ジェフリー・ディーヴァーの『ポーカー・レッスン』を読む。『クリスマス・プレゼント』で短編でもその才能豊かなところを見せつけたディーヴァーの第二短編集である。まずは収録作。
Chapter and Verse「章と節」
The Commuter「通勤列車」
The Westphalian Ring「ウェストファーレンの指輪」
Surveillance「監視」
Born Bad「生まれついての悪人」
Interrogation「動機」
Afraid「恐怖」
Double Jeopardy「一事不再理」
Tunnel Girl「トンネル・ガール」
Locard's Principle「ロカールの原理」
A Dish Served Cold「冷めてこそ美味」
Copycat「コピーキャット」
The Voyeur「のぞき」
The Poker Lesson「ポーカー・レッスン」
Ninety-Eight Point Six「36・6度」
A Nice Place to Visit「遊びに行くには最高の街」

『クリスマス・プレゼント』もそうだったが、とにかくどんでん返しに注力した短編ばかり。しかもアベレージが高く、どれをとっても満足できるレベルである。
その中でも気に入ったものをいくつか挙げておくと、まずは冒頭の「章と節」。オチのキレという点ではまずまずなのだが、殺し屋探しという設定が痺れる。
「通勤列車」は皮肉たっぷりに展開されるサスペンス。ちょっと変わった設定だけに、とにかく読んでくれとしか言いようがない一編。
百年前のロンドンを舞台にした「ウェストファーレンの指輪」はケレン味あふれるクライムストーリー。本編だけでも十分に楽しめるが、プラスαの部分がやはり注目である。
「生まれついての悪人」は狙いに狙ったサスペンス・ストーリー。サスペンスの高まりとそれを大逆転させるテクニックがお見事。
金のためなら手段を選ばないやり手の弁護士。彼がどう見ても勝ち目のないチンピラの弁護を引き受けて……という発端の「一事不再理」は、法廷ミステリとしても悪くないのだが、やはりラストの世界観を一変させるどんでん返しが見もの。
「ロカールの原理」はライムもの。短いながらもライム・シリーズの良さをきちんと盛り込んでいるのが素晴らしい。
あなたは市内のある男に狙われている。警察からそんな知らせを受けた主人公の奇妙なサスペンスが「冷めてこそ美味」。狙われているのは確かだが、犯人と思われる男の行動には一切そんな気配はなく……。予想はできるが盛り上げ方が巧い。
表題作の「ポーカー・レッスン」は街一番のポーカー名人と彼に対峙する若きプレーヤーとの、虚々実々の駆け引き=欺し合いを描く。描きつつも、実は最後に……。これに限ってはオチが読みやすく、プロットもいまいち。ただ、ポーカー部分に関しては十分に引き込まれた。
とりあえず思いつく分から挙げてみたが、もちろん他の作品も決して悪いわけではなく、上でも書いたが冗談抜きにアベレージの高さはすごい。これでもう少し深みがあれば言うことはないのだが、うむ、さすがにそれは贅沢すぎる要求だろうか。
何はともあれ冬の夜長を過ごすには最適の一冊である。おすすめ。