グラディス・ミッチェルの『踊るドルイド』を読む。
原書房のヴィンテージ・ミステリー・シリーズからの一冊だが、この叢書も一時期はコンスタントに新刊を出してくれていたが、最近はすっかり開店休業状態のようだ。長崎出版や新樹社といったあたりも同様だが、やはりビジネス的にクラシックミステリが難しいのは間違いない。そう考えると論創社や創元の頑張りはもっと評価されてしかるべきだろう。
それはともかく『踊るドルイド』。まずはストーリーから。
クロスカントリーレース「野ウサギと猟犬」でウサギ役を追っていた猟犬役の青年オハラ。ところが森の中で道に迷い、助けを求めに入った家で、なぜか重病人の搬送を手伝わされる。しかもその重病人、どうやら既に死んでいるようにも思え、危険を感じたオハラはそこを逃げ出してしまう。ようやく辿り着いたパブであらためて自分の姿を眺めると、シャツはひどく血だらけという有様だった。
自分は犯罪の片棒をかついでしまったのか。オハラは親友のガスコインに事情を打ち明け、二人でミセス・ブラッドリーに相談する。やがて過去に起こった奇妙な失踪事件が浮上し、事件は思いがけぬ方向へ。

冒頭のオハラ青年の奇妙な体験では一気に引き込まれる。これに踊るドルイドと地元で呼ばれるストーンヘンジの伝説がミックスされて、前半はなかなか悪くなかったのだが、残念ながらほどなく失速。最終的には『ソルトマーシュの殺人』『ウォンドルズ・パーヴァの謎』といった傑作には及ばない出来であった。
設定の妙とオフ・ビートな展開が特徴的なグラディス・ミッチェル。とりわけオフビート感が魅力ではあるのだが、これをもう少し突き詰めると、本格ミステリの胆をあえて外す面白さといってもよい。黄金期の作家でありながら、既に心はメタミステリというか、グラディス・ミッチェルは本格ミステリというジャンル自体を遊んでいるところがある。
その辺がいまひとつ理解されにくいのか、『ソルトマーシュの殺人』『ウォンドルズ・パーヴァの謎』あたりも個人的には好きな作品だが、あまり人気は出ないようだ。
話を戻すと、グラディス・ミッチェルのそういう危うい魅力が、残念ながら本作ではほとんど感じられなかった。
むしろお話としてはストレートすぎるというか、ミセス・ブラッドリーをはじめとして秘書のローラ、運転手のジョージ、青年たちが一緒になって調査活動に乗り出す様は、あまりに活き活きとしすぎているせいもあって、ジュヴナイルを読んでいるかのような錯覚に陥るほどだ(苦笑)。
逆にいうといつものミッチェル作品よりはわかりやすいし、楽しい面もあるのだろうけれど、それがイコール著者の魅力とは思えない。
ちなみに本作の刊行は1948年。解説によると、四十年代の作品はこの手の冒険活劇なタイプが多いということで、ううむ、それは困った(苦笑)。個人的にはもっとひねくれたグラディス・ミッチェル作品を読みたいのだがなぁ。