多い気がする。「武蔵野病棟記」もそのひとつで、著者の闘病経験が活かされていたり、複雑な人間関係などが盛り込まれ、読み応えがある。

 ということですべてが満足できる作品ではないけれど、無理矢理なところが逆に探偵小説の香りを感じさせる場合もあるし、そもそも著者のこの時代の作品がまとめられたということだけでも買いの一冊。探偵小説ファンであれば十分オススメといえるだろう。第二巻の感想もそのうちに。


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 新年明けましておめでとうございます。
 本年も「探偵小説三昧」を何卒よろしくお願い申し上げます。

 さて、今年一発目の更新である。まあ、いつものことではあるが、年末は大掃除から買い出し、おせちの準備に追われ、年が開けると酒飲んで初詣してまた酒を飲んでという怠惰な毎日なので、思ったように本が読めていない。
 ただ、気になっていた映画『ボヘミアン・ラプソディ』だけはしっかり観にいく。すでにかなりいい評判は聞こえていたのだが、これが期待に違わぬ傑作でありました。

 ボヘミアン・ラプソディ

 『ボヘミアン・ラプソディ』は英国の伝説的ロックバンド〈クイーン〉、そしてそのメインボーカリストであるフレディ・マーキュリーを描いた物語。管理人はコアなクイーンファンではないけれど、若い頃はアルバムは何枚か所有していたし、今でもiPhoneでベスト盤を聴いていたりする程度のファンである。
 で、それぐらいのファンが観ても、というかそれぐらいのファンだからこそ、よけいハマったのかもしれない。作品内で効果的に使われる楽曲の良さはもちろんなのだが、それらの楽曲が生まれるエピソードの数々、フレディはじめメンバーたちの絆やスタッフ、家族との葛藤など、いろいろなドラマがバランスよく盛り込まれている。
 もちろん二時間ちょっとの映画なので、すべてを深く掘り下げることは不可能。脚色や誇張もあるだろう。しかし、ちょうど気持ちよいレベルでそれらの要素が混ざり合い、それがラストのライヴ・エイドに向けて高まってゆく。ラスト21分の感動(ほんとはもっと短いけれど)という言葉に嘘はない。

 当ブログでこういう映画をオススメして、どれだけ効果があるかわからないが、いやほんとにオススメです。

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 さて、今年も早いもので残すところ一日をきり、「探偵小説三昧」年末恒例の極私的ベストテンの発表である。
 ここ数年は昭和の推理作家や古典の読み残しなどを意識して消化しているのだが、今年はロス・マクドナルドと結城昌治を進められたのが嬉しい。
 まあ、何を今さらというなかれ(苦笑)。ミステリも古今東西かつジャンルで読者層がけっこう分かれるわけで、専門家でもない限り全方位的に網羅している人はそれほど多くはない。また、ある程度まで網羅している人でもピンポイントで抜け落ちている作家がいたり、そもそも代表作しか読まない人もけっこういたりする。
 管理人などは手をつけた作家の作品はできるだけ全部読みたい主義なので、なかなか幅広く読むことができないでいる。ミステリもかれこれ四十年以上読んでいるが、それでもメジャーの読み残しはいくつもあるわけで、いやなんとも奥が深い。


 とまあ、言い訳もどきの枕もすんだところで、2018年のベストテン発表である。管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選んだ結果である。
 ではどうぞ。

1位 大岡昇平『事件』(創元推理文庫)
2位 日影丈吉『内部の真実』(創元推理文庫)
3位 アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』(創元推理文庫)
4位 ロス・マクドナルド『死体置場で会おう』(ハヤカワミステリ)
5位 結城昌治『夜の終る時』(角川文庫)
6位 L・P・ハートリー『ポドロ島』(河出書房新社)
7位 ヘレン・マクロイ『牧神の影』(ちくま文庫)
8位 ジョルジュ・シムノン『メグレ夫人の恋人』(角川文庫)
9位 ジョン・ロード『代診医の死』(論創海外ミステリ)
10位 ポール・アルテ『あやかしの裏通り』(行舟文化)

 昨年に続き、今年も悩みに悩んだベストテンである。昭和の香り濃厚なミステリ、新旧本格、警察小説にハードボイルド、幻想小説まで、とにかく今年は個人的ツボにはまる作品が多すぎて、ベスト三十ぐらいまであげたい気分である。

 1位の『事件』は社会派という雰囲気で敬遠している人もいるかもしれないが、それ以前に極上の法廷ミステリであり、エンターテインメントでもある。これだけは悩むことなく1位にあっさり決めてしまったが、これを今まで読んでなかったのは不覚というしかない。

 2位の『内部の真実』も不覚の一作(笑)。日影丈吉の代表作もひととおり押さえてきてはいるが、それでもこういう傑作が残っているから嫌になる。なんとなくだが、戦争を絡めたミステリには傑作が多いような気がする。

 3位は今年の翻訳ミステリの主役。ここまで話題になると得てして読む気が失せるものだが、これは読んでおいてよかった。

 今年かためて読んだロスマクからは、あえてノンシリーズの『死体置場で会おう』をセレクト。ハードボイルドでありながら謎解きや意外性も楽しめるレベルの高さ。個人的にはまだ後期作の読み残しが多く、これは来年の大きな楽しみである。

 国内作家で今年開拓したのは結城昌治。意外に幅広い作風だが、やはり好みは渋めの警察小説。何よりその味わいが気に入ってはいるのだが、それでいてトリッキーな部分もちゃんとあるのが素晴らしい。小粒ながらその読後感は大作に匹敵する。

 幻想小説もいくつかよいものがあったが、今年の筆頭はハートリー。決してすっきりするような話ばかりでないのだが、むしろ読者を煙に巻くようなところがだんだん魅力的になってきてランクイン。

 7位は当ベストテン常連のマクロイだが、今年は二冊の新刊を読めて満足。ただ、『悪意の夜』は思ったより低調で、いろいろな面でこちらのほうが楽しめた。

 8位はシムノンのメグレもの短編集。長編のメグレものとはまた少し違った面白さを感じることができる好短編集だが、残念なことに絶版である。ぜひどこかから復刻してほしい一冊である(できれば完本で)。

 今年はジョン・ロードの作品も長年の積ん読を消化できた。それも『代診医の死』あればこそで、この作品から紹介されていれば、日本でもかなりの人気が出て、退屈派などと呼ばれることもなかったろうに。ともあれ本作をきかっけに以前の作品の良さも再認識できたのはよかった。

 10位は懐かしやのポール・アルテ。版元の販促にかける気合の入り方がすごくて、泥臭い戦術ではあるけれど、これはやはり応援したくなる。もちろん、それも本作の内容が伴っていたからで、引き続き邦訳が待たれるところだ。


 ということで以上、探偵小説三昧の極私的ベストテン2018。しかし、今年は他にもランクインさせたい作品が山のようにあるため、以下、順不同でできるだけあげておこう。
 まず、古いものが多いのでどうしても商業誌のベストテンではランクインしにくい論創海外ミステリだが、フランシス・ディドロ『七人目の陪審員』ラング・ルイス『友だち殺し』リリアン・デ・ラ・トーレ『探偵サミュエル・ジョンソン博士』エリザベス・フェラーズ『灯火が消える前に』の四作はおすすめ。特にフェラーズは『カクテル・パーティー』もなかなかの出来で、今後の邦訳に期待したいところだ。

 怪奇幻想系ではダフネ・デュ・モーリアの短編集『いま見てはいけない』、もう少しファンタジー色が強いものがお好みならフランシス・ハーディング『嘘の木』、叙情的なものなら堀辰雄『初期ファンタジー傑作集 羽ばたき』もよろしい。

 現代ミステリではビル・ビバリー『東の果て、夜へ』アーナルデュル・インドリダソン『湖の男』ジョー・イデ『IQ』ピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』マイクル・コナリー『燃える部屋』シェイン・クーン『インターンズ・ハンドブック』など傑作目白押し。もうどれをとってもベストテン級なのだけれど、管理人の好みもあって惜しくもランクインならず。

 国産作家では、まず陳舜臣の短編集『方壺園』。読了当時は絶対ベストテン級だと思っていたのだが、ううむ、自分で落としておきながらまさかの結果である(苦笑)。ほかには多岐川恭『静かな教授』もかなりオリジナリティのある作品で印象に残っている。
 あとは別格で横溝正史『雪割草』。ミステリでもなく、傑作というほどでもないが、これを読まないわけにはいかない。

 ノンフィクション系では何といっても乱歩関連本に尽きる。少し前の記事でも書いたが、内田隆三『乱歩と正史 人はなぜ死の夢を見るのか』中川右介『江戸川乱歩と横溝正史』中相作『乱歩謎解きクロニクル』平山雄一『明智小五郎回顧談』の四作は、乱歩ファンを名乗るなら必読ではないか。


 ということで今年の「探偵小説三昧」の更新はこれにて終了。
 今年も大変お世話になりました。また、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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 昨日は仕事納めで、本日は家の大掃除。すでに筋肉痛が出ているのが情けない。

 本日の読了本はエリザベス・フェラーズの『カクテル・パーティー』。一ヶ月ほど前に読んだ『灯火が消える前に』が思いのほか良かったので、こちらも早々に手に取ってみた。1955年のノンシリーズ作品である。

 ロンドン郊外にある小さな村で暮らす元女優のファニーと大学教授の夫バジル。ファニーは息子同然に可愛がってきた異母弟のキットが婚約したという話を聞き、そのお披露目を兼ねてカクテルパーティーを自宅で開催することにする。
 だがそのパーティーで出されたロブスター・パイが苦く、みなが残してしまうなか一人だけ美味しいと食べ続けた男性が、帰宅後に死亡してしまう。死因はヒ素による中毒死であった……。

 カクテルパーティー

 なるほど、ネットでの評判もよかったのでけっこう期待していたが、これは『灯火が消える前に』に匹敵する出来だ。しかも序盤にパーティーという舞台をもうけ、それを通してクセの強い登場人物を紹介し、同時に不安定な人間関係を読者にイメージさせるという共通点があるのが面白い。

 もともと人物描写に定評あるフェラーズだが、本作でもその手腕はフルに発揮されている。
 姉離れできていないキット、その婚約者で裏表が激しいローラ、一見常識人だが妻の資産に頼って暮らすコリン、村のトラブルメイカー・トム、キットの元恋人でトムの娘スーザンなどなど。主要人物のほとんどが感情移入しにくいタイプなのに、その絡め方が絶妙で、正直、大した事件が起きなくても十分に面白いのである。
 本作の注目はもちろんローラで、二面性とまではいかないが裏表の激しい典型的な悪女タイプ。それが一番わかるのは実は読者であって、それに登場人物が振り回される様を眺めていると……。こういう展開もうまいんだよなぁ。
 ただ、ローラ以上に興味深い登場人物が、実はもう二人ほどいるわけで、それはご自分で読んでお確かめください。

 本格ミステリとしても悪くない。パーティーの招待客に隠された秘密は、それ単体でもまあ普通に面白いが、それがある偶然を盛り込むことで、事件の構図を一気にややこしくする。
 あまりガチガチな本格というふうではないけれど、そういった偶然によって起こるさまざまな影響などを、きちんと描写として伏線的に落とし込んでいるところがさすがである。
 地味だと言われがちなエリザベス・フェラーズのノンシリーズ作品だが、本作にかぎってはそれも当たらないだろう。誰が真犯人なのか、ついでに誰が探偵役なのかという興味も含めて、ラストまで一気に楽しめる佳作である。


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 今年は江戸川乱歩に関する本をけっこう読んだ。年の始めに新潮社〈とんぼの本〉から『怪人 江戸川乱歩のコレクション』というビジュアル本。続いて昨年から読み続けていた集英社文庫の「明智小五郎事件簿」を春頃にようやく片付け、その勢いで戦後の明智登場作品『化人幻戯』『影男』を読了。そして後半は評論系が中心で、内田隆三『乱歩と正史 人はなぜ死の夢を見るのか』、中川右介『江戸川乱歩と横溝正史』、中相作『乱歩謎解きクロニクル』という三冊。
 『怪人 江戸川乱歩のコレクション』こそいまひとつだったけれど、そのほかの評論系はそれぞれ異なるアプローチでどれも面白く読めた。

 本日の読了本は、そんな乱歩関連本の大トリとなる『明智小五郎回顧談』。
 ちょうど一年前の今頃に出た本なので何を今更の一冊だが、これがなかなか面白い趣向である。すなわち乱歩の生んだ名探偵・明智小五郎に自伝的な一冊。明智が自分の生い立ちから、小説で語られなかった空白の期間の活動、そして知られざる人間関係を自ら語っていくというもの。

 明智小五郎回顧談

 著者はシャーロキアンであり、乱歩研究家であり、加えてクラシックミステリの翻訳なども手がけている平山雄一氏である。シャーロキアンのアプローチを明智小五郎研究にも応用した、いわばマニアの究極のお遊びという一冊なのだが、これがまあ、ここまでやるかという出来栄え。

 スタイルとしては一応、小説である。「警察庁史」を編纂している箕浦元刑事から明智がインタビューを受けるという形で進むのだが、もちろん乱歩の書いた事実だけでなく、そこには著者の平山氏が原典から推測したこと、想像したことも含まれる。さらには時代的背景を踏まえて当時の事実や実在の著名人を絡めるお遊びも含め、架空の明智伝記を構成している。
 管理人は正直なところ、パスティーシュや二次創作の類は好きではないのだけれど、ここまで原作のみならず当時の史実なども調べていると、さすがにこれはまいったというしかない。小説という形をとってはいるがこれは歴とした評論というべきだろう。とはいえ、ガチの評論では不可能な、単なる「こうだったら楽しい」という部分も盛り込んであるのがこのスタイルの大きな利点である。

 とにかくさまざまなネタを仕込んでいる本書だが、個人的に一番面白かったのは、お勢の件である。ホームズや二十面相あたりはまだネタとして想定の範囲内だったが、お勢をこういうふうに捉えるのはさすがに予想できなかった(笑)。
 ただ、ここまでいろいろ膨らませると、読者みなそれぞれの明智たちのイメージがあるだけに好き嫌いは出てくるかな。

 「明智小五郎回顧談」の謎

 なお、小説のスタイルをとっているとはいえ、根っこはシャーロキアン的なアプローチであるだけに、やはり元ネタの解説は必要かなと思っていたのだが(すべて気がつくのはさすがに無理だと思うし)、後日『「明智小五郎回顧談」の謎』という解説本も刊行されて、これは非常にありがたかった。
 今から『明智小五郎回顧談』を読もうかと思っている人は、ぜひ『「明智小五郎回顧談」の謎』もセットで買っておくことをオススメする。ただ、こちらは私家版なので、通常の新刊書店では購入できないので念のため。今だったらこちらでどうぞ


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 エドワード・D・ホックといえば短編ミステリの名手として知られているけれど、シリーズ探偵が多いことでも有名だ。本日の読了本『コンピューター検察局』もコンピューター検察局のカール・クレイダーとアール・ジャジーンが活躍するシリーズの一作で、珍しいことにこれが長編、しかもSFミステリである。

 こんな話。物体を高速で移送させる夢の装置〈トランスベクション・マシン〉の発明者デフォーが腹痛を訴え、診察を受ける。診断結果は虫垂炎であり、名医の執刀手術をプログラムしたマシンで、手術は簡単に終わるはずだった。ところが安全なははずの手術マシンが暴走し、デフォーは死亡してしまう。
 事故、それとも故意によるものなのか。重要人物の不審な死に、合衆国政府はコンピューター犯罪を取り締まるコンピューター検察局に調査を命じるが、浮気を繰り返すデフォーの妻、その不倫相手にして〈トランスベクション・マシン〉の共同開発者、機械による支配に反対する過激派組織など、容疑者には事欠かない始末。局長のクレイダーと副局長ジャジーンはそれぞれ別ルートで捜査を進めるが……。

 コンピューター検察局

 ホック作品の特徴は、短編やシリーズキャラクターが多いことはもちろんなのだが、何より忘れてならないのは不可能犯罪ものを中心とした本格ミステリの追求だろう。シリーズによって味付けやアプローチは異なるが、基本的にはパズラー愛に溢れた作品ばかりである。

 本作もSFの設定を借りることで、新たな不可能犯罪ものに挑戦した一作といえるだろうが、いかんせん1971年の作品ということを割り引いてもSFとしての魅力には乏しい。
 電気自動車だったり手術マシンだったり、ロケットコプター、衝撃銃などなどSF的なガジェットはいろいろと出てくるものの、どれも古臭いイメージ。とにかくSF的に置き換えただけという印象。金星への移民や機械文明に反発する過激派というのもありきたりすぎて、そこにSFマインドといったものはあまり感じられない。まあ、リアルタイムで読んでいたらもう少し印象が変わったかもしれないけれど、それにしてもこれは厳しい。

 ただし、本格ミステリとしてはそれほど悪くないのはさすがホックである。メインとなる謎は手術マシンの暴走による死だが、これはある意味、密室殺人的であり、ホックらしいものといえる。
 ただ、それとは別に事件全体に関わる大きな仕掛けがあって、実はこれが楽しい。トリック自体は他愛ないのだが、物語の設定を最大限に活かしたところがいいのだ。
 プロットもしっかりしており、キャラクターもやや作りすぎではあるが面白いし、SFとしての不満はあるもののミステリとしては十分及第点だろう。このシリーズはもう一作長編の邦訳があるので、そちらもそのうちに読んでみたい。


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 この二、三年、趣味的にミステリのベストテン比較をやっているが、今年もほぼ各種ランキング本が出揃ったようなので調べてみた(海外部門のみ)。
 基本的には『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」、『週刊文春』の「ミステリベスト10」、宝島社の『このミステリがすごい!』の各ランキング20位までを対象に平均順位を出すというもの。『本格ミステリ・ベスト10』もけっこう知名度はあるが、ジャンルが本格のみなので対象外としている。
 また、ランキングによって対象となる刊行期間が異なるため(ミステリマガジンのみ10月から9月、他は11月から10月)、1つしかランクインしていないものは省き、ふたつのランキングにランクインしているもののみ取り上げている。
 ただ、1つしかランクインしていないものでも、それがむしろランキングの個性ということにもなるので、参考資料としてそちらも並べてある。
 で、今年は以下のような結果となった。

 2019年ランキング比較

 昨日のブログでも書いたが、今年は圧倒的な創元のワンツーフィニッシュという結果である。まあ、『カササギ殺人事件』はプロモーションも力が入っていたし、しかも内容がそれに見合うものだったので妥当なところだろう。二位の『そしてミランダを殺す』はもちろん面白い作品ではあるのだが、もし『カササギ殺人事件』がいなかったらトップ独占ということになったわけで、さすがにそこまでの作品とは思えないんだよなぁ。プロットとストーリーのひねり具合がよほど評価されたんだろうか。
 三位から五位に目をやると、多少ばらつきはあるが、実はこちらもほぼ鉄板状態。とはいえ内容はハードボイルドっぽいもの、アジアン本格、ドイツのどんでん返し職人とバラエティに富み、年末年始の読書にはなかなかよいラインナップになっていると言える。
 まあ、ここまで上位ランキングが似通っていると各誌の存在意義は非常に薄くなってはしまうわけで、これを各担当さんはどういうふうに捉えるか、である。面白いものは面白いから仕方ないと開き直るか(笑)、あるいは来期はクセを強めてくるのか、お手並み拝見というところだろう。正直、後発組には少し考えてほしいものだが。

 ただ、ランキング本の意義は置いておくと、今年は創元が強かったけれど、早川、文春もかなりの数が上位を占めており、これらの版元としては大健闘だろう。文春をのぞけば、集英社や講談社、新潮社といった大手が壊滅状態だけに、専門系出版社の意地を感じる。
 そんななか、できたばかりの零細出版から出た「あやかしの裏通り」は凄い。ほぼネットでの宣伝しかしていないと思うのだが、マニア諸氏のハートをガッチリ掴んで(管理人もその口だが)、ベストテンに食い込んできたのは大したものだ。
 また、クラシックゆえランキング的にはどうしても不利だが、論創海外ミステリは今年もがんばっていた印象。まあ、ビジネスとしては難しいのはわかっているが、もう少し一般的な人気を集めてもいいと思うのだがなぁ。

 あと、ここ数年の傾向といえるかどうか、大御所や常連といった作家の作品が上位にこなかったのが印象に残った。それなりのレベルの作品を書いても、どうしても過去の傑作と比べるからインパクトは弱くなるのだろうけれど、以前は名前だけで上位にくるケースも多かったから、本当のところの出来は気になるところである。
 個人的にはキングやディーヴァーをすっかり追っかけなくなってしまったのだが、でも本当にすごい作品はやっぱり読みたいものなぁ。

 管理人の個人的注目作家はセバスチャン・フィツェックとギヨーム・ミュッソ。どちらも未読の作家で、特にフィツェックは今回のものだけでなく、既刊作品も評判がよかったようなので、そろそろまとめて読んでおきたい作家である。

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 『このミステリーがすごい!2019年版』にざっと目を通す。例によって管理人は国産の現代物をほとんど読まないので海外中心ではありますが。

 このミステリーがすごい!2019年版

 ランキング結果は案の定『カササギ殺人事件』がトップで、これはもう鉄板だと思っていたが、二位の『そしてミランダを殺す』には正直ちょっと驚いてしまった。確か文春、早川の各ベストテンでも二位だったはずで、今年はワンツーフィニッシュをすべてこの二作で独占という結果なのだ。
 しかしカササギはともかく、ミランダってそこまで凄かったかな。面白くは読めたが、まさかそこまで評価されるとは。ちなみにこの二作とも創元推理文庫ということで、創元は昨年からベストテン争いがなかなか好調ですな。

 ランキング以外に目をやると今年は30周年記念企画ということで、歴代一位作品を集めてそれでベストテンを行う「キング・オブ・キングス」、歴代ベストテンをまとめた小冊子をつけているのが目を惹く。まあ新しいファンには便利なのだろうが、すべてリアルタイムで買って持っている身としてはそこまでのものではない。というか、ネットで見ることができるものなぁ。
 というわけで今年も楽しく読めるのは「我が社の隠し球」と投票者たちのコメント「My BEST 6」ぐらいか。特に隠し球の方では、国書刊行会から刊行予定の『評伝モーリス・ルブラン』が個人的に期待大である。ルブランはルパンものも含めてけっこう読み残しが多いので、このタイミングで読破する手もあるなぁ。


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 本日の読了本はシェイン・クーンの『インターンズ・ハンドブック』。タイトルだとミステリやら何やらよくわからないが、これは殺し屋ものである。

 主人公ジョン・ラーゴはヒューマン・リソース社の若き派遣インターン。しかし、その実は凄腕の殺し屋である。ヒューマン・リソース社は組織的に用心の暗殺を請け負う殺人会社であり、殺し屋をインターンとして送り込み、任務を完遂させていたのだ。
 ただし、ジョンは二十五歳の若さですでに引退を控えており、今回の法律事務所への潜入が最後の仕事だった。この年齢を越えるとインターンとしては歳をとりすぎ、不要な注目を集めてしまうためである。
 そんな引退直前の彼が、新入りのために最後の仕事を書き記したのが本書、すなわち殺し屋のためのハンドブックである。

 インターンズ・ハンドブック

 うむ、まずまず面白い。
 殺し屋ものというと、最近ではジョー・ネスボ『その雪と血を』、少し前だとローレンス・ブロックの殺し屋ケラー・シリーズやスチュアート・ネヴィル『ベルファストの12人の亡霊』、古くはドナルド・E・ウェストレイク『やとわれた男』など、なかなか傑作ぞろい。しかもどれもが独創性に富んでいるのだが、本書もそういう系譜に連なる作品といえるかも。

 主人公ジョン・ラーゴはすでに紹介したように二十五歳の若者だが、殺し屋としてはベテランである。彼がこれまでの経験を活かして、教訓などを交えながら最後の仕事を振り返るという形で物語は展開する。
 ターゲットは法律事務所の三人の共同経営者のうちの誰かであり、それを突き止めることがまず必要というわけだが敵もさる者、そういう不測の事態を防ぐべく凄腕の兵隊を配下に置いて防衛に当たっている。ジョンはその障壁をどうやってくぐり抜けていくかという、メインストーリーとしての興味がまずひとつ。

 さらにはジョンがそもそもなぜ殺し屋稼業を始め、どのように成長していったのかというビルドゥングスロマン的なアプローチも面白い。
 主人公はとうてい感情移入できるようなタイプではないはずなのだが、成長過程において、いかにも職人然とした確固たるポリシーを形成するまでにいたり、常に客観的であろうと努めている。殺人というもっとも非人道的な行為において、とにかく現実的かつ論理的に物事を進めるという、そのギャップがなんともいえないブラックな可笑しさを醸し出す。

 ただ欠点もないではない。
 まず気になったのはどんでん返しの多さ。読者を驚かせたい気持ちはわかるのだが、こういうふうにラストをひっくり返すと歯止めが効かないというか、正直きりがない。
 個人的には38章で止めた方がむしろまとまりがあってよく、それでも39章以降をやりたかったのなら、それだけ膨らませて続編にすればよかったのにと思った次第。
 また、「インターンズ・ハンドブック」という体裁も気になった。実際には普通に一人称の殺し屋の物語であって、新入りを意識した台詞回しなどはあるにせよ、これでインターンのためのハンドブックというには無理がある。海外の作家は意外にこういう雑なパロディ的手法をとることがあり、残念なところである。
 まあ脚本家という本業がある著者の一作目ということで、とにかくいろいろとフックを盛り込みたかったのだろうが、先のどんでん返しの件も含め、控えめにした方がよいときもあるんだよなぁ。先輩格のブロックやネスボの殺し屋ものは、まさにそういう匙加減が上手いのだ。

 とまあ、最後はなんだか厳しめになったけれど、独特の味もあり楽しくは読めた。シリーズ化もされているようなので、少なくとも次が出れば読んでみたい。


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