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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

E・S・ガードナー『レスター・リースの新冒険』(ハヤカワ文庫)

  E・S・ガードナーの『レスター・リースの新冒険』を読む。先月に読んだ『レスター・リースの冒険』と同様、義賊レスター・リースの活躍する中編集。そちらの記憶が新しいうちに残りも、ということで。
 収録作は以下のとおり。

In Round Figures「六人の肥った女」
Bird in the Hand「手中の鳥」
The Hnad Is Quicker Than the Eye「手は目よりも速し」
A Tip from Scuttle「スカットルの内報」
The Exact Opposite「リース式探偵法」

 レスター・リースの新冒険

 全般的な感想は『レスター・リースの冒険』とほぼ変わらず。自ら盗みを起こすのではなく、新聞で見つけた盗難事件を解決しつつ、その犯人の盗品を掠め取るという趣向である。
 しかし、このシリーズで一番楽しめるのは、実はスカットルの存在だろう。リースの従僕にして実は警察から送り込まれたスパイ、スカットル。明文はされていないがリースがスカットルの正体に気づいていることは明らかで、リースはあえて自分の企みをスカットルに匂わせることで、警察の動きを誤誘導させる。
 そういうミステリ仕掛けもさることながら、スカットルとリースのやりとり、さらにはスカットルと彼の上司アクリー部長刑事とのやりとりが単純にバカバカしくて楽しいのである。リースからは馬鹿にされ、アクリー部長刑事からはアイディアや手柄も横取りにされ、言ってみれば中間管理職の悲哀を体現しているような役回りであり、この面白さばかりは読んでくれとしか言いようがない。

 例によって、若干ボリュームがありすぎてテンポが悪いのが玉に瑕だし、他愛ない話ではあるけれど、まあ、ガードナーの器用さを確認するには格好の一冊といえる。


E・S・ガードナー『レスター・リースの冒険』(ハヤカワ文庫)

 E・S・ガードナーといえば圧倒的に弁護士ペリイ・メイスンものが有名だが、他にもいろいろなキャラクターを残している。本日の読了本『レスター・リースの冒険』も、そんなガードナーの生んだキャラクターの一人、義賊レスター・リースが活躍する中編集である。

 レスター・リースの冒険

The Candy Kid「キャンデイーだまし」
Something Like a Pelican「鵜をまねるカラス」
Monkey Murder「モンキー・マーダー」
Lester Leith, Impersonator(別題A Thousand to One)「千ドルが一ドルに」

 収録作は以上。
 ほぼパターンは決まっていて、毎回、下男(実は警察の潜入スパイ)のスカットルが新聞の犯罪記事をリースに見せるところから幕を開ける。リースはそこから事件の真相を見抜き、解決に乗り出していくのだが、面白いのはここから。リースは事件解決に動きつつも、最後にはちゃっかり犯人の盗んだ物を奪い取ってしまうのである。警察と犯人の裏をかいていく手口が見せ場であり、一見、意味不明のリースの行動が最後に種明かしされるという趣向が楽しい。

 などと書いてはみたものの、ミステリ的にどうのというより、やはり本作はキャラありき。盗む相手は常に犯罪者に限られ、奪った金品は慈善事業に寄付、おまけに高身長でスマートかつハンサムな青年という設定は、まあベタではあるが、人気が出そうな要素は残らず詰め込みましたという感じでむしろ潔い。
 ガードナーがペリイ・メイスンで大ヒットを飛ばす前、まだパルプ雑誌で短篇を書き散らかしている時代に発表されたシリーズということだが、こういうパターンを確立させた方が書く側も量産がきくし、読者も安心して楽しめるということなのだろう。

 気になったのは、どれも中編のせいか手軽な読み物の割には中途半端にボリュームがあって、ストーリーがややだれ気味なこと。作品の性質上もう少し短く締めてくれたほうが良かった気はする。
 とはいえガードナーらしく作品ごとのムラが少ないのはさすが。突出したものはないが、ユーモアもいい味つけで、ひまつぶしには恰好の一冊である。


E・S・ガードナー『これは殺人だ!』(創元推理文庫)

 人間ドックの診断結果が送られてくる。食事にはけっこう気を遣うようになったので、前年より数値は上向きだが、しっかり再検査が必要な項目も。やっぱりジムでもいって体を絞らないとだめか。でも夜の7時8時に帰られるような仕事じゃないから、ジムに行く暇を作るのが大変なんだよなぁ。

 読了本はE・S・ガードナー『これは殺しだ!』。
 主人公は広告代理店を営む男。大のポーカー好きで、心理的な駆け引きを得意とする。今日も友人の地方検事や捜査官とポーカーにうち興じていたが、そこへ飛び込んできたのがある婦人の誘拐事件。刺激を求めて止まない主人公は検事に頼み込んで捜査に同行するが、事件を相談した被害者の姉はこれを警察沙汰にしたくないらしい。怒った検事たちは席を立つが、その後、なぜか主人公が身代金の受け渡しを頼まれることになる……。
 誘拐事件が殺人事件、そして汚職事件へと発展するなか、主人公が持ち前の知恵と度胸と腕力で苦境を乗り越えるという、ガードナーの持ち味が存分に発揮された一作である。スピーディーな展開、イキのいい会話、お得意の法廷場面、軽い謎解きにどんでん返しと、およそ読者を退屈させないような工夫がてんこ盛りで、まさに娯楽小説のお手本のような仕上がりだ。
 もちろん時代の古さを感じるところもあるし、ご都合主義的なところもちらほらあるが、原作の性質を考えるとあまり目くじらを立てる必要もないだろう。むしろ主人公と同じように、束の間の刺激を求めて、スリルとサスペンスを楽しむ方が吉かと。ちなみに翻訳もそれなりに古いが(特に会話文)、これぐらい時代がかったほうが、この手の小説にはかえってマッチしており、個人的には悪くないと思う。

 ところで何故ゆえ今頃ガードナーを読むのか、自分でも不思議だが、何となくとしかいいようがない。強いていうならウールリッチを読んだ影響だとは思うが、とにかく古典レベルの作家はとりあえず全作読んでおきたい、という気持ちが根っこにあることは確かだ。ちなみに全作読了をめざす大御所作家はこんなところ。あ、クイーンはクリアです。

ディクスン・カー……最近ごぶさただが、残すところ十数作のはず。
F・W・クロフツ……半分は読んだが、ここ数年はほとんど読んでない。
アガサ・クリスティ……40作程度は読んだはずだが、後期のものはほとんど未読。
ロス・マクドナルド……『動く標的』『さむけ』などの代表作程度しか読んでいない。
E・S・ガードナー……10作ほど読んでいるが著作多すぎ。老後の楽しみか?
エド・マクベイン……同じく10作ほど読んでいるが著作多すぎ。老後の楽しみか?


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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