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 マイクル・コナリーの『訣別』をとりあず上巻まで読む。ハリー・ボッシュものの最新作である。

 まずはストーリー。元ロス市警の刑事だったボッシュは、失効した私立探偵免許を新たに取り直すとともに、知人の本部長に誘われ、ロス近郊にあるサンフェルナンドという小さな市で嘱託刑事として働いていた。
 そんなある日、いまはセキュリティ会社に勤める元上司から、大富豪ホイットニー・ヴァンスの仕事を紹介される。ヴァンスと面談したところ、彼が若い頃に交際した女性、さらにはその子供がいれば一緒に探してほしいという。ヴァンスは高齢で体力も弱まっており、先が短いながらも身よりはない。血縁者が見つかるなら、ぜひ資産を譲りたいのだという。ただ、その財産は莫大なもので、これが明るみに出ると危険も伴うため、あくまで極秘の調査だった。
 一方、サンフェルナンドでは〈網戸切り〉と呼ばれる連続レイプ事件が起こり、ボッシュは並行して二つの捜査を進めていくが……。

 訣別(上)

 いわゆる失踪人捜し、しかも背景にベトナム戦争があるなど、一昔前のハードボイルドを読んでいるかのような錯覚に陥るが。本作は2016年の作品だ。帯のキャッチの「原点回帰」などと謳っているのはそういうことかもしれない。
 だが、いざ読み始めると、もちろん当時のハードボイルドと印象は大きく異なるわけで、そればかりかボッシュものの初期作品ともけっこうな違いを感じる。家族(娘)のことを心配し、取り立ててドンパチもなく進んでいくストーリーに一抹の寂しさを感じるのも確かだ。ボッシュに対する圧力もないことはないのだが、かなりサラッとしたものである。
 まあ、それでも十分に面白く読ませるのは、さすがコナリーというしかないのだが。
 ともあれ作品自体の感想は下巻読了時に。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 マイクル・コナリーの『贖罪の街』を読む。
 リンカーン弁護士の異名をとるミッキー・ハラーから、ダクァン・フォスター弁護のための調査を依頼された元刑事のハリー・ボッシュ。だが被害者が保安官補の妻だったため、退職した刑事が弁護側につくのは警察への裏切りに等しいことだった。
 ボッシュは真実と正義のためだからと、自分に言い聞かせながら調査を続けていくが、次第に警察関係者が事件に関わっていくとこが明らかになる……。

 贖罪の街(下)

 ボッシュの地道な調査を中心とした物語で、派手さや驚きといったケレンにはやや欠けるけれども、全体的には安心して読める佳作といってよいだろう。
 刑事を辞めたボッシュなので、その行動には制限を受けてしまうが、基本的なところに変わりはない。自分の勘を信じ、事件の不自然な点や気にかかる点を頑なに追うところが魅力であり、説得力をもつ。
 また、行動に制限を受けるとはいいつつ、刑事時代もそこまで科学、もしくは権力に頼った捜査をしていたわけではないのでそこまで不自由にも見えない(苦笑)。むしろ友人知人の助けを借りつつ、意外と小器用に立ち回っているのが面白い。ボッシュのそんな姿に古くからのファンも思わずニンマリすることだろう。

 本作では犯人を追いつめる側から弁護する側に移り、それゆえに葛藤するボッシュも大きな読みどころである。
 かつての仲間からの批判はもちろん、最愛の娘からも一歩距離を置かれてしまうボッシュだが、真実と正義のため自らの信念とも妥協する。
 それは自らの信念を決して曲げないボッシュにとってひとつの矛盾ではあるのだが、反面、それは真実と正義を追い求める気持ちの強さの表れでもある。以前のボッシュだったら、ここで絶対に白黒はっきりつけてしまうのだが、意外と自然な形で気持ちに折り合いをつけているのが興味深い。個人的にはやや物足りなさも残るが、まあ、ボッシュも歳をとったということか。

 ということで、長年のコナリーファンからすると若干の物足りなさもあるが、完成度の高さ、プロットの巧さなども申し分なく、まずは良質の警察小説、ハードボイルドといっていいだろう。

 ちなみにコナリーの著書は長編がほとんどだけれど、唯一、2012年に短編集『Mulholland Dive』が刊行されている。収録しているのは三作で、そのうち二作は雑誌やアンソロジーで翻訳済みだが、おそらく残り一作は未訳のはず。こちらもできれば刊行してほしいところである。


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 マイクル・コナリーの『贖罪の街』を上巻まで。
 本作は久々の弁護士ミッキーー・ハラーと刑事ハリー・ボッシュの豪華共演作である。ただし、ボッシュはロス市警をすでに退職しており、本作ではハラーが扱う事件をフリーとして手伝うことになる。

 贖罪の街(上)

 こんな話。
 あるときハラーから食事の誘いを受けたボッシュ。退職したボッシュに事件の調査を手伝ってもらいたいのだという。
 その事件とは、ウエスト・ハリウッド市で市制管理官補を務めるレクシー・パークスが殺害された事件であった。容疑者は元ギャングで古くからのハラーの顧客でもあるダクァン・フォスター。ハラーは彼の主張を信じて弁護を引き受けたのだという。しかし、ボッシュとしてはそう簡単に承諾はできなかった。それもそのはず、レクシーの夫は保安官補であり、退職した刑事が弁護側につくのは警察への裏切りに等しいからだ。
 しかし、ダクァンと面会して彼の無実を信じたボッシュは、ついに事件を引き受けることにする。それはダクァンを救うためではない。実際に殺人を犯した者が自由に歩き回っていることが許せないからだ。ボッシュはそう自分に言い聞かせ、行動に移るが……。

 豪華共演とはいいながらも上巻でのハラーはかなり控えめ。ほぼボッシュメインで進んでいるのだが、なんせ警察を退職してしまったので、今までのような特権は使えない。そこで『燃える部屋』で登場したソト刑事や恋愛関係にあったスキナーなどの助けを借りながら調査を進めるのがミソ。
 ちょっとボッシュにしては小器用に立ち回りすぎる嫌いもあるが(大きなヘマもあるけれど)、まあ、まだ上巻。下巻ではどのように驚かせてくれるか楽しみだ。


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 マイクル・コナリーの『燃える部屋』読了。
 民族楽器奏者の殺人事件を追うボッシュと新米のメキシコ系女性刑事ソトのコンビだったが、ソトには幼い頃に体験した悲惨な放火事件を自分の手で解決したいという密かな決意があった。その事実を知ったボッシュは、殺人事件と並行して彼女とともに火災事件の捜査にも着手する……。

 燃える部屋(下)

 上巻までの感想で「~著者はむしろ二人の捜査活動と関係性を見せることに重きを置いているような気がする~やはり著者の読ませたいポイントが以前とは変わってきているのか~」「~初期作に感じられた重苦しいほどのボッシュの怒りや葛藤といったところはかなり薄れてきている。さすがのボッシュも年齢を重ねてだいぶ丸くなってきたということか、あるいは著者の路線変更によるものなのか~」なんてことを書いたのだが、下巻まで読んでみて、まあ大体いい線はついているのではないだろうか。

 これまでもボッシュ・シリーズの感想で度々書いてきたのだが、ボッシュの物語はその根底にある怒りや葛藤が大きな特徴だ。事件の真相に対する興味より、そういった感情に突き動かされて事件にのめり込むボッシュ自身の姿こそ、このシリーズの魅力なのである。ボッシュは正義を求めるが完全な人間ではない。嫌なところもいいところと同じくらい持っている。そんな人間くさいボッシュだからこそ主人公として読者を魅了してきた。
 それが他のシリーズの主人公、ミッキー・ハラーなどと競演するようになると、著者がボッシュの視点ばかりを追うわけにもいかなくなり、次第に主人公同士のバランスを大事にするようになり(もちろん印象でしかないが)、その結果、ボッシュの尖った部分を捨てざるを得なくなってきたのではないか。ボッシュの暴走ばかりでは物語を引っ張れなくなってきたのである。
 一作目から読んできたファンとしてはこの辺りにやや物足りなさを感じてしまうのだけれど、その副産物というわけでもないが、結果的にはストーリー作りやプロットに関してはより洗練された印象があり、最近の作品の方が完成度は確実に高くなっている。

 本作でも主軸となる事件は二つあって、ひとつはボッシュとソトが正式に関わる民族楽器奏者が狙撃された十年前の事件。もうひとつはソトが幼い頃に自身も巻き込まれた火災事件である。
 それらをソツなくまとめつつ、しかも捜査を通じてボッシュがいかにソトを一人前の刑事として育て上げるのかというサイドストーリーを絡め、さらにはボッシュの“老い”をテーマとして放り込むというのは、もはや名人芸といってもいいだろう。

 残念ながら事件そのものに対する面白さという点、また、ラストがいろいろな意味で消化不良気味なところがあるので、ホームランは次作に期待といったところだろう。とはいえ十分楽しめる作品であり、ボッシュファンにも必読要素満点であることは確かだ。



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 マイクル・コナリーの『燃える部屋』をとりあえず上巻まで読む。おなじみロス市警ボッシュ刑事ものの一冊。
 いつも書いていることだが、最近のボッシュものはエンターテインメントとしてはほぼ文句なしなのだけれど、初期作に感じられた重苦しいほどのボッシュの怒りや葛藤といったところはかなり薄れてきている。さすがのボッシュも年齢を重ねてだいぶ丸くなってきたということか、あるいは著者の路線変更によるものなのか、おそらくはその両方なのだろうけれど、最初期からの読者としてはやや複雑な思いもしているのは確か。
 さあ、本作ではいかに?

 燃える部屋(上)

 未解決事件を扱うボッシュの最新の事件は音楽家の殺人事件だが、状況は少々複雑だ。被害者は最近死亡したばかりのメキシコ系の民族楽器演奏者メルセドだが、彼が銃弾に倒れたのは十年も前のこと。メキシコ系アメリカ人が多く集まるロサンジェルスのマリアッチ広場で、ギャングの抗争に巻き込まれ、流れ弾を受けてしまったのだ。
 それからのメルセドは体に残った銃弾の感染症に苦しめられ、幾度となく入退院を繰り返しながら、ついに事件から十年後に亡くなったのである。そこであらためて検死解剖が行われたのだが、これまで明らかになかった事実が見つかり……というのが上巻のだいたいの流れである。

 注目は、ボッシュの新たな相棒として登場するメキシコ系アメリカン人のルシア・ソトか。銃撃戦での英雄的行為が認められ、刑事として抜擢された彼女だが、自身もその荷がまだ重いことを自覚しており、ボッシュのサポートのもと二人で捜査を進めていく。
 例によってマスコミ対策に熱心な上層部との軋轢など、多少の障害はあるのだが、この辺はあっさり流して、著者はむしろ二人の捜査活動と関係性を見せることに重きを置いているような気がする(ただ伏線らしきものはガンガン入れてくるけれど)。
 こういったところも初期作との大きな違いで、やはり著者の読ませたいポイントが以前とは変わってきているのかなとは思う。あと、単純に読ませる技術が高くなったというのも大きいか。
 とりあえず言えるのは、相変わらずリーダビリティについてはすこぶる高いということ。続く下巻にも期待である。


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 マイクル・コナリーの『罪責の神々』を読む。

 罪責の神々(下)

 上巻ではハラーたちのチームの調査活動でストーリーを引っ張っていったが、下巻ではいよいよ法廷シーンをメインとして展開する。これが予想どおり面白い。ボッシュものとハラーものは陰と陽の関係と前回書いたが、より具体的で大きな違いがこの法廷シーンの部分であり、これがなくてはわざわざミッキー・ハラー・シリーズを読む意味はない。

 本作には『罪責の神々』というタイトルがついているけれども、これもズバリ陪審員や陪審制度のことを指す。被告の有罪無罪を決定する陪審を神々に喩えているわけだ。
 また、“罪責”を問われているのは単純に被告だけではなく、怪しげな被告を無罪に持ち込むハラー自身の行動や倫理観に対してもかかっている。本作においてはそういうハラーの職業的葛藤、さらにはそこから派生する家族の問題が掘り下げられ、“罪責の神々”というのはむしろハラー自身の内面について顕した語といえるだろう。
 それでもボッシュものよりはだいぶライトなシリーズだけれども、かといってすべてが口当たりのいいお話でもない。エンターテイメントとしては非常にいいバランスを保っているといえる。

 蛇足ながらちょっと気になっていることをひとつ。
 講談社文庫から出ているマイクル・コナリーの作品はだいたい上下巻構成なのだけれど、これは一巻本にできないものだろうか。確かに今のまま一冊にするとちょっと厚いかなという感じだけれど、講談社文庫は文字組が緩いので、このあたりも同時に見直せば普通に一巻本にできるはずだ。
 ただ、厚い本にすると売上に影響するとか、営業上の理由が大きいとは思うので、一概には言えないのだけれど。


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 マイクル・コナリーの『罪責の神々』をとりあえず上巻まで読む。リンカーン弁護士ものの最新作である(といっても発売は昨年の十月だけど)。

 こんな話。リンカーン弁護士の異名をとるミッキー・ハラー。今回、彼のもとに届いた依頼は、売春婦殺害容疑で逮捕されたポン引き、アンドレ・ラコースの弁護だ。ラコースは真っ当な人間とはいえないが、決して殺人はやっていないという。
 調査を始めたハラーだったが、なんと殺害された売春婦は、ハラーのかつての依頼人でもあったグロリアだった。彼女は売春から足を洗い、今ではハワイに住んでいるはずだったが、それはまったくの嘘。なんとロスで娼婦に復帰していたのである。
 ハラーはかつて彼女が関係した事件が今回の件にも関わっているのではないかと考えるが……。

 罪責の神々(上)

 ハリー・ボッシュが陰ならミッキー・ハラーは陽のイメージ。シリーズ当初は孤独な感じのハラーだったが、今では仲間といっしょに戦うことができるし、初期のやさぐれた感じは薄れている。それでも前作『証言拒否』の失敗で受けた心の傷は癒えておらず、今作でも色々引きずっている部分もあり、キャラクター的にもいい感じで深みを増している印象だ。

 ストーリーも出だしは好調で、相変わらずお話作りの巧さを感じさせるところはさすがコナリー。過去の出来事が最新作の事件に影を落とすというのは毎度お馴染みのパターンではあるが、見せ方が巧いので特に気になるものではない。
 また、そういう過去の事件を絡める割にはストーリーが非常にテンポよく進むのもよい。それが逆に物足りなく感じる場合もあるのだけれど、まあ、そこは下巻の展開に期待するとしよう。


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 マイクル・コナリーの『ブラックボックス』読了。
 二十年前のロス暴動事件の際に発生したデンマークの女性ジャーナリストが殺害された事件を追うボッシュ。ついに突き止めた凶器の拳銃から、なんと湾岸戦争との関わりが浮かび上がってくる。この拳銃こそ、ボッシュが信念とする“ブラックボックス”になる存在なのか?

 ブラックボックス(下)

 なるほど。上層部の圧力にも屈せず、あくまで一匹狼の姿勢を変えることなく捜査にこだわるボッシュの姿はこれまでどおり。娘や恋人との人間関係も彩りを添え、今回も安定の面白さではあるのだが、同時に物足りなさも感じないではない。

 その最たる原因は事件の弱さだろう。湾岸戦争の影が浮上するあたりではかなり期待させるのだが、その後の広がりが緩いうえに小粒である。国際的な陰謀にしろとまではいわないけれども、結局このレベルの事件かと思わせる肩透かし感。
 また、重要な情報が何でもかんでもインターネットで集まってしまい、ボッシュの捜査がとんとん拍子に進みすぎるのも気になる。 あっと驚くようなどんでん返しもなく、ひと昔前のネオ・ハードボイルドっぽい感じか。

 そんななかクライマックスだけはかなりのページを割いて、久々にボッシュの活劇が楽しめる。ここで一気にフラストレーションを解消させたいところだが、これはこれでボッシュが強引すぎたり、唐突に“助っ人”が登場したり、やや無茶な展開ではある。
 この“助っ人”の扱いをもっと掘り下げておけば、より可能性を感じる作品になった気もするのだが。

 ただ、それらがすべてマイナス要素というわけではなく、普通に楽しめるレベルであることはいっておこう。他の作家が書いていれば、おそらくもっと褒めていたはず。
 しかしながらシリーズを通してボッシュの変遷を追っている読者としては、これぐらいでは大満足とは言い難いのである。前作『転落の街』がなかなかの出来だっただけに、余計その思いが強くなった次第。


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 マイクル・コナリーの『ブラックボックス』をとりあえず上巻まで。
 ロス市警の未解決事件班で任務にあたるハリー・ボッシュの次なる事件は、二十年前に発生したロサンジェルス暴動の最中に起こった殺人事件だった。1992年。暴動によって荒れ狂うロスで、一人の外国人女性ジャーナリストが殺害される。取材中での強盗被害かと思われたが、暴動騒ぎのなかで十分な捜査は不可能。ボッシュも別の事件へと外されてしまう。
 それから二十年。ロス暴動20周年ということもあり、当時の未解決事件を集中して捜査することになったボッシュは再び外国人女性ジャーナリスト殺害事件を追うことになる。だが、またしてもボッシュの前に市警上層部の政治的圧力が……。

 ブラックボックス(上)

 タイトルになっている「ブラックボックス」とは、事件の解決につながる鍵のことをいい、すべての事件にはブラックボックスがあるという。ボッシュはそのブラックボックスの存在を信じて捜査を続ける。
 政治的圧力や娘さんとの交流などといった味付けはいつもどおりながら、リーダビリティは相変わらず高い。若干、おとなしめの展開が少々気になるところだが……さて、下巻ではどの程度、物語が広がるか。
 詳しい感想は下巻読了時に。


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 マイクル・コナリーの『転落の街(下)』読了。
 今回、ややネタバレ気味ですので、未読の方はご注意を。

 転落の街(下)

 過去の婦女暴行事件と市議の息子の転落事件を捜査するというのが、本作の大雑把なストーリー。その二つの事件は密接に関係するというのではなく、今回はいわゆるモジュラー型。直接のつながりはないのだが、ボッシュの生き方に大きな影響を与える事件として描かれている。
 まあ、考えたらこれまでの作品も結局、事件の本筋よりも、むしろその事件がボッシュにどのような影響を与えるか、すべてはそこに集約されているような気がする。

 本作では特にそれが顕著。
 事件を通して、組織やパートナーとの確執(毎度のことではあるが)が生まれたり、ボッシュが引退を考えるようになったり、娘マディとの交流を深めたり、さらには新しい恋人ができたりと、まあ忙しいこと。
 もちろん、こういうサイドストーリーが縦に横にと張り巡らされることで、ボッシュ・シリーズの深みや厚みが増していることは間違いないし、だからこそファンとしては先が気になるのである。
 管理人としてはボッシュのロマンスも去ることながら、娘マディとのやりとりがもっとも癒される部分ではある。刑事志望の彼女がボッシュをあっと言わせる部分はこれまでなら考えられない展開だが、ボッシュの引退問題、さらには彼女が成長して実際に警察に入ることまで考えさせるわけで、あざとさも若干は感じるけれど、やはりコナリーは上手くなったと思わずにはいられない。

 また、こういうサイド・ストーリーの面白さだけでは、もちろんない。
 肝心の二つの事件も、それぞれ単独で成立するぐらいの中身はある。
 例えば市議の息子の転落事件では、殺人・事故・自殺という三つの選択肢を提示しつつ、この中でどんでん返しを見せてくれる手腕は鮮やか。死体についた傷やビデオなど、地味ながら説得力あるネタを小出しにしつつ、最後は意外な形で事件の様相を反転させる。おまけに、その事件をとりまく政治的状況でさらに一捻りする。
 かたや過去の婦女暴行事件は、容疑者が当時八歳の少年だったという、ある意味、不可能犯罪的な状況を作り出す。まあ、さすがにこれは大した仕掛けもないのだが、オーソドックスなサイコスリラーという雰囲気で、転落事件ほどの面白みはないけれども、犯人逮捕のシーンはさすがに練られていて見事。こちらはボッシュの新しいロマンスが絡み、それに伴ってボッシュの刑事という人生そのものが問われるあたり、やはりただでは終わらない。

 事件がボッシュにどのような影響を与えるか、すべてはそこに集約されているような気がすると先に書いたが、こうして要素要素を出してみると、ストーリーのメインとなる事件とサイドストーリーが実に巧みに融合されている印象だ。だからこそクライムストーリーでありながら、ボッシュ自身の物語にもなっているのだなと再確認した次第。
 最近のボッシュ・シリーズは面白いことは面白いけれど、もうひとつ食い足りない部分もあっただけに、本作はかなり満足。次の『ブラックボックス』もぜひこの調子を期待したい。


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