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 ビル・S・バリンジャーの『美しき罠』を読む。
 一昔前であれば『歯と爪』などの作品で知られていたバリンジャーだが、最近では、六年前の小学館と創元の『煙の中の肖像』バッティング事件で名前を知った人も多いのではなかろうか。まあ、事件の真相は知らないが、少なくともファンの間で改めて名前が注目されたことだけはよかっただろう。それ以後、論創社から『歪められた男』が刊行され、そしてポケミスからは『美しき罠』が出たのも、このバッティング事件の影響が多少はあったかもしれない。
 まあ、そんなことはともかく。

美しき罠

 第二次大戦後、ニューヨークへ戻ってきた元ジャーナリストの「ぼく」。しばらく暇ができたのを幸い、かつて取材で親しくなった刑事ラファティと旧交を温めることにしたが、警察に問い合わせても冷たくあしらわれるばかり。いったいラファティに何があったのか。やがて新聞記事でラファティのトラブルを知った「ぼく」は、関係者からさらに情報を集め、事件を再構築してゆく。

 クライムノベルをベースにしつつ、小説全体に仕掛けを施すようなトリッキーなところが目立ち、それでいて消化不良な結果を招く。バリンジャーの作風といえば、個人的にはこういうややネガティブなイメージになってしまう(ファンの人ごめん)。
 本書は、そんな技巧に走りすぎる嫌いがあるバリンジャーが、意外にもノワールに徹した作品。語り手の「ぼく」が過去を再構築する、つまり回想的に物語が語られてゆくため、最初は叙述トリックっぽい印象をもってしまうが、かなり真っ当な犯罪小説である。序盤から中盤にかけては語り口も丁寧で、「この人こんなに渋いものも書けるんだ」という驚きもあり、リーダビリティは高い。ただ、終盤に脱獄の手助けやお宝探しという盛り上がる展開を見せながらも、構成自体はしまりが無く、演出も中途半端。どちらかに絞って徹底的にやってくれた方が物語としてもスッキリするし効果的だと思うのだが。語り口は悪くないものの、残念ながらトータルではいまひとつ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 業界のイベントで幕張へ。体調がいまいちなのでこの距離は辛い。家から直行だと2時間はかかるからなぁ。だが珍しく車中では爆睡もせず、ひたすら読書。さくっと読み終えたのが、ビル・S・バリンジャーの『歪められた男』である。

 交通事故から目覚めたとき男が見たものは、左右が非対称の、不気味で無機質な顔であった。いくつかの所持品などから、周囲は男をワイアット・ケイツという空軍少佐として扱うが、男は自分が別人であることを知っていた。だが、男は事故の秘密を探るべく、そのままケイツとして行動する。そして徐々に男の周囲にある陰謀の陰が浮かび上がる……。

 物語の設定からいうとスパイものだが、テイストはハードボイルドのそれに近い。冒頭から提示される、「主人公は何者か?」という問いかけがもちろん本書の肝なのだが、それは身分や職業という表面的なことばかりでなく、文学でいう「自分探し」みたいなものも含まれている。主人公の正体はもちろん気になるが、主人公がどういう考え方をする男なのか、どういう行動を選択してゆくのか、そんなところに注目するとより楽しめる作品だ。
 欠点はとにかくわかりにくいことか。ただでさえ複雑な設定の話なのだが、読者を煙に巻こうとしているのか構成があざとく、かなり作為的。そして残念なことにそれが功を奏していないのである。この短所が決して小さくないだけに、ラストでずいぶん真相の説明にページをとる羽目となり、これが何ともとってつけたようで白けてしまう。もう少し丁寧に流れのなかで読者に理解させるようにすれば、けっこう良い作品になったと思うのだが……残念。


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 ようやく読書ペースが復活しつつある。本日の読了本はビル・S・バリンジャー作『煙の中の肖像』。なぜか時を同じくして、創元推理文庫でも『煙で描いた肖像画』という邦題で刊行されたため、内容よりそういう面で話題になった作品。
 単なる偶然なのかどうかわからんが、折からの古典復刻ブームのため、自ずと紹介される作品もバッティングする可能性はあるわけで、版元はこのような事態を避けるためにも早めに告知するべきではないだろうか。営業的なこともあるから極端に早く告知するのが難しいことは百も承知だが、訳者をはじめとした関係者の努力が、結果として(もちろん売上のことです)残らないのは大変残念。そして結果が残らなければ、こういう企画も立ち消えになるわけで、結局はそういうものを読みたい読者が貧乏くじを引くわけである。
 今回の場合、どの程度の比率で小学館版と創元推理文庫版の売り上げが分かれたかは知るよしもないが、当然の話、一冊だけしか刊行されない方が良い結果になったのは言うまでもない。創元はもちろんだが、小学館も最近はがんばっているので、できれば関係者が情報交換などしつつ、うまく共存してほしいところだ。

 さて、肝心の本の内容だが、こんな話である。
 さえない人生を送ってきた主人公のダニー・エイプリルだが、今ではなんとかシカゴで未収金取り立て業を営んでいる。そんなある日、前経営者の資料から謎の美女、クラッシーの写真を見たダニーは、あっという間に心を奪われてしまう。なんとか彼女に会いたい。そう決意したダニーはクラッシーの調査を始めるが、次第に彼女が目的のためなら手段を選ばない悪女だということが判明してゆく……。

 いわゆる悪女ものだが、悪女その人はなかなか姿を現さず、ダニーの調査によって徐々にその姿を浮き彫りにする手法をとる。別段珍しくもない手だが、要はその密度。本作ではいかんせんキャラクターが弱く、サスペンスを極限まで盛り上げるところまではいっていない。
 まずクラッシーの存在感がいまひとつ。結局は彼女がいかに男を吸収してのし上がるかがすべてと言っても過言ではないのに、どうにもスケールが小さく、計画性はそこそこあるのに行き当たりばったりで生きている感が強い。一方、追う側のダニーにしてもわりと真っ当なのがいただけない。せめてストーカー的な部分を強く出すか、もしくは逆にもっと純情な男にして、クラッシーに食い尽くされるところまでもっていけばよいのにと思う。
 ついでに言えば構成も甘い。クラッシーの登場はもっと引っ張った方がサスペンスは盛り上がると思うし、ラストも唐突すぎて、しかも詰めが甘い。結局、役者が弱いので、ラストのカタストロフィまでパンチ不足になるのだろう。期待したわりには拍子抜けの一冊だった。

 なお、本書と比較するに持ってこいの作品は、何といってもアンドリュー・ガーヴの『ヒルダよ眠れ』だろう。バリンジャーがそれを意識したのかどうか気になるところだが、なんと発表年はどちらも1950年。執筆期間などを考慮するとおそらく偶然なのだろうが、どうもこの作品は、そういう不運が延々ついてまわっているようで、つくづくついてない作品である。


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 文庫で古典ミステリをポツポツと出していた小学館が、単行本に衣替えして古典どころを出すことにしたらしい。その第一弾がビル・S・バリンジャーの『煙の中の肖像画』。私もさっそく購入したのはいいが、どうやら創元でもまもなく同じのが出るらしく、企画がもろにかち合ったようだ。早めに広告をうつとかすればいいのに。せっかくの好企画がもったいないですなぁ。

 それはともかくとして、バリンジャーの最新刊を読む前に長年の積読も消化しておこうと、ビル・S・バリンジャー『消された時間』を読む。

 ニューヨークのとある街路で、喉を切られて倒れていた男が発見された。しかも靴以外は何も身に付けていない状態で、さらには靴の中に千ドル紙幣が入っている。男は運良く一命をとりとめたが、完全に記憶を失い、自分の名前すらわからない始末だ。手がかりは千ドル紙幣のみ。男は自分の失われた時間を取り戻そうと、独力で調査を始めるが……。

 ネタがネタだけに詳しい説明は御法度。ラストの意外性を楽しむ一冊だが、今読むとちょっと弱いかもしれない。ただ、通常のこの手のサスペンスものと大きく違うのは、調査が進むにしたがって主人公の男の素性がだんだんと怪しくなってくることである。この辺の展開とサスペンスの盛り上げが巧みで、リーダビリティはかなり高い。初期のウェストレイクとちょっとタッチが似ているかなとも感じた次第。
 現役の本かどうかはわからないが、見つけたら読んでおいても決して損はしないだろう。


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