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 サックス・ローマーの『骨董屋探偵の事件簿』を読む。
 著者は1920~1940年あたりに活躍した英国の作家である。代表作は、世界征服を企む謎の中国人フー・マンチュー博士を悪役に据えたシリーズだが、他にも多数のシリーズを手がけていたことは、我が国ではあまり知られていない。そもそも日本ではフー・マンチュー博士すらそんなに知られていないだろうから、それも無理はない話である。
 ただ、先に書いたように、欧米では絶大な人気を博していたサックス・ローマー。フー・マンチュー博士以外のシリーズも好評だったようで、とりわけ評判が高かったのが、本書『骨董屋探偵の事件簿』の主人公、モリス・ クロウのシリーズである。
 まずは収録作。

Case of the Tragedies in the Greek Room「ギリシャの間の悲劇」
Case of the Potsherd of Anubis「アヌビスの陶片」
Case of the Crusader's Axe「十字軍の斧」
Case of the Ivory Statue「象牙の彫像」
Case of the Blue Rajah「ブルー・ラジャ」
Case of the Chrod in G「ト短調の和音」
Case of the Headless Mummies「頭のないミイラ」
Case of the Haunting of Grange「グレンジ館の呪い」
Case of the Veil of Isis「イシスのヴェール」

 骨董屋探偵の事件簿

 題名に「骨董屋探偵」とあるように、モリス・クロウは骨董商を営んでいる。当然ながら歴史的遺産や美術品に造詣が深く、博物館などで事件が起こった際にはその知識を買われ、警察や友人のサールズから探偵出馬を依頼されるという結構。
 だが、これだけではクロウの特徴の半分も説明したことにはならない。彼の最大の持ち味は、その捜査法にあるのだ。
 クロウは事件現場に特殊なクッションを持ち込み、現場で眠ることによって、決定的な場面を夢として再現する。つまり人の思念とは実体なのであり、いまわの際の心象風景は写真のように周囲の空気に刻印されている。その写真を頭の中で再現できるよう訓練したというのである。

 まあ独創的な捜査法であることは間違いないが、夢で犯行現場見ましたとか言ったところで、誰が信じるかという話である(苦笑)。そういった、一歩まちがうとただのバカミスに陥りそうなところを食い止めているのが(食い止めていないかも知れないけれど)、全体的なオカルト趣味とプロット。
 文体はあくまで古色蒼然。大仰な語り口でもって読者を煽り、しかも歴史的美術品に隠された伝説や因縁を絡めることで、怪奇ムードを盛り上げる。
 ただし、真相はあくまで合理的なものがほとんど。一見オカルトチックな事件ばかりだが、そのすべては科学的に説明がつけられ、ミステリの定石はきちんと踏まえられている。このオカルト趣味とミステリのバランスが悪くないのである。

 これでトリックに相当の工夫がされていれば言うことはないのだが、残念ながらそのレベルには達していない。
 そういう意味ではあまり本格としての期待はせず、素直に物語やキャラクターを楽しむ方がいいだろう。例えば「頭のないミイラ」や「イシスのヴェール」といったオカルト重視の作品もあり、ミステリとしては消化不良だけれど、むしろそちらの系統の方が楽しく読めた。
 それ以外では、このトリックだったら最低だなと思って読んでいたら案の定そのトリックが使われていた「象牙の彫像」もある意味おすすめ(笑)。
 ただ、本格ミステリとして過大な期待をかけると肩すかしを食うのでご注意を。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 サックス・ローマーの『怪人フー・マンチュー』を読む。
 名前だけは知っているが、映画も原作も触れる機会がなかった怪人フー・マンチュー。その記念すべきデビュー作がポケミス名画座の一冊として刊行されたのは昨年の春頃だったか。書評等でもまずまず好意的で、このたびようやく読もうという気になる。
 そもそもフー・マンチューとは何者か、という人も多かろう。一言で言えば、白人に対して異常なまでの憎しみを抱く、中国の天才科学者にして大犯罪者である。ホームズものにおけるモリアーティ教授がポジション的に近いと思うが、その犯罪手段などがいかにも魔術的というか東洋的というか、モリアーティ教授よりイメージは数段怪しい。

 そのフー・マンチューとイギリス政府や警察との戦いを描いたのが本書『怪人フー・マンチュー』。時代も舞台もホームズものと重なるのだが、ホームズものほどミステリとして確立されたものではないので過大な期待は禁物。設定の強引さ、展開の早さ、トリックの荒っぽさなどに加え、当時の東洋や中国事情などの知識もアバウトで、正直いま読んで面白いかと言われると、ちょっと(苦笑)。ここからホームズものが生まれた、とするなら歴史的にも見るべきところが出てくるのだが、時代的にはたぶんホームズが先だしなぁ。ミステリ的にはかえって退化している印象なので、これが当時バカ受けした理由がちょっとわからない。
 ただ、絶対的な悪の存在としての中国人を、当時の一般大衆がどう捉えていたか、というところにカギがありそうな気はする。有名な「ノックスの十戒」で中国人を禁じていることからもわかるように、当時の欧米人にはまだまだ東洋は神秘的な存在である。また、悪役との対決とはいえ、常にイギリス側の分が悪く、常にフー・マンチューが優勢であるという事実。さらには、フー・マンチューの自体の登場シーンは意外に少なく、その人物像が掴みにくいこと。これらの点から推測すると、作者が意識しているかどうかは抜きにして、フー・マンチューとは単なる一悪人ではなく、災いの象徴、擬人化であることを示している気がする。
 廃れつつあった世界における英国の覇権の危機、不安定なヨーロッパの政情、ひいては戦争の恐怖。そのようなものがごっちゃになった存在。それこそがフー・マンチューの正体なのではないだろうか。

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