エド・マクベイン逝去。あまりのビッグ・ネームの死に言葉も見当たらず。
エピソード3も公開されて、夏の映画もかなり出そろった感じ。本日はスピルバーグ監督の『宇宙戦争』を観る。
H・G・ウエルズの原作をどのように仕上げたのか興味津々だったが、割と原作に沿って作ったようで、しかも一級のパニック映画に仕上げている。群集心理の描き方や恐怖の盛り上げ方は素晴らしく、絵も見事。スピルバーグの頭に911は当然入っていただろうし、オーソン・ウェルズがラジオドラマで巻き起こした騒動も当然考慮しただろう。スピルバーグはそれらを踏まえて、オーソドックスに戦争(もしくはテロ)の悲惨さを訴えている。そのために、主人公には普通の一般市民(トム・クルーズ)を設定し、ただ家族を守って逃げまどう役柄しか与えていない。また、一見、理不尽に思える様々な人々の行動、錯綜してはっきりしない情報(映画を観る側にとっても)も、極限状態を巧く表していると思う。ここを勘違いして論理的でないとか、どうしてそんなことが判明できたのだ、とかいうのはあまりに考えなしの意見ではないだろうか。
まあ、それでもラストのハッピーエンドなどツッコミどころも多いのだが、あれなどハリウッド映画のエンターテインメントのお約束なのだから、目くじらたてるのも大人げない。もちろん欠点は欠点として認識すべきだろうが、それより根幹の部分に目を向けるべきであろう。本作はエンターテインメントとしての制約を多々受けながらも、変に美化することなく、恐怖と悲惨さをしっかりと打ち出した見事な「戦争映画」だ。
読了本はエルケ・ハイデンライヒ『ヌレエフの犬』。
有名なダンサー、ヌレエフは、作家トルーマン・カポーティのパーティで、「オブローモフ」という名前の犬を引き取ることになる。太って不格好なオブローモフだが、ヌレエフはその犬をたいへん可愛がった。だがやがてヌレエフは亡くなり、オブローモフはその知人の亡命ロシア人女性に引き取られる。彼女とひっそり晩年を過ごすオブローモフだったが、ある日彼は自分の思いがけない才能に気づくのだった……。
本書はミステリーでも何でもなく、ましてや内容にもそれほど興味はなかった。お目当てはカバーや挿絵を書いているミヒャエル・ゾーヴァである。残念なことに絵の点数は少なかったが、内容が絵にまさるとも劣らぬほど美しく、予想以上に堪能した。お話しはかなりシンプルでわかりやすいものだが、テーマは芸術であり人生観である。普通にやれば重くなる主題を、さらっと鮮やかに美しく、しかも押しつけがましくなく描写する。涙腺が緩い人は要注意である。