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マックス・ブルックス『WORLD WAR Z〔下)』(文春文庫)
マックス・ブルックスの『WORLD WAR Z』、めでたく下巻読了。
世界規模で発生したゾンビの蔓延。その地球レベルの危機はいったいどのように始まり、どのように広まり、どのように終息していったのか。人類はそのときどう行動し、どう生きながらえ、どう勝利したのか。
そんな「世界ゾンビ戦争」の全貌を、様々な国、民族、立場の人々からインタビューしてまとめるという体裁をとったのが、本書『WORLD WAR Z』である。

歴史学ではこういう口承によって記録をまとめたスタイルをオーラル・ヒストリーというが、そういう手法をとることで、著者のマックス・ブルックスは本書をあくまでノンフィクションという位置づけで読ませたいようだ。
元来、オーラル・ヒストリーというのは文書による記録だけでは見えない部分をくみ取ろうというところに立脚している。この手法をとること自体に、事実のみならずその本質をこそ伝えたいという明確な目的があるわけである。本書もその手法をとることで、ゾンビ世界戦争が事実(ノンフィクション)であるという前提を強く打ち出し、物語に独特のリアルさを生んでいるといえる。
したがって通常のホラー小説のような怖さはあまり感じられず、そういう楽しさを望む向きにはやや期待はずれといえるかもしれない。もちろんゾンビに追われる恐怖やゾンビとの戦いを生々しく語った記述はあるのだが、インタビューという形をとる以上、アクション性や迫力という点では通常の小説には負ける。
それらが犠牲になることを承知のうえで、著者はあえてオーラル・ヒストリーを用いた。その結果もたらされたものは、それこそ著者が徹底的に調べ上げ、創造した、様々な「事実」なのである。軍人や政治家、科学者から一般人や犯罪者に至るまで、さまざまな人物の体験したエピソード。それぞれが優れた短編小説としても読めるほどのクオリティであり、そして、それらが積み重なることでこの戦争の全容が浮かびあがる。
死者が生き返るという、本来は非常に馬鹿げている話。それを綿密な戦争史として徹底的にまとめあげ、社会批評までをも盛り込んだ著者の力量に何より感服する。
エンジンがかかるまでの序盤は少々かったるいものの、中盤からは一気である。おすすめ。
世界規模で発生したゾンビの蔓延。その地球レベルの危機はいったいどのように始まり、どのように広まり、どのように終息していったのか。人類はそのときどう行動し、どう生きながらえ、どう勝利したのか。
そんな「世界ゾンビ戦争」の全貌を、様々な国、民族、立場の人々からインタビューしてまとめるという体裁をとったのが、本書『WORLD WAR Z』である。

歴史学ではこういう口承によって記録をまとめたスタイルをオーラル・ヒストリーというが、そういう手法をとることで、著者のマックス・ブルックスは本書をあくまでノンフィクションという位置づけで読ませたいようだ。
元来、オーラル・ヒストリーというのは文書による記録だけでは見えない部分をくみ取ろうというところに立脚している。この手法をとること自体に、事実のみならずその本質をこそ伝えたいという明確な目的があるわけである。本書もその手法をとることで、ゾンビ世界戦争が事実(ノンフィクション)であるという前提を強く打ち出し、物語に独特のリアルさを生んでいるといえる。
したがって通常のホラー小説のような怖さはあまり感じられず、そういう楽しさを望む向きにはやや期待はずれといえるかもしれない。もちろんゾンビに追われる恐怖やゾンビとの戦いを生々しく語った記述はあるのだが、インタビューという形をとる以上、アクション性や迫力という点では通常の小説には負ける。
それらが犠牲になることを承知のうえで、著者はあえてオーラル・ヒストリーを用いた。その結果もたらされたものは、それこそ著者が徹底的に調べ上げ、創造した、様々な「事実」なのである。軍人や政治家、科学者から一般人や犯罪者に至るまで、さまざまな人物の体験したエピソード。それぞれが優れた短編小説としても読めるほどのクオリティであり、そして、それらが積み重なることでこの戦争の全容が浮かびあがる。
死者が生き返るという、本来は非常に馬鹿げている話。それを綿密な戦争史として徹底的にまとめあげ、社会批評までをも盛り込んだ著者の力量に何より感服する。
エンジンがかかるまでの序盤は少々かったるいものの、中盤からは一気である。おすすめ。
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Ksbcさん
思わぬ拾いもの、といったら失礼なのかもしれませんが、いや予想以上に良かったです。
映画はブラッド・ピットという主役がいる時点で、既に小説とは別物ですね。それでもたぶん観ちゃいますけど(笑)。
Posted at 23:42 on 07 29, 2013 by sugata