フレドリック・ブラウンの『アンブローズ蒐集家』を読む。全部で七作ある〈エド・アンド・アム・ハンター〉シリーズの第四作で、他の六作はすべて創元推理文庫から出ており、なぜかこれまで邦訳されていなかった最後の作品である。
こんな話。スターロック探偵社に探偵として勤めながら、二人で暮らしているアム(アンブローズ)・ハンターとその甥のエド・ハンター。ある日、依頼人との面談に出かけたアムが消息を絶ち、社長のスターロックは全社をあげて行方を追うが、手がかりはなかなか見つからない。
そんななか、行きつけのレストランで働く友人のウェイトレス、エステルが話した「もしかしたらアンブローズ・コレクターにコレクションされちゃったのかも」という言葉をヒントに、エドは調査を進めるが……。

恥ずかしながら〈エド・アンド・アム・ハンター〉シリーズは初めて読むのだが、他のブラウンのミステリとそこまで大きな違いはない。ワンアイデアを適度なサスペンスとユーモアで包んだライトな味わい、というのがブラウンミステリの印象だが、本作も軽ハードボイルドというスタイルをとっていることもあって、ベースは似たような感じである。
ただ、語り手がエド、つまり探偵としてはまだ発展途上の若者ということもあり、青春小説的な雰囲気が強いところが本作ならではの特徴、というよりは本シリーズの特徴というべきか。エドがアムの調査をなぞっていくところ、ガールフレンドとの恋の行方など、そういった要素が随所に効いていて、非常に心地よい気持ちにさせてくれる。
肝心のミステリとしての部分は、悪くはないけれども、過剰な期待は禁物だろう。そもそもアンブローズ・コレクターというキーワードが効きすぎている(苦笑)。
アンブローズとはもちろん『悪魔の辞典』などを書いた、あのアンブローズ・ビアスのこと。彼は生涯の最後を失踪で終えているのだが、実はその六年後、やはりアンブローズという名の人物が失踪したことで、何者かがアンブローズという名の人をコレクションしているのでは?という説が導入で示される。
こんな魅力的なネタをのっけからぶちこんでくれたら、そりゃ期待せずにはいられないのだが、その後は結局、賭博詐欺に絡んだりして、なんだやっぱり典型的な軽ハードボイルドじゃんというストーリー。
とはいえ失望するようなレベルではないし、先に書いたように持ち味はむしろエドのキャラクターにあり、口当たりもよしということで、ブラウンのファンなら買って損はないだろう。