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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ミステリベストテン比較2023年度版

 各誌のミステリベストテンが出揃ったので、例年のように結果をまとめてみた。『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」(以下「ミスマガ」)、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」(以下「文春」)、宝島社の『このミステリがすごい!』(以下「このミス」)の三誌の平均順位によるランキングである。基本ルールはこんなところである。

・各ランキング20位までを対象に平均順位を出したもの
・管理人の好みで海外部門のみ実施
・原書房の『本格ミステリ・ベスト10』はジャンルが本格のみなので対象外としている
・いち媒体のみのランクインはブレが大きくなるため除き、参考として記載した

2023年度ランキング比較

 今年は『われら闇より天を見る』によってようやくホロヴィッツの快進撃がストップしたものの、それでも二位は確保しているのに驚いた。先日の記事でも書いたが、ホロヴィッツの作品は別に嫌いではないし、むしろ面白く読んでいるが、過去の作品よりはだいぶ落ちる。しかも今年の海外ミステリはなかなか豊作でレベルも高い。『殺しへのライン』を超える作品は少なくないはずなのに、蓋を開ければこの結果である。確かに満遍なく人気を集めそうな作品だが、何より知名度が高いところで有利なのだろう。いい作品でも知名度がなくては多くの投票者に読んでもらえないだろうし、それでは最初から勝負にならんよなあ。
 まあ、ホロヴィッツにかぎらず、シリーズものや人気作家は初めから有利だし、それは昔からあることなんだが、近年はそれが鮮明になったということか。
 改善策はある。投票者が対象作品すべてを読んで投票すればいいだけなのだが、それはさすがに難しいだろう。であればノミネート作品を一次投票で二十作程度に絞り、決選投票する審査員はノミネート全作を読んでもらって投票というのが望ましい。確か翻訳ミステリー大賞がこれに近い形ではなかっただろうか。当然ながら手間は増えるが、それでも他所様の出版物で稼がせてもらっているのだから、それぐらいの貢献はしてもバチは当たらないと思うけど。

 さて、それ以外のところでは、まあまあ順当な作品が並んでいる感じだ。特に『ポピーのためにできること』、『名探偵と海の悪魔』は他の作品にない高いオリジナリティがあり、どちらも芯はパズラーという点が面白い。正直、どちらかが一位でもまったくおかしくないハイレベルの作品だろう。
 この二作にかぎらず全体的に謎解きもの、英国ものが強くなっている印象もある。特に『ロンドン・アイの謎』がベストテン入りしたのは大健闘だろう。良い作品ではあるが正直ベストテン入りは厳しいだろうと思っていたのだが、独特の明るさをもったキャラクターや世界観が好まれた感じである。著者が亡くなっているのがなんとも残念なことだ。

 順位は落ちるが新潮文庫のプチクラシックともいうべき『気狂いピエロ』、『ギャンブラーが多すぎる』、『スクイズ・プレー』の三作ランクインも素晴らしい。これらはすべて新潮文庫「海外名作発掘 HIDDEN MASTERPIECES」の一冊。これで新潮社がますますやる気になってくれるのを祈るばかりである。

 上位はかなり似ているが、下位はややばらつきが見られる。ただ『黒き荒野の果て』は確かに「このミス」向きだなとは思うのだが、先ほどの『ロンドン・アイの謎』をはじめ、『彼は彼女の顔が見えない』、『アリスが語らないことは』はなぜ三誌すべてにランクインできなかったのか理由が掴めない。時期的な問題ではないと思うのだが。

 個人的にちょっとちょっとショックだったのは、『異常(アノマリー)』と『捜索者』の低さ。前者については間違いなくトップ争いに加わる作品だと思っていたし、後者は個人的には『われら闇より天を見る』と甲乙つけ難いと思っていただけに残念でしかない。思うに『異常(アノマリー)』は単にミステリと判断されなかったのが大きいのかもしれない。『捜索者』もミステリ要素の弱さ、あと発行時期がやや影響したことと、同傾向の『われら闇より天を見る』に食われてしまった可能性はあるか。

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 ちなみに管理人は今年のベストテンが発表される前に、Twitterでベストテン予想をしており、それがこちら。
 ついでに三誌の結果を元に、ベストテンのランクインのみ当てたのは○、順位まで当てたものは◎で表記してみた。媒体の並びは上と同じ、「ミスマガ」「文春」「このミス」となっている。

われら闇より天を見る………◎◎◎
名探偵と海の悪魔……………○○○
ポピーのためにできること…○○◎
捜索者…………………………×××
優等生は探偵に向かない……○○◎
キュレーターの殺人…………○○×
殺しへのライン………………○○○
黒き荒野の果て………………××○
印………………………………×××
業火の市………………………×××

 そして一般的な人気を集めそうではないが、ランキング争いをかき回してくれそうなダークホースの十作(個人的裏ベストテン)もあげたのがこちら。

異常(アノマリー)…………×○×
気狂いピエロ…………………×××
その昔、N市では……………×××
窓辺の愛書家…………………×○×
地獄の門………………………×××
レヴィンソン&リンク劇場 突然の奈落…×××
狼たちの宴……………………×××
レオ・ブルース短編全集……×××
光を灯す男たち………………×××
デイヴィッドスン事件………×××

 ベスト20まで広げるともう少し的中率も上がるが、まあ、こんなものか。『印』や『業火の市』などは常連作家なのでランクインすると思ったのだがカスリもせず。裏ベストテンに至ってはほとんど入ってこない。一応書いておくと、どれも光るものがある良作ばかりであり、ランクイン作品にも全然負けていない。スルーはもったいないので、皆様もぜひお試しを。

 ということで今年はベストテンでいろいろ遊ばせてもらいました。大晦日には『探偵小説三昧』恒例の「極私的ベストテン」も発表しますので、そちらも何卒よろしく。

年末ミステリベストテンを予想してみる

 ワールドカップが始まったこともあって、あちらこちらで順位予想が盛んである。そういえば管理人もTwitterで年末のミステリベストテンの予想を立ててみたので、こちらでも残しておこう。「このミス」とか「文春」とか別々で予想しようとも思ったが、あまりに面倒なので以下の一本で。

1位 クリス・ウィタカー『われら闇より天を見る』
2位 スチュアート・タートン『名探偵と海の悪魔』
4位 タナ・フレンチ『捜索者』
4位 ジャニス・ハレット『ポピーのためにできること』
5位 ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』
6位 M ・W・ クレイヴン『キュレーターの殺人』
7位 アンソニー・ホロヴィッツ『殺しへのライン』
8位 S・A・コスビー『黒き荒野の果て』
9位 アーナルデュル・インドリダソン『印』
10位 ドン ウィンズロウ『業火の市』

 念の為に書いておくと、これはあくまで年末に各誌で行われるミステリベストテンの予想であって、自分の評価で選んだベストテンではない。過去作品の評価や人気、ネットでの評判から、この辺が選ばれるのだろうなという、ただの遊びで選んだ結果だ。自分の評価で選んだベストテンは、大晦日に「極私的ベストテン」として発表いたしまする。

 さて少しだけ補足しておくと、ホロヴィッツはさすがに今回はベストテンクラスの作品とは思えないのだが、それでも絶体的ファンは投票するだろうし、このぐらいには滑り込みそうな気がする。ホリー・ジャクソンもインパクトは昨年より弱いが、質を考えるとこのぐらいはキープしそう。インドリダソンやクレイヴン、ウィンズロウもそうだが、常連作家やシリーズものは作品の出来以上に人気で投票する人も多そうで、安定して強いんだよね。
 ただ、シリアス路線、感動系のノンシリーズはこのところ爆発力がある。そういう意味でウィタカーとタナ・フレンチは上位間違いなしと思うのだが、もしかするとこの二冊は票が割れそうで、となると後発のウィタカーの方が有利かもしれない。個人的には圧倒的に『捜索者』の方が好きなんだけれど。
 そしてこれに迫る、あるいは凌駕しそうなのが『名探偵と海の悪魔』と『ポピーのためにできること』。エンタメかつ本格として今年の二大収穫だろう。ただ、『ポピー〜』はネットでの様子を見ているかぎり今ひとつ知られていない気がして、下手をするとまさかのランク外の可能性もありそう。こちらも個人的お気に入りなので杞憂に終わると良いのだけれど。

 と、グダグダ書いてはみたが、実はこんなベストテンは当たり前すぎるので、番狂わせを起こしてくれそうな十作も挙げておこう(これもTwitterにアップしたもの)。正直、総合力では弱いかもしれないが、強力なウリを持った作品ばかりだ。なんなら裏ベストテンと言ってもいい。

エルヴェ・ル・テリエ『異常 アノマリー』
ライオネル・ホワイト『気狂いピエロ』
マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『その昔、N市では』
エリー・グリフィス『窓辺の愛書家』
モーリス・ルヴェル『地獄の門』
リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク『レヴィンソン&リンク劇場 突然の奈落』
アレックス・ベール『狼たちの宴』
レオ・ブルース『レオ・ブルース短編全集』
エマ・ストーネクス『光を灯す男たち』
ジョン・ロード『デイヴィッドスン事件』

 なかでも特に一位に推したいのが『異常 アノマリー』。純粋なミステリではないので、まったくランク外の可能性もあるけれど、こういう特殊な物語こそランクインしてほしいところ。
 まあ先にも書いたが、こちらの十作は一芸に秀いでてはいるが総合力でどうしても不利なんである。とはいえ、その他の作品も何作かはランクインしそうな気もするし、とりあえず「このミス」や「文春」、「ミステリマガジン」をただ読むのではなく、答え合わせする楽しみが増えたのは喜ばしい(笑)。パーフェクトは難しいだろうが七割ぐらいは当たるんじゃないかな。

読書&ブログ復活します

 久々にブログを更新する。それにしても引っ越しでここまで読書生活がストップするとは思わなかった。いや、一、二週間は何もできないだろうとは予想していたが、ほぼ一ヶ月もほとんど本を読まず、本を買わず、ブログは完全に休業状態である。前回の引っ越し(といっても二十年以上も前だが)でもここまでひどくはなかったし、社会人になったとき、冠婚葬祭、体調不良やメンタルの疲弊など、これまでも若干中断することはあったが、今回は異常である。
 それもこれも結局は長年の積み重ねで、いろいろな物が増えたこと、そしてさまざまなしがらみが増えたことに他ならない。物が増えたのは自分の本もあるけれど、家族の持ち物も同様。そのために新居にかける手間ひまがとてつもなく増えてしまった。まあ、理想と現実の調整も大事なのだが、今回がおそらく終の住処になるだろうから、かなり好き勝手な注文をしてしまい、引っ越し後もなかなか片付かない。
 特にこれまでレンタル倉庫に積んでいた本を一挙に自宅に置けるようにしようと考えたのが運の尽きである。自宅の本はもちろん引っ越し業者にお願いしたが、レンタル倉庫の分は無謀にも自分ですべてやろうと決断し、これが今も尾を引いている(つまり運搬作業がいつまで経っても終わらない)。それだけに集中すれば一週間もあればなんとかなるのだが、当然そんな好き勝手なことばかりやっているわけにもいかない。
 あと、今回バカにならないと感じたのが、移転に絡む手続きの多さ。二十年前の引っ越しのときはせいぜい役所や電気ガス水道、電話、車、郵便局、銀行、保険程度だったと思うのだが、今ではネットのおかげでさまざまなものに住所登録をしており、しかも皆ネット手続きだから簡単かと思いきや、けっこう作りがぞんざいなアプリとかが多くてなかなかスムーズに進まない。結局、電話で質問するハメになるのだが、こういうのが繋がらないのは昔のまんま。やっと繋がっても、明らかに自分とこのバグだろうにそれはプロバイダーに聞いてくれとか言ってくる始末。

 そんなこんなで体力も精神も削られ続けた一ヶ月だったが、ようやく山は越えた感じで、といっても全体の消化率は70%といったところだが。それでもこうしてブログも近況報告ぐらいなら書く時間も出てきたので、読書もそろそろ本格的に復活させるつもりだ。
 というわけで明日はとりあえず話題になっている『シン・ウルトラマン』を観てきます。

近況報告

 あまり身辺雑記は日記に書いてこなかったが、備忘録として書いておこう。

 実は二十年以上住んでいた一軒家から引っ越すことになった。老後のことを考え、マンションに住み替えることにしたのである。昨年に四半世紀ほど役員を務めていた会社を離れ、三十年ぶりぐらいにフリーに転身したこともあって時間の融通がかなり利くようになり、この一、二年、ずっと物件探しから工事に至る諸々を進めていたわけである。
 そしてようやく工事も終わりに近づき、今月、引っ越しとあいなった。ただ、読者家にとって辛いのが山のような本である。これまではレンタル倉庫まで借りていたが、これを機にできるかぎり不要な本は処分し、すべて自宅に本を収容できるようにしたはずだが、あくまで机上の計算なので、もしかして本が入らない可能性もないではない。しかし、手持ちの本をすべて把握し、整理する最大のチャンスでもある。早めに荷造りを始め、いまはダンボール箱に本を詰める毎日である。もう手がガッサガサ。

 ちなみにこれまでは中央線の住人でしたが、京王線の住人に変わります。

皆進社の《仮面・男爵・博士》叢書がスタート

 もう十年近く前になるけれど、皆進社というところから『狩久全集』が限定三百部で出版されたことがあった。価格が価格だったのでちょっと悩んだが、この機会を逃すと二度と手に入らないのではと思い、エイヤっとばかりに購入したのだが、その皆進社がオンラインショップを立ち上げ、新たな叢書をスタートするというメールをいただいた。
 で、その叢書というのが《仮面・男爵・博士》叢書というネーミングで、詳しいことは不明だが、同サイトによると「怪しい犯罪貴族が跋扈する、通俗探偵小説の世界にようこそ」とある。なんとも怪しくていい感じである。第一弾は水谷準の『薔薇仮面』ということで、即注文したことは言うまでもない。

 それにしても出版社ばかりでなく同人でクラシックミステリがどんどん発売・復刻される中、また新たなレーベルがスタートするわけで、ありがたいはありがたいのだが、買う方も無限に小遣いを使えるわけではなく、そこは辛いところだ(苦笑)。飽和状態とはいわないが購入者の中心であろうマニア諸氏も取捨選択せざるを得ないだろうし、作り手の方々も品質や価格その他諸々で頑張っていただきたいものである。

 ちなみに『狩久全集』はまだ在庫があるようで絶賛販売中である。興味ある方は今のうちですよ。

ミステリベストテン比較2022年度版

 『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」(以下「ミスマガ」)、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」(以下、「文春」)、宝島社の『このミステリがすごい!』(以下、「このミス」)が出揃ったので、今年も三つの平均順位を出してみた。基本ルールはこんなところである。

・各ランキング20位までを対象に平均順位を出したもの
・管理人の好みで海外部門のみ実施
・原書房の『本格ミステリ・ベスト10』はジャンルが本格のみなので対象外としている
・いち媒体のみのランクインはブレが大きくなるため除き、参考として記載した

2022年度ランキング比較

 今年は三年振りに三冠独占はならなかったものの、それでもホロヴィッツの『ヨルガオ殺人事件』は強かった。もちろん面白い作品だし、個人的にも昨年の『その裁きは死』よりも良い作品だとは思うのだが、やはり同じ作家の同傾向の作品が四年も続くのはなあ、という気持ちになってしまうのだ。
 他の作品がだらしないというのなら仕方ないけれど、今年も昨年同様、ライバルとなりうり作品がけっこう多かっただけにちょっと予想外だった。凝った仕掛けではあるが、万人に受け入れられやすいサプライズと親しみやすさ、それが多くの投票者からまんべんなく得票を集めているのだろう。

 昨年も少し書いたのだが、ホロヴィッツの作品がそもそも特殊であり、それでいて高い娯楽性を備えているため、単なる超B級作品あたりでは難しいかもしれない。この牙城を崩すとしたら強烈な知的興奮かつヒューマンドラマによる感動を与えてくれる大作が必要かもしれない。例えば『薔薇の名前』のような。
 今年でいえば、まあ自分の読んだ範囲ではあるが、『父を撃った12の銃弾』『悪童たち』『第八の探偵』『狼たちの城』あたりが勝てる可能性を持った作品だと思っていたが(自分の評価や好みではなく、あくまでランキング予想として)、それらを差し置いてトップの一角に食い込んだのが『自由研究には向かない殺人』というのは意外だった。これ、自分も大好きな作品で個人的にもこちらを上位に推したい作品だが、ミステリ部分の弱さがあるので、ランキング争いでは不利かなと予想していたのだ。
 ちなみに『自由研究には向かない殺人』もボリュームは相当ながら、それを気にさせないキャラクターと語り口があり、それが万人に受けた印象がある。もしかすると、ミステリの世界も世の中の流れにのって、傷つきにくい優しい作品が求められているのかもしれない。

 あと、アジア圏の作品が増えてきたのをあらためて実感したランキングでもあった。アジア圏といってもほぼ華文ミステリだし、そもそも優れた作品しか紹介されていないはずなので、レベルが高いのは当然でもある。もちろん全体でみればまだまだだろうが、既成のミステリにないアイデアを備えた作品が多いのが魅力であり、トップクラスの作品は間違いなく欧米に比べても遜色がない。この波がアジア全体に広がると、また違った魅力がミステリに加わるような気がする。

 ところでランキングの上位はいつも似たようなものだが、下位はけっこうランキングによって特徴が出る……と思っていたら、今年は下位も案外似ていて笑ってしまう。
 以前だと警察小説や犯罪小説が有利な「このミス」、話題作や大御所、受賞作品が有利な「文春」、中道の「ミスマガ」みたいなイメージで(まったくの個人的な印象です)、ベストテン作品を見ただけでどのランキングか当てる自信があったけれど、今年のはおそらく無理。
 ただ、そうなると本当に複数のランキングが必要なくなるので、雑誌の特集でやっている「文春」や「ミスマガ」はともかく、「このミス」は真剣に考えるときではないのかな。

『Re-Clam vol.7』、『Re-Clam eX vol.3』&『ミステリマガジン750号』

 クラシックミステリの同人誌『Re-Clam vol.7』、その別冊の『Re-Clam eX vol.3』が先日到着。本日は『ミステリマガジン750号』を購入。
 『Re-Clam vol.7』は森英俊氏とジョゼフ・カミングスの特集、『Re-Clam eX vol.3』はクロフツの短篇特集、『ミステリマガジン750号』は年末恒例「ミステリが読みたい!2022年版」である。

 

 『Re-Clam vol.7』は相変わらず企画が面白い。ジョゼフ・カミングズの作家特集などはまあ普通だが(いや、商業誌では決して特集できるような作家ではないから、全然普通じゃないんだけど)、森英俊特集というのがやはり驚く。
 森氏といえば、もちろん海外のクラシックミステリに関する紹介や翻訳などでその名は知られているし、その貢献度は素晴らしいと思うが、基本的には裏方、しかもまだまだ現役でやっている方だ。だから作家であればともかく、評論家や翻訳者あたりだとよほど高名な人でないかぎり特集されることはない。しかも最近は専門的であっても作家特集が組まれるのは亡くなったときぐらい。
 そういった現状を踏まえたかどうかはともかく(笑)、今回の企画はかなり攻めていて面白い。まあ、『Re-Clam』はこれまでもシャーロック・ホームズのライヴァルだったり論創海外ミステリを特集するなど、メジャーどころが決してできない企画ばかり組んで楽しいかぎり。マニア相手の同人誌だから、そりゃあハードルが高いところもあるけれど、たとえ初心者であってもミステリ好きが読めばちゃんと面白いのである。なあに、多少わからないところがあってもネットで調べればいいし、それでもわからなければすっ飛ばして読めばよいいのだ。
 ともあれ連載記事も含めて、非常に楽しくタメになる雑誌である。なお『Re-Clam eX vol.3』は短篇集なので、感想は別の機会に。

 さて、一方の『ミステリマガジン』。ミステリ出版業界ではやはりメジャー的存在だが、その特集がマンネリすぎて本当に悲しい。
 750号の特集は年末恒例「ミステリが読みたい!2022年版」。さすがにこればかりは企画云々を言ってもかわいそうだが、それにしてもベストテンに関しては後発なので、もう少し内容を工夫すべきだろう。現状は、ほんと、結果と投票者のコメントだけだなので、いくらなんでもスカスカすぎる。
 ちなみに海外ランキングのベストテンでは、順位はともかくラインナップはほぼ予想どおり。でもいくつかは個人的に完全ノーマークだった作品もあって、なかでも『彼と彼女の衝撃の瞬間』は気になる一冊。
 なお、1位は読んだばかりのアレでびっくり。

明けましておめでとうございます

新年明けましておめでとうございます。
昨年は「探偵小説三昧」をご愛顧いただき、誠にありがとうございました。
本年も何卒宜しくお願いいたします。

 さて、今年一発目の更新ではあるが、読みおえた本もないので特に書くこともないのだが、Twitterで「#ことしもよろしくの頭文字でオススメの本のタイトル」というタグが流れてきたので、ちょっと自分でもやってみたのがこちら。

こ 殺し屋/ブロック
と 特別料理/エリン
し 死の扉/ブルース
も 木曜の男/チェスタトン
よ 夜の来訪者/プリーストリー
ろ ロゼアンア/ヴァールー
し 死体置き場で会おう/ロスマク
く クリスマスに少女は還る/オコンネル

 翻訳ミステリ縛りでやってみたが、「も」と「ろ」がそもそも作品数が少なく、ちょっと苦労した。反対に「し」は二つも入っているのにオススメが目白押しなので、まあ、とりあえずといったところ。

 ついでに今年の目標などという大したものではないが、一応、ロスマク読破計画とカー読み残し消化はやっておきたいところである。あと、クリスティ読破計画は今年とりあえずスタートさせてみたい。それと並行して論創海外ミステリと論創ミステリ叢書の遅れの消化、さらにこちらも遅れが出ている各種同人系も何とかリアルタイムで読めればなぁと思う次第。その冊数だけで絶対無理そうなんだが。

 読書以外でいうと、今年はけっこう大きな動きが公私共にある予定なので、それらが読書にもいい影響を与えてくれることを願っている。さっそく今日おみくじを引いたら「吉」だったので、なんだか現状維持的な匂いもするが、すでに心の中ではおみくじを引いていないことになっているので、まあ、なんとかなるでしょ。

『Re-Clam』 Vol.5

 ようやく『Re-Clam』のVol.5を読む。今号はロス・マクドナルド特集で、法月綸太郎氏、柿沼瑛子氏といったプロの作家や翻訳家の寄稿が楽しめる。同人誌であるにもかかわらずプロの執筆陣が参加していることはもちろん目を惹くけれども、個人的に気に入ったのは、「初心者のためのロスマクドナルド読書案内」。
 こちらでは、ロスマク入門一冊目として(内容だけでなく入手しやすさも考慮)、『象牙色の嘲笑』を挙げているのが、なかなかいい線をついていると思う。個人的にロスマク入門書をあげるなら『象牙色の嘲笑』にプラスして、『死体置場で会おう』と『ギャルトン事件』も推しておきたい。ただし、この二冊は入手難というだけでなく文庫にもなっていないのが困りもの。

 なお、次号は「ホームズのライヴァルたち」特集ということで、これまたナイス企画である。しかし、本来こういった企画は『ミステリマガジン』がやってほしいことなんだよなぁ。売れるものしか特集したくないのはわかるけれど、テレビドラマやアニメに頼ってばかりでは本当のミステリファンが離れるばかりではないか。別にマニア相手のクラシックミステリばかり特集しろと言っているわけではない。『ミステリマガジン』の本筋たる翻訳ミステリをもっと紹介してほしいだけなんだけどねえ。


ミステリベストテン比較2021年度版

 今年も各ミステリのランキングが出揃ったようなので、三誌の平均順位などを出してみた。なお、これも毎年、書いていることだが、管理人の好みで海外部門しかやっていないので念のため。
 以下、基本ルール。

・『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」(以下「ミスマガ」)、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」(以下、「文春」)、宝島社の『このミステリがすごい!』(以下、「このミス」)の各ランキング20位までを対象に平均順位を出し、それを元にしたランキングとする
・原書房の『本格ミステリ・ベスト10』はジャンルが本格のみなので対象外としている。
・いち媒体にしかランクインしていない作品はブレが大きくなるため除き、参考として記載した。

2021年度ランキング比較_2

 ランキング自体のあり方については、こちらの記事で書いたり、Twitterでも少し呟いたりしたせいか、そこそこガス抜きができてしまったので(笑)、本日は純粋に作品を見てみたい。
 といっても今年は例年以上に各ランキングが似通ってしまい、本当にやばいことになっている。ここまで似てくると発売日の遅いランキングは誰も見なくなるだろうし、「このミス」が投票期日の〆切を今年から変えるのは、おそらくそれが理由ではないかと邪推している(笑)。

 それにしてもアンソニー・ホロヴィッツは強い。これで三冠三連覇。正直、今年は作品の水準、対抗馬の強さを考えると、どう贔屓目に見ても無理だろうとは思っていたのだが。まあ、これは複数冊を投票できるシステムのせいが大きいとは思うけれど、いや、それにしても。
 ホロヴィッツの三連覇した作品は、どれもミステリのもっとも古典的かつ基本的なスタイルである本格だ。謎を解く楽しさをきちんと中心に据えところがまず魅力であり(しかもきちんと現代風にアレンジして)、加えてキャラクターの魅力、メタミステリーな全体の仕掛けをわかりやすく取り込んでいるところなどが評価される理由だろう。
 早い話、総合力が高い。作品全体に目配りが効いている。弱点が極めて少なく、それがまんべんなく票を集めたことにつながったと言える。

 これに対抗するには、いわゆる超二流、超B級では難しいのかもしれない。知的興奮と娯楽性、大人も楽しめるストーリーの奥行き、少なくともそれらは満たしていないと、なかなか牙城は崩せないと見る。
 ただ、当然ホロヴィッツも飽きられる可能性は十分にあるわけで、来年以降はさすがにこう簡単にはいかないだろう(実は今年も絶対、無理だと思っていたのに三冠だから嫌になる)。
 今年でいえば、管理人の予想では『指差す標識の事例』や『あの本は読まれているか』がくると思っていた。前者は翻訳者四人を擁した話題性、1000ページもあるボリューム、歴史ものという知的興味をくすぐるジャンル性など、対抗馬としては圧倒的な存在感だ。後者も歴史もので、かつテーマが秀逸、穴馬の可能性も十分だったはず。
 ところが蓋を開ければ両者ともザリガニにも抜かれる始末。まあ、どちらも肝心のミステリ的な部分が弱かったのがやはり響いたかなとは思うが、これで勝てないとなると来年はどうなることやら。

 あと、ホロヴィッツも強いが創元も強い。ホロヴィッツ以外に先ほどの『指差す〜』や『あの本は〜』をはじめ二十位内に六冊もランクインしている。一誌飲みのランクインでも二冊入っている。早川書房もランクインした数自体は匹敵しているが、上位に来る作品がやや弱い。それでも今年は『ザリガニの鳴くところ』で救われたが、むしろ『死亡通知書 暗黒者』が伸びきらなかったのが惜しい。というか、なんでハヤカワミステリなのに「ミステリが読みたい!」でランクインしなかったのか(笑)。
 版元でいうなら、地味な作品が多いせいか上位にはなかなか上がってこないけれど、この数年の集英社文庫と小学館文庫はいい作品を出し続けているイメージ。集英社はフランスミステリ、小学館は警察ものが多い印象だけれど、管理人もあまり読めてないので、来年の宿題か。

 宿題というほどでもないが、年末年始あたりで読んでみたいのは、まず『ザリガニの鳴くところ』。あとは『言語の七番目の機能』、『パリのアパルトメン』あたりか。ただ、昨年もそんなことを書いておいてまだ読んでないものもあるしなぁ。とりあえずハードカバーの新刊だけは早く読むことにしたい。文庫オチするとショックだし(笑)。
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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