ヘンリー・ウエイドの『大学生の失踪』を読む。湘南探偵倶楽部さん復刻の短編で、もとは『新青年』1938秋の増刊号に掲載されたもの。嬉しいことにシリーズ探偵のジョン・プール警部ものだ。

オックスフォード大学で一人の大学生が失踪し、捜査を命じられたロンドン警視庁のジョン・ブールはさっそく大学へ向かう。失踪に関係するようなトラブルなどは一切ないようだったが、唯一、学生の部屋に借金の事実を示す手紙の切れ端が見つかった……。
ヘンリー・ウエイドといえば英国のクラシックミステリを代表する一人。これまで邦訳された長篇は
『議会に死体』や
『塩沢地の霧』など、どれも満足のいく作品ばかりだったけれど、そういえば意外に短編の紹介は少ないようだ。今回、湘南探偵倶楽部さんが復刻したものには、もう一冊ヘンリー・ウエイドの「決闘」があって、そういう意味ではなかなか貴重である。
ただ、久々にヘンリー・ウエイドの短篇を読んだけれど、本作についてはちょっとトホホな感じ(苦笑)。導入は悪くないのだけれど、犯人のトリックがアレなもので、どちらかというとバカミスの一歩手前ぐらいの感じである。
表面的には本格っぽい作りではあるけれど、犯人像や犯行手段ががかなり特異なので(具体的に書くとすぐにネタバレになってしまうので、あやふやな書き方しかできないが)、むしろ“奇妙な味”として読む方がいいのかもしれない。まあ、ウエイドがこんな作品を書いていたのだというネタにはなるか(笑)。