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 天皇の即位の日及び即位礼正殿の儀の行われる日ということで、今年限りの祝日。ありがたく自宅で休ませていただく。

 で、パラパラと読んでいたのがヨコジュンこと横田順彌の『古本探偵の冒険』。SF作家にとどまらず古典SF研究家、明治文化研究家としての活動でも知られる著者の、〈本の雑誌〉に連載していたエッセイをまとめたものだ。最初は『探書記』という題名で本の雑誌社から刊行され、その後、新たなエッセイが加えられて学陽書房で文庫化されたのが本書。

 古本探偵の冒険

 著者の興味はもともとSFだが、そこから明治や大正の古典SFに広がり、さらには日本SFの父・押川春浪に着目したところ、彼が野球界の発展に貢献したことを知り、その結果、興味対象は日本野球どころか明治文化史にまで広がってゆく。
 本書はその研究のための資料収集に関するエッセイ集、いや、早い話がいわゆる古本エッセイである(笑)。
 管理人の守備範囲は探偵小説なので、SFや明治史はその延長線上の興味になってしまうのだが、それでも本書に取り上げられている珍本・奇本の数々は実に面白そうだし、それ以上に、その本に関する周辺情報や入手にまつわるエピソードなどが実に楽しく、読んでいてまったく飽きない。
 古本収集のエッセイ集というのは今も昔も意外に多いのだけれど、本書のようにギャグや自虐的な笑いを盛り込んだタイプは、もしかするとヨコジュンが元祖なのではないか(確かめたわけではないけれど)。

 ちなみに横田順彌は今年の1月4日に亡くなったのだが、昨日、漫画家の吾妻ひでお氏の訃報が出てことにも驚いた。いろいろあった人だが、やはり六十九歳はちょっと早い。今年は海外でもジーン・ウルフが亡くなったし、SF関係の悲しいニュースが多いなぁ。


テーマ:評論集 - ジャンル:本・雑誌


 ポール・アルテの『金時計』を読む。日本での版元が行舟文化に変わっての二冊目だが、なんと本作は本国で今年出たばかりの最新刊だ。というか、実は本国フランスより日本での刊行が先になったとかで、どういう事情があったかは知らないが、とりあえず日本のファンとしては嬉しい一冊である。

 まずはストーリー。
 1911年の冬のこと。織物輸入会社の社長ヴィクトリア・サンダースは、双子の弟のダレン、副社長のアンドリューとアリスの夫妻、秘書のシェリルを別荘に招待する。しかし、ダレンは猟色家、シェリルは傲慢、加えてアンドリューとシェリルが浮気をしているのではとアリスが疑い、ダレンとシェリルに互いに惹かれている様子。そんな一触即発のなかで、サンダースが死体で発見される。しかも現場は雪の密室状態であった……。
 時代は変わって1991年。劇作家のアンドレ・レヴェックは子供の頃に観た映画を思い出せず、これを解明することが自身のスランプを脱する手段だと考えていた。妻のセリアの勧めで、アンドレは近所に住む哲学者で映画マニアのモロー博士を訪ね、精神分析を応用した映画探しを試みるが……。

 金時計

 ええと、これはなんと言っていいのか。結論からいうと、えらく変なものを読まされたという感じである(苦笑)。
 以下、ややネタバレ気味になってしまうので未読の方はご注意ください。

 本作最大のポイントは、過去と現代、二つのパートで構成されているという点だ。シリーズ探偵の美術評論家オーウェン・バーンズが殺人事件を解決する1911年パート、そして劇作家のアンドレが過去の秘密を探ろうとする1991年パートで、この二つが章ごとに交互に語られてゆく。
 1911年パートはストーリー紹介でも書いたように、女性社長の殺害事件が描かれている。現場は野外だが、降雪のために擬似密室を構成しているのがミソ。密室も悪くはないが、プロットがそれ以上に良くて、意外な真相が読みどころである。
 一方の1991年パートはサスペンス調。アンドレが探しているのは映画だが、実はその映画を通じて、過去の忌まわしい出来事が明らかになるのでは……という展開。終盤はサイコサスペンスの香りを漂わせつつ、こちらもけっこう上手くできている。

 ということで、どちらのパートもそれなりに面白く読めるのだが、問題はこのパートのつなぎ方である。
 これがぶっちゃけ輪廻転生とかを持ち出してくるものだから、正直、二つのパートに対する興味との乖離がありすぎて、驚きや感動にはかなり乏しい。
 複数のパートで構成される作品の場合、興味はおのずと各パートがどのように関連するかにかかってくるわけだが、なぜこのような奇妙な形をとってしまったのか。まあ、意欲作とはいえないこともないのだが、各パートの内容は悪くないだけに惜しまれる。

 なお、過去と現代、二つのパートで見せるやり方は今時珍しくもない手だが、過去パートにシリーズ探偵を使うというのは。ちょっと贅沢な感じであった。


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 泡坂妻夫の『煙の殺意』を読む。シリーズキャラクターの登場しない初期のノンシリーズ作品を集めた短編集。収録作は以下のとおり。

「赤の追想」
「椛山訪雪図」
「紳士の園」
「閏の花嫁」
「煙の殺意」
「狐の面」
「歯と胴」
「開橋式次第」

 煙の殺意

 着想の面白さ、上質な語りと適度なユーモアや叙情性も散りばめられ、安心して楽しめる短編集である。亜愛一郎シリーズと雰囲気は似ているものの、内容的にけっこうバラエティに富んでおり、なかにはホラーチックなものまであるのが興味深い。ともかく秀作揃いの一冊なので、ファンならずとも一度は読んでおきたい。
 以下、作品ごとの感想を簡単に。

 冒頭から異色作の「赤の追想」。バーで女友達と会っている男性が、鋭い推理を発揮して女性の失恋話を掘り下げてゆくのが面白い。失恋話の真相も意外性があって悪くない。

 「椛山訪雪図」は本書でのベスト候補。美術品収集家の家で起きた殺人事件だが、絵画の図案や収集家の人生までをも重ねた構成が非常に巧み。

 「紳士の園」もかなりの異色作。出所したばかりの主人公が、刑務所で知り合った男性と公園で出会い、そのまま公園の白鳥を捕まえ、鍋にして花見としゃれこむ。ところが公園の茂みで死体を発見し、二人は慌てて逃げ出すが、なぜか翌日になっても死体や白鳥のことは一切ニュースに出てこない……。
 二人の会話や行動に味があって、それだけでも楽しい作品なのだが、そこにオチをもってくることで、一気に「奇妙な味」に化ける秀作。

 外国人のお金持ちに見初められ、友人にも知らせず異国へ嫁いだ女性と、その友人の往復書簡だけでまとめた作品。作品としては悪くないのだけれど、やや手垢がついたネタだけに、これはさすがにオチが読めてしまった。

 「椛山訪雪図」と並んで本書のツートップに推したいのが「煙の殺意」。デパートで大火災が起こり、そのニュースに気が気でない刑事が、あるアパートでの殺人事件を捜査する。一見、単純な事件に思えたが……。
 著者のデビュー作「DL2号事件」に通じるところがあり、犯人の行動の裏にあるものに驚かされた。

 「狐の面」はある山村へやってきた山伏一行をめぐる物語。山伏たちはプチ奇跡を起こして村人を魅了するが、その背後にはなにやら胡散臭いものが……。出来でいうと上記のツートップに譲るが、インパクトは勝るとも劣らない。山伏のプチ奇跡を次々と解説する面白さ、その山伏ネタが単なる前菜だったことも含め、予想外の展開に圧倒される。

 「歯と胴」は倒叙もの。被害者の痕跡をどう始末するか、徹底的な手段にこだわる犯人の姿も薄ら寒いが、最後には別種の怖さが待っている。

 開橋式が行われようとする矢先、招かれた警察署長が昔に手掛けた迷宮入り事件とそっくりなバラバラ殺人に遭遇するというのが「開橋式次第」。ドタバタは楽しいが、手がかりがちょっとあからさますぎるか。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 先週は水木金の三日連続で接待等々の飲み会があり、土曜は朝から台風に備えて家周辺の片付けやら窓の養生に明け暮れ、その後、台風は去ったものの日曜は日曜は後片付けである。
 そんなドタバタの疲れもラグビーW杯日本×スコットランド戦の感動でかなり解消し、さらには録画しておいた『RIZIN』と『八つ墓村』も見ればさらに回復できる見込みである。

 ただ、そんなわけで先週はほとんど読書が進まなかったのだが、ようやくロス・マクドナルドの『ウィチャリー家の女』を読み終える。ロスマク読破計画、久々に一歩前進。

 まずはストーリー。
 メドウ・ファームズの町に住む富豪ホーマー・ウィチャリーを訪ねた私立探偵のリュウ・アーチャー。ホーマーの依頼は失踪した二十一歳の娘・フィービーの捜索だった。彼女は三ヶ月前、航海に出るホーマーをサンフランシスコの波止場で見送ったあと、その消息を絶っていたのだ。
 アーチャーは見送りの当日、ホーマーのもとへ前妻のキャサリンが現れて騒動を起こしたことを聞き出すが、なぜかホーマーはそれ以上キャサリンについては話そうとしない。ウィチャリー家に暗い影が覆っていることを感じつつ、アーチャーはひとまずフィービの住んでいた下宿を訪れる……。

 ウィチャリー家の女

 ロスマクの後期傑作群の先陣を切る作品であり、ハードボイルド全体のなかでもかなりのポジションに位置する作品といってよいだろう。
 後期作品の特徴として知られる家族の悲劇や崩壊というテーマ、豊穣な人物描写などは当然として、何より本作で実感できるのは、探偵のアーチャーが私情をほぼ混えずに淡々と関係者にあたり、その真相を導いていくというスタイルをはっきり打ち出したことだ。
 多少は荒っぽい場面もあるけれど、それまでのロスマク作品に比べると、アーチャーの感情の発露などが恐ろしいほど抑制されており、別人の気配すらある。

 ハードボイルドの場合、社会悪や正義、探偵自身の生き方といったものにフォーカスを当てる作家が多いけれども、ロスマクの場合、特に後期作品の場合だが、興味はあくまで事件やその関係者を描くことにシフトしている。
 たとえば本作では“ウィチャリー家の女”はもちろんだが、その他のウィチャリー家の面々も一筋縄でいかない者ばかりで、その各人とアーチャーのやりとりが滅法面白い。アーチャーは自己を徹底的にころし、薄皮を剥いでいくかのように彼や彼女の内面に迫る(この方向性は、本作が書かれる前に起こった、ロスマク自身の娘の失踪事件が影響していることは間違いないだろう)。
 そこに奇をてらったような手法はないのだけれど、結果として表出した事実はショッキングであり、あらためて本作が一級のミステリだったことに気づくのである。

 イキのいいロスマク初期作品、あるいはチャンドラーのマーロウに比べれば、ストーリーなどの点で物足りなさを感じる向きもあるかもしれないが、この全体的に抑えた重苦しい味わいこそが後期ロスマクを読む楽しみである。逆にいうと変にハードボイルドにこだわりがないような人の方が、より本作を楽しめるといえるだろう。傑作。


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 1979年に講談社文庫から刊行されたアンソロジー 『世界鉄道推理傑作選1』を読む。タイトルどおり鉄道に絡んだ海外ミステリを集めたものだが、これがなかなか魅力的な一冊だった。
 まずは収録作。

M・M・ボドキン「ステッキのキズは?」
V・L・ホワイトチャーチ「ロンドン中北鉄道の惨劇」
V・L・ホワイトチャーチ「盗まれたネックレース」
作者不詳「モアハンプトンの怪事件」
R・オースティン・フリーマン「オスカー・ブロズキー事件」
エドマンド・クリスピン「列車に御用心」

 世界鉄道推理傑作選1

 まず、このラインナップがお見事。「オスカー・ブロズキー事件」はともかく、その他の作品は当時、これでしか読めないレア作品ばかり。今でこそホワイトチャーチやクリスピンは論創海外ミステリから『ソープ・ヘイズルの事件簿』『列車に御用心』という短編集が出たおかげで苦労なく読めるようになったけれど、それでもまだいくつかのレア短編が残っている。

 特に「ステッキのキズは?」は、女探偵ドーラ・マールが登場するシリーズ作品なのだが、ドーラ・マールの翻訳作品はいまだにこれ一作しかない。
 著者のM・M・ボドキン(M・マクドネル・ボドキン)はポール・ベックという探偵が活躍する作品でも知られているが、こちらだってハヤカワ文庫の『シャーロック・ホームズのライヴァルたち①』、光文社文庫の『クイーンの定員Ⅰ』というアンソロジーぐらいでしか読めない作家である。
 「ステッキのキズは?」はドーラの直感がちょっと強引すぎるかなとは思うが、アイデア自体は面白く、キャラクターも嫌味がなく好感が持てる作品。こうなると他の作品もやはり読みたたくなるわけで、これは論創社さんあたりの守備範囲になるのかな。

 もうひとつのレア作品は探偵セクストン・ブレイクものの「モアハンプトンの怪事件」。作者不詳とあるけれども、これは多くの作家がセクストン・ブレイクの物語を書き継いでいったため、現在では誰が何を書いたのかわからなくなってしまったということらしい。
 詳細は不明だが、こういう形式で進められたのは、おそらく作家のアイデアではなく、出版社主動・編集主動の結果だろう。確認されているかぎりでは、関わった作家が二百人、書かれた作品は四千作にのぼり、それ専用の雑誌まであった。
 こちらはあまり食指が動かないけれども(苦笑)、それでもセクストン傑作選が出るのであれば一冊は読んでみたいものだ。

 本書は作品もいいのだが、忘れちゃいけないのが編者・小池氏による充実した解説。収録した作者、作品の紹介は当然として、とにかく鉄道に関する解説が濃い(笑)。
 実は本書に収録された作品はすべて英国ミステリということもあって、当時の英国鉄道の歴史や運営、車両の構造にいたるまで、挿絵なども使ってまあ盛りだくさんである。感心すると同時に、この鉄道愛がなんとも微笑ましい。

 今では古書でしか読めない一冊だが、先ほどの事情もあってかちょっと価格も下がっており、現状は比較的安価で買うことができる。興味をお持ちの方はぜひ。


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 論創海外ミステリからパット・マガーの『死の実況放送をお茶の間へ』を読む。刊行されたのは昨年の九月だが、先日読んだ創元推理文庫の『不条理な殺人』もほぼ同じ時期に刊行されており、本格ファンの間では時ならぬパット・マガー祭りの様相を呈したとか呈さなかったとか。

 こんな話。マスコミ業界誌〈エンタープライズ〉の調査係メリッサは、あるとき有名コメディアンのポッジが出演する番組を取材することになる。だがメリッサには仕事以外にもうひとつの狙いがあった。実はメリッサ、その番組に出演するアナウンサーのデイヴと学生時代にデートをして、大きくプライドを傷つけられる出来事があったのだ。そんなデイブに軽い復讐を考えていたのである。
 ところが、いざ番組の関係者に取材を始めると、そこには主演のポッジとを中心とした複雑な利害関係があることがわかり、デイヴへの復讐は棚上げに。それどころか生放送中に恐るべき事件が発生して……。

 死の実況放送をお茶の間へ

 探偵探しや被害者探しといった初期の趣向を凝らした作品とは違い、その後は比較的オーソドックスな作品と聞いていたのだが、『不条理な殺人』、『死の実況放送をお茶の間へ』と読むと、やはりこの作家は一筋縄ではいかないなと思う。
 この二作にかぎっていえば、事件発生が終盤にあること、そして動機の面白さという共通項があるのだが、この共通項にあげた点が、結局は物語そのものの面白さにつながっている。

 特に本作では番組関係者の利害関係がいくつも取り上げられ、そのポイントが一点(あるいは一人)に集約されるところが肝である。そのうえで読者の予想を外すような事件を発生させるのが著者の狙いであり、そして真相はさらにその裏を書くという寸法。コンパクトながら実にスマートに、物語にアイデアを落としこんでいるのが見事だ。

 ユーモアをふんだんに取り入れ、主人公のロマンスを絡め、古き良き時代のテレビ局の内幕も見せるなど、味付けのバランスについて非常にうまくコントロールできているのも好印象。
 一見するとより幅広い読者を対象に方向転換したイメージもするのだが、その真相はミステリのコードを理解している人間であればより愉しめるような類のものであり(そこまで大仕掛ではないけれど)、やはりパット・マガーは曲者である。

 小粒といえば小粒だし、歴史的な傑作とか重厚な大作といった評価とは無縁だろうが、個人的には読んで楽しく、しかもミステリの多様性を感じさせるという意味で悪くない作品だろう。


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 湘南探偵倶楽部さんが少年少女向けの探偵小説を復刻しており、特に楠田匡介には力を入れているようで、本日の読了本はその一冊『少年少女探偵冒険小説選 II』である。

 少年少女探偵冒険小説選II

「黒い流星」
「良夫君の事件簿 II」

 収録作は以上。「黒い流星」は光文社の『少年』で昭和27年9月号に掲載されたもの。もうひとつの「良夫君の事件簿 II」は連作短編で、旺文社の『中学時代二年生』で昭和35年に連載されたもの、さらに『高一時代』で昭和39年に連載されたものをまとめている。
 まあ、内容的にはいつものとおりで(苦笑)、楠田ジュヴナイルでおなじみの名探偵・小松良夫君の活躍がフルに楽しめる。「黒い流星」ではレギュラー陣の小松博士や田名見警部らとともに爆破事件の謎に迫るが、父親の小松博士がスパイの攻撃で命を落とすというショッキングな展開が注目だろう。もちろん当時のジュヴナイルの常套手段で、死んだと見せかけて……というオチなのだが、その役割を明智のような名探偵ではなく、単なるイチ科学者にさせるところが楠田作品の無茶なところである。
 「良夫君の事件簿 II」は『少年少女探偵冒険小説選1』に収録された「良夫君の事件簿 1」と同様、推理クイズレベルの作品で、さすがにそこまで見るべきものはない。

 ちょっと気になったのは、主人公・小松良夫君の設定が「黒い流星」ほか、いくつかの作品では小学六年生となってはいるものの、その設定がどこまで生きているのかということ。
 たとえば本書収録の「良夫君の事件簿 II」ではそのあたりについての記述が一切ない。果たして小学六年生のままなのか、それとも掲載誌にあわせて年齢をあげているのか、あるいは経年にしたがって年齢をあげているのか?
 なんせ小松良夫君シリーズの全貌がわからないので何とも言えないのだが、良夫君の各作品の言動を見てみると、やはり小学六年生ぐらいなのかなという印象は受ける。学習雑誌の場合、通常は主人公の年齢もその学年にあわせることが多いので、元からの設定が異なっているときは、この辺りの描写はあえて省いている可能性も高そうだ。まあ当時のジュヴナイルゆえ、厳密な設定など決めていない可能性の方ががはるかに高いのだろうけれど(苦笑)。

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 フィリップ・マクドナルドの『生ける死者に眠りを』を読む。名探偵ゲスリン・シリーズで知られる著者のノンシリーズ作品で、いわゆる“嵐の山荘”ものである。

 まずはストーリー。嵐の夜が迫る夕刻、人里離れた屋敷で使用人とともに暮らす女主人ヴェリティのもとへ、二人の軍人クレシー少将とベラミー大佐がやってきた。三人は戦争中に起こったある事件のため、関係者と思しき男から謎の脅迫状を受け取っていたのである。
 警察に届けようとするも意見が分かれ、やむなくクレシーは知人を応援に頼み、まもなく嵐のなかを四人の男女が駆けつける。
 だが応援もむなしく、車は壊され、電話線も切られ、彼らは嵐の一軒家で完全に孤立してしまう。そして遂に最初の殺人が……。

 生ける死者に眠りを

 一応は黄金時代の本格の書き手として知られるフィリップ・マクドナルド。とはいえ、これまで翻訳されたものは意外にストレートな本格は少ない印象である。著者本人がどこまで本格云々を意識していたかはわからないのだが、少なくとも単なる謎解きものに終わらせたくないというような意識がうかがえ、それが結果として本格とはやや異なる印象を与えているように思われる。
 それが結果的に成功していない場合もあるけれど、その姿勢は決して嫌いじゃない。

 さて、本作の趣向は前述のとおり“嵐の山荘”なのだが、純粋な本格ではないにせよ、その狙いはよい。なんせ、この分野で最も有名と思われるクリスティの『そして誰もいなくなった』に先んじること何と六年、1933年に発表された作品である。
 本書の解説でも触れられているが、いくつもの点で『そして〜』のお手本になったところもあるようで、そういう意味だけでも本書を読む価値はあるし、しかも普通に面白い作品である。確かに完成度やプロットの緻密さでは『そして〜』に比べると分が悪いが、サスペンスも豊かで、本書が軽んじられる理由にはならないだろう。

 なお、内容自体は面白いと思うが、本作にはひとつ残念なところがあって、それは文章の読みにくさ。
 特に状況描写が荒っぽく、誰のセリフかわかりにくいのはしょっちゅうで、ときには何が起こっているのか判断しにくい場合まである。こういうのは多少なりとも翻訳のほうでフォローしてほしかったところである。



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 リニューアルされた創元推理文庫の『世界推理短編傑作集3』を読む。江戸川乱歩の選んだベスト短編をもとに編まれたアンソロジーで、今回のリニューアルではより初期の方針、すなわち発表された順番に収録するという点に主眼が置かれている。

 世界推理短編傑作集3

イーデン・フィルポッツ「三死人」
パーシヴァル・ワイルド「堕天使の冒険」
アガサ・クリスティ「夜鶯荘」
E・ジェプスン&R・ユーステス「茶の葉」
アントニー・ウィン「キプロスの蜂」
C・B・ベックホファー・ロバーツ「イギリス製濾過器」
アーネスト・ヘミングウェイ「殺人者」
G・D・H&M・I・コール「窓のふくろう」
ベン・レイ・レドマン「完全犯罪」
アントニイ・バークリー「偶然の審判」

 収録作は以上。いつものように旧版からの変更点を挙げると、まずは旧版の3巻にあったロナルド・A・ノックス「密室の行者」、ロード・ダンセイニ「二壜のソース」がともに4巻へ、同じく旧版3巻のマージェリー・アリンガム「ボーダー・ライン事件」は5巻へ収録されることになった。
 反対に旧版2巻にあったG・D・H&M・I・コール「窓のふくろう」、旧版4巻のイーデン・フィルポッツ「三死人」、同じく4巻のアーネスト・ヘミングウェイ「殺人者」が本書に収録された。また、移動がない作品でも、厳密な発表順に合わせているため、収録順はかなり異なっている。

 本書に収められた作品は1920年代ということで、もう傑作目白押し。いや、どの巻も傑作目白押しなのだけれど、さすがにこの時代になってくると、ミステリというジャンルが一気に進化した感がある。古典的ではあるけれど完成度の高いもの、ミステリの結構を備えつつ新たな地平を開くものなど、どれも実に楽しく興味深い。管理人が旧版で初めて読んだのは中学生の頃だが、そりゃあ感動するわな(笑)。
 
 以下、作品ごとにミニコメ。
 冒頭の「三死人」は、西インド諸島のある島の農場で起こった殺人事件を扱う。タイトルどおり三人の死体にまつわる物語で、事件の根本にあるものを心理的に洞察するという、いかにもフィルポッツらしい作品。設定がシンプルすぎるため今読むと真相はかなり予想しやすいものの、試みは面白く、当時としては尖った作品といえるだろう。

 「堕天使の冒険」はカードクラブのイカサマ事件を描く作品。真相もさることながら、何よりイカサマのテクニックが実に面白い。単純な手口だけれど、この手をアレンジした作品はけっこう多く、それだけ魅力的なアイデアということだろう。

 「夜鶯荘」はクリスティらしいサスペンスとサプライズが効いた一品。慕う人がいながら、別の男性と結婚した新婦。だが実は夫が殺人犯ではないかという疑惑が生まれ……という王道の展開。トリックに頼らないところがまたよい。

 「茶の葉」は古典中の古典。サウナの中で起こった刺殺事件で、作品は知らなくともトリックを知らないミステリファンはいないだろうというくらい有名なネタを用いている。「茶の葉」というタイトルも効いているし、法廷ものというスタイルも悪くない。

 こちらも有名トリックで知られる「キプロスの蜂」だが、こちらは当時としては刺激的なネタだったのだろうが、その他の部分が弱く、本書中では一枚落ちる。

 助手の研究成果を自分のものにした教授が、大学の自室で毒殺されるのが「イギリス製濾過器」。設定から犯人のあたりはつけやすいが、正直、トリックもいまひとつ。これも劣化が激しい一作といえるが、お話自体は面白く読める。

 ヘミングウェイの「殺人者」はハードボイルドの元祖とか、プロの殺し屋のイメージを確立させた作品とも言われている。読者には全貌がわからないある事件の一瞬だけを切り取ってみせるというスタイル、殺し屋二人が醸し出す独特の緊張感、運命を受け入れるしかない者たち、それぞれの要素が相まって強烈な余韻を残す。

 「窓のふくろう」はトリック云々というより、タイトルに絡んだある事実が読みどころ。本格というよりは奇妙な味のタイプで好みの一作。

 ベン・レイ・レドマンの「完全犯罪」は、己の探偵としての力に絶対な自信をもつ傲慢な名探偵トレヴァーの物語。あるとき彼は友人の弁護士ヘアーに完全犯罪の定義を解き、某事件の推理を披露するも、逆にに論破されてしまう……。終盤の捻りがマニア向けの一作。

 トリを飾る「偶然の審判」は傑作揃いの本書中でもピカイチ。シェリンガムの推理の展開が非常に面白く、それでいてベースになるのは「偶然」というキーワード。ご存知『毒入りチョコレート事件』の原型となった作品だが、もうこれだけでも十分に堪能できる。


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 ブックガイドの類が好きなことは何度か過去の記事でも書いているのだが、まあミステリファンで良かったのは、そういうブックガイドがけっこう多いことである。親戚筋のSF小説や幻想小説、怪奇小説でもこうはいかない。
 だが、その怪奇小説や幻想小説のガイドブックで注目すべき一冊が出た。先日紹介した『Murder, She Drew Vol.1 Beware of Fen』同様、こちらも同人系で、怪奇幻想小説の書評ブログ「奇妙な世界の片隅で」を運営しているkazuou氏による『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』である。

 海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド

 kazuou氏曰く、日本における海外怪奇幻想小説というジャンルは、日本ではクラシックから現代ホラーに至るまで一応はひと通りの作品を読むことができるのに、他に比べて初心者が入りにくい分野であるという。
 これは管理人の想像に過ぎないが、やはりそこにはオールタイムベスト100とかを紹介するガイドブックが非常に少ないという事実がまずあり、それゆえに必読書や入門書というべきものがあまり知られていない現実があるのだろう。要するに一般の人がたまにはそういったものを読もうかというとき、水先案内人が極めて乏しい状態にあるのではないか。

 とまあ、そんな状況を踏まえたうえで、kazuou氏が海外怪奇幻想小説の初心者にオススメするのがアンソロジーというわけだ。そもそも怪奇幻想小説は、長編より短編の方がより強くそのエッセンスを感じられるとも氏は書いており、まずはアンソロジーで気に入った作家や傾向を見つけ、そこから個々の作品に進んでいただければ、ということらしい。
 ちょっと面白いのは、海外怪奇幻想小説というジャンルにはガイドブックが少ない割に、意外なほどアンソロジーは多く出版されていること。そういう意味でkazuou氏の試みは非常にいいところを突いているように思う。

 内容についてはもちろん満足。新旧とりまぜた幅広いアンソロジーを扱い、しかもちゃんとそれぞれの本の特徴を解説しており、まさにガイドブックの名に恥じない。もとより氏のブログは作品単体の書評だけではなく、アンソロジーの紹介や同傾向・同テーマの作品をまとめて紹介するという、それこそ本書の元になっているような記事も多く、本書が気に入った人はぜひ氏のブログも参考にするとよいだろう。
 なお、あえて注文をつけさせてもらえるなら、もし第二弾、あるいは改訂版などを作る際は、ぜひ作品名と著者名の索引をつけてもらえると使い勝手が良くなって嬉しい。いや、無理言ってすいません。

 余談だが、実は管理人、kazuou氏の主催するオフ会に何度か参加したことがある。氏はそういう場でも必ず細かなレジュメを作ってこられたのが印象的で、怪奇幻想小説にかける熱意には頭が下がるばかりである。
 開催曜日の都合で最近は欠席ばかりなのだが、ううむ、また顔を出したいものだ。

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