セシル・デイ・ルイスといえば英国の著名な詩人であり、かつては詩人として最高の称号である「桂冠詩人」の地位を授かった人物。といっても日本でその名を知っている人は、文学関係者以外あまりいないのではあるまいか。むしろ有名なのは、本格探偵小説を書く際のペンネーム、ニコラス・ブレイクであろう。
本日の読了本は、そのブレイクが本名のセシル・デイ・ルイス名義で書いたジュヴナイル『オタバリの少年探偵たち』。
オタバリ市の通称「どかん場」とよばれる焼け跡は、まさに子供たちの格好の遊び場だった。現実に爆弾が落ちたその場所は、戦争ごっこに最もふさわしく、わんぱくグループが二手に分かれ、常に抗争を行う始末。だが、ある少年が教室の窓ガラスを割ってしまったことから、グループには和平交渉が結ばれ、新たな冒険の幕が開くのであったーー。

ニコラス・ブレイクは個人的に大のお気に入りの作家である。とはいえ所詮はジュヴナイル、あまり先入観や期待を抱くのは禁物と思いながら読み始めたのだが、いやいや、これはいける。大人向けのミステリではあくまで渋く、奥行きのある人間ドラマを見せてくれるブレイク。だが、ジュヴナイルでは打ってかわってサービス満点、凄いハジケッぷりなのだ。
主役を張る子供たちはどちらかというと悪ガキばかりだ。だがいざとなれば彼らは知恵も回るし勇気もある。そして何より友情に厚い。『三銃士』での有名なセリフ「全員はひとりのために。ひとりは全員のために」の精神なのである。
そんな子供たちの活き活きとした言動がとにかく痛快なのだ。これは著者はもちろんだが、訳者の瀬田貞二氏の功績も大きいだろう。さすがに今では少々古くさく感じるところもあるのだが、基本的にはスピード感溢れる名調子。いい味である。
さて、子供たちは窓ガラスを弁償しなければならない仲間のために、全員でお金集めに奔走することになる。しかし、いったい子供たちがどうやってお金を集めればいいのか? その手段は正攻法ありインチキありで、ここがまず最初の見せ場といってよい。
次のヤマはせっかく貯めたお金がなくなってしまうあたり。犯人として疑われた少年を裁くため、子供たちは何と模擬裁判を開くのである。悪ガキには悪ガキならではのフェアプレイ精神が息づき、屁理屈を並べて進行する裁判はなかなかの見もの。
さらには、ここから子供たちが容疑のかかった少年を救うため、捜査を開始する展開となる。ここでも適当な捜査でお茶を濁すのではなく、ちゃんと伏線などを張ってミステリとしての体裁を整えているのはさすがだ。しかもホームズもどきの変人を出してみたり、遊びも忘れてはいない。
そしてクライマックス。ここでは周到に計画された子供たちの一大作戦が展開され、しつこいぐらいのアクションで読ませていく。ああ、もうお腹いっぱいである。ジュヴナイルとはいえ、これをニコラス・ブレイクが書いたとは俄には信じがたいほどだ。ううむ、やはりブレイクは侮れない。
ところで本作、実は長らく品切れだったようなのだが、近々、新訳(脇明子訳)で重版されるとのこと。未読の方、これを機会にぜひ。