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 香山滋の『海底牢獄』読了。ジュヴナイルだが、以前に読んだ同じくジュヴナイルの『悪魔の星』がけっこうきつかったので、あまり期待せずに読み始める。

 名探偵と呼ばれた父を亡くし、母と二人で暮らす花山達夫少年。その彼のもとに行方不明だったユキ子からの手紙が届けられた。彼女は亡父の親友の娘だった。仕事で遠方へ行った親友の頼みで、花山家で預かっていたのだが、ほどなくしてユキ子は行方不明となってしまう。その彼女から1カ月ぶりに届いた手紙だ。ところが手紙を読んでみると、心配は無用とのこと。かえって不自然なものを感じた達夫は、名探偵と呼ばれた父に負けじと、自分の手でユキ子を見つけだそうと決意する。

 『悪魔の星』を読んだときには、ここまでご都合主義的でよいのかと思ったものだが、少し免疫ができてきたのか、あまり抵抗なく読める。だからといって本作がまともなのかというとそんなことは全然なくて、主人公たちのピンチの切り抜け方やストーリー展開は相変わらず凄まじい。乱歩や正史の少年ものとは明らかに別物である。とにかく話の膨らませ方がすごく、そういう意味では楽しめるのだが、真っ当な評価は難しい。読んで得るものも正直少ないし(笑)。
 ただ言えるのは、当時のジュヴナイル=少年向け小説は、現代のものより遙かに想像の幅が大きいということ。現代よりはるかに情報は少ないはずだが、だからこそ逆にイマジネーションが鍛えられたのだろうか。とにかくその点はあっぱれ。ある種の中毒性をもつのが怖いところだ(笑)。


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 この日記にあまりネガティヴなことは書きたくないが、ほんとに仕事でイライラすることが多い。俺自身、頭がいい方などとは夢にも思っていないが、ほんとーーーーーに世の中バカが多すぎる。日々募るイライラを読書によって少しでも解消できるってことだけでも、この世に探偵小説があってよかった思う。

 香山滋の『地球喪失』読了。地球侵略もののSFといってよいのか?
 ある科学者が偶然に入手した未知の地球外生命体シャドウ。しかし、研究が進むにつれ、科学者の助手は、それがやがて地球を喪失させるほどの危険性を孕んでいることに気づく。しかし研究者としての使命を優先する科学者は処分に反対したため、地球の運命を憂える助手は、秘かに研究所からシャドウを持ち出してしまった。しかし、逆にそれが皮肉な展開を招くことになる……。

 ううむ、微妙な作品である。メッセージ性の強い『ゴジラ』などとはちょっと異なり、地球外生命体という設定が、どうしてもリアルな読み方を拒否してしまう。ならば徹底したエンターテインメントなのかといわれると、肝心のシャドウがそれほど大暴れするわけでもないので、拍子抜けもするのも確か。どちらかというと人間ドラマ、強いて言えば科学者の職業的使命というところに著者の比重は置かれている。
 まあ、マッド・サイエンティストものとして読めば、それ自体が十分メッセージ性を持っているわけだが、それにしては登場人物たちの行動がどうにも納得しにくい部分も多く、ドラマとしても完成度は低いと言わざるを得ないだろう。
 ちなみにシャドウのイメージは、映画の『ゴジラ対ヘドラ』に登場したヘドラに近い(段階を経て、能力や形状が進化するところなど)。もしかしたら映画のスタッフはこの作品を参考にしたのではないだろうか。


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 本日の読了本は『怪奇探偵小説名作選10 香山滋集 魔境原人』。日下三蔵氏の編集による香山滋集で、あの人見十吉ものをすべて網羅した秘境冒険小説集である。

 秘境探検家の人見十吉が未知の宝や生物を求めて秘境を旅し、絶世の美女とロマンスに陥ったりしながら、数々の驚異に翻弄される物語。今では全集もあるし、アンソロジーでも多くの作品が読める人見十吉ものだが、こうして一冊にまとまって読めるという便利さはありがたい。
 また、まとめて読むことによって作品の質の推移もつかめるし(やはり後期のものほど弱さが目立つ)、シリーズものとはいえそれぞれが完全に独立した内容だと思っていた作品群が、意外とつながりを持っていることもわかって興味深い。実際、個人的には人見十吉ものってそれほど好みではなかったのだが、ちょっと評価を改めなければ、という気になってきた。

 ワンパターンではあるが、その奇想や語り口は香山滋にしか書けない独特のもの。変格と呼ばれていた探偵小説が好きな人には、間違いなくおすすめの一冊である。


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 相変わらずの休日出勤。楽になるのは九月の中旬過ぎか?
 とりあえずストレス解消のため、出勤前に渋谷東急の古書市と新刊書店へ寄って、しこたま買いまくる。古書市では少しずつ本当に少しずつ集めている「別冊宝石」を数冊、正木不如丘の『とかげの尾』(函欠けだけど安かったので嬉しい)など。新刊では『日影丈吉全集3』、マックス・アフォードの『魔法人形』、マイケル・ギルバートの『スモールボーン氏は不在』(もう出たのね)、横溝正史の『変化獅子』(これももう出たんだ)など。全部合わせると二万円あまり……ううむ、でもこのうち半分を日影丈吉が占めているのが恐ろしい。

 読了本は香山滋の『魔婦の足跡』(扶桑社文庫)。『魔婦の足跡』と『ペット・ショップ・R』の二長編を収録したお買い得版だが、『魔婦の足跡』は講談社の書き下ろし長編探偵小説全集版をけっこうなお値段で買ってあるのに、結局そちらを読む前に文庫になっちゃったというパターン。新刊ハードカバーの文庫化ならあきらめもつくが、古書として買ったものが文庫化されるとさすがに悲しい。

 それはともかくとして。まずは『魔婦の足跡』だが、こんな話である。
 童話作家・相良直樹の部屋に現れた謎の少女。彼女は相良の書いている小説の主人公、未知子の名をかたり、相良の秘密を知っているとほのめかす。さらには相良の恋人やその仕事仲間の貿易商の前にも現れ、それぞれの悪事を知っていると脅迫していく。三人は彼女に翻弄されつつも、手を組み、彼女を始末しようとするが……。
 ううむ、香山滋は奥が深い。いわゆる探偵小説とも、香山滋お得意の奇想小説とも違い、意外にもサスペンス色の強いミステリ。もちろんエロチシズムが根底にはあるのだが、ジャンル的には、途中まで本気でSF的な味付けをした幻想小説だと思っていたのだ(例えば「妖蝶記」や「キキモラ」のような)。
 それはひとえに主人公の未知子の突飛な行動に依るところが大きいのだが、この小説の魅力もまた未知子に大きく依存している。というか彼女がすべてだ。女性が持つ「魔」の部分、もしくは本能の部分をカリカチュアした未知子の存在に、他の人物はただただ翻弄され、そしてインスパイアされていく。この過程が実に面白い。そして後半の舞台となる未開の島において、物語は壮絶な結末を迎える。とってつけたような未知子の正体だけはちょっとマイナスだが、香山滋の女性観みたいなものが強烈に味わえる作品と言えるだろう。

 同時収録の『ペット・ショップ・R』は、女性の魔性やエロチシズムをさらに究めたようなサスペンス。
 証券会社に勤務する矢島京子は、あるとき「R」というペットショップから、十倍の給料を出すので働いてほしい、とスカウトされる。ペットショップのオーナーは動物学の権威、宇奈木晴美。あまりの条件に京子は恋人の佐山明に相談したが、偵察に向かった佐山は逆に晴美の虜となる始末。京子は佐山をかけ、あえて転職を決意するのだが……。
 こちらは登場する女性がそれこそ全員、未知子のような存在である。フェティシズム・レズビアン・サディズムなど、特殊な性癖が頻出するが、直接的な描写は少ない。しかし、それこそ行間からは芳醇なエロチシズムが溢れており、妄想を膨らませる。こちらも『魔婦の足跡』同様、いったいこいつらはどう決着をつけるのだという興味も出てくるが、ある意味これしかないというカタストロフィを準備しており、香山滋の女性観が色濃く出ている気がする。
 探偵小説とか幻想小説とか、そんな括りに囚われることのない。香山滋のジャンルは香山滋なのだ、そう再認識できる一冊であった。ただ『魔婦の足跡』、『ペット・ショップ・R』と続けて読むと、かなり胃にもたれます。


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 ようやく読書ペースが戻りつつある。本日はジュヴナイルでお茶を濁そうと香山滋の『悪魔の星』を持って家を出る。香山滋の子供向け作品は初めて読むので、どんなものか興味津々であった。

 東シナ海を我が物顔で暴れ回る海賊「悪魔の星」。幼い頃彼らに誘拐された山住譲治は、同じく誘拐された少女エミとともに脱出を決意する。追跡の手をようやく振り切り、ある孤島にたどりついた二人は、島でエミとそっくりの少女とその祖父と称する謎の老人に出会うが……。

 ううむ、子供向けだから多少のことには目をつむりたいが、これだけご都合主義の連発でこられるとさすがに辛い、っていうか、これならどんなストーリー展開もありでしょ。一応秘境冒険ものだが、それらしい小道具も海賊とか孤島ぐらいで、凝ったものは一切なし。しかも肝心の悪役があまりにパワー不足で、少年たちの前に立ちはだかるにはちょっと弱々しすぎ。あの大人もので見せるハッタリやケレン味はいずこ? どうした香山滋?
 いかに江戸川乱歩の書く少年探偵団シリーズがよくできているか、それを再確認できた作品ではある。


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 朝起きてもまったく熱が下がる様子もなく、会社を欠勤する。発熱したときには熱いうどんを食って目一杯フトンを重ねて汗をかきまくってひたすら寝る。ガキの頃からこの方法を用い、どんな高熱もわずか一日あれば平熱に回復できたのだが、この歳になると新陳代謝能力の衰えからか、そうは簡単にいかないようだ。といっても食欲がないからうどんも食っていないんだけど。
 それでも暖房を強めにして汗はけっこうかいて寝ていたため、午後過ぎから少しずつ熱が下がり始める。ちょっと安心して本日も軽いものなら、ってんで読み始めたのが香山滋『月ぞ悪魔』(出版芸術社)。まあ、軽くはないのだが、先月読んだ数冊とほとんど収録作がだぶっているため、とばし読みできるのがミソである。<よい子のみんなはこういう読み方はしないように。

「オラン・ペンデクの復讐」
「オラン・ペンデク後日譚」
「オラン・ペンデク射殺事件」
「海鰻荘奇談」
「海鰻荘後日譚」
「蜥蜴の島」
「エル・ドラドオ」
「処女水」
「美しき獣」
「月ぞ悪魔」
「心臓花」
「妖蝶記」

 収録作は以上。「美しき獣」以外は見事に昨年末に読んだばかりなので、ここでは作品ごとの感想はパス。そちらの日記を参照してほしい。ただ、こんなに短い期間で再読すると感激が薄れるかとも思ったが、要らぬ心配だった。ストーリーを知っていることに加え、こちらが熱で頭がぼおっとしていることもあって、ますますその妖美で偏執的な文体を深く味わうことができるのである。特に人見十吉ものやオラン・ペンデク等の秘境系は気分倍増である。
 まあ、だまされたと思ってやってみてください。発熱のときは秘境物に限る。ただし極寒を舞台にしたものは除く。あ、でもそういう設定のSFがあったような気が?


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 本日も香山滋。現代教養文庫版を読み終えたので、手近にあった講談社の大衆文学館シリーズから『海鰻荘奇談』を引っ張り出す。ところが現代教養文庫版とかなりの重複があり、ここ数日で読んだものは飛ばしていったため、アッという間に読み終えてしまう。収録作は以下のとおり。

「オラン・ペンデクの復讐」
「海鰻荘奇談」
「怪異馬霊教」
「白蛾」
「ソロモンの桃」
「蜥蜴の島」
「エル・ドラドオ」
「金鶏」
「月ぞ悪魔」

 管理人はたまたま現代教養文庫版で読んだばかりなのであれだけど、このラインナップは充実の一語。現代教養文庫版からさらに精選したという趣で、むちゃくちゃ粒ぞろいである。重複する作品については、現代教養文庫版の方の感想を見てもらうとして、ここではだぶっていない作品だけ感想をアップしよう。
 「蜥蜴の島」は大トカゲに育てられた女を愛してしまったレスビアンの女性が、彼女を愛するあまりにトカゲと同一化しようとする幻想譚。いったいどうしたらこんな設定と展開を思いつくのか。これだけでも強烈だが、著者はそれを耽美という衣にくるんで提供する。その味わいがまさに絶品。
 「エル・ドラドオ」は探検家、人見十吉のシリーズデビュー作。「毎度毎度事件の渦中にに入り込みすぎるのが個人的に好みではない」と12月13日の日記に書いたが、どうやらデビュー作から既にそのパターンは完成されていたようである。軟体人類の描写がえぐく、気持ち悪いが気持ちよい。
 「金鶏」は「妖蝶記」と同様、人獣交婚を扱った一作。シンプルだが「妖蝶記」ほどの力強さはなく、ややあっさりめ。この一冊のなかでは最も物足りなさが残る。


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 現代教養文庫版の「香山滋傑作選」三冊目、『妖蝶記』が本日の読了本である。まずは収録作から。

「海鰻荘奇談」
「妖蝶記」
「月ぞ悪魔」
「北京原人」
「キキモラ」
「ガブラ」

 相変わらずの古生物学的趣味爆発のラインナップ。なんとも魅力的な響きのタイトルが並ぶ。やはり三一書房の全集が買えない人は、この現代教養文庫だけでもそろえておいた方がよいだろう。こちらもそれなりの古書価格だが、まあ、全集をそろえることを思えば安いものである。

 「海鰻荘奇談」はプールいっぱいのウツボを飼う屋敷で起こった殺人事件。犯行手段が独創的っていうか、こんな話、まともな推理作家に書けるはずもない(笑)。幻想的な舞台設定がなんともいえない味の傑作。ただし、第二部は後年に付け足されたもので、どちらかというと蛇足っぽい。

 「妖蝶記」。蝶女と主人公の恋愛&対決が怪しげかつ美しく語られる。「妖蝶記」や「海鰻荘奇談」もそうだが、香山作品の登場人物たちはおしなべてその執着心の凄まじさが大きな魅力である。マッド・サイエンティストはもちろんマッド・ワイフとかマッド・シスターとかマッド・バタフライとか。それが物語に異様な緊張感を生むのだ。

 「月ぞ悪魔」も恋愛要素が入るが、ヒロインは腹話術を至高の芸にまで高めた女性という奇妙な設定がそそる。最後に暴かれるヒロインの秘密は、この手の話が好きな人なら予想がつくだろうが、初めから知っていたとしてもその味わいを損なうことはないはず。極上のホラー小説である。好み。

 「北京原人」はあまりピンとこなかった作品。秘境冒険もの、もしくはスパイものの範疇に入るのだろうか。タイトルどおりの話を期待するとちょっと裏切られる。

 「キキモラ」は珍しくオチを効かせた作品。キキモラという女中志願の少女が、発狂した主人と、それを介護する妻の家に現れる。実はキキモラは幸福な人々が住む家を訪れ、その家を不幸にするという妖精なのだ。果たして主人公夫妻の運命は……というお話で、構成や展開もうまく、私が香山傑作選を編むとしたら絶対に入れたい一作である。

 「ガブラ」は、核実験によって生まれたガブラというジンベイザメの化け物を登場させて、かなりストレートに文明批判をぶち上げている一作。こう書くと、香山の代表作『ゴジラ』がすぐに連想されるが、本文中でもゴジラの話がちらりと触れられていて楽しい。ちなみにこれは著者の遺作になる。


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 中毒性が高いと先日の日記に書いたとおり、本日の読了本も香山滋。お次は同じく現代教養文庫から『オラン・ペンデクの復讐』。
 香山滋は探偵作家として紹介されることも多いが、しかしながらその作品は圧倒的にSF・幻想系である。また、古生物学に強い興味をもっていたこともあって、数々の不可思議な生き物が登場する作品も多く、映画『ゴジラ』の原作者であることは有名な話だ。本日読んだ『オラン・ペンデクの復讐』には、そんな香山の古生物学的興味が凝縮された作品が採られている。

「オラン・ペンデクの復讐」
「オラン・ペンデク後日譚」
「オラン・ペンデク射殺事件」
「美しき山猫」
「心臓花」
「蜥蜴夫人」
「処女水」
「ネンゴ・ネンゴ」
「天牛」

 「オラン・ペンデクの復讐」は戦後の探偵雑誌「宝石」の懸賞募集で当選した著者のデビュー作。スマトラで発見されたというオラン・ペンデクという新人類の真偽、その報告会での学者の突然死が一気に読者を引き込むが、ちょっと強引すぎる気も。しかし、香山滋のやりたかったことはこのデビュー作ですでに十分顕れている。

 「オラン・ペンデク後日譚」は上の続編で、夫に父を殺された妻の冒険談が柱。また、「オラン・ペンデク射殺事件」は安住の地を求めるオラン・ペンデクたちに一応の決着を見せている。この三作をまとめて読んだのは初めてだが、けっこうスタイルを変えていることに気づく。しかし、ともにメッセージ性の強い作品であることに変わりはなく、解説にもあるように反文明、原始思慕の精神は著者にとって不変のものなのだ。

 「美しき山猫」「心臓花」はどちらも冒険家人見十吉シリーズの一作。幾多の不思議な経験を積んでいる人見十吉なのに、毎度毎度事件の渦中に入り込みすぎるのが個人的にはあまりいただけない。もっと語り部としての存在に徹した方が効果的だと思うのだが。もっともそういう整合性みたいなものをこのシリーズに求めるのは野暮な話ではある。実際「美しき山猫」のギラギラしたヒロインは大変魅力的で、お話そのものは大変好み。

 「蜥蜴夫人」は残念ながら本物のトカゲ女が出てくるわけではない(笑)。あくまでトカゲの持つイメージを備えた女性の話。しかし、蜥蜴夫人ばかりか登場人物全員が巻き込まれる愛憎のドラマは凄まじいの一言。

 「処女水」は「怪異馬霊教」と同じような構造で、序盤の本格風味が後半でいつのまにか香山ワールドに取って代わられているという、これまた大好きな作品。こんな謎解きありか、と怒る人は香山滋を楽しむ資格はない。

 「ネンゴ・ネンゴ」は珍しく庶民的ヒューマニズムでラストを締めくくった作品。といってもそれに至るまでの過程はミステリー風味、伝奇的風味が錯綜して、小粒ながら捨てがたい作品。

 「天牛」は本編も悪くないのだが、巻末の中島河太郎の解説が笑える。中島先生の解説って基本的には温厚なのだが、この言い方はひどくないか(笑)。


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 先日読んだ城昌幸に触発されて、無性に古典が読みたくなる。しかも本格ではなく、めいっぱい幻想的なもの。というわけで香山滋『ソロモンの桃』に手を出す。現代教養文庫版の「香山滋傑作選」の一冊で、収録作と感想は以下のとおり。

「ソロモンの桃」
「怪異馬霊教」
「白蛾」
「殺意」
「蝋燭売り」

 「ソロモンの桃」は香山滋初の長編(といってもかなり短いが)。探偵小説でもなんでもなく、H・R・ハガードをより蠱惑的にしたようなお話。秘境冒険ものでありながら幻想小説にもなっており、語り口の古めかしさというか、はったりの効いた文章がまたそそられる。ただし、冒険味の方が勝ちすぎているきらいはあり、個人的にはやや好みから外れる。

 「怪異馬霊教」は過去何度読んだことやら。前半は横溝正史ばりのおどろおどろしい本格探偵小説的展開を見せていながら、後半では一気に強烈な幻想的世界へとなだれ込む。この不可思議な落差が心地よい。初めて読んだのは二十年ぐらい前だったと思うが、当時は激しくショックを受けた作品。大好きです。

 「白蛾」は透明人間やら木乃伊やら原人やらが激しく登場する、胡散臭さ爆発のスパイ小説? もうむちゃくちゃ。でも面白い。各章の終わりには、タイトルにもある白蛾が何かを暗示・象徴するかのように毎回現れるが、はっきり言ってまったく意味不明。いったい何の象徴なんでしょうか?

 「殺意」は香山滋にしてはわりと地味。といっても冒頭から三ページ目にして、もうかなりとんでもないことにはなってますが(笑)。ちょっと乱歩っぽい。

 「蝋燭売り」は、「笑うセールスマン」みたいな話といえばわかりやすいか。ただし藤子不二雄よりはさらに意地の悪い展開と結末を用意しており、後味は苦い。

 初期の傑作を集めたものなので、アンソロジーなどに収録されたものが多く、ほとんどが既読。だがあらためて読むとやはり香山滋という作家の個性に驚かされる。おそらくまったく免疫がない人が読むとトンデモ本と思われそうな作品揃いだが、この魅力は他の作家で代用が効かないため、ずるずる香山ワールドの虜になってしまうのである。タイプは違うが山田風太郎なども同じく代用が効かない作家の一人で、こういうオリジナリティの強い作家はほんと中毒性も高いから怖ろしい。


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