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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

スタンリー・ハイランド『緑の髪の娘』(論創海外ミステリ)

 スタンリー・ハイランドの『緑の髪の娘』を読む。ハイランドの著書はかつて国書刊行会から『国会議事堂の死体』が出ているが、これが何とも微妙な出来だったので、本作もおっかなびっくり読み始める。

 こんな話。英国北部に位置する西ヨークシャー州の町ラッデン。その地でブランスキルが経営する毛織物工場で工員の死体が発見された。被害者は若いイタリア人の女性で、おぞましいことに彼女の髪と遺体は染色桶の中で茹でられ、緑色に染まっていた。
 ラッデン警察署のサグデン警部をはじめとする刑事たちはさっそく捜査に乗り出すが、やがて被害者がいろいろと曰く付きの奔放な女性であることが発覚、彼女の交友関係から複数の容疑者が浮かび上がる……。

 緑の髪の娘

 面白い。個人的にはけっこう面白いと思ったが、完成度はやはり微妙だし、こりゃあ好き嫌いが出るだろうなぁ(苦笑)。

 ツカミは素晴らしい。なんせ緑色に染まった女性の死体が発見されるという幕開けである。緑色の死体が登場するミステリなんて、おそらく初めて読んだと思うが、なぜ犯人は被害者を緑色にする必要があったのか、さらにはなぜ染色桶で茹でる必要があったのか。ストレートながらも実に魅力的な謎ではないか。
 こりゃあ相当サイコなミステリなのかと思っていると豈図らんや。あまりそちらの方向に話は進まず、被害者女性の交友関係から、いたって普通に捜査が進んでいく。しかもノリがそれほどシリアスではなく、主人公格のサグデン警部が、ポーターのドーヴァー警部やウィングフィールドのフロスト警部、はたまたラヴゼイのピーター・ダイヤモンド警視あたりを彷彿とさせる魅力的なトンデモキャラクター。部下もひと癖ある連中ばかりで、彼らのやりとりが滅法楽しい。
 と、思っていると、今度はスパイ物の雰囲気を醸し出し、そして最後にはまたまたサイコに帰っていくという、とにかく読者の予想を裏切る展開が面白い。ただ、物語がスムーズに流れるかというと決してそこまで達者なわけでもなく、著者もどこまで意図的にひねくれてやっているかは不明である。

 結局こういうカオスな物語をどこまで受け入れられるかによって、本書の評価は大きく分かれるところだろう。最初に書いたように、個人的には許容範囲で楽しく読めたので、ちょっと変わったミステリが読みたい人には一応おすすめとしておこう。


スタンリー・ハイランド『国会議事堂の死体』(国書刊行会)

 仕事の関係で、幕張で行われている東京ゲームショー2004に出かける。ここ数回のなかでは最も活気があったかもしれない。ドラゴンクエストVIIIや新ハードのPSP、DS等が年末に控えていることがやはり大きい。業界にとってはいいことです。

 家に帰ると、エミルオンから刊行されたドイル小説全集の第1巻『緋色の研究』、第2巻『クルンバー館の謎』が届いていた。装丁は大学の教科書っぽい雰囲気で、変に凝ってない分好感がもてる上品な出来。今後、刊行の度に送られてくるのだが、また楽しみが増えました。
 ところでこのコナン・ドイル全集。今月の本の雑誌で紹介されていたとおり、コナン・ドイルの翻訳で知られる笹野史隆氏がその全小説をすべて単独で訳し、娘さんがそのために興した会社で刊行するという、一家総出で乗り出した一大事業である。
 値段は少々高めだが、100部限定ということであればこれは仕方あるまい。なんせ注文が少なくなれば刊行中止もあるというのだ。とにかく最後まで頑張ってほしいものである。

 読了本はスタンリー・ハイランドの『国会議事堂の死体』。
 英国国会議事堂の時計塔ビッグ・ベンの改修工事中に、壁の中から死体が発見される。死体は後頭部を打ち砕かれていたが、すでにミイラ化しており、およそ100年前のものと推定された。事件に興味を感じた若手議員ヒューバート・ブライは調査委員会を組織し、謎の解明に乗りだすが……。

 前半は委員会の面々がさまざまな資料を集め、それをもとに推理を披露しあうという展開。『時の娘』+『毒入りチョコレート事件』風とでもいおうか、一応は歴史ミステリ仕立て。
 しかし後半に入ると、些細な事実からそれまでの推理が一気に崩壊する。ある意味、真相が明らかになるクライマックスより、このシーンの方がミステリとしては魅力的かもしれない。また、そうはいいつつも、真相も十分に魅力的である。
 ただ残念ながら物語の六割は占めようかという議員たちの推理合戦が、個人的にはなんとも退屈。そもそも机上の論理に終始しがちな歴史ミステリをあまり好きでないこともあるが、特に歴史的な人物を対象にしていないこともあって「誰がアクロイドを殺そうが」的気分に襲われる。おまけに稚気あふれるはずの国会議員のやりとりがそれほど楽しめないのも辛い。
 本格好きなら前半を我慢してでも読む価値はあるが、たんなるミステリ好きには、この前半が耐えられるかどうか微妙なところだ。私はかろうじて。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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