- Date: Sun 26 05 2013
- Category: 国内作家 中町信
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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中町信『模倣の殺意』(創元推理文庫)
最近、書店で中町信がずいぶんプッシュされているのを目にする。ネットで調べてみると、既に十万部以上増刷だとか某書店が仕掛けたらしい云々とは出ているが、それでもここまでブレイクする理由やきっかけが正直わからない。
中町信といえば叙述トリックの先駆者として知られているが、この十年ほど、日本でこの手の作品が増えていることと多少は関係ありそうだ。特に東野圭吾らの人気作家の話題作にこの手のトリックが目立ったこともある。ミステリを普段読まない一般の読者にとって、叙述トリックは非常にわかりやすい。小説ならではの仕掛けがインパクトを与えた結果、そういったものが好んで読まれ始めているのかもしれない。
とはいえ、それぐらいの理由でここまで人気が出るかとなると疑問。ここらへんご存じの方、ぜひ御教授ください。
さて、ここまで人気が出てくると怖いのはネタバレである。なんせ叙述トリックの名手というフレーズだけでも十分ネタバレになっているのであるから、これはいずれ正真正銘のネタバレ記事をうっかり読む可能性もある。せめて代表作は少し片づけておこうと手にしたのが『模倣の殺意』。
七月七日の午後七時、坂井正夫が青酸カリによる服毒死を遂げた。文学新人賞を獲ったものの以後は低迷し、将来を儚んでの自殺として処理される。しかし、坂井に編集雑務を頼んでいた編集者の中田秋子は、彼の部屋で会った遠賀野律子の存在が気になり、独自に調査を開始する。
一方、ライターの津久見伸助は、同人誌仲間だった坂井の死を記事にするよう雑誌社から依頼される。そして取材を進めるうち、坂井がようやく自信作をものにした矢先の自殺であることを突きとめた。しかもその作品に盗作疑惑があったことを知り……。
以下、ネタバレには注意しておりますが、なんせ内容が内容ですので、未読の方は相応の覚悟をもってお読みください。

本作はデビュー長篇『そして死が訪れる』を改稿したもの。途中では『新人賞殺人事件』、『新人文学賞殺人事件』などと改題もされたりしているのだが、この辺りの経緯は解説に詳しいので、興味ある方はぜひそちらで。
肝心の中身だが、これはよくできている。まあ、叙述トリックはそもそも小説の内容にはまったく関係なく、単に読者をアッと言わせるという一点勝負オンリーの側面があるので、執筆には相当の配慮が必要である。著者はその点、表現には細心の注意を払っている。二人の主人公で交互に進めるところに、既に十分きな臭いものはあるのだが、落としどころが鮮やかで見事にだまされた。終盤ではさすがに怪しげな個所がチラホラ出てくるものの、基本、あっぱれの一語である。
ただし残念な部分もある。本書のトリックにはある特殊な前提条件があるのだが、実はこれがけっこう納得いかなかったりする。可能性はもちろんゼロではないけれど、個人的にはボーダーライン。改訂前の作品ではこの点を解消する表現があったのだが、似たような作品がある現在では露骨過ぎるだろうと書き直されたらしいが、ううむ、これは残しておいた方が全然よかったのにな。
気になる点をもうひとつ。それは叙述トリックという性質上、表現が縛られてしまうため、文章が味気なくなりがちなこと。事件を調査する二人の主人公が両者ともいまひとつサラッとしすぎるというか。特に女性主人公の中田秋子はある設定がされているため、ここまで煮え切らないと辛い。
ただ、ここをやりすぎると読者を騙し討ちする度合いもひどすぎることになりかねないので、難しいところではあるのだが。
以上、若干気になるところはあるのだけれど、トータルでは十分に楽しく読めるので念のため。これから読もうという人がいるなら、できれば先入観はもたず、何も考えず素直に騙された方がよい。それが一番楽しい読み方である。
中町信といえば叙述トリックの先駆者として知られているが、この十年ほど、日本でこの手の作品が増えていることと多少は関係ありそうだ。特に東野圭吾らの人気作家の話題作にこの手のトリックが目立ったこともある。ミステリを普段読まない一般の読者にとって、叙述トリックは非常にわかりやすい。小説ならではの仕掛けがインパクトを与えた結果、そういったものが好んで読まれ始めているのかもしれない。
とはいえ、それぐらいの理由でここまで人気が出るかとなると疑問。ここらへんご存じの方、ぜひ御教授ください。
さて、ここまで人気が出てくると怖いのはネタバレである。なんせ叙述トリックの名手というフレーズだけでも十分ネタバレになっているのであるから、これはいずれ正真正銘のネタバレ記事をうっかり読む可能性もある。せめて代表作は少し片づけておこうと手にしたのが『模倣の殺意』。
七月七日の午後七時、坂井正夫が青酸カリによる服毒死を遂げた。文学新人賞を獲ったものの以後は低迷し、将来を儚んでの自殺として処理される。しかし、坂井に編集雑務を頼んでいた編集者の中田秋子は、彼の部屋で会った遠賀野律子の存在が気になり、独自に調査を開始する。
一方、ライターの津久見伸助は、同人誌仲間だった坂井の死を記事にするよう雑誌社から依頼される。そして取材を進めるうち、坂井がようやく自信作をものにした矢先の自殺であることを突きとめた。しかもその作品に盗作疑惑があったことを知り……。
以下、ネタバレには注意しておりますが、なんせ内容が内容ですので、未読の方は相応の覚悟をもってお読みください。

本作はデビュー長篇『そして死が訪れる』を改稿したもの。途中では『新人賞殺人事件』、『新人文学賞殺人事件』などと改題もされたりしているのだが、この辺りの経緯は解説に詳しいので、興味ある方はぜひそちらで。
肝心の中身だが、これはよくできている。まあ、叙述トリックはそもそも小説の内容にはまったく関係なく、単に読者をアッと言わせるという一点勝負オンリーの側面があるので、執筆には相当の配慮が必要である。著者はその点、表現には細心の注意を払っている。二人の主人公で交互に進めるところに、既に十分きな臭いものはあるのだが、落としどころが鮮やかで見事にだまされた。終盤ではさすがに怪しげな個所がチラホラ出てくるものの、基本、あっぱれの一語である。
ただし残念な部分もある。本書のトリックにはある特殊な前提条件があるのだが、実はこれがけっこう納得いかなかったりする。可能性はもちろんゼロではないけれど、個人的にはボーダーライン。改訂前の作品ではこの点を解消する表現があったのだが、似たような作品がある現在では露骨過ぎるだろうと書き直されたらしいが、ううむ、これは残しておいた方が全然よかったのにな。
気になる点をもうひとつ。それは叙述トリックという性質上、表現が縛られてしまうため、文章が味気なくなりがちなこと。事件を調査する二人の主人公が両者ともいまひとつサラッとしすぎるというか。特に女性主人公の中田秋子はある設定がされているため、ここまで煮え切らないと辛い。
ただ、ここをやりすぎると読者を騙し討ちする度合いもひどすぎることになりかねないので、難しいところではあるのだが。
以上、若干気になるところはあるのだけれど、トータルでは十分に楽しく読めるので念のため。これから読もうという人がいるなら、できれば先入観はもたず、何も考えず素直に騙された方がよい。それが一番楽しい読み方である。
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>とは言え、本作の柱はいかに読者の裏をかき、驚かせるかにあると思われるので、それはそれで十分なのではなかろうかと思います。
著者の狙いは正しくそこでしょう。ただ、そのトリックのために登場人物をはめていった感があるのが惜しいですね。いや、でもまあ、こうしたトリックを形にしただけでも十分に素晴らしいのですが。
私は本日『天啓の殺意』を読み終える予定です。物語の起伏自体は『模倣〜』より派手ですが、終盤のバタバタが果たしていい方に出るか否か? 感想は明日にでも。