fc2ブログ
ADMIN TITLE LIST
Selected category
All entries of this category were displayed below.

 年末ランキングで気になった作品をぼちぼち読んでいこうシリーズ、今回はエリー・グリフィスの『見知らぬ人』。本邦初紹介の作家ではあるが、本国イギリスでは2004年にデビューして、すでに二つの人気シリーズを持つ。本作はノンシリーズの一作だが、MWAの最優秀長編賞受賞作とのこと。

 クレアはタルガース校の英語教師。弁護士の夫と離婚し、今は一人娘のジョージア、愛犬のハーバートと暮らしている。
 教師のかたわら学校に縁のある伝説的作家ホランドの研究を行なうクレアだったが、あるとき同僚の英語教師エラが自宅で刺殺される事件が起こる。遺体のそばには一枚のメモが遺されていた、そこには「地獄はからだ」というメッセージが書かれていた。それはホランドの作品「見知らぬ人」に出てくる文章だった。
 インド系の女性部長刑事ハービンダー・カーはさっそく捜査にあたるが、クレアにどこかすっきりしないものを感じて……。

 見知らぬ人

 おお、これはいいぞ。ひと皮剥くと実はかなりオーソドックスなミステリであり、ともすればゴシックロマンスの香りも感じられるほどだが、作者がさまざまな味付けや工夫をすることで、すっかり現代のミステリらしく仕上がっている。

 とにかく情報量が多くてどこから行こうか迷うほどだが、まずは作中作「見知らぬ人」の存在は抜きにして語れない。今年は他にもホロヴィッツの『ヨルガオ殺人事件』やアレックス・パヴェージ『第八の探偵』なんてのもあって、作中作流行りという感じだが、どれも扱いが異なるのが面白い。
 最近は作中作といってもメタなものから多重解決みたいなものまでバラエティに富んでいるが、本作は比較的クラシックに、見立て殺人という使い方をしている。他の二作ほど劇的ではないけれど、作中作「見知らぬ人」とその作者ホランドの持つ神秘的なイメージが物語を覆い、まるでゴシックロマンスのような雰囲気を醸し出すなど、なかなか効果的だ。

 作中作「見知らぬ人」は各章の前振りのようにして小出しにされるのだが、章によって語り手が変わるのも大きな特徴だろう。語り手はクレア、クレアの娘ジョージア、ハービンダー・カー刑事の三名。
 語り手が変わった瞬間に、これは叙述的な仕掛けもあるのかと嫌な予感も頭をよぎるが、著者はここでも変な凝り方はしない。一つの事件を各人の立場から語ることで立体的に見せるにとどめ、これも好感が持てる。それぞれの感情や秘密が水面下で交錯し、そこにサスペンスを産んでゆく。読者も誰を推していいのか不安になるという寸法だ。クレアとジョージア、クレアとカーのやりとりは駆け引きを裏から見るような楽しみもあり、サスペンス云々もあるけれど、単純に描写が上手いことに感心する。
 作中作、三人の語り手というだけでもお腹いっぱいな感じだが、ここにクレアの日記も途中から差し込まれる。しかもその日記を誰かが盗み読みし、クレアにメッセージまで残していくという展開。盛り上げるのが巧いだけでなく、これだけの設定や工夫を盛り込みながら、まったく読みにくさがないのも素晴らしい。

 キャラクターの造形もお見事。当たり前だがやはり三人の語り手の女性陣はいい。いわばトリプルヒロインだが、ことさら良い人にするのではなく、お互いの私見で描写させることで、欠点も遠慮なく挙げられていく。読者によっては感情移入しにくくて嫌がる人もいるだろうが、英国の女流作家らしい意地悪さが感じられて個人的には楽しいところだ(笑)。

 惜しむらくはミステリとして若干弱いところ。帯で「この犯人は見抜けない」などと煽っているから、かなり構えてしまうが、本格としてはそこまでガチガチではなく、やはりサスペンス中心と思った方がいい。とはいえ長さを感じさせないリーダビリティもあり、十分に面白い一冊だった。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 一応、『探偵小説三昧』という題名がついているぐらいなので、探偵小説について書かれたブログであることは一目瞭然である。ではなぜあえて「探偵小説」という古くさい言い回しを使っているのかというと、言葉のもつイメージや響きが好きだからとしかいいようがない。「探偵小説」「推理小説」「ミステリ」など、けっこうこの類のジャンルを表す言葉は多いが、基本的には時代の変遷によるものであり、同じ意味で用いてかまわないとは思う(この辺の事情はミステリの入門書などにも大抵書かれてあることだから、知らない人は勉強しておくように)。しかしながらその語が使われていた時代の空気を反映するというか、気持ちとしては「探偵小説」であれば国内物の戦後まで、「推理小説」であれば国内物の昭和まで、「ミステリ」であれば国内物の平成以降およびオールタイム海外翻訳物という使い分けを個人的にはしたい。このニュアンスを理解していただける方であれば、本ブログもお楽しみいただけるのではないかと思う次第である。
 ただ、そのくせ管理人もけっこういい加減に使っていることもあるので、その場合は笑ってご容赦下され。


 なお、管理人sugataは基本的にミステリなら何でも読む旨を信条としている。ただし国産の現代ミステリについてはほぼ読んでおらず、したがって通常のミステリサイトで紹介されているようなメジャーな方々は一切取り扱っていないので念のため。カテゴリーには作家名が国産・海外で五十音別に並べられているので、そちらをご覧いただければ、だいたいの傾向と対策はご理解いただけるかと思う。


 『探偵小説三昧』へのリンクは原則として自由である。というか、むしろインターネットやブログの本質的な部分だと思っているので、好きに張ってくださってけっこう。コメント、トラックバックもすべて同様。
 ただし、常識の範囲内として、運営に支障をきたす恐れがあったり(物理的にもイメージ的にも) 、誹謗中傷などを目的とした場合は以ての外ということで、そんなときは管理人が独断で削除することもあるのでご了承のほど。
 あと、事後でかまわないので、リンクを張った場合はコメントなどで連絡いただけると、励みになって嬉しかったりします。


 猫も杓子もブログの時代であるが、なぜブログを立ち上げたかその理由をはじめに書いておくのも悪くあるまい。何せ自分でなぜブログを書いているのかその理由もわからなくなるというのは、ブログの末期的症状というか結局は惰性によるところが大きいとは思うが、自分の性格からいって大いに考えられる事態ではある。
 で理由だが大きくは二つあり、ひとつは自分の備忘録代わり。自分の読んだ本の感想はもとより粗筋すら忘れることもしょっちゅうであり、実はブログに先立ち数年前から日記を書き始めたところ面倒は面倒であるが、やはり記録しておくことの重要さは他の何物にも代え難いものがあることを痛感した次第である。読書記録に限らず去年の正月にはこういうものを食っておったのかでは今年はこれを食すべしなどという、極めて私的な用にも役立つ。実際に役立った記憶はあまりないが。
 もう一つの理由は探偵小説及びミステリを愛好する者として、僭越ながら少しでも同好の士のお役に立ちたいということがある。昨今の出版事情は想像を絶するものがあり、月々に刊行される書籍は相当な数に上り、とてもではないが一個人の消化できるものではない。これが一昔前のように雑誌や新聞の書評だけで事足りるのであればまだしも、そもそも誌面で紹介されない書籍の方が遙かに多いわけであるから、限りあるスペースをより売れそうな本に充てるのは経済の原則からしても致し方あるまい。ただそれ以外にももちろん面白い本はあるわけで、さらに言えば面白くない本もそれ以上にあるわけなので、ここに探偵小説の船頭が一人ぐらい増えたところでバチはあたるまいと考えた次第である。私自身も他所様のホームページやブログなどに何度世話になったか数知れない。
 幸か不幸か馬齢だけはそこそこ重ねてしまっているので、若い人よりは多少本も余計にもっているし知識もある。そんな本のいくつかを一人で読んでいるだけでは、これまで楽しませてもらった探偵小説やミステリに対して申し訳が立たぬ。それなら少しでも情報を還元し、ついでに所持本の自慢も少しぐらいならしても、これは自分的にはまったく問題なかろうというのが、このブログの趣旨である。
 ときには更新が滞る場合もあるやもしれぬがそんなときはああ管理人も仕事で忙しいのだなと生暖かい目で見守ってくだされば幸いである。



| HOME |

Design by mi104c.
Copyright © 2022 探偵小説三昧, All rights reserved.