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 今週は仕事が何かと忙しなく、ようやく『このミステリーがすごい!2020年版』をパラパラと。

 このミステリーがすごい!2020年版

 今ではなんだかんだ言われることも増えた『このミス』だが、ミステリのランキング本では一応、真打。たんに最後に出るだけという話もあるが(苦笑)、それでも信頼性がほかのランキングより多少なりとも高い気がするのは、やはりその出自(文春ミステリーベスト10のアンチテーゼとして誕生)、そして中立性の高さゆえだろう(公平を期すために自社の本は対象外としている)。

 とはいえ、かつて『このミス』の売りだった座談会をはじめとする企画ページがほぼない現状は、さすがに物足りない。アンソニー・ホロヴィッツの寄稿や皆川博子×辻真先の対談は悪くないが、これらはランキング紹介の延長みたいなもので、決して“企画”というレベルじゃないしなぁ。
 表紙を飾った白石麻衣のインタビューも、白石麻衣自身に罪はないけれど、この本の読者にどれだけ響いていることやら。

 ランキングについては、もう正直どのベストテンを見てもそこまでの差はない。なんせ今年の1位は「ミステリが読みたい」も「文春ミステリーベスト10」も同じ結果、アンソニー・ホロヴィッツの『メインテーマは殺人』である。しかも二年連続ホロヴィッツの三冠なので、ここは意地でも『このミス』なりの尖ったところを見せてほしかったかな。それだけ作品が良かったということでもあるので、仕方ない部分もあるのだけれど。
 それでもニクラス・ナット・オ・ダーグ『1793』、ハーラン・エリスン『愛なんてセックスの書き間違い』、マイケル・オンダーチェ『戦火の淡き光』あたりがベスト20に入っているところは『このミス』の特徴が出ているのかもしれない。

 まあ、そのうち恒例のランキング比較もやってみたいので、そこでより特徴が見えてくるかも。


テーマ:評論集 - ジャンル:本・雑誌


 泡坂妻夫の『喜劇悲奇劇』を読む。

 奇術や猛獣使い、アクロバットなど、さまざまなエンターテインメント詰め込んで全国を興行する予定のショウボート〈ウコン号〉。しかし、初日を目前にして一人の奇術師が殺害される。ところが座長は興行が中止になるのを怖れて警察には通報せず、関係者にも口止めをしてしまう。
 そんなこととは露知らず。酒が原因で落ちぶれた奇術師・楓七郎は、ウコン号で足りなくなった奇術師の後釜として雇われる。すると今度は道化師が初日直前に殺されてしまい……。

 喜劇悲奇劇

 著者はミステリ作家でありながら奇術師という顔ももっており、その特技を活かした『11枚のトランプ』という傑作を書いているが、本作もその系譜に連なる作品といえる。テイストも『11枚のトランプ』同様コミカルで、それだけでも楽しい作品なのだが、実はもうひとつ大きな特徴があって、それが回文だ。
 『喜劇悲奇劇(きげきひきげき)』というタイトルからして回文になっているが、それだけでなく章題や登場人物名、冒頭の一文、最後の一文、延いては回文問答まであり、徹底的な回文尽くし。しかも、それがただの遊びでなく、きちんと犯行のミッシングリンクにもなっており、さすがとしか言いようがない。
 また、連続殺人を扱っているが、ひとつひとつの犯行にも各種トリックが工夫されており、著者の遊びにかける熱意にとにかく唸らされてしまう。

 惜しむらくは終盤に明かされる真のミッシングリンクの部分が、どうにも全体の雰囲気にあっていないこと、また、結果的にただの狂言回しに終わっている主人公の扱いがもったいない感じだ。
 特に後者はダメ主人公の立ち直る物語を期待してしまっただけに、少々拍子抜け。意外な探偵役を演出する狙いがあったのかもしれないが、前者の欠点も合わせると、意外に爽快感に欠けるのである。

 したがって個人的には著者のほかの傑作よりはやや落ちるといった印象なのだが、まあ、そうはいってもその趣向だけでも間違いなく必読レベル。残念ながら現在は角川版、創元版ともに品切れ状態のようだが、古書店などでは比較的安価で入手できるので、興味がわいた方はぜひどうぞ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 アーナルデュル・インドリダソンの『厳寒の町』を読む。アイスランド、いや今や北欧を代表する警察小説、エーレンデュル捜査官を主人公とするシリーズの一冊である。

 まずはストーリー。
 レイキャビクの一角で、十歳の男の子の刺殺死体が発見された。男の子の名前はエリアス。アイスランド人の父とタイ人の母の間に生まれたが、両親は離婚し、母と異父兄のニランの三人で共同住宅に引っ越して間もない頃だった。
 エーレンデュルをはじめとする捜査陣は、学校や近所の人々に聞き込みを開始し、事件の背後に人種差別があるのではと当たりをつける。
 一方で、同時に進められる別の失踪事件や、自らの過去に起こったある事件の影にも悩まされながら、エーレンデュルは捜査を進めるが……。

 厳寒の町

 前作の『声』を読んだとき、北欧ミステリの特徴について、「社会問題に起因する犯罪を扱い、これに主人公や登場人物など個人の問題も絡ませて、多重的にその国が抱える課題や人の在り方について追求していく」、なんてことを書いた。
 エーレンデュル捜査官シリーズにおいても概ねそのラインに沿ってはいるのだが、ひとつだけ付け加えるとすれば、過去の出来事と現代の事件を絡ませていることに大きな特徴がある。主人公のエーレンデュル自身もそうだが、アイスランドという国が抱える過去の亡霊を、毎回えぐり出しているのである。

 ところが本作では、ちょっと趣が違っていた。珍しくほぼアイスランドの“いま”の事件を扱っているのだ。
 これはアイスランドの移民問題という比較的新しい社会問題を扱っているせいもあるのだろうが、ミステリとしてことさらセンセーショナルなネタを選ぶのではなく、よりリアルな物語、一般市民に密着したテーマに移行しようとしている感じも受ける。
 だから本作はこれまでの作品に比べても、ひときわ地味な展開である。捜査も遅々として進まないし、それほど凝った仕掛けがあるわけでもない。トリックなどもちろんないし、正直ロジックすら少ない。刑事たちもいたって普通の人々で、それぞれに悩みを抱えるものの、その方面で劇的な展開を迎えるわけでもない。事件解決後もまったく爽快な気分にならないし、憂鬱な事件を憂鬱な刑事たちが捜査してゆき、たまたま上手く事件が解決したといっても過言ではないかもしれない。

 ただ、そんな物語であっても、いや、そんな物語だからこそ心に染みてくる場合がある。
 アイスランドは地理的にも産業的にも決して恵まれた国ではなく、人口わずか35万人、面積にして北海道と四国を合わせた程度の小さな国だ。資源に乏しく、金融と観光、ITなどが主産業だが、本作を読んでいるかぎり、それほど人々の暮らしは華やかというふうにも感じない。首都レイキャビクですら日本の行き詰まった地方都市のようなイメージであり、全体をどことなく閉塞感が覆っているのだ。しかし、それでもやはり人々は自分たちの国に誇りを持っており、それだけの背景と歴史を持っていることも確かだ。
 そんな国に、いまアイデンティティの喪失の危機が訪れようとしている。それが移民問題である。こんなヨーロッパの果ての小さな国ですらアジア諸国からの移民が多いのだという。当然ながらそこには差別問題や過激な愛国者たちが生まれてゆく。これは日本とも共通するところだろうが、小さな島国による単一民族国家ゆえ、母国が母国でなくなってしまう不安をもつ者は少なくないのである。
 著者はその重いテーマに真っ向から取り組んでいる。登場人物を通して移民に対するさまざまな考え方が繰り返し語られ、もちろんそれは紛れもなく本作のテーマなのだが、実はより大きな問題は意見の相違によってアイスランドの国民同士が憎み合ってしまうことにある。日本人にとってもまったく人ごとではない。

 ということでミステリ的な楽しみ方とはやや離れてしまったが、読み応えは十分。いまだからこそ日本でも読まれてほしい作品である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 湘南探偵倶楽部さんが発行している「知られざる短編」シリーズから、大下宇陀児『火傷をした楠田匡介』を読む。楠田匡介のペンネームの由来となった、『新青年』での六人の作家による競作連載『楠田匡介の悪党振り』のうちの一篇である。

 こんな話。楠田匡介が目覚めるとそこは病院であった。斯波(しは)準一と組んで花火の闇製造販売を行っていた二人だが、宿での作業中に誤って失火してしまい、大火傷で二人とも病院に運ばれていたのだ。ただ、楠田は運良く顔に火傷を負った程度だったが、斯波は全身に大火傷を負って命も危ない状態だという。
 ところが顔も包帯だらけのせいか、どうやら医師や看護婦らは二人を取り違えている。そこで楠田はふとあることを思いつく。斯波が日頃から大金を持ち歩いていることを知っていた楠田は、それを自分のものにしようと、あえて自分が斯波のままでいようと企んだのだ。しかし……。

 火傷をした楠田匡介

 まあ、他愛ないといえば他愛ない話ではある。主人公としては機転を利かせた入れ替わりトリックだったが、それが予想外の展開をみせて、最後は思いもよらない結末が……という一席。
 『楠田匡介の悪党振り』といいながら、本作の楠田は絵に描いたような小物っぷりで、そんな愛すべき犯罪者をコミカルに描きつつ、オチも決めてきれいにまとめている。まるで落語にでもありそうな話で、まずまず楽しく読める。

 ちなみに『楠田匡介の悪党振り』には、宇陀児のほかに水谷準「笑ふ楠田匡介」、妹尾アキ夫「人肉の腸詰(ソ-セイジ)」、角田喜久雄「流れ三つ星」、山本禾太郎「一枚の地図」、延原謙「唄ふ楠田匡介」という作品がある。
 まあ、ぜがひでもというほどではないが、残りも読めるなら読んでみたいなぁと少し調べてみたところ、どうやら現在入手可能なものとしては、「人間の腸詰」が論創ミステリ叢書『妹尾アキ夫探偵小説選』に、「一枚の地図」が同じく論創ミステリ叢書の『山本禾太郎探偵小説選I』に収録されていることを突き止める。
 ううむ、突き止めたのはいいが、すでに二作とも読んでいるではないか(苦笑)。恥ずかしながら全然覚えていなかった。
 さらに調べを進めると、今度は春陽堂書店が1994年に復刻した『創作探偵小説選集 第3輯』にシリーズ六作がまるまる収録されていることも判明。念のため自分の蔵書リストをチェックすると、案の定、こちらもすでに二十年ほど前に自分で買っていたわけだが(トホホ)。
 せっかくなので、こちらの感想も気が向いたらそのうちに。

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 陳浩基の『ディオゲネス変奏曲』を読む。『13・67』を読んだときの衝撃はいまだ忘れられないが、その著者の自選短編集となるのが本書である。まずは収録作。

「藍(あお)を見つめる藍(あお)」
「サンタクロース殺し」
「頭頂」
「時は金なり」
「習作 一」
「作家デビュー殺人事件」
「沈黙は必要だ」
「今年の大晦日は、ひときわ寒かった」
「カーラ星第九号事件」
「いとしのエリー」
「習作 二」
「珈琲と煙草」
「姉妹」
「悪魔団殺(怪)人事件」
「霊視」
「習作 三」
「見えないX」

 ディオゲネス変奏曲

 おお、これは愉しい短編集だ。ただ、その味わいは『13・67』とずいぶん異なっている。
 『13・67』が香港を舞台にした濃密な警察小説、しかも本格ミステリ要素も強く、その試みも実にアバンギャルドであったのに対し、本書の場合、そういった文学的な深度とは距離を置き、あくまでアイディア勝負の作品ばかりを並べている印象である。内容もミステリからホラー、SFと幅広く、どれもきっちりオチをつけている。そういう意味では基本的にわかりやすく、ゲーム的であり、気軽に楽しめる作品ばかりといえるだろう。

 しかし、単にエンタメ一本やりの短編集かというと、それもちょっと違う。著者はそういうスタイルをとることで、著者の思考や考え方をプレゼンしているような印象も受ける。本書には「著者あとがき」がついており、そこで著者自ら全作解題を書いているのだが、これもその意を強くしている。だから、そういう意味では実はきわめて実験的作品集ともいえるのではないか(ちょっと強引)。

 印象に残った作品は、まず巻頭の「藍(あお)を見つめる藍(あお)」。ITを駆使したサイコスリラーと思わせておいて、こういう捻りで落とすとは。これで掴みはOK。
 「時は金なり」は時間の売買というテーマで、皮肉なラストを用意し、現代の寓話として面白い。
 「カーラ星第九号事件」はSFミステリの秀作。探偵デュパパンという登場人物、全体の結構などから、ミステリのパロディというふうにもとれる。
 「珈琲と煙草」も嫌いではない。こういうアイディアは誰でも思いつきそうだが、逆にこうしてきちんとまとめた例はあまり記憶がない。
 怪作ナンバーワンが「悪魔団殺(怪)人事件」。悪の組織、たとえば仮面ライダーにおけるショッカーの「ような組織内で起こった殺人事件を解決する本格ミステリ。このネタを外国人に書かれたことが悔しい(笑)。しかもよくできている。
 掉尾を飾る「見えないX」が本作のベストか。大学のある授業として行われた擬似ミステリという設定がまず秀逸。ミステリやロジックの意味をあらためて問いかけるような内容もいいし、日本のサブカルチャー目白押しな遊びも楽しい。

 ということで、なかには他愛ない作品も多少あるけれど、実に愉しい一冊でありました。おすすめ。
 

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 探偵小説におけるアダムがエドガー・アラン・ポーの生んだデュパンだとすれば、イブは誰か? エラリー・クイーンが『クイーンの定員』のなかでその答えとして出したのが、ウィリアム・スティーヴンス・ヘイワードの生んだパスカル夫人である。本日の読了本はそのパステル夫人の活躍をまとめた一冊、『パスカル夫人の秘密』。

The Mysterious Countess「謎の伯爵夫人」
The Secret Band「秘密結社」
The Lost Diamonds「ダイヤモンド盗難事件」
Stolen Letters「盗まれた手紙」
The Nun, the Will, and the Abbess「修道女・遺言状・女子修道院」
Which Is the Heir?「どちらが相続人?」
Found Drowned「溺死」
Fifty Pounds Reward「五十ポンドの賞金」
Mistaken Identity「人違い」
Incognita「匿名の女」

 パスカル夫人の秘密

 本書はなんと1864年の刊行である。まあ、クイーンに探偵小説のイブと位置付けられるぐらいだから当然っちゃ当然だろうが、探偵小説の母と呼ばれるアンナ・キャサリン・グリーンの『リーヴェンワース事件』よりも十年以上、シャーロック・ホームズの登場よりも二十年以上早い(とはいえ、これでも世界最初というわけではないらしいが)。
 そして驚くことがもうひとつ。パステル夫人はロンドン警視庁に初の女性刑事として採用されたという設定だが、ロンドン警視庁で女性刑事が実際に採用されたのはなんと二十世紀に入ってからのことらしい。
 もう、これらの事実だけで一度は読まなきゃという気になるのだが、著者は目のつけどころがいいだけでなく、書かれた作品がきちんとミステリの骨格を備えていることにも注目である。今では当たり前の、《発端の魅力的な謎→探偵の調査・推理→合理的かつ論理的な解決》という構成。ミステリの定義だとか、そういうものが論じられていない時代に、いち早くベーシックなスタイルを確立させていることに感心する。
 もちろんこの時代の作品なのでトリックとかに期待してはいけないし、パスカル夫人の推理も直感に頼るところが大きいのはマイナス点だが、当時の英国の人々の暮らしぶりや風俗などが良く描かれているし、歴史的な価値も含め、読み物としては悪くない。

 ただ、個人的には気に入らない点も少なくない。まずは著者の倫理観というかバランス感覚の悪さである。とりわけ労働者階級に対する差別意識は強く感じられるが、これは書かれた時代もあるから、ある程度は仕方ないところだろう。
 問題は探偵役たるパステル夫人の人間性だ。上昇志向や金銭欲が強く、事件の報奨金ばかり気にする四十代の未亡人というのはどうなんだろうなぁ。正直、人間的な面白みはほとんど感じられず、権力者の忠実な道具という印象しかない。このキャラクターで当時の読者の共感を得るとはとても思えないし、これが今日まで忘れ去られた大きな理由ではないだろうか。探偵小説であっても、やはり人物造形は重要なのである。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 『赤川次郎アーリーデイズvol.1』を読む。さかえたかし氏による同人本である。
 希代のベストセラー作家、赤川次郎の初期作品のレビュー集であり、ネットサービスの「カクヨム」にアップされた記事をまとめたものだ。
 「カクヨム」でのコメントによると、「膨大な量を誇る赤川次郎作品ですが、「一人の人間が通して読み感想を述べる」事が一つの指針になればと思い感想文を書いています。2019年10月に『赤川次郎アーリーデイズVol.1』として同人誌にまとめました。現在は2巻の刊行を目指して連載中。」とのこと。

 赤川次郎アーリーデイズvol1

 霜月蒼氏による『アガサ・クリスティー完全攻略』以降、『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド』や『結城昌治読本』など、一人の作者の全作品レビュー本が出るようになったが、基本的にはどれも著者への愛が溢れていて楽しいし、大変便利な本である。
 まあ、クリスティー以外は同人本なので、Twitterなどでアンテナを張っていないことには入手が難しいのは惜しまれるが(連城本は後に商業出版されたけれど)。
 ともあれ本書もその流れを汲む一冊。さかえ氏もあとがきで、やはり先人の成果に触発された旨を書いている。「自分もそういう本を出してちやほやされてみたい」とも書いているが、これは本音半分照れ隠し半分といったところだろう(苦笑)。きっかけはどうあれ、こうして形にしたことがすばらしい。

 赤川作品は基本的にライトでユーモラス、適度なサスペンス、魅力的なキャラクターなどとまとめられるることが多い。まあ、それは大体において当たってはいるのだが、意外に歪んだ設定やえぐいネタも多く、ダークな部分が少なくない。そういった赤川作品の闇を掘り出しているところが本書のポイントだろう。さかえ氏の「登場人物に容赦しない」という言葉が、うまくそれを表している。
 また、作品の内容だけでなく、ときには解説などにもツッコミを入れるなど、なかなか抜かりがない感じ。
 欲をいえば書誌リストの類がほしかったったのと、作品の並びは刊行順(もしくは発表順)、あるいはシリーズなどで揃えた方がよかったかなと思う。
 そして、できればvol.2、3……と、いずれは全作レビューを為し遂げてほしいものである。

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 マイクル・コナリーの『訣別』下巻読了。
 私立探偵として大富豪ヴァンスの跡取りを探すハリー・ボッシュ。ヴァンスの血筋が途絶えていなかったことを突き止めるが、その矢先、ヴァンスは死亡してしまう。しかし、ヴァンスの残した手紙によって局面は一気に緊迫を迎える。
 その一方で嘱託刑事として〈網戸切り〉と呼ばれる連続レイプ事件も追うボッシュ。だが、ヴァンスの件で急ぎの対応を迫られたボッシュは、相棒の女性刑事ベラにある調査を任せるが、その後、ベラの消息が不明になってしまう……。

 訣別(下)

 初期の荒ぶるボッシュに魅力を感じているので、どうしても最近の作品にはやや物足りなさを感じているのだが、そこさえ気にしなければミステリとしては十分に面白い読み物である。

 本作のキモは当然ながら、並行して展開される二つの事件だ。二つの事件に直接的な関連はないが、一人の人間すなわちボッシュがそのハブになっていることで、双方に微妙な影響を及ぼす。仕組みとしてはストーリー上の絡み程度ではあるが、それぞれハードボイルドとサイコサスペンスという異なるアプローチで変化をつけており、一冊で二度美味しいという感じだ。
 個人的には特にヴァンスの跡取り探し事件の方が興味深く、遺産をめぐっての謀略ものみたいに膨らませるのかと思いきや、かなり予想外の落とし所を見せて巧い。正直、コナリーがよくやる手ではあるのだが、今回はモジュラー型の構成だったせいか、より予測しにくく、完全に一杯食わされた感じである。できればこちらの事件は、それ単独で膨らませてほしかったほどだ。

 ただ、ミステリやストーリーとしては満足しているが、最初に書いたようにボッシュの物語としては物足りない(本作に限らず、このところのボッシュものすべてにいえるけれど)。
 ボッシュも歳をとって丸くなっただろうし、何よりボッシュ自身の一番の問題がひと段落したことは大きいのだが、ときにはボッシュ自身の“怒り”の物語も読みたいのだがなぁ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 マイクル・コナリーの『訣別』をとりあず上巻まで読む。ハリー・ボッシュものの最新作である。

 まずはストーリー。元ロス市警の刑事だったボッシュは、失効した私立探偵免許を新たに取り直すとともに、知人の本部長に誘われ、ロス近郊にあるサンフェルナンドという小さな市で嘱託刑事として働いていた。
 そんなある日、いまはセキュリティ会社に勤める元上司から、大富豪ホイットニー・ヴァンスの仕事を紹介される。ヴァンスと面談したところ、彼が若い頃に交際した女性、さらにはその子供がいれば一緒に探してほしいという。ヴァンスは高齢で体力も弱まっており、先が短いながらも身よりはない。血縁者が見つかるなら、ぜひ資産を譲りたいのだという。ただ、その財産は莫大なもので、これが明るみに出ると危険も伴うため、あくまで極秘の調査だった。
 一方、サンフェルナンドでは〈網戸切り〉と呼ばれる連続レイプ事件が起こり、ボッシュは並行して二つの捜査を進めていくが……。

 訣別(上)

 いわゆる失踪人捜し、しかも背景にベトナム戦争があるなど、一昔前のハードボイルドを読んでいるかのような錯覚に陥るが。本作は2016年の作品だ。帯のキャッチの「原点回帰」などと謳っているのはそういうことかもしれない。
 だが、いざ読み始めると、もちろん当時のハードボイルドと印象は大きく異なるわけで、そればかりかボッシュものの初期作品ともけっこうな違いを感じる。家族(娘)のことを心配し、取り立ててドンパチもなく進んでいくストーリーに一抹の寂しさを感じるのも確かだ。ボッシュに対する圧力もないことはないのだが、かなりサラッとしたものである。
 まあ、それでも十分に面白く読ませるのは、さすがコナリーというしかないのだが。
 ともあれ作品自体の感想は下巻読了時に。


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 大下宇陀児の『仮面城』を読む。東都我刊我書房による私家版で、雑誌『少女倶楽部』で昭和四年から五年にかけて連載したものをまとめた子供向け作品。各章の最後には、次号の煽り文句も併載されていて、これもまた楽しい。

 こんな話。クリスマスも近い十二月の銀座。その露店が並ぶ一角で、バナナの叩き売りをする大柄な老人と、その横で花売りをしている少女がいた。老人はかつて伯爵に仕えていたバナ勘こと武田勘右衛門、少女は伯爵の娘として何不自由ない生活を送っていた柳田由美子である。ところが伯爵夫妻が出先で何者かに誘拐され、さらには金庫にあるはずの財産もすべてが空っぽになっており、二人はこうして日々の糧をしのぐようになったのである。
 そんなある日のこと。由美子は謎の紳士によって東京駅へ呼び出される。その話をバナ勘から聞いた新聞記者見習いの生駒京之助少年。これはどうも怪しいと睨み、バナ勘とともに由美子の跡を追うが、やはり由美子は誘拐されていた。二人は手がかりを追って、ある大型帆船に乗り込むが……。

 仮面城

 これはなかなか出来のよい少年少女向け冒険小説だ。
 もちろん当時の作品ゆえ部分的にはご都合主義や突飛なネタはあるけれども、全体にプロットがしっかりしており、ストーリーの展開がいい。
 銀座や東京駅での事件の発端はスピーディー、巨大帆船のシーンではいったん落ち着き、悪人たちの存在を明らかにするとともに敵の巣窟たる仮面城への恐怖を盛り上げ、そして中盤以降の仮面城では大冒険。それぞれの舞台においては必ず新たな謎を提示し、さまざまなギミックを用意してとにかく飽きさせないのだ。特に「ジェンナー」に関する暗号ネタはけっこう面白い。

 超人的な少年が一人で大活躍するのではなく、バナ勘その他の登場人物にもいろいろ見せ場があるのも本書の注目したいポイントだ。仮面城に舞台が移ると、そちらでも新たに重要なキーマンが登場したりして、これもストーリーが単調になるのを防いでいる。いってみればカットバック的手法なのだが、戦前の探偵小説でここまでスマートにやっている例はあまり記憶にない。個人的には本書でもっとも気に入っているところである。

 しいていえばラストをさらっとまとめすぎた嫌いはあり、この点がもったいないといえばもったいない。正直、もう一回ぐらい連載を伸ばしてもよかったと思えるほどなのだが、とはいえ当時の子供向け探偵小説、特に冒険小説は最後がグダグダになったりするものも少なくないので、本作のようにきれいに収束させているだけでも満足すべきなのかも。

 まとめ。このところ私家版で復刊されることが多い宇陀児作品だが、なんだかんだ言ってもやはり戦前の探偵小説作家のなかでは安定している方なのかなと思う。まあ、経年劣化しているものも多いだろうけれど、本当にどこかで全集組まないかね(笑)。

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