ちょっと思い立ってSFミステリを読んでみたくなり、ぼちぼちと調べては買い集めている。最近は特殊設定ミステリともいうようだが、それだとファンタジーっぽいものも入るイメージがあって、それはそれでまた面白いのだけれど、今回は割とハードSF系のものが読みたくなっている。
とはいえ子供の頃はSFもけっこう読んでいたのだが、大学の頃にはミステリ中心となってしまい、きちんと系統立ててSFを読んでいるわけではない。そもそも古典ももっぱら子ども向けで消化したものが多いので、SFに関しては緩い説明もあるだろうが、どうぞ生温かかい目で見てもらえれば幸いである。
で、そもそもSFミステリが何かというところから始めなければならない。個人的にこれまで読んだSFミステリでは、アシモフの『鋼鉄都市』、ホーガンの『星を継ぐもの』が白眉だと思っているのだが、この二作はSFミステリとして最も著名な作品といっても過言ではない。また、この二作は大きな共通点もありながら、相違点も大きい。
極端なことをいえば『鋼鉄都市』はミステリといわれればそうかとも思うが、『星を継ぐもの』をミステリというには、本来かなり無理があるのだ。
『鋼鉄都市』は未来世界を舞台にしているとはいえ、ストーリー自体は刑事とロボットのコンビが殺人事件の捜査を行うというもの。つまりミステリの一般的なフォーマットをそのまま踏襲しているわけだが、それだけではなく、物語の興味があくまでフーダニット等の謎解きにある。そこが肝だ。ただ、その事件と謎解きは現代科学の枠に収まるものではなく、SF的な未来設定を活用することで成立する。つまりミステリの趣向を満たすために、SF的な設定を構築しているのである。
しかし、アシモフは謎解きを重視するだけではなく、ロボット・テーマを前面に打ち出すことでSFとしても価値あるものにした。これがまさしくSFミステリの理想的な姿であり、これを「ミステリ型SF」としたい。
一方の『星を継ぐもの』は設定もストーリーもミステリとは一見、関係がないように思える。月で発見された死体が登場するとはいえ、それは死後五万年は経つと思われる死体。その死体が果たして現生人類とどのような関係があるのか、という宇宙史に関わる壮大なハードSFなのだ。確かに警察も私立探偵もまったく関係ない。
しかし、SFや化学的知識は多少必要ではあるけれども、論理的に真相へ近づいてゆく道筋、そしてラストで明らかになる意外な事実が、本格ミステリのそれと同じような感動と満足感を与えてくれることも事実。だからミステリファンは、ミステリのエッセンスを軸に置いた作品として、『星を継ぐもの』をSFミステリとして評価するわけである。こういったミステリとは一概にいえないものの、ロジックを重視し、謎解き興味を中心に置いたものを、ここでは仮に「パズラー型SF」と呼ぶ。
ちなみにSFミステリをSFミステリと呼ぶのは、ほとんどの場合、ミステリサイドに限られる。SFサイドからすればSFはSFであって、ミステリ的なストーリーとかミステリ要素があるという表現はあっても、あえてSFミステリなどと位置付ける必要はまったくない。SFファンと話をする際はくれぐれも注意されたい(笑)。
しかしながらミステリファンがぜひ読んでおきたいSFとして認識する意味合いもあるので、ここではしっかりSFミステリと呼んでおく。
さて、『鋼鉄都市』と『星を継ぐもの』の例を見てもわかるように、共通点は謎解き興味にある。SFミステリとはあくまで謎解き的興味が物語の中心であることが重要だが、かつSF的な設定、味付けは雰囲気作りにとどまらず、謎解きを構成する重要なファクターでなければならない。ここが大きなポイントだろう。
しかし、中にはこれらの定義に当てはまらないSFミステリがある。
まずは一見、普通のミステリで、SF的な仕掛けは施されているものの、そのSF的な仕掛けとミステリの部分がそれほど関与していないものである。SF的要素が前面に出ていないため、SFミステリとは認識されない場合も多い。
たとえばカーの『ビロードの悪魔』もSFミステリではあるが、むしろ歴史ミステリとして知られていることの方が普通である。ある趣向のためにSF的な味付けをしているものの、そのボリュームやSF臭は最小限に収められている。広義のSFミステリであり、こういったタイプを仮に「SFミステリ風ミステリ」と呼ぶ。(ダサくてすまん)
もう一つはこれと逆のパターン。こちらも広義のSFミステリともいうべきタイプで、SFがミステリの衣を借りたスタイルである。SFが主で、ミステリが従。興味の中心はあくまでSFにあり、そこにストーリーなどを面白くするためにミステリ的設定などを盛り込む形である。厳密にはミステリとしての楽しみではないのだが、表面的にミステリっぽい捜査や事件といった味付けがされており、衣の役目を果たすのである。
具体的にはレムの『捜査』とかF・ポール・ウィルスンの『ホログラム街の女』とかが該当するだろう。ちょっと語弊のある言い方だが、いわゆるSFミステリだと思って読むと肩透かしをくうタイプの作品である(苦笑)。それも仕方ないことで、著者の狙いは謎解きなどにあるわけではなく、あくまでSF的なテーマにある。ただ、物語を転がすため、ミステリ的設定にその役目を任せている。このタイプを仮に「SFミステリ風SF」とする。
最後になるが、SFミステリというジャンルすら超越する作品もある。どうにも分類しようがない、ミステリ的要素を含んだ前衛小説や実験小説といった認識でよいだろう。個人的にはスタニスワフ・レムの『完全なる真空』とかミロラド・パヴィチの『ハザール事典』などはここでいいと思うのだが、もちろん異論は認める。
以上で大体の作品は分類できるかなと思うのだが、いったんまとめてみる。狭義のSFミステリはAとB、広義のSFミステリがCとDということになるだろう。つまりCとDはなんちゃってSFミステリであり、もどきである(作品の面白さとはもちろん別の話)。
まあ少し頭の中を整理するためにいったんタタキ台としてアップしたので、今後、SFミステリを読むにあたって、当記事は修正していく可能性もある。申し訳ないがそのつもりでお読みくだされ。
また、ある程度の数を読んだ段階で、分類に沿って作品リストもアップできれば。
A:ミステリ型SF………………ミステリ的興味(主に謎解き)を満たすために、
SF的設定を活用して、
ミステリ的ストーリーを描く
B:パズラー型SF………………ミステリ的興味(主に謎解き)を満たすために、
SF的設定を活用して、
ミステリのフォーマットにこだわらないストーリーを描く
C:SFミステリ風ミステリ……ミステリ的興味を満たすために
SF的要素を味付けに使い、
ミステリを描く
D:SFミステリ風SF……………SF的興味を満たすために、
ミステリ的要素を味付けに使い、
SFを描く
E:その他……………………上記に含まれない(と思われる)SFミステリ
※今回の記事を書くにあたっては、エドワード・D ・ホック『コンピュータ検察局』(ハヤカワ文庫)の巻末にある風見潤氏の解説「“SFミステリ”小論」、ミステリサイト
『黄金の羊毛亭』さん内の記事「SFミステリ作品リスト」を参考にしました。お礼申し上げます。