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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

高城高『X橋付近』(荒蝦夷)

 昨年の暮れ、高城高(こうじょう・こう)の作品集が出版されるというニュースを知ったときは本当に驚いた。高城高といえば、大藪春彦、河野典生と並んで日本のハードボイルド界創生期を支えた作家である。しかしながら作品数はそれほど多くなく、過去に出版されたのは短編集と長編がそれぞれ一冊ずつ。しかもどちらも古い本で入手が難しいときているから、アンソロジーでいくつかの短編が読めるだけであった。
 それが荒蝦夷という仙台の出版社から、高城高の新たな短編集『X橋付近』が出るというのである。早速注文したことはいうまでもなく、手元に届いてからももったいなくて、なかなか読むことができない始末。ようやく先月から読み始め、寝る前に短編一作ずつという超スローペースで楽しんできたわけである。

 高城高の作風は極めてまっとうなハードボイルドだ。
 もともと乾いた世界観を旨とするハードボイルドは、基本的に日本人には合わないのでは、という説も以前はあったらしい。今日の馳星周や大沢在昌の活躍を見れば、そんなことは杞憂だったこともすぐにわかるが、当時はそもそもハードボイルドとは何ぞや?という時代であったから、高城高らの作品が果たしてどれだけ理解されていたかは疑問である。当の作者本人も、お手本がハメットやチャンドラーしかいないので見よう見まねで挑戦したようなことを、どこかの記事で読んだことがある。
 しかし、見よう見まねの割にそのレベルはおそろしく高く、ただスタイルを真似ただけのものでないことは簡単に理解できるはずだ。当時は文学部在学中であり、やがて新聞社勤務という道をたどったことから、当然「書く」ということにこだわりを持っていたのだろうが、この文章、そしてテーマをデビュー当時から持っていたことは、驚嘆に値する。

 その作品群は、仙台を舞台にしたものと、北海道を舞台にしたものに大きく分けられる。まったく個人的な意見になるが、仙台ものはシンプルなハードボイルドで、高城高の精神性をより感じたい向き。
 一方の北海道ものは謀略やスパイをネタにしたものも多く、エンターテインメント性が高い。また北海道という地域性を巧みに作品世界に取りこんでいる。情景と叙情が常に表裏一体とでもいおうか、北海道のさまざまな景観描写がメタファーになっていると感じさせる、その技術が素晴らしい。

 最期に収録作一覧とお気に入りの感想をいくつか。
 作品単位では、定番とも言える「X橋付近」や「ラ・クカラチャ」もいいのだが、個人的には、何となく映画『明日に向かって撃て』を思い出させるラストシーンが印象的な「火焔」がおすすめ。短いしあまりハードボイルドっぽくもないけれど、これは素敵な青春小説にもなっている。
 廃坑の荒んだ状況を普遍的なものとして感じさせる「廃坑」もいい。
 そして珍しく謎解き要素を含んだ「賭ける」、その意外な続編の「凍った太陽」はセットで読みたい、っていうか読んでくれ。
 「微かなる弔鐘」「死ぬ時は硬い笑いを」あたりは完成されたスタイルを素直に楽しめる。

<仙台>
「X橋付近」
「火焔」
「冷たい雨」
「廃坑」
「賭ける」
「ラ・クカラチャ」
「黒いエース」

<北海道>
「淋しい草原に」
「暗い海 深い霧」
「微かなる弔鐘」
「雪原を突っ走れ」
「追いつめられて」
「凍った太陽」
「父と子」
「星の岬」
「死ぬ時は硬い笑いを」

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Comments
 
木沼駿一郎さん

コメントありがとうございます。
高城高は初読の時が一番ショッキングかもしれませんね。少なくとも私はそうでした。それまでにも国産ハードボイルドはそれなりに読んでいいましたが、高城高はものが違うというか、日本ハードボイルドの元祖なのにむしろ全てが新鮮に感じました。確かに若書きのところはあるのですが、仙台ものなんかは本当に痺れます。
 
 高城高は、宝石の「新人25人集」の応募して、一席になられた作家ですね。私が高校生の時です。最初の時に読んだ時は、すごく感動して、当時、作者は東北大学の学生であって、その才能に驚嘆したものです。当時、同じように東大の学生が「北帰行」で河出の文芸新人賞を受賞して、才能にがっくりしたものです。
 再読して、矢張り若書きだなと文章に気づきました。
 何冊か持っているので、これからは読んでみたいと思っております。
 
コメントありがとうございます。
それにしても、これをブックオフで拾うとは、何とも引きの強い! 創元でも全集が進行中ですけれど、あちらも読まれたらぜひご感想を聞かせてください。
ところで、私が存じ上げている方でしたっけ?
 今更ながらですが
ブックオフにて¥500で購入しました。開いた気配の無いサラの状態でした。
実はワタシもなかなか読み出すのに時間がかかってしまい、結局一篇を2日に分けて読むようになりました。だって読み終わるのが勿体ないんだもん!




因みにワタシが高城高を知ったのは鮎川哲也編集の鉄道アンソロジーでした。カッパの。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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