本日も昨日に続いてだらだら過ごす。
読了本は今更ながらの『博士の愛した数式』。自慢じゃないが小川洋子は独特の暗さと重さが好きで、デビューから5年ぐらいまでは熱心に読んでいた作家だ。ただここ2、3年はご無沙汰、それどころか『博士の愛した数式』についてはあまりにブレイクしすぎて、なかなか読む気になれなかった一冊である。まあ、よくありますな、そういうこと。
で、映画化もされた今頃になってようやく読んだわけだが、不遜を承知で書くと、小川洋子がいつのまにか完成度の高い小説を書くようになってきたことへの驚きである。いや、これまでのレベルが低いというわけではない。何というか私が覚えている小川洋子のイメージは、冷たささえ漂う美しき情念なのだ。作品の出来にかかわらず、良い意味でも悪い意味でもそんな小川洋子ワールドというものが強く感じられた。
それがこの計算され尽くした『博士の愛した数式』はどうだ。本書のポイントは三つ。80分で記憶を失うことの悲しさとおかしさ。親子の絆。そして数学の不思議さと楽しさ。この三つを絶妙のバランスに保ちつつ、誰もが予想できるエンディングをもってきて、読む者を素直に感動させる。初期の小川洋子らしさをあまり感じられないのは物足りないが、よく言うと読者が見えているというか。そういう意味では十分、傑作に値する作品といえるだろう。ただ、ここまできれいにまとまった作品というのは、小川洋子に合っているのだろうか。ここ最近の作品は読んでいないので何ともいえないが、全部こんな感じなのだろうか。もしそうなら少し残念な気もするが、まあ、それは読者のわがままか。
なお、数学の神秘さ・面白さに触れたい人は、本書の参考文献にも挙げられていた晶文社の『数の悪魔』がお勧め。本書の元ネタもたっぷり詰まった傑作です。