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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ロバート・ブロック『切り裂きジャックはあなたの友』(ハヤカワ文庫)

 切り裂きジャックはあなたの友

 ロバート・ブロックの『切り裂きジャックはあなたの友』を読む。ハヤカワ文庫版のちょっと古めの短編集。
 ブロックの作品集だから基本的にアベレージが高いのはわかっているのだが、同時に古き良き時代のホラー、という印象も改めて感じとれた。
 理由としては、やはりそのベタベタな、いかにも恐怖小説した語り口によるところがまずある。また、ブロックといえばラストのどんでん返しも特徴のひとつだが、これが予測できるかできないかという微妙な辺りにもってくるところも理由として大きい。いや別にブロックにはそんなつもりはなかったんだろうけど(笑)。
 とにかくその結果として、およそ非現実的なテーマや怖い話を扱っているのに、ある種の心地よさみたいなものがブロックの作品には内包されているように思える。それって怪奇小説の感想としてはどうよ、という気がしないでもないが、よく言えばクラシックゆえの安定感。今ではよく知られたオチもあるため若干の古さはあるが、トータルでは今でも十分に楽しめる短編集といえるだろう。
 収録作は以下のとおり。

A Matter of Life「生き方の問題」
Talent「タレント」
Lizzie Borden Took an Axe「斧を握ったリジー・ボーデンは……」
Pin-Up Girl「ピンナップ・ガール」
Return to the Sabbath「安息に戻る」
The Head Hunter(Head Man)「首狩人」
The Living End「生きどまり」
The Beetles(Curse of Scarab)「かぶと虫」
The Black Lotus「黒い蓮」
A Sorcerer Runs for Sheriff「呪いの蝋人形」
The Feast in the Abbey「修道院の饗宴」
The Man Who Murdered Tomorrow「未来を抹殺した男」
Yours Truly, Jack the Rippe「切り裂きジャックはあなたの友」

 お気に入りは、無口だが物真似だけは大得意な少年がやがて……という「タレント」。ドキュメンタリータッチで淡々と語られる少年に、どういうカタストロフィが待ち受けるのか、その興味で引っ張る。もちろんラストはその期待を裏切らない。
 「斧を握ったリジー・ボーデンは……」と「切り裂きジャックはあなたの友」のふたつは、ラストがやや読みやすいものの、ブロックの良さはたっぷりと感じられる佳作。まるで裏表のような関係で、これはできれば続けて読んでほしい。
 では本日はこれにて。

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Comments
 
曾良/そら(SOLA)さん

ブロックは最後のサプライズがありますから、ホラーファン以外にも十分楽しめるはずです。ただ、ブロックの本はけっこう絶版が多くて、本書も古書店でないと入手できません。早川書房の『血は冷たく流れる』が現役だと思いますので、そちらでぜひお試し下さい。


kazuouさん

そう、初期のものはラヴクラフトの影響が強いですよね。ホラーオタク全開の感もあります(笑)。それを越えたところにある作品が、やはりオリジナリティが出て面白いとは思うのですが、初期の作品も、あれはあれで嫌いじゃないです(苦笑)。
 
ブロックは、本当にベタベタなホラーなんですけど、病み付きになっちゃう魅力がありますね。この作家の作品って、残酷ではあるけれど、陰惨さがないので、後味がいいんですよね。
最近、ブロックの初期の短篇を集めた本を読んだんですが、ラヴクラフトの影響が強い初期作品は、かなり陰惨さが強くて驚きました。
恐怖小説にも、ある程度のユーモアは必要だという好例でしょうか。
 
ホック作品以降、怪奇・短編というキーワードに魅力を感じるようになってしまいました。おもしろそうですね。今からでも買えるかな?探してみます~
 
きみやすさん

おっ、お読みでしたか。
ブロックは今読み返すと、なんかすごい安心して読めるのが不思議です。怪奇小説として一定の水準を保ちつつ、読者サービスも忘れてはいないのが、実に職人的というか。
なかには、コントかよ、なんてツッコミ入れたくなるようなものもありますが(笑)、ま、それも魅力のひとつということで。
 
こんにちは。
な、なつかしいですねー。

「タレント」
「ピンナップ・ガール」
「斧を握ったリジー・・・」
「切り裂きジャック」
ワクワクしながら、ページをめくったことを思い出しました。

実家に帰って探してみようと思います。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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