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 人間ドック後の再検査の結果を聞きにいく。まあ、結果は良好でひと安心だったが、最近は病院へいくことが多すぎて、なんだか自分でもよくわからないときがある。来週の月曜などは二軒の病院をハシゴだから嫌になる。

 読了本は飛鳥高の『青いリボンの誘惑』。著者が六十九歳にして久々に発表した長篇であり、今のところ最後の長篇でもある。

 人生においてある程度成功を収めたものの、いま病院のベッドで横たわる老人がいる。彼は折り合いの悪かった息子、裕を呼び出し、過去に会ったある事件の関係者のその後を調べてほしいと言う……。

 事件の依頼者が親、という点を除けば、まるで一昔前のハードボイルドのような設定で始まる物語。だが冗談抜きに、本作は甘口のハードボイルドの趣を備えた作品である。設定やテーマはもちろん主人公、裕の行動や意識にもそれがうかがえるほか、全体的に抑え気味の筆致も雰囲気を助けている。もともと社会派としても見られているうえ、派手な作風の人ではないから、このような設定の話にすると自然ハードボイルドっぽくなったのかも。このタッチ、決して悪くはない。
 残念ながらミステリとして評価するとそれほどの驚きはない。また、若者の描き方が少々古くさいなど、いくつかの傷はあるのだが、過去の事件と現在への流れ、それによって変化する人間関係のもつれなどを丁寧に描いており、作品世界をしっかり構築しているところはさすが。叙情的なミステリが好きな人なら読んでおいて損はないだろう。
 ちなみに版元の新芸術社は、今の出版芸術社。これってまだ現役本なのかな?

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 少し前に読んだ『飛鳥高名作選 犯罪の場』の感想で、飛鳥高の作品は、ゲーム的な要素とメッセージ性がいいところでバランスをとっている、みたいなことを書いた(といっても、いかんせん読了数=サンプルが少ないので予想でしかないのだが)。
 本日読み終えた『死刑台へどうぞ』では、そのバランスがだいぶ崩れ、社会派としてのカラーがかなり強く出た作品になっている。だが、いわゆる松本清張らに代表される正当的社会派とは、やはり一線を画しているようだ。
 例えば本作では、選挙での汚職に絡む事件が中核となっているのだが、汚職自体に大きく踏み込むことはせず、あくまでその事件に振り回される人々の心の闇を描くことに、作者の狙いがあるように思える。
 さらには、普通の社会派では現実的でないからという理由で敬遠されがちな、ミステリとしてのケレン味がある。メインのネタなので詳しくは書かないが、ラストのどんでん返しはやはり作者が探偵小説として本作を書いた証拠にもなろう。
 もうひとつ挙げるとすれば、作中で社会派ミステリーがネタとなっている点だ。入れ子細工とまではいかないにせよ、珍しいメタ社会派推理小説ということもでき、このあたりもただの社会派にはしたくないという、作者の姿勢がうかがえて興味深い。

 とまあ以上のような読み方で接すれば、本作はまずまず楽しめる作品だと思うのだが、正直なところマイナス点も多く、最初は物語に乗れず難儀した。
 これはプロットがもうひとつこなれていないせいもあろう。前半のダラダラとした展開もうまくないが、後半のぐいぐい引き込む展開は逆に強引すぎて説得力に欠ける。最後のどんでん返しも、説得力のある話であればこそ活きてくるが、普通に考えるとけっこうもっともな犯人で、作中の記事はともかく読者をだますところまでは難しいのではないか。また、それ以外にも、第一章の匂わせる書き方がわかりにくさを増長させるだけで、かえって逆効果にも感じたり。
 総じて微妙な出来ではあるが、飛鳥高という作家が、時代に乗れなかった理由の一端が、本書にはあるのかもしれない。

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 河出文庫の本格ミステリコレクションから『飛鳥高名作選 犯罪の場』を読む。かつて刊行された2つの短編集『犯罪の場』(光書房)と『黒い眠り』(小説刊行会)をまとめて収録した上に、単行本未収録の4作を追加したもの。古書価やレア度を考えると、超お買い得の一冊であろう。一応、アンソロジーではいくつか読めるものの、あらためて短編集にまとまる意味は大きいと思う。私もいくつか読んだはずなのだが、ちゃんと覚えているのは「犯罪の場」と「二粒の真珠」ぐらいという情けなさだ。

・『犯罪の場』収録作
「逃げる者」
「二粒の真珠」
「犠牲者」
「金魚の裏切り」
「犯罪の場」
「暗い坂」

・『黒い眠り』収録作
「安らかな眠り」
「こわい眠り」
「疲れた眠り」
「満足せる社長」
「古傷」
「悪魔だけしか知らぬこと」
「みずうみ」
「七十二時間前」

・初収録作
「加多英二の死」
「ある墜落死」
「細すぎた足」
「月を掴む手」

 渋いなあ。飛鳥高、予想以上にいい。
 飛鳥高は基本的には本格の道を歩んできた人だが、途中から社会派という読み方もされてきたとおり、犯罪が起こった社会の背景や犯罪者の心理などに、けっこう踏み込んだ内容が多い。派手なトリックはそれほど使わない人だから、よけいにその部分が浮き彫りになるのだろう。
 ただ、ここが微妙なところだと思うが、社会悪を描いたりとかメッセージ性を打ち出すことに力を入れすぎると別に探偵小説にする必要はなくなるわけで、かといってトリックばかりに走りすぎるとゲーム性が強くなって小説としての味わいは薄れてしまう。
 で、飛鳥高だが、彼の作品はそのバランスがかなりいいところで成り立っているのではないか。
 もちろんすべての作品が成功しているわけではない。変なトリックもときにはあるし、とってつけたような動機の事件もある。しかしながら、謎解きの面白さだけではない、プラスアルファを常に加えている姿勢に好感が持てるし(作者がどこまで意図していたかは知らないけれど)、それが作品に独自の魅力を与えている。また、『細い赤い糸』の感想でも書いたが、落ち着いたタッチの文章の効果も大きいだろう。おすすめ。

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 飛鳥高の『細い赤い糸』読了。汚職や強盗など、4つの異なる事件が起こり、そしてそれぞれに不可解な殺人事件が発生する。なぜ彼らは殺されなければならなかったのか? 4つの事件をつなぐ細い赤い糸は何を意味するのか?
 これはいい。個人的にはかなりツボです。大作とはいえないし、ミステリとしての派手なトリックなどもない。だが丁寧な文章と巧みな構成に支えられ、ラストでは見事な着地を決めてみせる。とにかくラスト20ページほどで一気に4つの事件をまとめあげる手腕には、正直感動する。また、読後に残るしみじみとした余韻も素晴らしい。
 文章も好感を持てた。けれんが無く、かといって素っ気ないというほどでもない文体で、バランスがいい。場面や人物にあった描写やセリフ回しを、よく練って丁寧に書いているという印象を受ける。この文体だからこそラストの余韻もより活きるのであろう。
 発表当時、土屋隆夫や佐野洋、結城昌治、多岐川恭らといった手練れの面々を押さえて、日本推理作家協会賞に輝いたのも伊達ではない。
 ちなみに作者の飛鳥高は戦後間もない頃のデビューで、山田風太郎、香山滋らと同時期である。しかし専業作家ではなかっただけに作品数も少なく、今では忘れられつつある作家だ。だが近年の復刻ブームで、河出文庫からは短編集も出ただけに、再評価もある程度されているはず。決して古くささを感じさせる作風でもないし、残る長編もどこかで出せないものだろうか。
 なお、今回は講談社文庫版で読んだが、入手しやすいのは双葉文庫か。ただ、講談社文庫版も古書店でけっこう100円とかでも見かけるので、未読の方はぜひどうぞ。

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