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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

久山秀子『久山秀子探偵小説選IV』(論創ミステリ叢書)

 先日読んだ『瀬下耽探偵小説選』が良かったせいか、沸々と国産クラシック熱が高まってきたため、勢いで論創ミステリ叢書の『久山秀子探偵小説選IV』を読了する。
 『〜I』と『〜II』で完結したはずの久山秀子全集だったが、その後、大量の遺稿が見つかったことで結局は全四巻となり、本書はその最終刊となる。

 久山秀子探偵小説選IV

「秀ッペ・フォックス・マーチ」
「清風荘の事件」
「梅由兵衛捕物噺」
「義賊与太郎」
「徳利の別れ」
「つきもの船」
「奉行泣かせ」
「提灯と釣鐘」
「女難の巧妙」
「初雪残足跡」
「若様やくざ」
「怪談涼み船」
「空巣ねらひ」
「秋の夜ぞら」
「咲いた桜に」
「金貸三枚目」
「一寸一風呂」
「渋団扇」
 「渋団扇一」
 「志ぶうちは二」
 「志ぶうちは三」
付録 「『スター失踪』のメモ」

 収録作は以上。
 巻頭の「秀ッペ・フォックス・マーチ」はこれまで発見できていなかった隼お秀もの。続く「清風荘の事件」も新たに見つかった雑誌掲載の少女向け探偵小説。「梅由兵衛捕物噺」は遺稿として残されていた、梅由兵衛を探偵役とする捕物帳的読み物。「渋団扇」は雑文集といった構成である。

 けっこうなボリュームなのだが、さすがに久山秀子は読みやすい。会話文どころか地の文までもがノリノリで、話自体もテンポがよいからサクッと読めてしまう。まあ逆にいうと、それほど読み込むような内容でもないということで、時代を差し引いても少々厳しいレベルである。まとめて読むとそれがさらに顕著。
 そんななか、「清風荘の事件」だけは少女向けながらネタはスパイもの。飛行船という魅力的なギミックでそれなりに読ませる。

 『〜I』を読んだときは珍しさもあってけっこう楽しんだのだが、ううむ、さすがに四冊目ともなると純粋な面白さだけで引っ張るのは無理があるなぁ。


久山秀子『久山秀子探偵小説選III』(論創ミステリ叢書)

 『久山秀子探偵小説選III』を読む。
 女スリ「隼お秀」を主人公にしたシリーズで知られる久山秀子だが、本書は未完の長篇少女探偵小説が一篇、あとは梅由兵衛捕物噺という構成。これがまたいろいろな事情に彩られてるのだが、詳しくは後にまわすとして、まずは収録作から。

 久山秀子探偵小説選III

「月光の曲」(未完)
梅由兵衛捕物噺・巻の一
  「ぬすみぎき」
  「遺品の文束」
  「奥州なまり」
  「おっかさん」
  「怪盗の約束」
  「ぬれつばめ」
梅由兵衛捕物噺・巻の二
  「異説野崎村」
  「与太郎の恋」
  「河豚喰はぬ」
  「盗人に追銭」
  「怪談枇杷瀧」
梅由兵衛捕物噺・巻の三
  「霜枯与太郎」
  「けむり小僧」
  「ほたる供養」
  「茶番に一役」
  「羽織の片袖」
  「風流落語調」
  「死出の股旅」
  「箱根みやげ」
  「妾宅の盗難」
  「実説牡丹灯」

 「月光の曲」は少女向けの雑誌に連載したものだが、途中で打ち切りとなり、未完に終わった作品。少女向けとはいえ内容は冒険ものスパイものという雰囲気が強く、これが意外に引き込まれる。複数の少年少女がそれぞれ波瀾万丈の事件に巻き込まれ、やがて一本の線に……という構成が効いていて、当時の子供向け探偵小説と比べても遜色ないレベル。ただ、ほんとに途中で終わっているので、実際のところは不明だが(笑)。

 他はすべて梅由兵衛もの。料亭梅本に入り浸る材木問屋の主人、梅由兵衛と、その贔屓の芸者、梅吉のコンビで事件を解決する捕物帖である。
 けっこうミステリっぽいときもあれば人情話で終わるときもあり。語り口とテンポがいいのでサクサク読めるものの、根っこは「隼お秀」と同じで、あまり力を入れて読むようなものではない。いわゆる「水戸黄門」的に、その作品世界やキャラクターを楽しむのが吉。

 さて「論創ミステリ叢書」では、先に『久山秀子探偵小説選I』と『~II』が出ており、当初はこれでほぼ全集という触れ込みだった。ところが程なくして本日読んだ『~III』と『~IV』が刊行され、これはいったいどういうことだと思っていたら、要は未発表原稿が発見されたということだったようだ。しかも大量に。
 この手のニュースでは創作メモなどが残っているだけでけっこう話題になったりするが、久山秀子の場合、下書きレベルはもちろん、ノートに綺麗にまとめたものが何冊もあったというから凄い。内容も梅由兵衛ものをはじめ、隼お秀ものやエッセイに至る。ということで『久山秀子探偵小説選』は最終的に全四巻と相成った。
 ううむ、すごい話だ。それにしても、これが乱歩や正史とかだったら大変な騒ぎになったんだろうけれどね。


久山秀子『久山秀子探偵小説選II』(論創ミステリ叢書)

 仕事がプチ修羅場。まあ、これぐらいは大したことではないが、デスクワークが多くて腰にきてしまった。背筋や膝もかなり不調。おそらくは座っているときの姿勢のせいなのだが、少し考えないとなぁ。

 『久山秀子探偵小説選II』を読む。女スリ「隼お秀」のシリーズで知られる久山秀子だが、『久山秀子探偵小説選I』と合わせれば、すべての「隼お秀」を読めるばかりか、ほぼ全集としての体裁になるのだという。
 で、こちらの収録作だが以下のとおり。最初の五編が「隼お秀」もので、「盗まれた首飾」「当世内助読本」「或る成功者の告白」の三編はノン・シリーズ。以下は捕物帖、エッセイという構成。

◆創作編
「女優の失踪」
「ボーナス狂譟曲」
「当世やくざ渡世」
「白旗重三郎が凄がった話」
「隼銃後の巻」
「盗まれた首飾」
「当世内助読本」
「或る成功者の告白」
「梅由兵衛捕物噺/ゆきうさぎ」
「梅由兵衛捕物噺/恩讎畜生道」
「梅由兵衛捕物噺/由兵衛黒星」
「梅由兵衛捕物噺/恐妻家御中」
「梅由兵衛捕物噺/心中片割月」
「梅由兵衛捕物噺/新版鸚鵡石」
「梅由兵衛捕物噺/相馬の檜山」

◆随筆編
「愚談」「丹那盆地の断層」「探偵作家と殺人」
「処女作の思ひ出」「当世百戦術」「マイクロフォン」「アンケート」

 「隼お秀」とノン・シリーズの全体的な印象は相変わらず。語り口の軽味を生かした小咄的なものがほとんどで、一作一作をあまりどうこういうものではないように思う。『久山秀子探偵小説選I』で初めてまとめ読みしたときにはまだそれなりに新鮮だったが、やはり飽きやすい作風であることは間違いない。この独自の作風、世界観は評価できるものの、当時、どの程度の人気を集めたのか、どの程度評価されていたのか、なかなか気になるところではある。
 「梅由兵衛捕物噺」は、著者が正体も明かして戦後に発表した捕物帖。作品によって人情物と謎解きものの振れ幅があるが、期待を裏切るほどではない。というか、キャラクターの面白さを除けば「隼お秀」より上かも。こういうものが書けたのなら、「隼お秀」ももう少ししっかり書き込めばよかったのに。惜しいなぁ。

 なお、この『久山秀子探偵小説選』だが、本書の解説を読むかぎりでは二冊でほぼ全集ということだったのに、現時点で実は四冊まで刊行されている。未収録作品がまだまだ残っていた、ということなのかな?


久山秀子『久山秀子探偵小説選I』(論創ミステリ叢書)

 イベントとしてのクリスマスに目くじらたてる人は、少しかわいそうな気もする。大事な稼ぎ時の人もいるんだし、もう少し楽しんではどうか。

 論創ミステリ叢書から『久山秀子探偵小説選I』を読む。戦前に活躍した作家、久山秀子の、女スリ<隼お秀>シリーズを中心にまとめた短編集である。
 ジョンストン・マッカレーの『地下鉄サム』から影響を受けて書かれたシリーズとはよく言われることだが、確かに主人公の設定や軽妙な会話、軽くひねったオチなど、共通する特徴は多い。お話自体も謎やストーリーで引っ張るというより、あくまでキャラクターで読ませるタイプだ。また、作者は相当にサービス精神というか遊び心に溢れているようで、作品ごとに毎回いろいろな趣向を披露しているのが楽しい(例えば他の探偵作家のパロディなど)。結果としてシリーズ全体の印象はなかなかよく、読みやすさもあって意外に楽しめたというのが正直なところだ。
 ただ、作品単品でみるとそれほど大したものはない。あくまでキャラクターの活躍や文化風俗を楽しむための軽い読み物であろう。
 ちなみに久山秀子というのは女性名ではあるがれっきとした男性。シリーズ探偵が女性ということもあるし、遊び心とメディア向けの戦略、両方の意味合いがあったのだろう。
 なお、収録作は以下のとおり。

「浜のお政」
「娘を守る八人の婿」
「代表作家選集?」
「隼お手伝ひ」
「川柳 殺さぬ人殺し」
「戯曲 隼登場」
「隼の公開状」
「四遊亭幽朝」
「隼の勝利」
「どうもいいお天気ねえ」
「刑事ふんづかまる」
「隼の薮入り」
「隼の解決」
「隼のお正月」
「隼のプレゼント」
「隼探偵ゴッコ」
「隼の万引見学」
「隼いたちごつこの巻」


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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