城左門の『架空都市ドノゴトンカ 城左門短篇集』を読む。西荻窪の古書店、盛林堂さんが発行している盛林堂ミステリアス文庫からの一冊。
盛林堂ミステリアス文庫といえば『大阪圭吉作品集成』もよかったのだが、本としての充実度でいえば、これはそれを上回る出来映えである。
そもそも城左門って誰や、という人もいるかもしれないので念のため書いておくと、これは幻想的な短編の名手として知られる探偵小説作家、城昌幸の別名義。主に詩作の場合に使われたペンネームなのだが、正直、左門名義でこれだけ小説を書いていたことを知らなかった。個人的に城昌幸は非常に好きな作家だが、詩にはそれほど興味がなかったため、左門名義についてはあまりフォローしていなかったのが敗因である。何に負けたのかはよくわからないが。

「都市黄昏」
「永遠の恋人」
「故山」
「感傷」
「A TWILIGHTMANIA」
「猟師仏を射る事」
「Q―氏の房」
「白い糸杉」
「良心」
「眼」
「身投げ」
「エリシアの思想」
「ひすてりか・ぱっしよ」
「たぶれっと」
「二にして一」
「時劫」
「姿相」
「その貌」
「DONOGOO―TONKA」Table of Contents(雑誌『ドノゴトンカ』全目次)
「詩酒生涯 城左門」稲並千枝子氏(城左門夫人)インタビュー
収録作は以上。
彼が編集していた雑誌『DONOGO-TONKA』(ドノゴトンカ)と『文藝汎論』に掲載されていた短編である。ほぼ単行本初収録のものばかりで、これに加えて雑誌『DONOGO-TONKA』の全目次、さらには城左門夫人である稲並千枝子氏へのインタビュー、加えて解説×三本と、まあ至れり尽くせりの一冊。
内容も悪くない。城昌幸名義の作品に比べると、より詩に近い作品が多いというのが第一印象。城昌幸名義のものはやはり探偵小説寄りの作品ということもあって、短いながらもストーリーやオチがきちんとあるものが多かったが、左門名義ではそういうルールから解き放たれ、より自由に感性だけで書いている気がする。というか本来、城昌幸は詩の方が専門なんだけどね。
描かれるのは、日常の中にふと紛れ込んでくる異分子もしくは違和感である。ただエピソード自体は他愛なく、その現象を語ることが著者の目的ではないはず。むしろそれによって起こる気持ちの乱れや揺れこそが読みどころであろう。語り口も普通の小説よりは散文詩に近く、著者の本領が存分に発揮されている。
江戸川乱歩が城昌幸を評し、「人生の怪奇を宝石のように拾い歩く詩人」と曰うたが、これは昌幸名義より左門名義の作品にこそ相応しいといえるだろう。
城昌幸の作品がもともと好きな人なら、どれもこれも酔える作品ばかりなのだが、特にお気に入りを挙げるなら、巻頭の「都市黄昏」。
愛人と待ち合わせをしている男が黄昏時の魔に魅入られて……という一席で、似たような幻想小説は今ではいろいろあるだろうが、これが書かれたのは何と昭和三年。都会の黄昏がもつ魅力、いや魔力を、すでに著者はこうして形にしていたのが素晴らしい。
なお、本書は既に売り切れながら、盛林堂ミステリアス文庫は他にも魅力的な刊行物を着々と世に送り出している模様。興味のある方は
こちらをのぞいてみては。