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 『蛇女対マングース男爵 栗田信傑作集 下巻』を読む。当初は上巻『和製シャーロック・ホームズの冒険』に続いて一気に読もうと思っていたのだが、あの作風と内容で立て続けに二冊はやっぱり辛いなと思い直し、クイーンや連城三紀彦を挟んで少し口直しをした次第(笑)。もちろん、これは決して栗田信を貶めているのではなく、むしろその個性を尊重してのことなので念のため(笑)。

 栗田信傑作集蛇女対マングース男爵

第一部 ミステリ
「原色の迷路」
「妄想の中の男」
「死者の微笑」
「髑髏を抱く男」
「万引監視員」

第二部 SF・怪奇・異色作品
「マヌカン人形」
「消えた遺体」
「第七感」

第三部 時代ミステリ
「満月に哭く男〜からす猫変化〜」
「さくら判官 破顔一笑」

第四部 異形の者たち2
「美女変貌す」
「獣鬼の覆面 卒塔婆を抱く女」

 収録作は以上。上巻がシリーズと名義別で構成されていたのに対し、下巻ではジャンル別でまとめられている。この「ジャンル別」という目次のせいで余計にそう感じたのかもしれないが、栗田作品は普通のミステリより、圧倒的に超自然要素やホラー要素の入ったものの方が面白いようだ。
 これまでにミステリ珍本全集の『発酵人間』も含め、栗田信の本は三冊読んだことになるが、ミステリ系の作品はほぼ通俗スリラーやかつての日活アクション映画を彷彿とさせるようなものばかり。しかも意外にオーソドックスにまとめられている。
 これは単なる想像にすぎないけれども、栗田が当時の雑誌や貸本などの注文を数多くこなすため、ひたすら当時の流行やニーズに合わせて書いた結果といえるだろう。粗製濫造というと失礼だが、ミステリ的にめぼしい作品はほぼなく、とにかく勢いと雰囲気だけで読ませる作品ばかりという印象だ。

 ところが、これに超自然要的な要素やSF・ホラー要素が入ってくると話は違う。既製のアイデアに縛られない栗田独自の発想が爆発し、一気に面白くなるから不思議である。勢いのある文体もこういう世界観になるとピタリとはまる。しかもストーリーの盛り上げ方がまた上手く、「美女変貌す」などは話が本編に入っていないにもかかわらずゾクゾクするほどだ。
 もし栗田信が本格的な伝奇小説を書いていれば、かなり凄いものができあがったのではないだろうか。まあ、その一例が『発酵人間』なのかもしれないが、アレも上巻に続編の短編が収録されていたけれども、ああいったシリーズの繋ぎも実はうまかったのではという気になる。

 まあ、真っ当な読書家やミステリファンには到底お勧めできるようなものではないけれど、栗田信、もう少し読んでみたいものだ。商業出版はもちろん、復刻でもなかなか難しいラインだろうし、いよいよ古書で探すしかないのかな。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 エラリー・クイーンの『ミステリの女王の冒険』を読む。1970年代にアメリカで放映されたテレビドラマ『エラリー・クイーン』のシナリオ傑作選であり、『刑事コロンボ』で知られるリンク&レヴィンソンが制作総指揮を務めている。残念なことに商業的にはコロンボのような成功を収めなかったものの、そのクオリティはファンや専門家の間で高く評価されたという。

 ミステリの女王の冒険

The Adventure of the 12th Floor Express「十二階特急の冒険」
The Adventure of the Chinese Dog「黄金のこま犬の冒険」
The Adventure of the Mad Tea Party「奇妙なお茶会の冒険」
The Adventure of the Wary Witness「慎重な証人の冒険」
The Adventure of the Grand Old Lady「ミステリの女王の冒険」

 収録作は以上。
 最近読んだクイーンのラジオドラマ集『ナポレオンの剃刀の冒険』や『死せる案山子の冒険』に比べると、本書のテレビドラマ集は放送時間が長いこともあってか、かなりしっかりした作りである。ボリュームも中編レベルで、内容も複雑。放映時間は一時間だったらしいが、これでよくその中に収まったものだと思えるほどだ。
 もちろんボリュームがあっても質が低ければ意味はないが、本書はその点でも十分に及第点。ラジオドラマのようなキレには欠けるが、本書ではドラマとしての面白さがある。

 ただ、ラジオドラマ集と違って、こちらはクイーンが直接手掛けたものではなく、あくまで名義貸しや作品提供に近い。それでもこれだけの水準に仕上がったのは、リンク&レヴィンソンがしっかりしたミステリマインドの持ち主だったこと、そしてクイーンの成功したラジオドラマをかなり参考にしたことが大きいだろう。まあ、本書はクイーンとリンク&レヴィンソンの合作みたいなものだから、成功しようがしまいが、ファンならこれは読むしかないんだけどね。
 なお、作品そのものとは関係ないが、本書は解説も恐ろしいほど充実していて、正直、その部分だけでも買いである。


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 久々の連城三紀彦である。まだ未読が多いのでもう少しペースをあげたいところだが、最後に読んだのがもう四年前とは嫌になる。その間に新刊もけっこう出ているしなぁ。
 だいたい昭和の作家はメジャーどころだけでも多岐川恭や笹沢左保、泡坂妻夫、中町信、松本清張、結城昌治、梶龍雄、陳舜臣、小泉喜美子、土屋隆夫や、天藤真、戸川昌子、中井英夫、西村京太郎、海渡英祐などなど、読みたい作家が目白押しで、うっかりしていると、すぐに何年ぶりとかになってしまう(苦笑)。もちろん当ブログでおなじみの戦前作家や海外のミステリもまだまだ読みたいわけで、もうキリがない。ああ、毎日、本だけ読んで給料もらえないかなぁ〜(ずんの飯尾風に)。


 どうでもいい枕を振ったところで『運命の八分休符』である。連城三紀彦には珍しいシリーズ探偵ものの連作短編集で、ユーモアと恋愛要素をふんだんに盛り込んでいるのが特徴だ。まずは収録作。

「運命の八分休符」
「邪悪な羊」
「観客はただ一人」
「紙の鳥は青ざめて」
「濡れた衣装」

 運命の八分休符

 探偵役の主人公は田沢軍平という青年。分厚い丸眼鏡をかけ、髪は薄く、がに股で、着ている服はみすぼらしく、おまけに定職にも就かず、安アパートで暮らしている。何もここまでしなくとも、というような設定だが、性格的には極めて繊細で温厚。意外なことに空手という特技もある。
 そんな青年がなぜか毎回、美女にモテモテで、難事件も解決するという趣向の連作。恋愛成分がかなり高めで、単品で読むぶんには楽しめるが、同じ主人公で続けて読まされると少々しつこい感じは否めない。個人的には異なる主人公や味つけで読みたかった作品もあるが、まあ、そこは好みの問題か。
 ただ、恋愛成分高めとはいえ、ひと皮むけば本格として相当にハイレベルに仕上がっているのは、さすが連城ブランド。その期待は決して裏切られない。

 以下、各作品のコメントを。

 表題作の「運命の八分休符」は魅力的なアリバイ崩しであるだけでなく、タイトルの意味にやられる。ついでにいえば最初の作品なので、恋愛要素も気にならず、むしろそれ込みで楽しめる。

 「邪悪な羊」は見事な誘拐もので、これは後の作品の元になってるのかもしれない。恋愛ものとしてはベタな設定だが、それがまたなかなか染みる。

 「観客はただ一人」は、恋多き女優が自分の過去つきあった男たちを集め、一夜限りの自伝的舞台を演じるという導入に魅了される。もちろんその舞台は予想どおり殺人劇となってしまうのだが、最終的にいろいろな意味で反転する構図にやられる。この辺から恋愛要素が鼻につく(笑)。

 構図の逆転と叙情性が色濃く出た「紙の鳥は青ざめて」は、地味ながら、ある意味でもっとも著者のよさが出た作品。軍平が男前に脳内変換される(笑)。

 “構図の逆転”の安売りはしたくないけれど、これまたそうとしか言いようがない「濡れた衣装」。ミステリとしてはチョイと強引な感じではあるが、昭和の香りを感じられる雰囲気が好きだなぁ。


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 ウォルター・モズリイの『流れは、いつか海へと』を読む。
 昨年の暮れに出た本だが、最初に出版の情報を知ったときはちょっとした驚きがあった。デビュー当時はそこそこ評判になった作家だが、それはなんせ九十年代のことである。二十年以上経って再び、新刊を読む日が来ようとは予想だにしなかった。
 その当時に出た小説は、『ブルー・ドレスの女』から『イエロードッグ・ブルース』までの六冊。当時、管理人はすべて買って読んだが、イージー・ローリンズを主人公にしたそれらの作品は、時代設定をあえて戦後にしたことで、黒人の主人公が抱える問題がより強調されたヘビーなハードボイルドだった。しかし、テーマに反してその語り口やストーリーは軽快で、悪くないシリーズだったと記憶する。
 残念ながら我が国ではいまひとつ人気が伸びなかったのか、翻訳も六作で途絶えてしまったが(その後ノンフィクションが一冊だけ出ている)、本国ではすでに五十冊ほどの作品が書かれており、今回ご紹介する『流れは、いつか海へと』では、なんとMWAの最優秀長篇賞まで受賞したというから、ううむ、バリバリの現役ではないか。

 こんな話。ジョー・オリヴァー・キングは優れた刑事ながら女に弱いのが玉に瑕。ハニートラップに引っかかって無実の罪を着せられ、職も家族も失ってしまった男だ。
 今は私立探偵として働くジョーだが、そんな彼の元へ、警察官殺害の罪で死刑を宣告された黒人ジャーナリストを救ってほしいという依頼が飛び込んだ。時を同じくして、ジョーを陥れる原因となった女性から一通の手紙が届く。それはジョーを瞞した女性の謝罪と真相の告白の手紙であった。このタイミングで舞い込んだ二つの知らせに心を動かされたジョーは、二つの事件を同時に調べることにするが……。

 流れは、いつか海へと

 背景となるのはアメリカの警察機構と裏社会の両面。それは決して対比のためにあるのではなく、アメリカ全体が上から下まで完全に病んでしまっていることを端的に示しているに過ぎない。それと同様に、人種差別もいまだに大きく蔓延っている社会問題である。
 そんな病んだ組織や社会の最前線で働いていたジョーはまんまと足を踏み外してしまい、どん底に落ちるのだが、目の前に現れた二つの事件によって、再び自身を試す機会が与えられる。果たして自分を貫けるのか、社会と折り合いをつけられるのか、本当に自分は再生したいのか。
 よくある設定、よくある題材ではあるのだが、やはりアメリカの作家はこういうものを書くと実に巧い
(もちろん作家にもよるけれど)。

 特に感心するのは、こうした社会の闇を徹底的に描きながらも、個としては常に「光」を感じさせる存在を登場させていることだ。刑事時代からの親友グラッドストーン、汚れなき娘エイジア、義理堅い元娼婦、何より頼りになる元凶悪犯の時計職人メルなどなど。全員が全員、まともな人物というわけではないのだが、ジョーにとっては代え難い「光」である。陳腐な表現にはなるが、やはり人は決して一人では生きられない。著者の信念が素直に感じられ、救われる気分になる。

 ただ、気になった点もある。オーソドックスなハードボイルドでスタートした物語が、途中から犯罪小説のような雰囲気に変わっていくのである。それだけならまだ気にならないのだが、比例するかのように物語自体も派手な展開になり、誇張の幅がすいぶん大きくなってしまう。
 どちらのテイストが良い悪いではなく、どちらかのトーンで統一した方がよかったということである。確かに爽快感は増すし、単純に面白さもアップはする。しかし、正直、後半の主人公の活躍は現実離れしており、その反動で当初の主人公の苦悩が薄まった感は否めない。

 とまあ、最後に注文はつけたけれど、全体的に面白く読めるのは確かで、モズリイの作風の変化には驚かされた。これを機に早川さんはもう少し過去の作品も紹介してくれるとありがたい。


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 栗田信の『和製シャーロック・ホームズの冒険 栗田信傑作集 上巻』を読む。あの怪作『発酵人間』復刊で一気に有名になった感もあるとはいえ、基本的には知る人ぞ知るマイナー作家。貸本にも作品を発表していたり、別名義もあったことから、なかなか著作の全貌が掴めないらしい。とにかく予想以上に作品を書いていたことは間違いないようだが、本書はそんな栗田信が雑誌に書き残したままにしていた作品から傑作をセレクトしたもの。いや、傑作集というのはかなり無理がありそうだが(笑)、こうして手軽に読める形にしてくれたことは本当にありがたい。

 栗田信傑作集(上)和製シャーロック・ホームズの冒険

第一部 和製シャーロック・ホームズの冒険
「雷鳥」
「猫と女房と猥談」
「七桁の数字」
「推理小説 凶器貸します」
「内縁の女」

第二部 中州砂六作品集
「モハ305号室の男」
「黒い主題歌(テーマソング)」
「悪夢は三度見る」
「鍾乳洞」
「マドモアゼルの手袋」

第三部 久里恵介作品集
「紳士の身嗜み」
「主役は誰だ!!」
「犬を連れた淑女」
「親孝行」
「潔癖症」
「スタジオの怪 姿なき映像」

第四部 異形の者たち1
「魔海の男 〜『発酵人間』より〜」
「獣鬼の覆面 夜叉反魂香」

 収録作は以上。
 第一部がなんとホームズのパロデイ。和製ホームズの異名を持つ中州砂六(なかす・さろく)を主人公にしたシリーズである。栗田信がホームズのパロディを書いていたというだけで読みたくなることは間違いないが、基本的には通俗スリラーや安手のハードボイルド、もしくは日活アクションもどきといったレベル。一応はホームズのパロディということで著者も気を遣ったのか、作品によっては推理要素を盛り込むなど謎解きの趣向もあるけれど、大きな期待は禁物である。
 第二部はその中州砂六名義で書かれた作品群。とはいえこちらは別にホームズのパロディでも何でもなく、第三部の久里恵介名義の作品も含め、やはり通俗スリラーがほとんどだ。
 本書の白眉は(あくまで個人的な白眉だけれど)なんといっても第四部。なんと「魔海の男 〜『発酵人間』より〜」は『発酵人間』の続編となる短編で、発酵人間の情報を小出しにしたり、その正体を表すシーンなどは見事にツボを押さえていて盛り上がる(笑)。これは明らかに当時のホラー映画やアクション映画、怪獣映画のノリで、長編のときよりも明らかに見せ方が上手くなっている印象だ。こういうのがたまにあるから、やっぱり読まなければいけないという間違った使命感に駆られてしまうんだよなぁ(笑)。
 一般的には絶対に評価されないのだろうが、とりあえず個人的には満足であり、下巻の感想もそのうちに。

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 今週は公私共々いろいろあって、あまり読書が進まず。例によって湘南探偵倶楽部さんが復刻した短編の小冊子で御茶を濁す。ものは大下宇陀児の『金貨を咥えた女』。

 金貨を咥えた女

 菱山徳三は神田のビリヤード場の二階に事務所兼住居を構える売れない私立探偵だ。といっても依頼を受けて調査をするばかりではなく、そこで知った事実をネタに強請りなどもやってしまう、最低の男である。
 そんな菱山が街を歩いていると、突然、派手な格好をした若い女性に呼び止められた。彼女は菱山が自分を捨てた岡村だといって責めたて、菱山が人違いだといっても聞き入れようとしない。菱山はついに面倒になり、逆に彼女の話に乗ってやることにして、二人で待合へしけこむことにしたのだが……。

 狐と狸ならぬ、悪女とヤクザ者の化かしあい。女の狙いが実は菱山の事務所の壁に隠された金貨であり、二人の対決の行方が最初の見ものである。そして、その対決は一応ひとつの決着を見るものの、勝利者となったほうも実は……というわけで、ラストにもうひと捻りあるのは予想どおり。
 とはいえ金貨を軸にした後半の組み立てはなかなか巧妙で、皮肉の利いたオチも悪くない。初出時の原題は「黄金魔」だったようだが、このタイトルに変えたのも、そういう意味で正解だろう(ネタバレ気味だけど)。

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 湘南探偵倶楽部さん復刻の短編から山本周五郎『混血児ジュリ』を読む。かつて偕成社が発行していた雑誌『少女サロン』の昭和二十九年四月号に掲載されていた子供向け探偵小説である。
 山本周五郎の子供向け探偵小説といえば、作品社の〈山本周五郎探偵小説全集〉やそれをベースにした新潮文庫の〈周五郎少年文庫〉であらかた読めると思っていたのだが、本作はそのどちらにも未収録ということで、よくまあ、そんな作品を探してくるものである。

 世界的科学者として有名な金沢博士を父にもつ少女・金沢八千代。彼女は幼いときに母を亡くしたものの、父や使用人と一緒に暮らし、なに不自由のない暮らしを送っていた。
 そんなある日の深夜のこと。彼女の寝室の窓から中をのぞく一人の怪しい男がいた。八千代はたまたま家に泊まりに来ていた従兄弟の大学生・順吉にこれを知らせるが、今度は使用人の混血児・ジュリの部屋から悲鳴が聞こえてきた。「ネズミが出ただけ」と答えるジュリだったが、本当のことを話してほしいと迫る八千代に負け、ジュリはサーカス団にいたという自分の過去を語るのだが……。

 混血児ジュリ

 まあ、作品社の〈山本周五郎探偵小説全集〉を三冊ほど読んでいるのでレベル感はだいたい知っているし、読む前からそれなりの期待はしていたのだが、本作もなかなか上手くまとまった子供向けスリラーである。
 短編なのでそこまで複雑な話ではないものの、オープニングの謎の男の登場からジュリを狙う組織の暗躍、一転して後半のサーカスを舞台にした少女消失(トリックというより手品だけど)、そしてアクションも取り入れたラストと、流れるようなストーリー展開がよい。とにかくプロットがよくできていて、もちろん当時の子供向けだからツッコミどころはいろいろあれど、意外な真相まで含め、なかなか充実した一作と言える。当時の子供が読んで面白くないはずがない。

 最後に話のネタとして、いくつか気になった点を挙げておこう。
・「混血児」「みなし子」など、今日では差別的と看做される表記が多く、これが先の全集などに入らなかった理由かもしれない。
・主人公の八千代が使用人のジュリを「ジュリや」と呼ぶのは、「婆や」「姉や」から派生したものか?

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 『筒井康隆、自作を語る』を読む。題名どおり、筒井康隆が自作について語ったインタビュー集である。
 もとは出版芸術社の〈筒井康隆コレクション〉刊行を記念し、複数回にまたがって行われたトークショーをまとめたもので(その後『ハヤカワSFマガジン』に掲載)、これに徳間文庫の〈テーマ別自選短篇集〉の巻末に付けられたインタビューを合わせて収録した一冊。
 今回の文庫化にあたっては、復刊ドットコムの〈筒井康隆全戯曲集〉の刊行記念インタビューを加えたほか、巻末の著作リストも短編集の収録作も網羅するなど、さらにお得感も増している感じである

 筒井康隆、自作を語る

 中身に関してはもう十分満足。
 作品の内容についてはもちろんだが、時代を追って、作品執筆の経緯や当時のSF文壇の様子などもふんだんに語られている。もちろんエッセイも多く書いている筒井のこと、すでに読んだエピソードも多いのだけれど、この期に及んでまだ初出しのネタがあったりして、小説に負けないくらい面白い。
 特に編集者から酷評されて、怒って原稿を川に捨てたエピソードは知っていたが、これも話を盛っただけで、実はちゃんととってあるようだ。しかも後に自分で読むと、確かにこれはダメだったとか(苦笑)。

 それにしてもよくこれだけ作品のことを憶えているものだと感心する。
 家族で作った同人誌〈NULL〉のあたりから話が始まり、その作品が乱歩の目にとまって商業デビューするのだけれど、これが昭和三十年代の頃である。まあ、逆にそういう古い時代のほうがよく憶えているらしいのだけれど、それにしてもついこの前に起こったかのような話しぶりである。
 さすがにお年のせいか固有名詞はかなり忘れっぽくなっているようだが(笑)、そういうときは本書の編者でもあるインタビュアーの日下三蔵氏がきっちりフォローを入れてくれている。ちなみに日下氏のそういう下調べというか、丁寧な仕事ぶりはアンソロジーでもよくお目にかかるが、インタビューでも抜かりがないようで、こちらも感心する。

 管理人の筒井初体験は確か高校性の頃。角川文庫の『幻想の未来』だったと思うが、それ以来のファンである。ここ数年の新刊はやや追えていないのだが、それでも著作の九割は所持読了済みのはずだ。
 初期の作品も好きだが、個人的に特に衝撃だったのは『虚構船団』から始まった一連の実験小説である。同時にエッセイなどでシュールリアリズムやマジックリアリズムの作品の存在を意識するようになり、当時は変な小説ばかり読んでいた気がする。ガルシア=マルケスなんかもそのおかげで読んだんだよなぁ。
 ただ本書のインタビューによると、筒井自身のなかでは『虚人たち』で実験小説自体の憑きものが落ちたそうだから恐れ入る。

 ともあれ筒井康隆のファンであれば必須の一冊。これを読まない手はありません。最後に個人的に好きな筒井作品をいくつか挙げておこう。どれも傑作です。

『家族八景』
『大いなる助走』
『虚人たち』
『虚航船団』
『文学部唯野教授』
『残像に口紅を』
『夢の木坂分岐点』
『パプリカ』
『富豪刑事』
『ロートレック荘事件』





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 コメント欄がネタバレ云々で賑やかだけれど、本日の読了本もネタバレに関してはなかなかのものがある。いや、もしかすると自分の読書史上、最多のネタバレを誇る本だったかもしれない。古橋信孝の『ミステリーで読む戦後史』である。

 ミステリーで読む戦後史

 この手の一般的な新書でミステリが扱われるのは比較的珍しいことだが、当然というべきか、やはりストレートにミステリを論じたような評論やエッセイはほとんどないといってよい。どちらかというとミステリは口実であり、ミステリをダシにして別のメインテーマについて語るパターンが多いように思う。
 本書もそんなタイプの一冊で、ミステリを通して日本の戦後史を振り返るという趣向である。果たしてミステリは戦後史をどう捉えてきたのか。ミステリから炙り出される戦後史を振り返ることで、価値観が多様化した現代において共通の基盤を見つけ、未来に向けて考える礎としようではないか。本書の主張はここにある。

 テーマは悪くない。しかも著者の専門は国文学で、加えてミステリもかなり幅広く読んでいることがわかるので、ちょっと期待したのだが、ううむ、これがちょっと微妙な一冊であった。

 気になる点が二つあって、ひとつは最初に書いたように、ネタバレが多すぎること。
 取りあげる本も多いだけに、各作品、非常に簡潔に、粗筋やトリック、動機などを紹介している(苦笑)。しかも取りあげる本はいわゆる受賞作が中心のため、ミステリ初心者が読んだ場合、その被害はかなり大きいだろう。
 著者の語りたいのはミステリ作品に描かれた「時代」を感じられる部分である。作品のすべてをあからさまにする必要はないわけで(社会派など一部の例外はあるだろうが)、著者はミステリをけっこう読んでいるはずなのに、この気遣いの無さは正直いただけない。もしかして戦後史に興味を持つ者はミステリなどに興味がないとでも思っていたのか?

 もうひとつ気になるのはもっと根本的な部分で、わざわざミステリから戦後史を紐解く必要が果たしてあったのかどうかということ。ミステリにかぎらず小説はそもそも時代を反映しているものが多いわけで、ぶっちゃけどんな小説を読んでも(歴史小説やSF小説は難しいかもしれないが)、その時代の特色はたいてい感じ取ることが可能だし、むしろ読書の感想としてはけっこう入り口にあるものではないか。ただピックアップするだけでは、特に新鮮味もないし、驚きもないのである。
 失礼を承知で書けば、著者が「はじめに」や「あとがき」で書いているような深みは感じられず、あまりにあっさり過ぎる戦後史の俯瞰に終わっている。本書の章題などにあるような「戦後社会が個人に強いたもの」とか「高度成長した社会の矛盾」等、もう少しテーマを絞って堀下げればかなり面白くなった気はするのだが。

 ということで、やや残念な感想になってしまったが、取り上げる本は黒岩涙香から桜庭一樹に至るまで実に幅広く、そこは素直に感心したし、著者のミステリに対する興味の広さは感じられる。もしかすると、そんなミステリ体験のすべてをまとめたいという気持ちが、「戦後史」という手段を思いつかせたのかなという気がしないでもない。
 ともあれ、ネタバレだけはご注意を。


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 本日の読了本は甲賀三郎のジュヴナイルから『眞紅の鱗形』。湘南探偵倶楽部さんの復刻版である。まずはストーリーから。

 松本家に、いま東京を騒がせている謎の犯罪集団〈眞紅の鱗形〉から脅迫状が届いた。彼らは金持ちを見つけては、〈眞紅の鱗形〉のついた脅迫状を送りつけ、金品を渡せと命じてくるのである。それを断った者はみな命を奪われており、捜査にあたる警視庁の原警部の責任も問われていた。
 しかし、松本家の主は悪党にいわれのない金を払うつもりなどまったくなく、対抗策として名探偵・江口力蔵を用心棒として雇い入れる。そんな父親を心配する娘の政子だったが、彼女の周囲にも戸田と名乗る謎の田舎紳士や、一年ほど前に近所に越してきた不良少年の勇ら、不審な者たちが出没する……。

 眞紅の鱗形

 〈眞紅の鱗形〉による脅迫事件を軸に、怪盗一味対警察・探偵の連合軍という図式はオーソドックスながら、そこへ両軍に属さない勇少年や田舎紳士・戸田が絡んでくるのがミソ。
 特に勇少年は、あるときは警察に協力し、またあるときは〈眞紅の鱗形〉を手伝うなど、子供のくせに挙動がいろいろと怪しすぎて面白い。少年の正体もすぐに想像はつくのだが、やることなすこと極端すぎるから「あれ、やっぱり違うのかな?」となる。
 そんなところがストーリーの起伏につながるだけでなく、真相のいい目くらましにもなるわけで、これに本筋の事件や〈眞紅の鱗形〉の正体という興味があるから、とにかく飽きるひまがない。甲賀三郎のサービス精神は旺盛すぎる。

 とはいえ分量的には中編レベル。そこまで複雑な話でもないからピシッとまとめるのかと思いきや、けっこう回収し忘れたままの伏線があったりするのもまあ甲賀三郎らしいというか(苦笑)。まあ、本作の場合はそういう欠点を孕みつつも、面白さが勝った作品といえるだろうい。

 ちなみに、本作には「少年探偵」という副題があるのだけれど、これ、絶対ダメだろう(笑)。

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