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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


アラン・J・レヴィ『新・刑事コロンボ/華麗なる罠』

 三連休だが少しだけ仕事で外出。その帰りに久々に神保町まで足を伸ばす。目的は山田風太郎の『忍法相伝73』である。山風の作品だから近所のそこそこ大きい書店でも買えると思っていたのが大間違い。マイナーな版元のせいか(失礼!)、これがなかなか見当たらない。ネットで買ってもいいのだが、それはそれで面倒なので、結局神保町まで出かけた次第。
 以前なら勤務先が神保町だったのでこんな苦労はなかったのだが、半年ほど前に会社が移転したため、本に関してはめっきり不便になってしまった。しくしく。

 それはともかく。本書は著者自身が再販を許さなかった怪作。おかげで山風の著作の中でもとびきり入手難の一冊だったが、それがとうとう復刻されることになったのは実にめでたい。
 もちろん編者の日下氏による尽力が大きいのだろうが、驚くべきは本書が「ミステリ珍本全集」という叢書の第一巻だということ。そう、お楽しみはこれからなのである。ニュース自体は少し前から流れていたが、投げ込みの月報を見て、いよいよ現実味が沸いてくる。
 ちなみに予定されているラインナップは輪堂寺耀、栗田信、高橋鉄、大河内常平、大阪圭吉というから凄まじい。ただ今後は売れ行き次第という噂もあるので非常に不安ではあるが(苦笑)。とりあえず出たら全部買うと決意する三連休初日。


 DVDで『新・刑事コロンボ/華麗なる罠』視聴。通算五十四作目。監督はアラン・J・レヴィ。
 歯科医ウェズリーは有名な歯科医を父にもつリディアと結婚していたが、投資の失敗やギャンブルによる借金を背負い、義父に多額の負債を負っていた。そして遂に愛想をつかされ、離婚を迫られてしまう。離婚すれば破産は必至。そこでウェズリーは一計を案じる。
 リディアの不倫相手であり、自分の患者でもある俳優の歯に毒をしこみ、彼女と逢い引きしている頃に毒がまわるようにしたのである。自己のアリバイを作り、なおかつリディアに容疑がかかる。そのうえでリディアの窮地を偽装工作し、義父にも恩を売るという周到な手口であった……。

 新・刑事コロンボ/華麗なる罠

 異色作だらけの新シリーズにあって、久々にオーソドックスにコロンボと犯人の対決を押し出した作品である。ウェズリーの手口もなかなか凝ったもので、被害者と容疑者を同時に仕立て上げる手はなかなか面白い。
 だが、いいところはそのぐらいで、本作はシリーズ中だけでなくミステリドラマとしてもかなりひどい部類だ。犯行のアイディアは面白いのだけれど、被害者の行動予定と毒のタイミングをどうやって合わせるせるのかとか、クラウンと歯の間に毒を仕込むなんてことができるのかとか、あまりに現実味がなさすぎる。
 また、証拠品の扱いの杜撰さ、ラストの科学キットを使ったコロンボの逆トラップの甘さもまずい。特に逆トラップはもしあれが有効だとしても状況証拠にしかならないだろうから、犯人はまだまだ抵抗できるはず。伏線は張ってあるにしても、あの程度であっさり騙されたり自供する犯人が不思議だ。

 ううむ、序盤はまずまずだっただけに、ここまで腰砕けに終わる作品も珍しいなぁ。

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Comments

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黒田さん

本作に限らず、新シリーズの弱点として、コロンボの詰めの甘さが挙げられますね。見る方も作る方も、逆トリックだったり鮮やかなラストを意識してしまうところがあると思うのですが、そこに囚われすぎて失敗している気がします。
本作はそれに加えてメイントリックも勇み足だったという(苦笑)。

Posted at 00:14 on 09 18, 2013  by sugata

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 いろいろとアラはありますが、サスペンス物のような見せ方(不倫中に男が死んでしまいリディアがパニックになる場面など)を効果的に用いている演出は好きです。
 ただ、コロンボとウェズリーの対決は、御指摘のような「逃げ道」があるせいか、やや拍子抜けするものでした。
 ウェズリーの捨て台詞「お前たちのやった事はどうだ? 僕のやった事といい勝負じゃないか」、彼のジコチュウぶりをよく表しており、幕切れも演出に救われているように感じました。

 あのトリックは高木彬光も使っていましたが、専門家の立場から見たら、高木作品もNGになってしまいますね(苦笑)。

Posted at 12:24 on 09 17, 2013  by 黒田

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ひらやまさん

ブログ拝見しました。さすが専門家の意見は違います(笑)。はじめから義歯をつけているとか、そういうことならあり得るんでしょうが、私もあれは気になりました。
ほかにもいろいろ粗がありますし、新シリーズでもこれはきつい出来でしたね。

Posted at 22:32 on 09 15, 2013  by sugata

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あのトリックは、専門家として「ありえない!」と断言します(苦笑)

Posted at 22:04 on 09 15, 2013  by ひらやま

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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