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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

マーク・トウェイン『トム・ソーヤーの探偵・探検』(新潮文庫)

 マーク・トウェインの『トム・ソーヤーの冒険』は、『探偵』と『探検』を合わせて三部作になっていることをご存じだろうか。
 『冒険』は「新潮文庫の100冊」とかのフェアでは定番だし、教科書などにも載っていたりするから大抵の人は知っているだろうが、問題は『探偵』と『探検』である。三部作とかいう前に、私などはトム・ソーヤーが登場する小説が他にも存在することすら知らなかったのだが。数年前に新潮文庫が復刻フェアをやったときに書店で見て、初めて知った次第。
 そもそもこの2作は『冒険』と違って中編程度の長さしかないこともあり、新潮文庫では合本『トム・ソーヤーの探偵・探検』として出版されているが、それにしてもなぜこちらだけ長らく絶版になっていたのか。

 で、この度ようやく読む機会を得て、その理由がある程度理解できた。まあ予想通りではあったが、やはりこれは単純に内容の問題であろう。
 『探偵』はひと言で言うと推理小説のエピゴーネン。けっこう構成はそれらしいが、いかんせんこのレベルではミステリとして評価できる代物ではない。ちなみにワトソン役はハック、トムはもちろんホームズ役である。

 いっぽうの『探検』は、トムとハック、ジムの三人が気球に乗って旅をするというかなり無茶苦茶なファンタジー。
 舞台はおもにサハラ砂漠やエジプトであるが、アラビアン・ナイトやほら吹き男爵を意識していたのか、他の作品のようなリアリティは一切無視しているところが凄まじい。途中途中で繰り広げられるトムvsハック&ジムの議論はけっこう楽しめるが……。ラストも唐突で、たまには変な話を読んでみたいという人は、試してみてもいいかもしれない。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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