フランシス・ビーディングの『白い恐怖』読了。ポケミス名画座シリーズの一冊で、ヒッチコックが映画化した作品らしいが、映画の方は毎度のことながら未見。考えると古典的なスリラーや犯罪映画はあまり観てないなぁ。
ちなみにフランシス・ビーディングというのは二人の作家による合作のペンネームらしい。海外のサイトで調べたら32作の長編があり、妙に数字のついたタイトルが多く、シリーズか何かなのだろうか?
それはともかく。本作はこんな話。
フランスのとある古城を改修した精神病院で院長を務めるエドワーズ。彼は体調不良から長期休暇に入ることになり、代わりにマーチスン医師が赴任してくることになった。しかしマーチスンは到着直前、移送してきた患者に襲われ、なんとか取り押さえたものの介護士を殺されてしまう。やがて病院はいつもの平静を取り戻し、新たに一人の新人女医コンスタンスが赴任してくることになる。時を同じくして、病院の周辺では、小動物の惨殺事件が起きるようになった……。
病院、とりわけ精神病院を舞台にしたスリラーは、たいてい怖さが際だつものだが、本作もその例に漏れず「怖さ」という点ではなかなかのものがある。人里離れた古城という舞台設定はもちろん、じわじわと忍び寄る不安の盛り上げ方は上手い。また、患者たちの奇妙なやりとりもユーモラスななかに不気味さが浮かび上がる。門外漢のこちらを素直に納得させる説得力もあり、読みどころのひとつといえるだろう。
ただ、典型的なゴシック・ロマンということもあり、ミステリとしてはあまり満足できるものではなかった。徹底的に受け身な女性主人公というのが昔から好きになれないということもある。まあ、謎解きとか、そういうものを求める作品でもないのだが、主人公がいてもいなくても事件の解決にほとんど影響しないというのは、いかがなものだろう。