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 古本屋を何軒かのぞいて帰京。飲み過ぎのせいでもないと思うが体調いまひとつ。

 数あるハードボイルドの中でも屈指の異色シリーズといえるのが、このビル&リディアもの。一人称であるにもかかわらず、一作ごとに白人の私立探偵ビルと中国系の女性探偵リディアが交替で主人公を務めるという変わり種である。
 二人の探偵は人種も世代も性別も違うから、当然あらゆる局面で価値観や生き方の違いをぶつけあうことになる。だが事件の捜査を進めるなかで、人間の根元的な部分や普遍的な部分を見いだし、それを明日への糧として生きていくわけである。したがっていい意味でも悪い意味でも興味がそちらに向かいがちで、それが弱点と言えば言えるだろう。つまり、語り口は良いし、マイノリティについて考えさせられる部分は興味深いのだが、肝心の事件そのものが弱いのである。
 本日の読了本『苦い祝宴』も、その範囲を越えるものではない。
 チャイナ・タウンで最近盛り上がりを見せ始めた、従業員の組合活動に絡む出だしなどは面白いし、それが密入国や麻薬密売に絡むという展開は悪くないのだが、それでもリディアと街のボスとのやりとりの方がはるかに面白い、というのはいかがなものか。ネオ・ハードボイルドの血を受け継ぐシリーズだから(と勝手に思っているが)、主人公の生き方そのものが重要なのはかまわない。ただ特に本作はリディア個人に深くスポットが当たりすぎ、ミステリーとしての影は薄い。
 スペンサーもののように数十作書かれたシリーズならあきらめもつくが、本作はまだシリーズ五作目。キャラクターだけで読ませるには早いはずだ。打率は決して悪くないのだから、次は強烈なホームランを期待したい。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 ガチガチのハードボイルドではないが、ハードボイルドの甘い部分(というのも変な言い方だが)をうまく活かしたシリーズというものがある。ハメットが作り出した、非情さと乾いた文体を突き詰めた本来のハードボイルドとは異なり、それは「卑しい街を歩く騎士」の部分を強く打ち出したロマンの香り高きハードボイルド。そして結局その元祖がチャンドラーだと思うのだが、現代のミステリにおいてはむしろそちらの方が主流ではないかとさえ思えるほど、甘口のハードボイルドが多い。ハメットを祖とする純粋なハードボイルドが持っていた役目は、いまやノワール系が担っている観もあるが、それはまた別の機会に。
 ただ、こう書いたからといって、甘口ハードボイルドを否定するわけでも嫌いなわけでもない。個人的にはかえってこれがツボだったりするのである。ちなみに創元推理文庫にこのタイプの優秀なシリーズが多く、S・J・ローザンのビル&リディア・シリーズ、マイケル・ナーヴァのゲイ弁護士ヘンリー・リオス・シリーズ、ドン・ウィンズロウのニール・ケアリー・シリーズは、絶対見逃せないシリーズである。正味な話、甘口とはいうもののこれらをハードボイルドと読んでいいものか若干迷う部分もあるのだが、とりあえずオススメのシリーズであることは間違いない。

 というわけでS・J・ローザン『どこよりも冷たいところ』。マッチョ系の私立探偵ビル・スミスと、華奢で可憐な、でも負けん気の強い中国系の女性探偵リディア・チンのコンビが活躍するシリーズ四作目である。
 今回の事件はマンハッタンの建設現場で行われている工具の横流しやクレーン操作係の失踪事件に端を発する。疑わしいレンガ工の班長を内偵するため、ビルが作業員として覆面捜査に乗り出すのである。しかし、ビルが働き始めた途端に工員が重傷を負い、さらにはエレベーターシャフトで死体まで発見され、事態は思わぬ局面を見せ始める……。

 このシリーズの特徴は何といっても、一作ごとにビルとリディアが交替で一人称を務めることにある。今回はビルが主人公兼語り部だが、活発なリディアに比べるとやはり落ち着いたトーンが全体を覆っている。リディアと共に事件に入り込むため、どうしてもマッチョな役割を意識するビルだが、根はピアノを愛する無骨なロマンチストでもある。その性格や感性は捜査にも反映し、ビルの行動は変に力の入ったところがなく、実に自然体だ。そのバランスが崩れるのはリディアが危険に巻き込まれる場合に限り、しかも本作では逆にリディアに助けられるシーンもあったりするので、この辺は作者が物語のためのキャラクター造形を実に研究しているなという印象を受ける。良くも悪くも二人の魅力とその他の登場人物の描写で読ませるシリーズなので、この安定感が最大の武器であろう。
 また、事件も規模は決して小さくはないが、あくまで私立探偵が解決できる範囲に収め、ストーリー展開が実に手堅い。事件の裏に隠されたものも人間の業みたいな部分をしっかり抑えており、そつがないというか見事というか。まさに読み手を選ばない良質のミステリであり、そういう意味ではもっともっと読まれてもよい作品&シリーズだろう。
 甘口だが、彼らもまた騎士として、しっかりと卑しい街を歩いている。それは認めなくてはならない。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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