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 『国枝史郎探偵小説全集全一巻』を購入。でかいし、厚いし、高い。しかし、この充実した内容なら絶対に買いである。ましてや限定1000部。

 読了本はデイヴィッド・イーリイの『大尉のいのしし狩り』。
 『ヨット・クラブ』に続く短編集だが、正直言うとインパクトや怖さでは『ヨット・クラブ』の方が明らかに上だと感じた。もちろん本作でも、人の心にあるダークサイドを巧みに描き出しており、十分楽しめることは間違いない。

The Captain's Boar Hunt「大尉のいのしし狩り」
Starling's Circle「スターリングの仲間たち」
Court of Judgement「裁きの庭」
The Gourmet Hunt「グルメ・ハント」
The Weed Killer「草を憎んだ男」
The Light in the Cottage「別荘の灯」
Always Home「いつもお家に」
No Time to Lose「ぐずぐずしてはいられない」
A Place to Avoid「忌避すべき場所」
Last One Out「最後の生き残り」
Counting Steps「歩を数える」
The Running Man「走る男」
The Squirrel「登る男」
The Marked Man「緑色の男」
Going Backword「昔に帰れ」

 ラストのひねりが秀逸な「裁きの庭」、短い中によくこれだけの味わいを詰め込めるものだと感心してしまう「昔に帰れ」 が個人的ツートップ。ほかにも「グルメ・ハント」や「最後の生き残り」がユーモラスな作品で楽しめた。
 そう、十分に楽しめたはずなのに、それでも少し物足りない気がしてしまうのは、いかに『ヨット・クラブ』の出来が凄かったかという、証しなのであろう。


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 奇妙な味の短編で知られるデイヴィッド・イーリイ。『ヨット・クラブ』の好評により、かつて発行された長編が文庫落ちすることになったらしく、その第一弾が『観光旅行』だ。ちょうど先月にはポケミスの『憲兵トロットの汚名』『蒸発』も読んでおり、これだけ未所持だったので、ちょうどいいタイミング。

 バナナ共和国と呼ばれる南米の小国で、口コミだけで客を集めているという、ある観光ツアーがあった。基本的には一人での参加しか認められないそのツアーは、通常の旅行に飽きた、いや人生そのものにすら飽きた人のための秘密ツアーである。壮年に差し掛かろうかという実業家ウォルターもツアーに参加した一人だったが、その道中でアメリカ大使館の外交官から、その観光会社に不審な動きがないかどうか、内密に調査を依頼される……。

 もうひとつ消化不良な感のある作品。出だしこそ観光旅行がツアー客を満足させるための秘密に興味を惹かれるが、中盤では巻き込まれ型スパイ小説の様相を呈し、ラストはもうドタバタといっていいほどの混乱振り。これが著者の狙いなのかどうかも判然としない始末。また、基本的に描写がしつこいのも気になる。詳しいのではなく、しつこいのだ。そのためボリュームは膨れあがるものの満腹感は低い。
 不条理な状況を生みだして読者を眩惑させるなら、『蒸発』のように短く鮮やかにまとめるのが理想だろう。ただし『蒸発』にしても、構成に関していえばそれほど優れているとはいえない。とはいえ、「イーリイはやはり短編向きの作家であるのだろう」、などという、いかにもな感想も当たらない気がする。
 ならば本作は、イーリイ流の寓話だという捉え方はできないだろうか? 通常よりカリカチュアされた登場人物たち、ねじ曲がったストーリー展開は、そういう意味でなら理解できる。ただし賞賛できるほどの結果は生んでいないが。
 なお、本書を読んでいる間、なんとなく初期の筒井康隆を思い出してしまった。しかし、そのブラックな笑いやカリカチュアのパワーを比較すると、少なくとも本書よりは筒井康隆の方が明らかに上である。


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 引き続きデイヴィッド・イーリイから『憲兵トロットの汚名』読了。
 休暇でパリにいたトロット軍曹は、友人の憲兵マレイを緊急逮捕せよという命令を受ける。しかし、マレイに逃げられたトロットは、本部から故意に逃亡を助けたと疑われ、訊問や嫌がらせを受け始める。そして遂にあるときトロットの怒りが爆発、執拗に嫌がらせを続けていたコウ軍曹をワインボトルで殴り殺してしまう。トロットは自暴自棄から軍を脱走してパリに向かうが、そこでさらなる事件に遭遇してしまう……。

 本作は先日読んだ『蒸発』に先立つイーリイのデビュー作。ある目的を持った主人公が、いつの間にかその思惑とは外れたところで数奇な運命に巻き込まれる、という設定は似ているものの、出来は『蒸発』に比べるとかなり落ちる感じ。本作では「数奇な運命」そのものがありがちで、それほど興味深いものではない(というか『蒸発』がよすぎる)。結果的にわりとオーソドックスなサスペンスものに終始しており、本領発揮というにはほど遠い印象だ。
 ちなみに『蒸発』と本作は同じ年に発表されているので、もしかしたら長篇での方向性を探っていた時期なのかとも思う。


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 台風がピークを迎えようとするなか、散髪にいってついでに書店に立ち寄る。風太郎や小川洋子、ジャーロの17号を購入。ジャーロの巻頭にはエドワード・D・ホックの特集が載っているが、ホックがもうすっかりお爺さんという感じになっていてびっくり。その昔、ジャーロの前身EQで見たときはまだ壮年という感じだったが、考えたらそれは二十年ぐらい前の話なので当たり前か。いや、こっちもその分歳をとったということだが。

 読了本はデイヴィッド・イーリイの『蒸発』。
 何一つ不満のない生活のはずだった。しかし、そんな自分の人生に疑問を感じ、新たな生活を始めたいと願うある銀行の副頭取。そんな彼のもとに、死んだはずの友人から電話がかかってくる。なんと、蒸発を請け負ってくれる会社があるというのだ……。

 『ヨットクラブ』であらためてその実力を見直したデイヴィッド・イーリイだが、長篇もすごい。どんな作家でも「奇妙な味」といえばたいていは短編中心。長篇でその不思議なテイストを維持するのはなかなか難しいことだと思うのだが、この『蒸発』では最初からお終いまで常にそのレベルを保ち続ける。
 主人公を待ち受ける状況がとにかく不可思議で面白く、しかも主人公はそのレールに乗らず迷走する。とにかく先がどうなるのかここまで気になる小説も珍しい。奇妙なサスペンスに満ちあふれた傑作。オススメです。


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 デジキューブ破産。年の瀬近くになって業界を激震が走る。ちょっと身辺が慌ただしくなりそう。

 そんな大変なご時世にあって、ここ数日の読書は当たりが多く、精神のバランスを保つのに一役買っている。本日の読了本、デイヴィッド・イーリイの『ヨットクラブ』は早川書房の異色作家短編集をお手本にした企画ということだが、これも文句なしに楽しめる一冊だった。
 「いつもと違う道から帰ったばっかりに」。キーワードはこれ、ちょっと長いけど。日常の裏側に隠された不安と恐怖を描くブラック・ユーモア集とでも呼べばよいのか、イーリイの作品はまさに異色作家短編集の名に恥じない「奇妙な味」の傑作揃いである。
 無理矢理に断言してしまうが、短編の醍醐味というのは、ひねりを効かせたオチの鮮やかさで読ませるものと、何ともいえない居心地の悪さを与えてくれるものの2種類あると思うのだが、本書ではこの2系統の作品がほどよくミックスされている。
 で、オチの効いた「理想の学校」や「ヨット・クラブ」、「カウントダウン」なども悪くはないのだが、本書の肝はやはり「面接」「タイムアウト」「隣人たち」などに代表される、より奇妙な味の強いものにあると思うわけだ。個人的にはオチがありそうでなさそうで、最後まで何ともいえない後味の悪さが残る「隣人たち」が超ツボ。「タイムアウト」も絶品で、できれば長編で読みたいぐらいの力作である。

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