『久山秀子探偵小説選III』を読む。
女スリ「隼お秀」を主人公にしたシリーズで知られる久山秀子だが、本書は未完の長篇少女探偵小説が一篇、あとは梅由兵衛捕物噺という構成。これがまたいろいろな事情に彩られてるのだが、詳しくは後にまわすとして、まずは収録作から。

「月光の曲」(未完)
梅由兵衛捕物噺・巻の一
「ぬすみぎき」
「遺品の文束」
「奥州なまり」
「おっかさん」
「怪盗の約束」
「ぬれつばめ」
梅由兵衛捕物噺・巻の二
「異説野崎村」
「与太郎の恋」
「河豚喰はぬ」
「盗人に追銭」
「怪談枇杷瀧」
梅由兵衛捕物噺・巻の三
「霜枯与太郎」
「けむり小僧」
「ほたる供養」
「茶番に一役」
「羽織の片袖」
「風流落語調」
「死出の股旅」
「箱根みやげ」
「妾宅の盗難」
「実説牡丹灯」
「月光の曲」は少女向けの雑誌に連載したものだが、途中で打ち切りとなり、未完に終わった作品。少女向けとはいえ内容は冒険ものスパイものという雰囲気が強く、これが意外に引き込まれる。複数の少年少女がそれぞれ波瀾万丈の事件に巻き込まれ、やがて一本の線に……という構成が効いていて、当時の子供向け探偵小説と比べても遜色ないレベル。ただ、ほんとに途中で終わっているので、実際のところは不明だが(笑)。
他はすべて梅由兵衛もの。料亭梅本に入り浸る材木問屋の主人、梅由兵衛と、その贔屓の芸者、梅吉のコンビで事件を解決する捕物帖である。
けっこうミステリっぽいときもあれば人情話で終わるときもあり。語り口とテンポがいいのでサクサク読めるものの、根っこは「隼お秀」と同じで、あまり力を入れて読むようなものではない。いわゆる「水戸黄門」的に、その作品世界やキャラクターを楽しむのが吉。
さて「論創ミステリ叢書」では、先に『久山秀子探偵小説選I』と『~II』が出ており、当初はこれでほぼ全集という触れ込みだった。ところが程なくして本日読んだ『~III』と『~IV』が刊行され、これはいったいどういうことだと思っていたら、要は未発表原稿が発見されたということだったようだ。しかも大量に。
この手のニュースでは創作メモなどが残っているだけでけっこう話題になったりするが、久山秀子の場合、下書きレベルはもちろん、ノートに綺麗にまとめたものが何冊もあったというから凄い。内容も梅由兵衛ものをはじめ、隼お秀ものやエッセイに至る。ということで『久山秀子探偵小説選』は最終的に全四巻と相成った。
ううむ、すごい話だ。それにしても、これが乱歩や正史とかだったら大変な騒ぎになったんだろうけれどね。