- Date: Sun 19 07 2020
- Category: 海外作家 マクドナルド(ロス)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ロス・マクドナルド『縞模様の霊柩車』(ハヤカワ文庫)
ロスマク読破計画、久々の一歩前進。長編十六作目となる『縞模様の霊柩車』である。まずはストーリーから。
私立探偵リュウ・アーチャーの元へ新たな依頼人が現れた。退役大佐のマーク・ブラックウェルは娘のハリエットが自称画家と名乗るパーク・デイミスという男に騙されているといい、その結婚を止めるため、男の身元を調査してほしいという。
さっそく調査をスタートさせたアーチャーは関係者に会い、さらにはメキシコへも飛ぶが、その中で浮かび上がってきたのは、デイミスが二つの殺人事件に関与しているのではないかという疑惑だった……。

ロスマクの代表作といえば世間的には『さむけ』が一番だろうが、『縞模様の霊柩車』を推す人も少なくない。まあ、それも読めば納得というわけで、『縞模様の霊柩車』を書いた時点では集大成といっても良いぐらいの作品だ。
ロスマク作品に見られるさまざまな特徴。例えばアメリカの家族に潜む病巣の掘り下げ、探偵を事件の観察者・質問者として描く手法、ミステリとしての仕掛けやサプライズ、プロットの構築などなど、どれをとっても文句なしではないか。
あえて欠点を言うとすれば、事件が地味だったりそもそもストーリーが地味というところはあるのだが、いざ読み終えると、アーチャーのそんな地道な捜査の中に多くの伏線が忍ばせてあること、プロットをいかにして効果的にストーリーに落としているかに気づかされ、そんな欠点は何のマイナスにもならないことがわかる。
むしろストーリーへの昇華というか、ロスマクの語りが見事すぎて堪らない。
ハードボイルドは本格ミステリとは異なり、探偵が行動しないことにはストーリーも回らない。本作でもアーチャーは静かながら常に動き回っており、それによって情報が少しずつ積み上がって真相が見えてくる。しかし、その行動の結果が実は表面的なもので、そこからどんでん返しを持ってくるのは、それだけでも十分に面白いとはいえ、特別珍しい趣向ではない。
本作が本当に凄いのは、ラストまでの展開や人物描写などによって、その真相が起こるべくして起こったのだと、最後に読者に気づかせる点にある。伏線も鮮やかなのだけれど、伏線というのとは少し違って、ロスマクは最初から、その人間がどういう人物なのか、非常に的確に語っているのである。だからラストでどんでん返しを味わった結果、その意外性とともに、真相に至らなかった自分の読みに愕然となるのだ。
ともあれ今更ではあるが紛れもない傑作。次は『さむけ』だが、さあ、いつにするか。
私立探偵リュウ・アーチャーの元へ新たな依頼人が現れた。退役大佐のマーク・ブラックウェルは娘のハリエットが自称画家と名乗るパーク・デイミスという男に騙されているといい、その結婚を止めるため、男の身元を調査してほしいという。
さっそく調査をスタートさせたアーチャーは関係者に会い、さらにはメキシコへも飛ぶが、その中で浮かび上がってきたのは、デイミスが二つの殺人事件に関与しているのではないかという疑惑だった……。

ロスマクの代表作といえば世間的には『さむけ』が一番だろうが、『縞模様の霊柩車』を推す人も少なくない。まあ、それも読めば納得というわけで、『縞模様の霊柩車』を書いた時点では集大成といっても良いぐらいの作品だ。
ロスマク作品に見られるさまざまな特徴。例えばアメリカの家族に潜む病巣の掘り下げ、探偵を事件の観察者・質問者として描く手法、ミステリとしての仕掛けやサプライズ、プロットの構築などなど、どれをとっても文句なしではないか。
あえて欠点を言うとすれば、事件が地味だったりそもそもストーリーが地味というところはあるのだが、いざ読み終えると、アーチャーのそんな地道な捜査の中に多くの伏線が忍ばせてあること、プロットをいかにして効果的にストーリーに落としているかに気づかされ、そんな欠点は何のマイナスにもならないことがわかる。
むしろストーリーへの昇華というか、ロスマクの語りが見事すぎて堪らない。
ハードボイルドは本格ミステリとは異なり、探偵が行動しないことにはストーリーも回らない。本作でもアーチャーは静かながら常に動き回っており、それによって情報が少しずつ積み上がって真相が見えてくる。しかし、その行動の結果が実は表面的なもので、そこからどんでん返しを持ってくるのは、それだけでも十分に面白いとはいえ、特別珍しい趣向ではない。
本作が本当に凄いのは、ラストまでの展開や人物描写などによって、その真相が起こるべくして起こったのだと、最後に読者に気づかせる点にある。伏線も鮮やかなのだけれど、伏線というのとは少し違って、ロスマクは最初から、その人間がどういう人物なのか、非常に的確に語っているのである。だからラストでどんでん返しを味わった結果、その意外性とともに、真相に至らなかった自分の読みに愕然となるのだ。
ともあれ今更ではあるが紛れもない傑作。次は『さむけ』だが、さあ、いつにするか。
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私も次は『さむけ』の予定です。これは再読なのですが、30年振りぐらいなのでほとんど中身は覚えていないし、実に楽しみです。