- Date: Sat 01 09 2018
- Category: 海外作家 ロード(ジョン)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ジョン・ロード『代診医の死』(論創海外ミステリ)
ジョン・ロードの『代診医の死』を読む。ジョン・ロードといえば百冊以上のミステリを残した黄金時代を代表する本格探偵小説作家の一人。ただし、その地味な作風が災いして没後には“退屈派”というありがたくない異名をつけられ、日本でもまったく人気のない作家である。その膨大な著作数に比べると翻訳された数はあまりに少なく、そもそも作品がいまいちなので稀に新刊が出てもそのあとが続かない。
著者の最高傑作として紹介された『ハーレー街の死』にしても、確かにそれまで紹介されたなかではいい方だったが、「ロードにしては」という但し書きは必要であろう。せっかく派手な題材を扱った『ラリーレースの惨劇』にしても、なぜここまで盛り上がりに欠けるストーリーにするのか理解できないほどであった。
そこに本作『代診医の死』の登場である。実はこれが以前から傑作であるとは聞いていたのだが、さてその結果やいかに。
こんな話。パタムという小さな田舎町で開業医を営むグッドウッド医師。妻と二人で毎年恒例の長期休暇をとることになり、その期間の代診医としてロンドンからソーンヒルという医師を雇うことになる。現れたソーンヒルは真面目そうな好青年で、安心したグッドウッド医師は引き継ぎを終えて旅立ってゆく。
残されたソーンヒルもさっそく診療や往診にあたるが、グッドウッドの友人でもある資産家トム・ウィルスデンの往診に出かけると、その病状がグッドウッドから聞いていたより遥かに悪いと判断する。しかし、頑固なウィルスデンは急ぎの治療を拒み、なんと翌日には体調を崩して死亡してしまうのだった。
気落ちするソーンヒルだったが、目の前の業務は消化しなければならない。その日も往診にでかけたが、今度はそのソーンヒルが行方不明となる。さらには付近の森で火事が発生し、焼けた車からは遺体が発見される。しかも死因は火事ではなく、頭蓋骨への殴打であることが判明。いったいこの小さな町で何が起こっているのか……。

ロードが退屈派と言われる原因は、主にストーリーの単調さとルーティンのような構成、登場人物の平板な描き方にあると思うのだが、正直いうとそれらの弱点は本作でもそれほど変わらない。これはロードの後期作品では特に顕著な特徴らしいのだが、とりわけ中盤以降の推理合戦はそのボリュームゆえ、人によってはかなりだるいと感じる部分だろう。
だがよく考えてみると、ミステリことに本格探偵小説を読むのであるから、推理合戦を退屈だというのは非常に矛盾した意見ではある。推理するという部分が退屈なら端から本格探偵小説など読むなという話だ。他の作家がキャラクターの魅力や破天荒なトリック、ワクワクするストーリーで味付けするところを、ロードは推理合戦という実に真っ当な味付けで勝負しているわけで、むしろミステリ読みは歓迎すべきところであろう。
と、フォローしておいて何だが、そうはいっても推理合戦をもう少し面白く描けないロードの責任はもちろんある(笑)。アシモフなど黒後家蜘蛛の会シリーズで同じようなことをやっているのに、あれを退屈だという人はいないものなぁ。
ただ、そんな弱点を孕みつつ、本作がこれまで紹介されてきた作品と決定的に違うのは、秀逸なプロットとメイントリック、そしてその結果としてのサプライズである。
何といってもメイントリックが素晴らしい。ネタバレ等、差し障りがあるので詳しくは書けないけれど、理屈は通るがつまらない従来の物理的トリックではなく、アンフェアぎりぎりのところで勝負する心理的トリック一本で勝負しているのが素晴らしい。
また、プロット絡みでいうと、グッドウッドの死とソーンヒルの死の関連、さらにはそれぞれの事件での動機をなかなか明らかにしないあたりも巧みである。こういった真相を踏まえると、少々退屈に思える推理合戦がまた生きてくるから面白いではないか。
というわけで本作はこれまで読んできたロード作品のなかでは文句なしにベスト。これだけの作品があるのなら、さっさとこれから翻訳してくれれば、ロードの評価もけっこう変わっていただろうになぁ。まあ、ときの関係者もすべてのロードの作品を読むのは難しいだろうから仕方ないのかな。
著者の最高傑作として紹介された『ハーレー街の死』にしても、確かにそれまで紹介されたなかではいい方だったが、「ロードにしては」という但し書きは必要であろう。せっかく派手な題材を扱った『ラリーレースの惨劇』にしても、なぜここまで盛り上がりに欠けるストーリーにするのか理解できないほどであった。
そこに本作『代診医の死』の登場である。実はこれが以前から傑作であるとは聞いていたのだが、さてその結果やいかに。
こんな話。パタムという小さな田舎町で開業医を営むグッドウッド医師。妻と二人で毎年恒例の長期休暇をとることになり、その期間の代診医としてロンドンからソーンヒルという医師を雇うことになる。現れたソーンヒルは真面目そうな好青年で、安心したグッドウッド医師は引き継ぎを終えて旅立ってゆく。
残されたソーンヒルもさっそく診療や往診にあたるが、グッドウッドの友人でもある資産家トム・ウィルスデンの往診に出かけると、その病状がグッドウッドから聞いていたより遥かに悪いと判断する。しかし、頑固なウィルスデンは急ぎの治療を拒み、なんと翌日には体調を崩して死亡してしまうのだった。
気落ちするソーンヒルだったが、目の前の業務は消化しなければならない。その日も往診にでかけたが、今度はそのソーンヒルが行方不明となる。さらには付近の森で火事が発生し、焼けた車からは遺体が発見される。しかも死因は火事ではなく、頭蓋骨への殴打であることが判明。いったいこの小さな町で何が起こっているのか……。

ロードが退屈派と言われる原因は、主にストーリーの単調さとルーティンのような構成、登場人物の平板な描き方にあると思うのだが、正直いうとそれらの弱点は本作でもそれほど変わらない。これはロードの後期作品では特に顕著な特徴らしいのだが、とりわけ中盤以降の推理合戦はそのボリュームゆえ、人によってはかなりだるいと感じる部分だろう。
だがよく考えてみると、ミステリことに本格探偵小説を読むのであるから、推理合戦を退屈だというのは非常に矛盾した意見ではある。推理するという部分が退屈なら端から本格探偵小説など読むなという話だ。他の作家がキャラクターの魅力や破天荒なトリック、ワクワクするストーリーで味付けするところを、ロードは推理合戦という実に真っ当な味付けで勝負しているわけで、むしろミステリ読みは歓迎すべきところであろう。
と、フォローしておいて何だが、そうはいっても推理合戦をもう少し面白く描けないロードの責任はもちろんある(笑)。アシモフなど黒後家蜘蛛の会シリーズで同じようなことをやっているのに、あれを退屈だという人はいないものなぁ。
ただ、そんな弱点を孕みつつ、本作がこれまで紹介されてきた作品と決定的に違うのは、秀逸なプロットとメイントリック、そしてその結果としてのサプライズである。
何といってもメイントリックが素晴らしい。ネタバレ等、差し障りがあるので詳しくは書けないけれど、理屈は通るがつまらない従来の物理的トリックではなく、アンフェアぎりぎりのところで勝負する心理的トリック一本で勝負しているのが素晴らしい。
また、プロット絡みでいうと、グッドウッドの死とソーンヒルの死の関連、さらにはそれぞれの事件での動機をなかなか明らかにしないあたりも巧みである。こういった真相を踏まえると、少々退屈に思える推理合戦がまた生きてくるから面白いではないか。
というわけで本作はこれまで読んできたロード作品のなかでは文句なしにベスト。これだけの作品があるのなら、さっさとこれから翻訳してくれれば、ロードの評価もけっこう変わっていただろうになぁ。まあ、ときの関係者もすべてのロードの作品を読むのは難しいだろうから仕方ないのかな。
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『代診医の死』読まれたんですね。気に入ってもらえたようで何よりです。
私はこれが今まで読んだジョン・ロードのなかのベストですが、続いて『素性を明かさぬ死』、『ハーレー街の死』といったところでしょうか。ここにポール・ブリッツさん推しの『クラヴァートンの謎』がどこまで食い込んでくるか期待したいところです。