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 小栗虫太郎『紅毛傾城』読了。現代教養文庫版「小栗虫太郎傑作選」の最後を飾る第5巻である。まずは収録作から。

「源内焼六術和尚」
「絶景万国博覧会」
「紅毛傾城」
「金字塔四角に飛ぶ」
「ナポレオン的面貌」

 本作は、小栗虫太郎が活躍した時期を大きくいくつかの時代に分け、その各時期の中から代表作を選んだもので、それがそのまま虫太郎の様々な側面を網羅する、という構成になっているらしい。それは江戸趣味であったり、明治回顧であったり、西洋秘史であったり……というものなのだ。 
 ううむ。今まで、こっちが何とか把握していたのは、『黒死館殺人事件』に代表される初期の眩惑的かつ衒学的な本格探偵小説の時代、そしてロマンティズムの色濃くなる中期の伝奇的探偵小説の時代、後期の秘境小説がメインとなる時代、ぐらいの理解でしかないので、そういう解釈にただ感心するのみ。

 さらにぶっちゃけていえば、虫太郎作品は後期になるにつれて読みやすくなるなあ、ということぐらいか(笑)。ただ、面白いことには、多少は読みやすい秘境物より、初期の難解な本格作品の方が遙かに魅力的だということである。
 本書でいえば、お好みは圧倒的に「絶景万国博覧会」。ここで語られる不思議な動機&トリックはやはり小栗虫太郎ならではのものだ。ひな祭りの雛壇に飾られる死者の遺品という妖しい導入、異なる世代の3人の女性の微妙な関係、明治における万国博覧会の観覧車という何とも味わいあるガジェット……。まさに奇想の賜物である。
 なお、本書も例によって編者の松山氏による詳細な解題がついているほか、なんと九鬼紫郎によるインタビューまで収録しており、お得感はかなり強い。
 今はなき現代教養文庫だが、カドフェル・シリーズ同様、この小栗虫太郎傑作選もどこか再版すればいいのに。もったいない限りだ。


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 小栗虫太郎の『人外魔境』読了。週末の旅行から読み始めてようやく読み終えたのだが、法水ものなどのように読みにくいということはない。それどころかまるで別人のような読みやすさだ。ルビの多さは相変わらずだが、ペダンティズムや難解な言い回しなどはほとんど影を潜め、スムーズに人外魔境の世界に浸ることができた。

 それはともかく。
 本作は冒険家の折竹孫七を主人公とし、数々の魔境に挑んだ彼の活躍を描いた連作集だ。小栗虫太郎の力業を味わう、とでも言うべきか、よくぞここまでというぐらい奇怪な世界を創り出し、折竹とともに読者を強引に悪夢へ引き込んでゆく。その腕力が素晴らしい。ロマンティズムという小栗の別の一面が十分に伝わってくる傑作である。
 ただ、先にも書いたが、初期の小栗に見られるようなテイストは感じられないので、探偵小説としての小栗作品を期待するとあてが外れるかもしれない。

 ちなみに本書を読んで連想されるのは映画のインディ・ジョーンズか香山滋の人見十吉シリーズだろうと思うが、インディ・ジョーンズはともかくとして、人見十吉シリーズには確かに影響を与えているようだ。設定はもちろんだが、『人外魔境』で使われている用語などもいくつか拝借しているらしい。


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 アテネオリンピック開幕。時差がかなり香ばしく、また、けっこうな寝不足になりそうな予感。とりあえず女子サッカーの1試合目はしっかり楽しめた。ほんとにメダルいけそう。

 読了本は小栗虫太郎の『二十世紀鉄仮面』。
 扶桑社文庫から出たもので、『失楽園殺人事件』と合わせれば法水麟太郎ものがすべて網羅できるという優れものである。収録作は「二十世紀鉄仮面」「国なき人々」「悪霊」「小栗虫太郎小品集」「付録」。

 目玉となる長篇「二十世紀鉄仮面」は、後のロマンティズム溢れる秘境冒険物との架け橋となる作品として有名だが、四ヶ月前に読んだばかりなのでここでは省略。小栗作品の中では読みやすい方だとは思うが、さすがに中四カ月では再読する気になれない(苦笑)。
 その他の作品では、(といってもそんなに残ってないが)、遺作を笹沢佐保が書き継いだ「悪霊」が印象的。小栗&笹沢という組み合わせがどのような経緯によるものなのか浅学にして知らぬが、意外にもミスマッチな感じはなく、笹沢佐保の芸達者振りが見られて楽しい(といっても小栗の文体模写ははなから捨てているようで文章はかなり平易ですが)。また、小栗の構想について海野十三が解説しており、そちらも興味深い。テーマ自体はかなり重いので、小栗が最後まで書いていたらもの凄い作品になっていたような気はする。

 あと、本編ではないが、小栗虫太郎の小品や、様々な作家の小栗論やエッセイを集めた「付録」もお得感あり。万人に勧められる作品集ではないが、個人的には満足の一冊である。


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 通勤用の鞄を購入。そのついでに新刊書店や古書店で本を買いまくる。古書店では創元や早川のちょい古いところがどっと入っており、おまけに保篠龍緒の著作までを激安で発見。久々にガッツポーズ。

 読了本は小栗虫太郎『失楽園殺人事件』。

「後光殺人事件」
「聖アレキセイ寺院の惨劇」
「夢殿殺人事件」
「失楽園殺人事件」
「オフェリヤ殺し」
「潜航艇「鷹の城」」
「人魚謎お岩殺し」

 本書は小栗虫太郎の法水麟太郎ものを発表順に収めた短編集。とかくシリーズものはパターンが固定してしまい、先が読めてしまいがちになるものだが、さすがに小栗虫太郎ともなると予想もつかないオチや展開が待っており一筋縄ではいかない。

 そもそも小栗作品を難しくしている一因に衒学趣味があるのだが、本書に収められた多くの作品もまた哲学や宗教、芸術などが散りばめられ、それは探偵小説の味付けといったレベルどころではなく、テーマとして謎そのものにも深く関わっている。小栗は自らの理論・思想を具現化するかのような状況を創り出し、そのなかで不条理な殺人劇を奏でてゆくのだ。これぞまさに小栗ワールド。
 難解とはいうものの、読み手にイメージを喚起させる力は相当なもので、法水のセリフに煙に巻かれながらも必死に状況把握に努めれば、実にオリジナリティに満ちた作品世界にひたれることが可能となる。ただし、正確にその小栗ワールドを理解できているかと聞かれれば、個人的には正直自信がないと答えるほかないのだが。

 印象としては、その幻惑度は初期の作品ほど強烈である。「後光殺人事件」「聖アレクセイ寺院の惨劇」「夢殿殺人事件」「失楽園殺人事件」と続く作品群のトリックとロジックの凄まじさ&シュールさ。
 特に初めて読んだ「失楽園殺人事件」は噂どおりの怪作で、法水の推理もいつも以上に強烈。また、作風が変わりだした頃の作品「オフェリア殺し」は、ハムレットを演ずる法水という趣向(しかもプロレベル)。あまりの設定に呆気にとられているうちに法水の超推理炸裂というわけで、これも捨てがたい魅力がある。結局なんだかんだ言いながらも、やはり一度は体験しておきたい作品ばかりといえるだろう。好きになれとはいわんが(笑)。

 なお、本書には、なかなかお目にかかれない小栗虫太郎のエッセイも多数収録されている。この小説にしてこのエッセイ、という内容ではあるが、小栗ワールドを理解する助けとしては貴重であろう。


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 小栗虫太郎『潜航艇「鷹の城」』読了。収録作は以下のとおり。

「潜航艇「鷹の城」」
「地虫」
「倶利伽羅信号」
「人魚謎お岩殺し」
「一週一夜物語」

 前回に読んだ『青い鷺』から中一ヶ月。読みにくい作家なので、これぐらいのペースで十分だな、やっぱり。しかし、小栗作品の感想を書く度に「読みにくい」を連発していると、こっちの頭の悪さを告白しているようで嫌なのだが、やはり読みにくいものは読みにくい。

 一応、目玉は中編の「潜航艇「鷹の城」」ということになるだろう。前半は割と冒険小説的、法水が登場する後半は本格探偵小説的と、構成が大きく二つに分けられる点が特徴。だが一粒で二度美味しいというよりは、アンバランスな構成という印象が勝る。
評論などによると、「潜航艇「鷹の城」」はペダンティズムあふれる本格探偵小説からロマンティズムあふれる伝奇小説へと、作者の志向が移行する時期の作品であるとのこと。なるほど、確かにその変遷を伺うには意味のある作品といえるが、いかんせん強引な設定に無理があり、特に法水が登場してくる後半は違和感ばかりがつきまとう。

 なお、今や絶版の現代教養文庫版小栗虫太郎傑作選だが、このシリーズはとにかく解説が素晴らしい。作品ごとの校異から解題、解説と至れり尽くせりなので、現役の扶桑社文庫とちくま文庫を持っている人でも、本書は買っておく価値がある。難を言えば、作品に振られた番号が少々わかりにくくて不親切だが、それを差し引いてもお見事。


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 小栗虫太郎の『青い鷺』(現代教養文庫)読了。収録されているのは長編というか中編というか、「二十世紀鉄仮面」「青い鷺」の二作。どちらも初読である。
 『黒死館殺人事件』のインパクトが圧倒的に強すぎるため、なかなか他の長編については語られることが少ない小栗虫太郎だが、けっこう長編も書いている。それらもボチボチ読んでいこうという個人的企画である。

 まずは「二十世紀鉄仮面」。法水ものではあるが、ただの本格探偵小説ではない。これがなんと浪漫主義に満ち溢れた、血湧き肉躍る冒険小説仕立てなのである。名探偵法水からして黒死館や短編で見られるような面白味のない人物ではなくなっている。感情表現が激しく、敵と丁々発止の駆け引きを駆使し、おまけに多くの女性たちと浮き名を流すというから面白い。
 ただし、作品の完成度はと聞かれると少々辛い。個々のエピソードは探偵小説的で楽しめるが、物語全体の流れが悪く、読みにくさは相変わらず(まあ、他の小栗の作品よりはずいぶん読みやすい部類ではあるが)。特に場面転換などが改行もなく文中の一行でさらっと行われたり、それまで登場していなかった人物が、さも既出の人物のように出てきたりするので、思わず何か読み飛ばしたのか後戻りして確認することもしばしば。
 それでも前述のように、場面場面の展開は面白い。小栗が自ら浪漫主義に溢れる小説をめざして書いたと述べているように、読者を置いてきぼりにするという部分は遙かに少なくなっているように思う。贅沢に散りばめられた暗号やトリック(これまた相変わらず独りよがりではあるが)、派手なストーリー展開と設定は、読者を楽しませようという意気込みがひしひしと伝わってくる。法水その人こそイマイチだが、敵役の十九郎や複数いるヒロインたちの存在もそれぞれいい味を出している。
 そういう意味では明らかに初期の小栗作品とは一線を画しており、小栗虫太郎を語るうえでは、『黒死館殺人事件』同様に重要な作品といえるのではないだろうか。

 「二十世紀鉄仮面」が冒険小説なら「青い鷺」は伝奇小説か。タイトルどおりの「青い鷺」をキーワードに繰り広げられる秘密結社もの。読みにくさは「二十世紀鉄仮面」と同じレベル(くどいようだが、これでも読みやすい方です)だが、序盤から中盤にかけての勢いはなかなかのものがあり、我慢して読む価値はある。ただ、頻発する「青い鷺」のエピソードの仕方がなんとも強引で、だめな人にはだめでしょう(笑)。
 結局、ペダンティズムだ文体がどうだと言う前に、このトンデモ系のトリックが小栗虫太郎の好き嫌いを大きく左右するのではないだろうか。


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 引き続き小栗虫太郎。ちくま文庫の本作は、ノンシリーズものの本格探偵小説を集めた作品集で、現代教養文庫版が絶版となった状況を受けて編まれたものらしい。そのため現代教養文庫版とかなり作品がかぶっており、先日読んだ『白蟻』の収録作「完全犯罪」「白蟻」「海峡天地会」などは本書にまるまる収録されている。
 ただ、「海峡天地会」のようにバージョン違いがあったり、編者の気配りが感じられる。収録作は以下のとおり。

「完全犯罪」
「白蟻」
「海峡天地会」
「紅毛傾城」
「源内焼六術和尚」
「倶利伽羅信号」
「地虫」
「屍体七十五歩にて死す」
「方子と末起」
「月と陽と暗い星 」

 バラエティ豊かな作品はそろっているが、本格であろうが秘境ものであろうが時代物であろうが、ベクトルが常にあらぬ方向に向いている感は否めない。小栗自身は本格探偵小説を書こうとしていながら、その才気の為せる業とでもいおうか、常にアンバランスな世界を構築してしまい、そこに立たされた読者は目眩を覚えて立ちすくむのである。アブノーマルとも違うし、狂気とも違う。ああ、難しい。
 『白蟻』収録の三作の感想は四月六日の日記を見てもらうとして、その他の収録作では「紅毛傾城」「倶利伽羅信号」「地虫」「屍体七十五歩にて死す」あたりが好み。「倶利伽羅信号」なんてミステリとしていかがなものか、というレベルだが、無理矢理にシャム双生児にさせられるという設定だけでも読む価値あり。


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 小栗虫太郎の『白蟻』(現代教養文庫)読了。
 収録作は「完全犯罪」「白蟻」「海峡天地会」の三作だが、小栗虫太郎に関する日影丈吉や横溝正史のエッセイ、長田順行の暗号論なども収録されていてなかなか充実の一冊。

 小栗虫太郎のまとまった作品集を読むのはかれこれ二十年ぶりだが(まあ、アンソロジーなどではいくつか読んでいたが)、相変わらず読みにくさは天下一品。以前に比べたらこちらの読解力も上がっているはずだし、それほど苦労しないだろうと思ったのだが、全然そんなことはない。恥ずかしい話、状況を把握するだけでも厳しいときもあるほどだ。強烈な衒学と独特の文体というのがその大きな要因だろうが、小栗虫太郎ならではの特殊な世界観というものがそれに拍車をかけている。

 そんな中で「完全犯罪」は一応本格探偵小説の体を成し、比較的理解しやすい作品。しかし、舞台設定や犯罪の動機、トリックなどを知ると、「そんな馬鹿な」と叫びたい気もちらほら。とはいえ、そもそもそれが小栗虫太郎の味だし、個人的には決して嫌いではない。この著者ならではのワンダーランドで、トリックだの動機だのの合理性や常識を求める方が野暮なのだ。

 「白蟻」は落盤事故で助かった夫が別人ではないかと疑う妻の話。これだけだとシンプルな心理サスペンスかと思うところだが、読みにくさは「完全犯罪」の比ではなく、途中で何度同じページを読み直したことか。
 だが一人語りによる不気味なトーン、異様な迫力に満ちた畳みかけは小栗ワールドの真骨頂である。

 「海峡天地会」はマレーの秘境を舞台にした秘密結社ものかと思いきや、途中から一気に探偵小説っぽくなってしまうところが小栗虫太郎である。本作は当時の軍部を批判した作品として知られているが、リアルにこの作品を捉えた当時の風潮もある意味凄いものがあると思う。

 結局、探偵小説の衣は着ているが、やはり小栗虫太郎の小説は本来のエンターテインメントとは異なる道を求めているようにしか思えない。哲学というか、ある種の真理というか。そしてその真理を求める道は、我々の常識が通じない世界で構築されているため、読み手もまた大変な努力を強いられる。それを理解しないかぎり小栗虫太郎の作品を本当に味わったとは言えないのだろう。
 でもわからないなりにこのワンダーランドは中毒性も高いのである。


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