- Date: Sat 09 05 2015
- Category: 国内作家 橘外男
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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橘外男『死の谷を越えて—イキトスの怪塔—』(盛林堂ミステリアス文庫)
橘外男の『死の谷を越えて—イキトスの怪塔—』を読む。版元は盛林堂ミステリアス文庫。
以前にも書いたが、盛林堂ミステリアス文庫は西荻窪の古書店、盛林堂さんが発行している叢書で、商業出版ではとても成り立たない企画をやってくれるのがありがたい。
『死の谷を越えて —イキトスの怪塔—』も、橘外男という程度ならまだ商業出版の可能性はあるのだが、これが戦後間もない頃のジュヴナイル、しかも内容が想像以上にアレだったから(笑)、いや、戎光祥出版のミステリ珍本全集あたりならともかく、これは普通の出版社だと絶対に出せないだろうな。ぜひ今後も大手がなかなか参入できないあたりをチクチク狙っていってもらいたいものである。
さて『死の谷を越えて—イキトスの怪塔—』だが、まずはストーリー。
インドの北端、高峰連なる一帯に小さな村があった。英国領事マアロウ一行は旅の途中に束の間の休息をとっていたが、そこに半人半獣の怪物、身の丈は2.3メートル、頭髪も鼻もないまるで海坊主のような異形な者が出現したという知らせが舞い込んだ。村人の頼みもあり、マアロウたちは気軽に視察へ赴いたが、一行はそこでまさしく半人半獣の怪物に襲われ、かろうじてマアロウだけが命を取り止める。帰国したマアロウの話に科学者たちはどよめき、最新の研究を重ね合わせた結果、怪物の正体は実に意外なものであった……。
ところかわってブラジル。アマゾンの奥地に開ける都市ネマルドナードに住む勝彦という日本人少年がいた。ブラジルで事業に成功した両親らと幸せに暮らしていたある日のこと、勝彦は立入を禁止されている河に入り込み、不思議な箱を入手るが……。

本作は昭和二十五年から二十六年にわたって雑誌『中学生の友』に連載された作品で、初の単行本化である。橘外男といえばテンション高めのエログロ秘境小説というイメージが最初にくるが、こうした児童向けの小説でもガッツリそのテイストを維持して書いているのが素晴らしい。
特に前半のインドを舞台にしたパートでは、ジュヴナイルなのに子供はまったく登場せず、怪物によって人々が殺害されたり女性がさらわれていく描写など、大人向けのものと遜色はない。ジュヴナイルゆえ「ですます」体の文章を用いているが、むしろその丁寧さが逆に効果を盛り上げているところもある。
もちろんエロ描写は控えているし、大人向けなら人獣婚交について示唆するところも省略されている。もっと奔放に書きたかったところもあるのだろうが、なかなか健闘しているといえるだろう。
ただ、後半になるとその勢いが失速していくのは残念。おそらく子供を主人公にという編集部側からの要請もあったのだろう。ここにきて勝彦少年が主人公となり、ようやくジュヴナイルらしくなってくるのだが、まあ、それはいい。
問題は、前半のインド編が後半のブラジル編とほとんど何のつながりもないことである。しかも明らかに連載終了に間に合わなかったためだろう、最後はやっつけといってよい展開。勝彦をはじめとする少年たちの活躍があらすじのように語られてお終いである。題名にある「死の谷を越えて」や「イキトスの怪塔」というキーワードもこのあらすじもどきで初登場する始末だ。
ただ、作者の構想は理解できる。本来は勝彦少年の活躍によって怪物を退治するという展開をみっちりとやり、そのなかでインド編の伏線も回収する予定だったのだろう。橘外男の発想は子供雑誌の連載ではとても収まりきらなかったということか(笑)。
まあ完成度ではグダグダの一冊だが、橘外男のパッションは十分伝わってきたし、極めてレアな作品がこうして読めたことに満足である。
以前にも書いたが、盛林堂ミステリアス文庫は西荻窪の古書店、盛林堂さんが発行している叢書で、商業出版ではとても成り立たない企画をやってくれるのがありがたい。
『死の谷を越えて —イキトスの怪塔—』も、橘外男という程度ならまだ商業出版の可能性はあるのだが、これが戦後間もない頃のジュヴナイル、しかも内容が想像以上にアレだったから(笑)、いや、戎光祥出版のミステリ珍本全集あたりならともかく、これは普通の出版社だと絶対に出せないだろうな。ぜひ今後も大手がなかなか参入できないあたりをチクチク狙っていってもらいたいものである。
さて『死の谷を越えて—イキトスの怪塔—』だが、まずはストーリー。
インドの北端、高峰連なる一帯に小さな村があった。英国領事マアロウ一行は旅の途中に束の間の休息をとっていたが、そこに半人半獣の怪物、身の丈は2.3メートル、頭髪も鼻もないまるで海坊主のような異形な者が出現したという知らせが舞い込んだ。村人の頼みもあり、マアロウたちは気軽に視察へ赴いたが、一行はそこでまさしく半人半獣の怪物に襲われ、かろうじてマアロウだけが命を取り止める。帰国したマアロウの話に科学者たちはどよめき、最新の研究を重ね合わせた結果、怪物の正体は実に意外なものであった……。
ところかわってブラジル。アマゾンの奥地に開ける都市ネマルドナードに住む勝彦という日本人少年がいた。ブラジルで事業に成功した両親らと幸せに暮らしていたある日のこと、勝彦は立入を禁止されている河に入り込み、不思議な箱を入手るが……。

本作は昭和二十五年から二十六年にわたって雑誌『中学生の友』に連載された作品で、初の単行本化である。橘外男といえばテンション高めのエログロ秘境小説というイメージが最初にくるが、こうした児童向けの小説でもガッツリそのテイストを維持して書いているのが素晴らしい。
特に前半のインドを舞台にしたパートでは、ジュヴナイルなのに子供はまったく登場せず、怪物によって人々が殺害されたり女性がさらわれていく描写など、大人向けのものと遜色はない。ジュヴナイルゆえ「ですます」体の文章を用いているが、むしろその丁寧さが逆に効果を盛り上げているところもある。
もちろんエロ描写は控えているし、大人向けなら人獣婚交について示唆するところも省略されている。もっと奔放に書きたかったところもあるのだろうが、なかなか健闘しているといえるだろう。
ただ、後半になるとその勢いが失速していくのは残念。おそらく子供を主人公にという編集部側からの要請もあったのだろう。ここにきて勝彦少年が主人公となり、ようやくジュヴナイルらしくなってくるのだが、まあ、それはいい。
問題は、前半のインド編が後半のブラジル編とほとんど何のつながりもないことである。しかも明らかに連載終了に間に合わなかったためだろう、最後はやっつけといってよい展開。勝彦をはじめとする少年たちの活躍があらすじのように語られてお終いである。題名にある「死の谷を越えて」や「イキトスの怪塔」というキーワードもこのあらすじもどきで初登場する始末だ。
ただ、作者の構想は理解できる。本来は勝彦少年の活躍によって怪物を退治するという展開をみっちりとやり、そのなかでインド編の伏線も回収する予定だったのだろう。橘外男の発想は子供雑誌の連載ではとても収まりきらなかったということか(笑)。
まあ完成度ではグダグダの一冊だが、橘外男のパッションは十分伝わってきたし、極めてレアな作品がこうして読めたことに満足である。
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ご健闘をお祈りします!
ただ、記事に書いたとおりけっこう完成度は低いですし、橘外男ファンでないと内容的にもきついですので念のため(笑)