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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジョン・フランクリン・バーディン『殺意のシナリオ』(小学館)

 知人の陶芸家の個展を観に表参道へ。はっきり言って陶芸の良し悪しはよく解らないのだが、とりあえずお好みの皿を一枚購入。もちろん飾るとか収集とかではなく、使うために。

 新潟を中心に広い範囲で地震。震度6という凄さで、東京でもけっこう揺れを感じる。余震も多いようで、この日記を書いている最中にも震度2ぐらいのヤツがくる。慌ててテレビをつけると、どうやら新潟ではかなり凄まじい状況になっているようだ。

 ジョン・フランクリン・バーディン『殺意のシナリオ』読了。
 広告代理店に勤めるフィリップは、元は冴えない新聞記者。しかし結婚した妻と義父のおかげで経済的にも恵まれ、広告代理店でも高いポジションに就いていた。しかし彼はそんな境遇にもかかわらずアルコールと浮気に溺れ、徐々に周囲の信頼を失いつつあった。そんなある日、彼のオフィスのデスクの上にタイプ原稿が置かれていた。「告白」と題されたその原稿には、何とこれから起こるであろう出来事が記されている。アルコールに溺れるフィリップは「告白」が自分が書いたものなのか、誰かのいたずらなのかも判断できない。そしてその予言が現実のものとなっていくにつれ、フィリップはさらに精神に変調をきたしてゆく……。

 『悪魔に喰われろ青尾蠅』、『死を呼ぶペルシュロン』という異色作ばかりを書いているバーディンの第二作。
 邦訳が出ている上記の二作に比べれば、遙かにミステリっぽい本作だが、状況自体はやはりミステリアスだ。「告白」がどのような仕掛けになっているのか、興味は主にその点に絞られるが、ごく限られた登場人物ながら複雑な設定をとっているため、主人公の行動もあいまってなかなか真相は見抜けない。
 主人公がじわじわと破滅へと向かっていく道筋が、実に丹念に語られていて、心理描写も秀逸。何が現実で何が夢なのか、読者は次第に幻想の世界に引っ張られてゆくが、その過程を楽しむべき作品であると思う。先日読んだばかりの『二つの脳を持つ男』の感想でも書いたばかりだが、いわゆる近年のサイコ・スリラーとはまったく異なる、上質のミステリーである。おすすめ。


ジョン・フランクリン・バーディン『死を呼ぶペルシュロン』(晶文社)

 ジョン・フランクリン・バーディンの『死を呼ぶペルシュロン』を読む。

「先生、俺、きっと頭が変なんです」
髪に赤いハイビスカスを挿した青年の話は、その外見さながらに変なものだった。青年は小人に雇われ、さまざまな奇妙な仕事を引き受けては小金を稼いでいるのだという。話に興味をもった精神科医は、彼と同行してその小人に会いに行くのだが、やがて悪夢のような事件に巻きこまれてゆく。女優の殺人事件、容疑者となったハイビスカスの青年、そして精神科医自らも精神病院に収容されるはめに……。

 なんというか、あの『悪魔に喰われろ青尾蠅』を書いた作者だし、前評判も聞いていたのである程度予想していたつもりだったが、さらにその上をいく奇妙なミステリである。特に前半は設定そのものがおかしなうえに、展開がまったく読めない。精神科医が病院で目覚めるあたりでは、「そうきたか」という感じ。終盤ではやや普通のミステリらしくなるものの、かなり強引などんでん返しを見舞ってくれるので、その意味ではリーダビリティは高いといえるだろう。

 だがミステリとしてはいまいち。その奇抜な設定そのものが説得力をもたず、強引すぎる展開と解決には思わず引いてしまう。
 文体や描写はまともだし、ミステリとしての衣をけっこうしっかり纏っているのでつい騙されてしまうが、やはりこの人の抱えるテーマは別のところにあると言ってよいのではないか。作家では思い浮かばないが、デビッド・リンチ監督と似た作風といえば、わかってもらえるだろうか。
 とにもかくにも個性が強すぎるので、読者を選ぶことは間違いないだろう。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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