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 最近、本屋を覗く機会が減ってしまい(新刊書店も古書店も)、ネット書店に頼ることが多くなっている。ただ、買おうと決めた本だけ買っている分にはいいのだが、ついついネットサーフィンで予定外のものまで買ってしまうのには困ったものだ。まあ、リアル書店でもこれは一緒か(笑)。
 最近のお買い物は盛林堂さんからはすっかり買い逃していた甲賀三郎とか押川春浪。あとは迷ったけれども藍峯舎さんという小さな版元さんから横溝正史の『鬼火 オリジナル完全版』。ああ、やっちまったよ。


 本日の読了本は国枝史郎の『犯罪列車』。
 『犯罪列車』は1937年に「南信日日新聞」に連載されていた長編探偵小説で、なんとこれが初の単行本化である。同じ版元の未知谷から出ている『国枝史郎伝奇全集』、作品社の『国枝史郎探偵小説全集』にも収録されていない超レア作品。残念なことに全一四六回のうち三回分が欠けているのだが、まあこうして単行本にしてくれただけでも良しとすべきだろう。

 犯罪列車

 こんな話。東京駅から熱海へ新婚旅行に出かけようとする深井夫婦。彼らを見送る友人たちのなかに、親友の新聞記者、隠岐健次の姿もあった。二人の祝福に来た隠岐ではあったが、その場で別の友人から新婦がすでに妊娠していることを聞き、また、遠ざかる列車から見えた深井の寂しげな笑顔に、どこかしら不安なものを感じてしまう。
 そして翌朝、その不安が的中したかのように、新婚の深井正彦が熱海の別荘で殺されたという知らせが飛び込んできた。隠岐はさっそく現場へ急行するが、その犯行手口から、いま世間を騒がせている犯罪者”影なき男”の仕業ではないかと推測する……。

 伝奇小説の名手として知られる国枝史郎が、探偵小説の書き手としてもなかなかの手練れであったことは『国枝史郎探偵小説全集』でもよくわかったが、本作も戦前探偵小説の香り高き一作である。
 本書の解説にもあるとおり、麻酔の使い方や刑事への変装、警察への挑戦状など、ここかしこにルブランの影響が見られるのが大きな特徴。全体的にもルパンものを彷彿とさせる活劇風ミステリとなっており、今読んでもそれほど古さを感じさせず、非常に楽しい。
 こういった躍動感あふれる物語が国枝史郎の求めるミステリであり、伝奇小説にも通ずるところなのだろう。トリックなどもそれ自体に意味があるというより、あくまでストーリーを盛り上げるためのギミックとして活用されている印象だが、それでも電話トリックなど面白いものもあった。

 欠点としてはややネタ割れが早すぎるところか。主人公が中盤で推理する真相が結局ほぼ正解なので、ラストのカタルシスに欠けてしまうのである。活劇を見せるのがメインなのはいいし、トリック重視でなくともかまわないが、やはりストーリー上の謎は最後でバシッと明らかにするのが理想だろう。
 また、これも解説にあるとおりなのだが、推理というよりも直感で真相に近づいていくのはやはり気になるところである。コロンボのように何か説得力のあるポイントがあれば良いのだが。

 まあ、そういう欠点をどこまで許容できるかにかかってはいるが、この時代の探偵小説としてはここまでやってくれれば十分に合格点だろう。個人的には読者を巻き込んでいく圧倒的なリーダビリティを買いたい。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 あまりのサイズで通勤のお供にすることもできず、夜寝る前にこつこつ読み進めてきた一冊をようやく読み終える。国枝史郎の『国枝史郎探偵小説全集』だ。

 いやいや、これはいいですね。国枝史郎がこんなに探偵小説を書いていたことも驚きだが、それがしっかり探偵小説の体裁をとっていることに驚く。とはいっても、あくまで重要視されるのはテーマであり、トリックやロジックというものに関して、ほとんどこだわりはない。乱歩が登場する以前、いわば日本探偵小説界の黎明期に書かれたものばかりだし、そもそも作者が探偵小説に求めるものが違うのだから仕方ない。ただ、それを差し引いても、探偵小説としてのエッセンスは十分なものがある。
 だが、本書の売りは、それだけではない。探偵小説以上に面白いのが後半のエッセイ、評論なのだ。伝奇小説の名手として名を馳せた国枝史郎は、その後探偵小説の創作からは遠のくのだが、業界の動向にはしっかりと目を光らせていた。その論評はかなり辛口ではあるが、先にも書いたとおり、国枝の理想とする探偵小説は乱歩らのそれとは違い、芸術性であり、社会的な意義であった。そのための苛立ちが紙面に反映されていったといえるだろう。とりわけ小酒井不木を挟んでの乱歩との確執は、『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』でも知られるようになったが、本書のエッセイでもあちらこちらに読みとれて興味深い。
 値段や内容を考えると、おいそれとは人に勧められる本ではないが、個人的には今年のベストテン級の一冊。

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 iPodのケースが欲しくて、ここ数日ネットで調べていたのだが、代官山のDiralというお店でなかなか良さげな革製のものを発見。休日の今日、車を飛ばして物をゲットする。なぜかミニチュアカー専門店でランボルギーニ・イオタまで買ってしまい、物欲を満たして帰宅。

 近々、作品社から『国枝史郎探偵小説全集』というものが出版されるそうだ。全集といっても1巻本だが、ミステリ作品23篇の他に評論やエッセイも34篇を収録している。まず間違いなく買いの一冊になるはずだが、この探偵小説全集、お値段もなんと5千円を超えるらしい。値段も十分に全集クラスである。

 で、その予習というわけでもないのだが、国枝史郎の『沙漠の古都』を読む。表題作の「沙漠の古都」そのものは、以前に『幻の探偵雑誌7「新趣味」傑作選』(光文社文庫)に収録されたものを読んでいるが、今回は桃源社版。表題作以外に国枝史郎唯一の捕物帖「十二神貝十郎手柄話」、傑作との誉れ高き「銅銭会事変」、そして「哥老会事変」の計四編を収録している。
 「沙漠の古都」は久々に読んだが、けっこう内容を忘れていたこともあって十分楽しめた。長編ではあるが、最初の数編は連作短編としても読め、これが探偵小説仕立てなのである。しかもホームズ+ワトソンの形をしっかり踏まえており、おまけに最初にホームズだと思った人物が、実は引き立て役に終わるところなど、なかなかアクが強い。ところが、これで本格的な探偵小説を期待するとあにはからんや。物語は徐々にスパイもの、冒険もの、秘境ものというように変容していき、いつの間にかすっかり国枝ワールドと化している。とにかく強引なまでの物語だが、あらためて国枝史郎のパワーを痛感した。
 他で印象に残ったのは、やはり「銅銭会事変」。短いながらも「蔦葛木曾棧」や「八ケ嶽の魔神」などの名作のエッセンスがギュッと詰まっている感じ。銅銭会なる秘密結社の有り様や個性的な登場人物たち、先を予測させない展開など、見どころも多く、ぜひ長編で読みたかったと思う。

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 国枝史郎の『国枝史郎ベスト・セレクション』読了。これを読んでしまったら、手軽に読める国枝史郎の持ち駒が無くなっちゃうので結構悩んでいたのだが、結局誘惑に負けて読んでしまう。未知谷のやつはさすがに通勤には向かないしなぁ(笑)。通勤用に講談社から出た文庫版全集を読む手もあるが、如何せん、そっちはまったく持ってないのでどうにもならん。
 本作の収録作は「八ケ嶽の魔神」「妖虫奇譚高島異誌」「弓道中祖伝」「日置流系図」「大鵬のゆくえ」「レモンの花の咲く丘へ」。
 「八ケ嶽の魔神」は先日読んだばかりなので今回はパスしたが、なんでこんなメジャーなやつを入れるかな。だがよく考えたら大衆文学館だって全部品切れなのだ。ということは今手軽に読める長篇は本書の「八ケ嶽の魔神」だけということになる。うーむ。なんてこった。
 ところで本書の目玉は(すべてが目玉と言えば目玉だが)戯曲ではあるが国枝史郎のデビュー作「レモンの花の咲く丘へ」。なんと百年ぶりの復刻ということで、レア度からいうとダントツらしい。しかし、このいかにも大仰なセリフ回しに馴染めず、個人的には「大鵬のゆくえ」が一番気に入った。長さからいうと中編クラスだが、ぐいぐいと伝奇ロマン的に盛り上げつつ、ラストは意外な結末を披露してくれる。力で押すだけでなく、こういう技もあるのかと感心した一篇であった。

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 京都日帰り出張。京都滞在時間三時間。研修の翌日だけにひたすら疲れる。
 それでも車中で国枝史郎は何とか読了。『神州纐纈城』、『蔦葛木曽棧』と並んで国枝史郎の三大伝奇長篇と謳われる『八ヶ嶽の魔人』である。

 かつて秘峰八ヶ嶽を舞台に、一人の姫をめぐる兄弟の対立があった。その確執と凄惨な結末は、やがて兄弟の末裔による山窩族と水狐族という二つの民の争いを招き、さらには時空を越えて、呪われたヒーロー鏡葉之助に様々な怪異となって降りかかる。
 本作『八ヶ嶽の魔人』には、他の二冊『神州纐纈城』と『蔦葛木曽棧』にない大きな特徴が二つある。
 まずは唯一『八ヶ嶽の魔人』が完結している物語であるということ。先日の日記でも「未完」ということについて少し書いてみたのだが、この完結しているという事実が作品の評価にマイナスの影響を与えていると見る人もおり、まったく伝奇小説というやつも奥が深いというかよくわからんというか。
 もうひとつの大きな特徴は、本作が一人の主人公にしっかりとスポットを当てて描いているということである。『神州纐纈城』や『蔦葛木曽棧』にも主人公は一応いるが、それは狂言回し的役割であったり、物語を動かす為のきっかけであったりという面が強かった。その点、本書では鏡葉之助という主人公を中心に据えているので、物語の流れはきっちりしており混乱は実に少ない。完結しているという点と合わせ、正に本書は娯楽小説として成熟した姿であり、伝奇小説の素晴らしいサンプルといえるだろう。
 しかしながら、その分どうしてもこぢんまりした印象を受けざるを得ないのも事実。強烈なキャラクターたちが入れ替わり立ち替わり現れては去ってゆく、あの混沌としたエネルギー、読み手を幻惑させるほどのパワーには欠けるのだ。『蔦葛木曽棧』の完結バージョンではそれほど感じなかったのだが、本書では確かに、完成度と引き替えにスケールや奔放さが犠牲になっている。
 ただ誤解しないでもらいたいのは、これはあくまで『神州纐纈城』や『蔦葛木曽棧』のような大傑作と比べた場合の話であって、本書だってもちろん傑作である。とりわけ葉之助が獣たちと共に敵と闘うクライマックスは本書一番の見せ場で、個人的にはこのシーンを読むだけでも買いである。

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 DVD『ターミネーター3』をレンタルにて鑑賞。シリーズ第一作はかなり思い入れがあるが、2や3はもうそこそこ楽しければいいやって感じ。2はまだビジュアル的に見るべきものがあったが、本作はストーリーやSF的整合性はもちろん、ビジュアル的にも2に比べてどうかいなというところ。もう続編は止めてほしいっす。

 『蔦葛木曽棧(下)』読了。ううむ、一気に読もうと思っていたが、仕事の都合でけっこう手間取ってしまった。しかし、だからといってつまんないわけではない。『神州纐纈城』に続いてこちらも文句のつけようがない傑作。先日も書いたが、大正時代にこのような伝奇小説が書かれたことにただ驚くばかりである。しかもこれらの傑作群がほぼ同時期に書かれている。
 昨今の伝奇小説のように、科学的なアプローチやオカルトや格闘技等のサブカル的味付けはほとんどないのだが、宗教的・歴史的・民俗学的な部分、正に伝奇小説の根本といえる部分は圧倒的である。人が人を呼び、事件が事件を招く様は、物語の持つ力を嫌というほど再確認させてくれる。

 恐れ入ったのは、なんと二つの結末が用意されていることである(浅学にして知りませんでしたが)。といってもひとつはまったくの尻切れトンボで、雑誌連載時に中断したままの状態で、それに著者の断り書きがつけられている未完バージョン。もうひとつはストーリー上の結末が一応つけられている形で、こちらは連載中断後に書籍としてまとまられた際、終盤の数章を削除して、かつ結末部分を書き加えた完結バージョンだ。現在ではこの2パターンを両方とも収録したものが、『蔦葛木曽棧』の定番となっているらしい。世評では、物語のダイナミズムを失わないでいるという理由から、未完の方が高く評価されているようだ。
 思うに伝奇小説というのはその奔放な過程がやはり大切なのであって、大風呂敷は広げてくれた方が楽しめるのは自明の理。その結果収拾がつかなくなるパターンが多いのはある程度仕方ないことで、今も昔もこれは変わらないような気がする(夢枕獏の「サイコダイバー」とか「キマイラ」とか平井和正の「幻魔大戦」とか)。で、この辺は本書の解説にも書いてあるのだが、未完であればその壮大な物語がどのように展開するのか、読者の想像に委ねられるところがあるため、無理に完結して伝奇小説の良さを損なわせるよりはよっぽどよいという考えらしい。
 完結バージョンがこれまでの奔放な作品を慌ただしく収束させ、ごく当たり前のハッピーエンドを持ってきたところに非難が集まったのだろう。他にもこれまで出てきた魅力的な登場人物たちのほとんどが忘れられ、置き去りにされるエンディングというのは如何なものかという気はするし、本来は主人公であるはずの御獄冠者がほとんど活躍もしないままに終わるのも困ったものではある(笑)。
 ただ、どっちにしろ過程を楽しむのが伝奇小説の本分だとすれば、駆け足だろうが出来が多少悪かろうが、一応の結末をつけることにも十分な意義はあると思う。これだけ堪能させてくれれば、多少結末が粗っぽくても読み終えたという満足感は得られるし、これはこれで読者にとって大切なことではないか。トータルで考えれば完結バージョンをつけたことは決して悪いことではないと思うのだが如何に?

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 個人的に国枝史郎週間がスタートしたようで、またもや大衆文学館から『蔦葛木曽棧(上)』を引っ張り出してくる。最初は先日の『神州纐纈城』よりは破天荒さが少ないかと思っていたが、読み進むうち個性的な人物たちが連鎖のごとく登場してきて、あっという間に物語の奔流に押し流される。下巻も楽しみ。

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 節分。会社の近所のコンビニエンスストアでは太巻き寿司を一気に売らんがため、太巻き寿司を買った人にはもれなくペットボトル入りのコーヒーを無料でサービスしている。そのサービスは評価できるが、何故ゆえにコーヒー?

 いつ読もうかと思っていた国枝史郎。未知谷の国枝史郎伝奇全集を買っていながら、かつて読んだのはいくつかのアンソロジーに収められているいくつかの中短編のみ。恥ずかしながら完全未読猫に小判状態だった作品群を、ようやく読むことにした。そのくせ実際に読むのは講談社の大衆文学館版だったりするのだが。だって未知谷版は重いし(笑)。

 で、記念すべきその1冊目は最高傑作との呼び声も高い『神州纐纈城』。
 武田信玄の寵臣、土屋庄三郎。彼が夜桜見物の折に老人から買わされた、深紅の布がすべての始まりだった。この布こそ、人の血で染め上げられたという呪われた纐纈であったのだ。布の発する妖気の為せる業か、庄三郎はかつて行方しれずとなった自分の両親と叔父を捜すための旅に出るが、いつしか奇面の城主が君臨する纐纈城や神秘的な宗教団体が隠れ棲む富士山麓へと誘い込まれてゆく……。
 ううむ、こりゃすごい。噂に違わぬ傑作である。まず、その流れるような文体が心地よい。やや講談ノリの文章は実にリズミカルで、そのくせ語るべきところは語り、走るところは走る。緩急のつけかたが巧みというか、伝奇ロマンを語るうえで文体が実に重要なことを再確認させてくれる。
 そして実に魅力的な登場人物たちとストーリー展開。纐纈城の奇面の城主、宗教団体の教祖、狂言回しの少年甚太郎、殺人鬼の陶器師、面作師の月子などなど……。一応は庄三郎が主人公ではあるが、彼らの誰をとってもそれだけでひとつの物語が成立するぐらい強烈な個性の持ち主ばかりだ。彼らが纐纈を中心としてすれ違い、交差する物語はエロ・グロ・ナンセンスに彩られ、まったくもって予断を許さない展開を見せてゆく。半村良は解説で、連載ならではの「行き当たりばったり」がその秘密ではないかと書いているが、そこまではいかないにしろ筋書きは確かに読めない。読者も庄三郎のごとく、この奔放な物語にただただ流され、身をまかせるしかない。
 『神州纐纈城』は残念ながら未完の作品で、まだまだこれからというところで物語は中断している。だが、それゆえに完全な作品なのだという説もあるほど、想像力というスケールは大きい。そうか、伝奇小説とはこのようなものだったのだ。面白い。面白すぎる。大正時代にこれだけの物語を書き上げた国枝史郎。恐るべし。

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