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 論創海外ミステリでぼちぼち翻訳が続けられているエドガー・ウォーレスの諸作品。二十世紀前半に活躍したエンタメ系ベストセラー作家なので、さすがにその内容が陳腐化していると思いきや、これがいま読んでもけっこうな面白さで、実は密かに新刊を楽しみにしている作家である。
 本日の読了本はそのエドガー・ウォーレスの短編集、『J・G・リーダー氏の心』。あの〈クイーンの定員〉にも採られている短編集である。まずは収録作。

The Poetical Policeman「詩的な警官」
The Treasure Hunt「宝さがし」
The Troupe「一味」
The Stealer of Marble「大理石泥棒」
Sheer Melodrama「究極のメロドラマ」
The Green Mamba「緑の毒ヘビ」
The Strange Case「珍しいケース」
The Investors「投資家たち」

 J・G・リーダー氏の心

 おおー、ウォーレスはやはり面白い。傑作とか歴史に残る名作とかいうのとは違うけれども、本作も十分に楽しめる一冊だ。

 主人公の探偵役はJ・G・リーダー氏。山高帽に鼻眼鏡、髭面に黒いフロックコートという地味な見た目、おまけに話をしても遠慮がちで控えめの、なんとも冴えないアラフィフ独身男だ。
 ところが実はロンドンの公訴局長官事務所に勤務する凄腕捜査官。犯罪者たちがその凡庸な外見に騙され油断しているところを、リーダー氏は得意の読心術によって真相を見抜き、ロンドンの平和を守っているというわけである。

 まあ、これは設定の勝利だろう。風采のあがらない男が実はキレッキレの頭脳を披露するというギャップの爽快感。いってみれば「刑事コロンボ」みたいなキャラクターである。いや、頭だけではなく度胸もあるし、いざとなれば暴力沙汰も厭わないところなどはコロンボ以上か。そんなリーダー氏が犯罪者をいかにしてやっつけるかが見どころであり、これは人気が出ない方がおかしい。

 コロンボといえば、もうひとつ共通点がある。リーダー氏は読心術によって、つまり犯罪者の気持ちや考えを理解することで事件の真相に辿りつくわけだが、注目したいのは読心術よりもむしろ捜査における“気づき”の部分。例えば「こんな寒い時期に川縁に家を借りるのはおかしい」とか、「花でいっぱいの花壇の中で、一本だけバラが枯れているのはなぜ?」とか、そういう気づきから推理を展開していくところもまたコロンボ的なのである。

 まあ、謎解きという観点ではユルいところもあって、むしろ冒険小説的な性格が強いところもあるのだが、だからこそ作品ごとのムラも少なく楽しく読めるのかもしれない。マンネリを防ぐためか、アクセントとしてうら若き女性とのロマンスもあったりして、その展開も含めてシリーズの行方が気になるところだ。
 長編、短篇どちらもまだ残っているので、このレベルならもう少し紹介を続けてもよいのでは。>論創社さん



 エドガー・ウォーレスの『真紅の輪』を読む。
 著者のウォーレスは二十世紀初頭にスリラーで絶大なる人気を誇った作家で、あの『キングコング』の生みの親でもある。多作家としても知られ、その著作は長篇だけでも百五十作以上に及び、その他にも短編やシナリオ、エッセイなど多数にのぼる。
 日本でも昭和初期にはけっこう訳されていたようだが、内容が通俗的で時代がかっているせいか戦後は紹介が途絶え、二十一世紀になってようやく長崎出版や論創社で新訳が出るようになったのは、まだ記憶に新しいところだ。

 さて『真紅の輪』だが、まずはストーリー。
 連続殺人でロンドンを恐怖に陥れている“クリムゾン・サークル”。大金持ちに脅迫状を送っては、多額の金銭を要求してくる謎の犯罪集団である。さもなくば命はない、と。
 それに立ち向かうのが警視庁のパー警部、そして超能力で調査を行う私立探偵イエール。二人は協力して富豪ジェイムズ・ビアードモアを警護しようとするが、クリムゾン・サークルの手によって遂にジェイムズは殺害される。
 そして事件の影で暗躍する謎の女タリア。ジェイムズの息子ジャックは周囲の反対も聞かずタリアに惹かれていくが……。

 真紅の輪

 まあ、何ともぶっとんだ設定である。とりわけ探偵イエールがすごくて、彼は現場に残された物から心象風景を読みとるという、いわゆるサイコメトリーの持ち主。
 一方のパー警部は一見、鈍重そうながら、実は粘り強さが身上の切れ者。この相反するやり方の二人が協力して捜査を進めるのがなかなか見ものである。ここまでタイプが違うとハードボイルドあたりでは絶対に敵対関係になるはずだが、それをやらないところが時代ゆえか著者の上手いところなのか。悪党側が混沌としているだけに、捜査側が一枚岩になっているのはストレスがなくてよろしい。

 また、探偵だけでなく“クリムゾン・サークル”の設定も捨てがたい。
 けっこうな規模の犯罪組織なのだが、そのボスは誰も見たことがなく、また、組織のメンバーもすべては秘密に包まれている。
 時代がかった部分ではあるが、もちろんサスペンスを高める効果は高く、特にボスの正体はわかりそうでわかりにくく、伏線やミスリードも適度に散りばめられていてミステリとしてもきちんと機能している。
 ミステリ的な興味でいうと密室殺人も危ういトリックではあるが着想としては面白い。

 これらに加えて、謎の女泥棒タリアの存在も忘れてはならない。峰不二子的な存在として(苦笑)パー警部や探偵イエールとも対立し、他の犯罪者とも丁々発止。“クリムゾン・サークル”ともどうやら関係をもちそうな、この魅力的な悪女。
 さらには、タニアに恋い焦がれ、何度も断られながらも「あなたはそんな悪人じゃない」と言い続ける純情青年のジャック。この二人のロマンスの行方も要注目。決して味付けで終わらせない著者の腕前が見事だ。

 とにかく予想以上の面白さである。ぶっ飛んだ設定なのだが、テイストはあくまで通俗スリラー。思わず先を読みたくなる興味のつなげ方、テンポのよさ、そして読みやすさが合わさって、とても1922年の作品とは思えない。
 これまで訳された『正義の四人/ロンドン大包囲網』や『淑女怪盗ジェーンの冒険』も予想以上だったが、やはり書かれた時代というところがあった。しかし、本作はそういった但し書き抜きにしても十分楽しめる。
 サイト「翻訳ミステリー大賞シンジケート」の記事で、「乱歩の通俗物長編によく似ている。」という評があったのだが、そう、まさにそのとおり。乱歩の通俗長編がもついかがわしい魅力が本作にも満載なのだ。発表当時は評論家に酷評されたウォーレスだが、一般大衆の好みはバカにはできないのである。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 エドガー・ウォーレスの『淑女怪盗ジェーンの冒険』を読む。
 二十世紀初頭の大ベストセラー作家エドガー・ウォーレスだが、まあ売れっ子の宿命というか、当時の批評家からはケチョンケチョン(死語)にけなされていたようだ。だがウォーレスの目指していたものは芸術ではなく、大衆のリクエストに最大限に応えることである。したがってテーマの深遠さや複雑な人物造形がないことをいちいちあげつらっても仕方ない。見るべきところはネタの幅広さやストーリーの面白さ。さらに言うなら読者が興味を持てるかどうかだ。 
 実際、近年に邦訳された『正義の四人/ロンドン大包囲網』などもアイディアやストーリーはそれほど悪いものではなかった。
 本作では女怪盗を主人公にした物語ということで、そういう意味ではけっこう期待できそうな感じもないではないが、果たして?

 ロンドンにすむ富豪たちの間で噂の女怪盗がいた。その名もフォー・スクエア・ジェーン。盗みをはたらいた証に、”J”と記された四角いカードを現場に残していくのがその由来だ。盗んだ金は病院などに寄付しており義賊だという見方もあるが、その正体はまったく謎に包まれていた。
 そんなある日、資産家ルインスタインの屋敷で豪華なパーティが催されることになった。ルインスタインはジェーン対策としてロンドン最大の私立探偵事務所でも最高の女探偵を雇ったが……。

 淑女怪盗ジェーンの冒険

 前半はジェーンの盗みの手口がいくつかの事件を通して披露される。連作短編集のような形式かと思っていると、徐々に趣が変わってきて、後半はジェーン自身のドラマが展開する。
 なるほど、こういうところがベストセラー作家の巧さなんだろうなと思う。
 盗みの手口はまあ悪くはないけれど、トリックメーカーではないのでそれほど引き出しがあるわけではない。そこで盗みのほうは印象的な事件を二つ三つほど見せて切り上げ、後半はキャラクターを活かしたスリラー劇に転換させていく。
 ここで読者をひっぱるのはジェーンの正体だ。これが実はバレバレなんだけど、表面的には隠しておきながらバレバレにすることで、読者にははっきりとヒロインが認識できるという仕組み。並行してジェーンがなぜ怪盗になったのか、その動機も読者の大きな興味のひとつとなり、読者はさらに感情移入ができる。
 まあ時代が時代なのでサスペンスの盛り上げとかはゆるいレベルだが、この時代のエンターテインメントとしてはOKだろう。

 なお、本書には『三姉妹の大いなる報酬』というコメディタッチの短編も併録されている。ミステリタッチではあるけれど、こちらはさほど面白みを感じられず、短編にしてはやや長いのも辛かった。


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 エドガー・ウォーレスの『正義の四人/ロンドン大包囲網』読了。
 著者は1900年頃から小説や戯曲で活躍した人で、『キング・コング』の原作なども書いている、当時の超売れっ子。作品は通俗的なものが多いようだけれど、読みやすさやテンポのよいストーリーで大衆のニーズに的確に応えた才人といえるだろう。本書はこんな話。

 法律では裁けない者に、死の鉄槌を下す男たち。人は彼らを”正義の四人”と呼ぶ。今回の彼らの標的は英国外務大臣。外国人犯罪人の引渡法案の制定を中止しなければ、大臣の命はないという。ロンドン警視庁は考え得るかぎりの対策を練り、四人はその包囲網に挑んでゆくが……。

 正義の四人/ロンドン大包囲網

 ほお、1904年に書かれたとはとても思えない出来。テーマの面白さ、普遍性など、予想をかなり上回るレベルで、作風もかなり現代的である。中心となるポイントは、四人がいったいどうやって暗殺を実行するのか、にある。その興味でもって物語を引っ張り、ときには仲間の裏切りや警察との駆け引きも交え、スリリングに展開してゆく。
 もちろん読み物としてはあくまで軽いスリラーなので、過剰な期待は禁物なのだが、いやあ、それにしても。

 とはいえ、実はけっこう根本的なところで弱点を抱えたシリーズだなという印象もある。本作の基本的なネタは、いうまでもなく”必殺仕事人”。ただ、仕事人と違うのは、大義に背くのであればその人間の善悪すら問題にしないところ。つまり善人であっても容赦はしない。
 実はここが微妙なところで、この手段はある意味テロリストのやり方を想起させ、読者が四人に感情移入しにくいのでは、という疑問が残る。おまけに狙われる大臣だって決して悪代官のような存在ではなく、わりとまっとうな大臣として描かれている。せめて四人の動機などが詳しく語られれば説得力もあるだろうが、本作はシリーズ一作目ということもあってか正体や経歴などについてもそれほど語られずに終わるため、よけい四人に感情移入しにくい。個人的にはここが一番残念なところだ。


 ところで本書は、先日の『アリントン邸の怪事件』に続いて長崎出版「GemCollection」の一冊だが、ここ最近はシリーズの刊行ペースが落ちてきているようで、若干不安ではある。論創社にまさるとも劣らぬマニアックなラインナップだから、ビジネスとして成り立つのか要らぬ心配ばかりしてしまうわけで、とにかくクラシックミステリファンとしては応援の意味でもすべて買い続けるしかない。だから、変な「道案内」とかは止めてね(笑)。

 もうひとつ、どうでもいいことだが、ちょっと奥付で長崎出版の住所を見てみたら、かなりうちの会社の近所ではないか。神保町には出版関係が山ほどあるので、まあ、こういうことはたまにあるのだが、さらにネットで詳しくマップを見ると、これがよく昼飯を食ったりするそば屋のビルに入っていて思わず笑ってしまった。世間は狭い。


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 『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督が映画化するというので、近頃気になっているのが『キング・コング』。漫画やアニメはとっくに憑き物が落ちているのだが、特撮ものだけは未だに卒業できない。まあ、する気もないんだけど。
 で、映画化に合わせて久々にノヴェライズが出版されたが、これが創元推理文庫、ハヤカワ文庫、角川文庫のそろい踏み。角川はまだ未見だが、ハヤカワは新訳ということなのでそれを購入&読了。
 今更ストーリーを説明することもないだろうが、いざノヴェライゼーションで読むと意外だったのがニューヨークよりも髑髏島での部分が多かったこと。しかもアクションに次ぐアクションの連続で、なかなか激しい。とはいうものの人間ドラマなどは大したこともないので、わざわざ小説で読むこともないだろう。やはり本作は映画で楽しむのが一番。


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