- Date: Sat 09 06 2007
- Category: 海外作家 ミッチェル(グラディス)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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グラディス・ミッチェル『ウォンドルズ・パーヴァの謎』(河出書房新社)
しばらく前の日記で、「クラシックブームのお陰で認識を新たにできたのがアントニイ・バークリーとレオ・ブルースだ」、なんてことを書いたのだが、もう一人、このグラディス・ミッチェルを忘れておりました。まあ、彼女の場合は『ソルトマーシュの殺人』で初めて知った作家なので、認識を新たにしたなどと偉そうなことは言えないのだが(笑)。とりあえず本日の読了本は、そのグラディス・ミッチェルの『ウォンドルズ・パーヴァの謎』。
遺言状書き換えのため、ウォンドルズ・パーヴァ村のセスリー氏を訪れた事務弁護士。ところが目の前に現れたのはセスリーの甥ジムで、肝心のセスリーはアメリカへ出かけてしまったという。確かに約束をしていたはずなのに……。弁護士は頭をひねるが、その一方、隣町では奇怪な事件が起こっていた。肉屋の肉をぶら下げるフックに、なんと首なし死体が掛かっていたのだ。はたして首なし死体はセスリー氏なのか。やがて海岸から人間の頭蓋骨が見つかり、小さな町は一大騒動に巻き込まれてゆく。
グラディス・ミッチェルの魅力は何かと聞かれれば、まずは表現力であろう。ややもすると類型的になりがちなミステリの登場人物だが、彼女のそれは実に活き活きとしている。現代のミステリ作家でもここまで豊かな人物描写ができる人はそれほど多くない。
『月が昇るとき』もそうだったが、特に少年はうまいなと思う。本作ではミセス・ブラッドリーの助手的な役割で活躍する少年がいるのだが、下手な作家だとただ生意気にするだけのところを、母親や従兄弟との距離感、年上の女性に対する憧れなどを自然に織り込み、実にいい味を出している。
もうひとつの魅力は、よく言われているように、やはりオフビート感といえるだろう。一見オーソドックスな本格ながら、実は読み手の予想を微妙に裏切る展開。この外し方が絶妙なのである。
本書でも派手に首なし死体を登場させるが、それを中心に物語を進めることはなく、死体の扱いは実に素っ気ない。そのくせ誰のものともつかない頭蓋骨を出現させ、大事な証拠物件のはずなのに消したり出したり、もうむちゃくちゃ。
さらには、ミセス・ブラッドリーの聞き込み捜査も見逃せない。ときには意地悪く、ときには厳しく訊問する技術は、警察以上の腕前であり、聞かれた相手はことごとくボロを出す。ふと気がつくと登場人物の大半が嘘をついているという状況で、推理好きの読者にしてみればたまったものではない(笑)。逆説的だが、これはそういう意味で伏線だらけの物語といっていいだろう。こうしたミステリの定石を外すテクニックこそ、グラディス・ミッチェルの真骨頂なのだ。
決して派手な物語ではないけれど、普通のミステリに飽きた人でも思わず引き込まれる、すれっからし向けのミステリ。それがグラディス・ミッチェルの作品だ。デビュー第二作にして、このレベルの高さ。頼むから残りの作品もすべて翻訳してほしい。
遺言状書き換えのため、ウォンドルズ・パーヴァ村のセスリー氏を訪れた事務弁護士。ところが目の前に現れたのはセスリーの甥ジムで、肝心のセスリーはアメリカへ出かけてしまったという。確かに約束をしていたはずなのに……。弁護士は頭をひねるが、その一方、隣町では奇怪な事件が起こっていた。肉屋の肉をぶら下げるフックに、なんと首なし死体が掛かっていたのだ。はたして首なし死体はセスリー氏なのか。やがて海岸から人間の頭蓋骨が見つかり、小さな町は一大騒動に巻き込まれてゆく。
グラディス・ミッチェルの魅力は何かと聞かれれば、まずは表現力であろう。ややもすると類型的になりがちなミステリの登場人物だが、彼女のそれは実に活き活きとしている。現代のミステリ作家でもここまで豊かな人物描写ができる人はそれほど多くない。
『月が昇るとき』もそうだったが、特に少年はうまいなと思う。本作ではミセス・ブラッドリーの助手的な役割で活躍する少年がいるのだが、下手な作家だとただ生意気にするだけのところを、母親や従兄弟との距離感、年上の女性に対する憧れなどを自然に織り込み、実にいい味を出している。
もうひとつの魅力は、よく言われているように、やはりオフビート感といえるだろう。一見オーソドックスな本格ながら、実は読み手の予想を微妙に裏切る展開。この外し方が絶妙なのである。
本書でも派手に首なし死体を登場させるが、それを中心に物語を進めることはなく、死体の扱いは実に素っ気ない。そのくせ誰のものともつかない頭蓋骨を出現させ、大事な証拠物件のはずなのに消したり出したり、もうむちゃくちゃ。
さらには、ミセス・ブラッドリーの聞き込み捜査も見逃せない。ときには意地悪く、ときには厳しく訊問する技術は、警察以上の腕前であり、聞かれた相手はことごとくボロを出す。ふと気がつくと登場人物の大半が嘘をついているという状況で、推理好きの読者にしてみればたまったものではない(笑)。逆説的だが、これはそういう意味で伏線だらけの物語といっていいだろう。こうしたミステリの定石を外すテクニックこそ、グラディス・ミッチェルの真骨頂なのだ。
決して派手な物語ではないけれど、普通のミステリに飽きた人でも思わず引き込まれる、すれっからし向けのミステリ。それがグラディス・ミッチェルの作品だ。デビュー第二作にして、このレベルの高さ。頼むから残りの作品もすべて翻訳してほしい。
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国産は古くて変な作家ばかり紹介してますが(笑)、海外は割とまんべんなくやっているつもりですので、どうぞお楽しみください。
グラディス・ミッチェルは笑いのツボがひねくれてるのでお気をつけて。