本日はこの週末に観た映画の感想を。ものはミュージカル映画の『グレイテスト・ショーマン』。
監督のマイケル・グレイシーについてはまったく知らないのだが(笑)、主役はヒュー・ジャックマンだし、音楽まわりは『ラ・ラ・ランド』のスタッフが参加しているし、何よりサーカスという見世物を生み出したアメリカの興行師P・T・バーナムの物語ということで、前から気になっていた作品である。

さて、上にも書いたとおりP・T・バーナムというのは19世紀に活躍したアメリカの興行師だ。子供の頃から貧しい生活を送っていたせいで、成功に強い憧れを抱く青年でもあった。
やがて資産家の令嬢と駆け落ち同然に結婚するが、その生活は楽ではない。しかし、アイディアマンの彼は希望を捨てず、ついに詐欺まがいの手段で銀行からの借金に成功。世界中の珍しいものを展示した「バーナム博物館」をニューヨークにオープンさせる。だが成功には程遠い売り上げだった。
そんなとき娘の一言をきっかけに、バーナムは奇形者を集めてショーをスタートさせると、これが大当たり。バーナム一家はようやく裕福にはなるが、批評家や上流階級からは怪しげなペテン師、成り上がりとしか扱われず、市民からも激しい抗議活動を受けていた。
その現状を打破すべくバーナムが打った次の手は、劇作家フィリップ・カーライルのスカウトだった。彼の才能、上流階級ならではの人脈が功を奏するが、バーナムはさらに次の手を考えていた……・。
時代は古いが、題材はエンタメ業界。しかもバーナムといえばサーカスの基礎を作った興行師であり、そのサーカスの舞台に乗せたミュージカルというのは、こりゃ楽しくないはずがない。
ジャックマン演じるバーナムはもちろん、個性的な外見のパフォーマーたちが繰り広げる歌やダンスは実にダイナミックで魅力的。ミュージカルとしては相当いいレベルであると思う。
気になるところもないではない。ひとつはストーリーラインがかなりシンプルにまとめられてしまっているところ。若い頃に苦労をした人間がようやく成功し、しかし成功したゆえの慢心からいま一度の大きな挫折があり、最後に真の幸福を掴むというのは王道といえば王道だが、単純すぎて深みには欠けるところである。
とはいえエンタメ・ミュージカルとしてこれぐらいは許容範囲なのだが、実はもうひとつ気になるところがあって、こちらはより罪深い。それが奇形者たちを見世物にして金儲けするというバーナムの倫理的な問題である。
彼らの生活を豊かにするだけでなく、輝ける場所を作り、”家族”を作ったのだという道理は一応筋が通っているように思えるが、倫理的な問題に対する明快な答えではなく、実のところ問題をすり替えて無理やりハッピーエンドに収めているだけであろう。
むしろ金儲けという動機の矛盾を抱え、そこは問題提起としたまま終わらせてもよかったのではないか。それをとにかく無視して全面肯定したところがどうしても気になるのである。
ただ、そういった部分は製作した当人たちも百も承知のはずで、そこを潔いととるかどうかで評価が分かれるところだろう。
ミュージカル映画としての完成度やパワーは素直に楽しめるけれど、これから鑑賞する人はそういう人権問題のあたりも頭に入れつつ見るとよいのではなかろうか。