A・A・ミルンといえばもちろん『クマのプーさん』の著者だが、ミステリファンにはやはり名作『赤い館の秘密』の著者といった方がとおりはよいだろう。本日の読了本はそのミルンによる『パーフェクト・アリバイ』。ミルンのミステリというだけでも貴重だが、本作は戯曲として書かれたもので、しかも倒叙形式をとっているという珍品。
ただ、以前に読んだ「ミルンが残した幻のミステリ」という謳い文句の『四日間の不思議』が、その中身はとても純粋なミステリとは言い難いものだったので、本作もやや眉につばをつけて読み始めた。

英国サセックス州に位置する、とあるカントリーハウス。主人のアーサー・ラッドグローヴをはじめ多くの客が週末を過ごしていたが、実はある者によって秘かにアーサーの殺害計画が進められていた。やがてアーサーは凶弾に倒れ、警察はこれを自殺と断定。アーサーの被後見人スーザンは、真相を求め、婚約者のジミーと共に推理を働かせる。
おお、一応は倒叙ミステリとして成立しているではないか。しかも倒叙とはいえ犯人の登場シーンはそれなりに効果的で、舞台の上ではなかなか映えるシーンといえそうだ。
ただ、後半はどちらかというと推理シーンや探偵側と犯人側の対決シーンといった、説明的な会話が多く、少々ダレ気味。もとより驚くほどの仕掛けはないので、あまり期待せず、むしろ牧歌的ともいえるミルンのタッチを楽しむつもりで読むといいだろう。
なお、本書には「パーフェクト・アリバイ」の他に、「十一時の殺人」「ほぼ完璧」という二作の短編も収録されている。どちらもちゃんとオチをつけ、ユーモアにくるんでいるあたりは、『パーフェクト・アリバイ』や『赤い館の秘密』とも共通しているところ。出来はともかくとして、ミルンのミステリに対する姿勢は実に健全であり、その主張が一貫しているところはなかなか好ましい。
古き良き時代のミステリの空気というか、趣味としての殺人を素直に楽しみたい人向きの一冊。