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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


江戸川乱歩『明智小五郎事件簿 V「魔術師」』(集英社文庫)

 江戸川乱歩の『明智小五郎事件簿V魔術師』を読む。月イチノルマがなかなか厳しいが、ようやくこれで五冊目である。

 こんな話。
 『蜘蛛男』の事件を解決した明智小五郎は、静養のため湖畔のホテルを訪れ、そこで玉村宝石店主の令嬢、玉村妙子と知り合いになる。やがて妙子は帰京するが、その直後から玉村宝石店主の実弟、福田のもとへ、謎の脅迫状が届き始めた。
 その脅迫状は数字が書かれているだけの簡単なものだったが、毎日、知らぬまに屋敷内へ届けられていた。しかもその数字は1日ごとにひとつずつ減ってゆき、その数字が「0」になったとき、何かが起こるのではないかと予想された。
 そして「0」の当日。福田は首無し死体となって、屋敷内で発見された……。

 明智小五郎事件簿V

 いやあ、これまた何回目かの再読になるとはいえ、何度読んでもこれは面白い。とにかく印象的なシーンが目白押し。
 捕縛された明智が壁に掛けられた仮面のふりをした犯人と話すシュールな会話シーンとか、時計台の針で首を挟まれるシーンとか、二重三重に罠が仕掛けられた地下室のシーンとか、ラストの犯人を指摘するシーンとか、いやもう名場面だらけである。
 初期の本格から通俗スリラーへと方向転換した乱歩。本人的には忸怩たる思いもあっただろうが、読者には圧倒的に支持され、この『魔術師』で早くもひとつのピークを迎えた感すらある。

 そもそも通俗スリラーとはいうものの、乱歩はたいてい一つは大きなトリックを準備して、きちんと驚きを与えてくれる。『蜘蛛男』然り『黄金仮面』然り。ただ、ワンアイディアに頼ってあとはけっこう雑に済ますというか、それどころかストーリーをとっちらかすことも少なくないのがまた乱歩の悪い癖なのだが、こと本作に関しては少々違う。
 犯人をはじめとする登場人物像をきちんと設定し、プロットもしっかり構築し、それにそって伏線も張り、そして最後は見事に落としてくれるのである。
 事件が解決し、まるで後日談のように始まるラストの何とワクワクすることか。 しっかり芯が通っている印象だ。

 おまけに明智出ずっぱりというのもファンには嬉しいところだろう。まあ、早々に魔術師の手にかかって誘拐されるのはご愛敬だが、ほぼ全編にわたって明智が活躍する作品は意外に少ないのではないか(このへん記憶が曖昧なので適当だけど)。
 おまけに後の明智夫人となる文代が登場して大活躍し、明智とのラブストーリーとなっているのも興味深く、シリーズを通してもターニングポイント的な内容となっている。
 乱歩でおすすめといえばどうしても短編ばかりになるが、これは数少ない例外といえるだろう。

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Comments

Edit

M・ケイゾーさん

これは好きな人、多いでしょうね。単なる猟奇的な犯罪ではなく、しっかりとした理由や目的があるのもいいんですよね。

Posted at 01:47 on 12 03, 2016  by sugata

Edit

 父のいちおしです。犯人指摘の場面の
「赤茶けた電灯の下~」のフレーズが好きでよく話してました。
 私も長編では一番かも。

Posted at 21:31 on 12 02, 2016  by M・ケイゾー

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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