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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

デニス・ルヘイン『夜に生きる』(ハヤカワミステリ)

 デニス・ルヘインの『夜に生きる』を読む。私立探偵パトリックとアンジーのシリーズの頃から好きな作家ではあったが、最近は積ん読状態が続き、『夜に生きる』がこの四月に文庫化&五月には映画公開というので慌てて読み始めた次第。
 ちなみに本作はあの傑作『運命の日』の続編というか、すでに出ている『過ぎ去りし世界』を入れて実は三部作である。ただし、本作に関しては同時代を扱っているものの、単独作品として十分に読めるので念のため。

 まずはストーリー。
 アメリカ、禁酒法の時代。アルコール類の販売が禁止され、飲酒による悪影響がなくなるため、より健全な社会が実現するのかと思いきや、現実には真逆であった。酒が合法的に入手できなくなったことで、ギャングが密造に乗り出して莫大な利益を得、勢力を拡大していったのである。また、利権をめぐってギャング同士の抗争も増え、アメリカは暗黒の時代へと突入していた。
 そんな時代のボストンにジョー・コグリンという一人のチンピラがいた。警官の父に反発し、ギャングの手下として働くジョーだったが、ある日、敵対する組織のボスの愛人エマに一目惚れする。やがて秘密裏につき合い始めた二人。しかしジョーは罠に嵌められ、刑務所送りとなってしまう。
 刑務所の中もギャングが支配する世界である。毎日のように命を狙われそうになるジョーだったが、あるとき大物ギャングに才能を見込まれることで、人生は一変する。出所したジョーはタンパに向い、そこで大きな勝負に出る……。

 夜に生きる

 これは圧倒的。紛れもなく一級品のピカレスクロマンである。
 復讐や野望、暴力、憎悪、友情、恋愛、家族愛……さまざまな要素を盛り込んで、ギャングの世界とその世界でのし上がっていく男の姿、そしてそれの意味するところを描いていく。これが滅法おもしろくて、相当分厚い本ながらまったく退屈することがない。

 主人公は裏社会すなわち夜の世界でしか生きられないジョー・コグリン。彼が実に魅力的である。
 特別タフでもなく、腕っ節が強いわけでもなく、非常にも徹しきれない。だからときには騙され、ときには日和り、命を落としそうにもなる。しかし裏社会でもまれていくうち、したたかさと頭脳を身につけてゆく。
 行動だけ見れば間違いなく犯罪者であり、本来、共感するところはまったくない。しかし、そんな犯罪者の心のうちに、人には見せないぽっかり空いた穴がある。ジョーは知らずそれを埋めようとしているのだろう。だからこそ、ジョーの行動にはときおり犯罪者とは思えぬ人間臭さ(温かみといってもよい)が感じられ、そこに魅せられる。

  アメリカの抱える闇、個人が抱える闇をリンクさせるのはシリーズ前作『運命の日』と同様の手法である。ただ、『運命の日』が主人公二人を配するなど、全体にテクニカルな構成の印象であったのに対し、『夜に生きる』は直球ど真ん中。
 また、 『運命の日』はよりメッセージ性の強い物語だったのに対し、『夜に生きる』はもちろんメッセージ性がありつつも、まずエンターテインメントとして見事だ。
 どちらが上というわけではないけれど、シンプルさと抜群のリーダビリティで、個人的には『夜に生きる』を買いたい。
 まさにこの時点での著者の集大成といってもいいのではないだろうか。


デニス・レヘイン『ムーンライト・マイル』(角川文庫)

 デニス・レヘインの『ムーンライト・マイル』を読む。十二年振りに発表されたパトリック&アンジー・シリーズの最新作にして、なんとこれがシリーズ最終作でもあるという。

 失踪した四歳のアマンダを見つけ出した『愛しきものはすべて去りゆく』の事件から12年。パトリックとアンジーは結婚して既に小さな娘もいた。だが将来のためにアンジーが学校へ通っていることもあって生活は楽ではない。パトリックは臨時で働く調査会社で正社員雇用を望むが、過去のやり方と折り合いをつけるのにも苦労していた。
 そんなとき十六歳となったアマンダが再び姿を消したという知らせが入る。果たして十二年前の選択は間違いだったのか。捜索を開始するパトリックの前には不気味なロシア・マフィアの影も迫り……。

ムーンライト・マイル

 最近でこそノンシリーズの『ミスティック・リバー』や『シャッターアイランド』『運命の日』など、テクニカルなものから重厚なものまで非常に幅広い作風を披露しているのだが(しかもルヘイン名義でw)、やはりレヘインの魅力が最大限に発揮されるのはパトリック&アンジー・シリーズではないだろうか。
 基本的なスタイルはハードボイルドなのだが、より探偵自身の生き方にスポットが当てられ、しかもパトリックとアンジーという二つのピースで成立しているところが魅力的だ。精神的にも肉体的にもここまでダメージを負う探偵は少ないと思うのだが、これがパトリックとアンジーの生き様にブレンドされ、見事な化学反応を見せる。

 本作では最終作ということもあり、正にこれまでの総括という様相を呈す。過去の清算、探偵というビジネス、生き方、心身の衰え、家族との絆、新たな門出……探偵がここまで自分の生き方、探偵という職業を総括する物語はそうそうあるまい。私立探偵にとってマイナスの要素でしかない諸々のファクター。だが逆に、それらのファクターは人並みの暮らしには重要なことばかりであり、パトリックとアンジーはその両者の間で揺れ動く。
 そして、それを左右するのがヒロイン、アマンダの存在である。序盤こそ煮え切らない展開が続くが、アマンダが登場するや物語は大きくシフトアップし、あとはラストまで一気に読ませる。

 ただ、この個性的なお嬢さんが際だちすぎており、それがマイナスに左右している面も多々あるのが残念。真相や事件の決着については御都合主義的なところが多いし、アマンダの物語とパトリックとアンジーの物語に温度差がありすぎて上手くシンクロしていない。
 『ミスティック・リバー』や『シャッターアイランド』でも少し感じたことだが、著者はたまに技巧に走りすぎる嫌いがあり、それが世界観にそぐわないといえばわかってもらえるだろうか。
 全体には満足できる一冊ではあるが、アマンダの物語をシリーズ最終作にする必要はなかったのかもしれない。できればアマンダの物語は独立して、別の話にしてもよかったのではないかと思ったぐらいだ。

 最後に、話題になっているシリーズの締め方についてだが、これは全然ありだろう。先述のとおり探偵という生き方の総括として、ひとつの結論をしっかり提示したということがとにかく印象的だった。
 ちなみにハードボイルドでは、スティーヴン・グリーンリーフの描く私立探偵ジョン・マーシャル・タナーものも、シリーズを独特の形で終了させている。ある意味『ムーンライト・マイル』よりも終わらせ方の衝撃度は上なので、興味のある方はぜひどうぞ。ハヤカワミステリで全作が出ております。


デニス・ルヘイン『コーパスへの道』(ハヤカワ文庫)

 デニス・ルヘイン『コーパスへの道』を読む。
 本書はハヤカワ文庫でスタートした「現代短篇の名手たち」という叢書からの一冊。
 最近はこういう短編の企画ものもすっかりお馴染みになっているが、どちらかというとこれまではクラシック系の本格、あるいは幻想小説や奇妙な味のタイプといったところが中心であった。
 一方、「現代短篇の名手たち」はタイトルどおり現代作家が中心で、収録予定の作家は本書ルヘインをはじめ、ウェストレイク、ランズデール、リューイン、ブロック、ホック、リップマン、ラヴゼイ等々。ハードボイルドからユーモア、本格、犯罪小説まで含まれるそうで、かなり幅広い。基本的には安定株の作家ばかりなのでハズレはないだろうけど、ちょっと新鮮味には乏しい印象。

 そんな中で、オッと思わせたのが、ルヘインの『コーパスへの道』である。これまで長篇のイメージしかなかったルヘインの、唯一の短編集だ。そして、これがまた実に読み応えのある出来映えなのである。

 コーパスへの道

Running Out of Dog「犬を撃つ」
ICU「ICU」
Gone Down to Corpus「コーパスへの道」
Mushrooms「マッシュルーム」
Until Gwen「グウェンに会うまで」
Coronado : A Play in Two Acts「コロナド――二幕劇」
The Names of the Missing「失われしものの名」

 以上、全七作収録(「失われしものの名」のみ日本版だけのボーナストラック)。基本的にはどれもミステリというより犯罪小説といった方が適切だろう。解説でも触れられているが、ジム・トンプスンを連想させるといえばわかりやすい。ベトナム帰りの兵士や町のチンピラなどが引き起こす、あるいは巻き込まれるエピソードを通じて、人の闇の部分を描いてゆく。
 したがってミステリ的な興味を求める向きには、殺伐とした安っぽいクライムノベルに思えるかも知れない。だが、少し読んでみれば、これらが徹底的に計算されたうえでのプロットを備え、テーマを炙り出すのに必要不可欠なキャラクターで構成されていることがわかる。
 例えば巻頭の「犬を撃つ」。野良犬の射殺を任されたベトナム帰りの男ブルーが、徐々に壊れていく様子を、ブルーの友人の視点で描いてゆく。普通はこの壊れていく過程が読みどころだが、友人のつかず離れずの関係性が実は絶妙で、しかも最終的な着地点はこちらの予想を微妙に外してくる。このギリギリのバランスを描けるのがルヘインならでは。
 「グウェンに会うまで」は、本書のなかで最もミステリ的結構を備えた作品。犯罪者の父親に育てられたボビーもまたケチな犯罪者である。恋人と共に盗みに入った際に瀕死の重傷を負ったボビーは、出所後、父に迎えられる。だが父の目的はボビーが盗んだダイヤモンドの在処だった。ボビーと父の危うい関係、消えた恋人の存在感など、軽い文章に見せつつ密度は極めて高く、すべてが読みどころといってもいい。
 「コロナド――二幕劇」は「グウェンに会うまで」をベースに戯曲化した作品。文章は当然ながらさらに削ぎ落とされているが、新たな二組のカップルとシンクロさせることで、より観念的に物語を膨らませてゆく。

 とにかく圧倒的な筆力。ルヘインは短編も上手い、というだけでは全然言葉が足りない。
 正直、ミステリというジャンルなどに縛られず、この人は好きなように書くべきであろう。ルヘインの本領はまだまだ発揮されていない。


デニス・ルヘイン『運命の日(下)』(早川書房)

 運命の日(下)

 デニス・ルヘインの『運命の日(下)』読了。
 舞台は1918年のアメリカ。第一次世界大戦末期の頃なので、ただでさえ騒然とした社会情勢ではあるが、ロシア革命の影響によって多くの労働紛争やテロなどが勃発、加えてインフルエンザが猛威を奮う混沌とした状況にあった。
 この時代に翻弄される主人公が、有能な警部を父にもつボストン市警の巡査ダニー・コグリン。そしてギャングとのトラブルから追われる身となった黒人の若者ルーサー・ローレンスの二人。

 ダニーは、世の中が決して綺麗事だけではすまないことは知っている。だが同時に、それを潔しとしない正義感をも併せ持ち、ときとして彼を英雄的行為に走らせる。自然、ダニーにはある種の魅力が備わってゆく。カリスマ性といってもよい。そんな彼だからこそ、周囲は彼が警部の息子であるにもかかわらず、いや、警部の息子だからなのか、警官たちが組織する組合(正確には組合の前身)活動に勧誘する。ところがダニーは昇進を餌に、そうした組合活動に潜入する囮捜査に加わることになる。だがそこで貧困にあえぐ警官たちの現状を目の当たりにし、いつしか活動に賛同するようになっていく……。

 一方、ルーサーは恋人を妊娠させたことで、彼女の故郷で共に暮らすことになる。そこは彼がこれまで暮らしてきた地とは、比べものにならないほど恵まれた土地だった。もちろん人種差別はあるが、しっかり働けばその分は稼ぎとなり、車ですら買うことができるのだ。だが、そんな土地には誘惑もまた多い。彼はいつしかこずかい稼ぎにギャングの仕事を手がけるようになる。やがて相棒のトラブルに巻き込まれ、ついには人の命を奪ってしまい……。

 物語は、この二人の主人公のエピソードが交互に進む形となる。やがてそれが交差し、次第に一本の線となっていく。線そのものは彼らが抱える男女の問題であったり、家族の問題であったりするのだが、実はその線に激しく絡みつく、その他の様々な線があることを思い知らされる。それは人種、思想、労働、貧富……ありとあらゆる人権の問題といってもよい。すべて当時のアメリカが抱える問題であり、それらはあまりにも根深いため、もちろん個人の問題とも切り離すことはできない。
 物語が進むほどに、その線はますます複雑に、そして太くなる。ルヘインは、時代に翻弄されながらも己の信ずる道を進もうともがく二人の主人公の生き様を描き、同時にアメリカの抱えている病をはっきりと読者に突きつけようとしている。歴史的ドキュメントの部分と人間ドラマの部分、双方のバランスというかシンクロ具合が絶妙だからこそ、物語への興味がまったく途切れることがない。

 上で「二人の主人公のエピソードが交互に進む」と書いた。これらのエピソードは長編のなかの一章、一節、あるいはもっと小さな単位で構成されているが、そのまま短編としても読めるぐらい素晴らしく、とりわけ冒頭の草野球シーンは絶品である。
 ちなみにこの草野球シーン、実はかのベーブ・ルースの視点で語られるエピソードである。本作のなかにおいてはベーブ・ルース視点のエピソードが節目で挿入され、ときに労働問題、ときに人種問題を照らす狂言回し的な役割を担っている。特殊な世界の中の特殊な人々の話であるため、主人公たちとの対比はもちろん、本作のテーマをより鮮やかにする効果を生んでいるといえる。ストレートに押すだけでなく、こういう緩急をつけるテクニカルなところもルヘインの凄さだろう。

 とにかく圧倒的な筆力である。極太のテーマを、ハードボイルドの手法でもって、緻密に、ときにはテクニカルに描いてゆくという離れ業を見せてくれる作家が、果たして他に何人いるだろう。おそるべし、ルヘイン。


デニス・ルヘイン『運命の日(上)』(早川書房)

 デニス・ルヘインの『運命の日』を読書中。本日ようやく上巻を読み終え、下巻に突入。まだ上巻だけではあるが、これは非常に読み応えあり。『このミス』等で上位にランクインしたのも頷ける。まあ、ルヘイン(個人的にはいまだにレヘインの方が馴染みはあるんだけどなぁ)の力量からすれば、それも当然のことなのだが。

 運命の日(上)


デニス・ルヘイン『シャッター・アイランド』(早川書房)

 中島らも氏亡くなる。悲しいというより腹が立ってくるというか……。なぜもっと自分を大事にしなかったのだろう、この人は。もっともっと長生きして、『ガダラの豚』や『今夜、すべてのバーで』などを超える傑作を書いてほしかった。合掌。

 デニス・ルヘインの『シャッター・アイランド』読了。
 アメリカはボストン沖にあるシャッター・アイランド。その島には、精神を病んだ凶悪な犯罪者ばかりを収容している病院がある。そこで一人の女性患者が病棟を脱走するという事件が起こり、保安官のテディは相棒チャックとともにその島に乗り込んでゆく。だが実はテディには、もうひとつの隠された目的があった。放火事件で妻を死なせた犯人がここに収容されており、密かに復讐を誓っていたのだ。だが、島で捜査を続ける二人の前に、事件は意外な展開を見せてゆく……。

 一見、警察小説、あるいはサイコスリラーのような本書だが、読み終えた今となってはそれがまったく上っ面だけのジャンル分けに過ぎなかったことがわかる。それほどまでに本書の内容は意表をつくものであり、そういう意味では傑作といってよいだろう。評判の高さは伊達ではない。

 ただ、どうなんだろう。本書の肝はミステリとしての技巧的な部分と、家族愛・夫婦愛というテーマの部分、大きく二つがあると思うのだが、どうしても技巧優先の感を受けるのである。その分だけテーマの方が置き去りになってしまい、誠にもったいない。これまでの傑作、『ミスティック・リバー』やパトリック&アンジー・シリーズに比べても遜色ない重さを孕んでいるはずなのに、いくつかのミステリ的ギミックが逆に邪魔をしてしまい、どうしても軽く感じられてしまうのだ。
 また、驚愕の結末ではあるが、先例もいくつかあるので、途中で真相に気づかれやすいのではなかろうか(管理人はつい二、三ヶ月間にその作品を読んだばかりだったので、よけい連想しやすかった)。

 少々非難めいた書き方になったが、それでも本作は決して読んでつまらない作品ではない。完成度は高く、特にテディと医師コーリーのクライマックスでの対決からラストまではまさに一気。変な先入観さえ持たなければ、十分に楽しめる作品だろう。
 ちなみに先入観を持たせるという意味で、巻末「袋とじ」は企画倒れであろう。


デニス・レヘイン『雨に祈りを』(角川文庫)

 イアン・ランキンの『滝』の感想で、現代のハードボイルド系シリーズの最高峰に位置するのは、リーバス、スカダー、ボッシュぐらいではないか、みたいなことを書いたが、デニス・レヘイン書くところのパトリック&アンジー・シリーズを忘れていた。

 ただ、このシリーズはレベルが高いけれども、読んでもなかなか救われないところがあるのが辛い。リーバス、スカダー、ボッシュの三人も過去にさまざまな傷を負ってはいるが、最近の作品ではかなり上向いている様子。しかしパトリックとアンジーのコンビは、まだシリーズの歴史が浅いこともあって、作品の度に試練を受けている感じだ。

 探偵が事件に関わる場合、あくまで客観的にビジネスとして関わるタイプと、事件の関係者と自己を同一化してとことんのめりこんでしまうタイプがあると思うが、パトリックとアンジーは明らかに後者だ。
 著者のレヘインはこのシリーズで人間の心に潜む闇の部分を描こうとしている。パトリックとアンジーは、まるで殉教者のようにその闇に飛び込み、人間の苦悩を体現していく。したがって内容はどうしても重くなるが、語り口やキャラクター造形が上手いので読みにくいことはない。むしろストーリーの面白さも手伝ってすこぶるテンポ良く読める。
 しかし、この読みやすさが曲者である。読者は読み進むうちに、自分の望むものと作者の望むことが異なることに気付き、知らず知らずに心の闇を身をもって知ることになるのだ。この感覚をどう受け止めるかで、読者の好みも分かれるに違いない。

 そういうわけで、本日の読了本はデニス・レヘイン『雨に祈りを』。
 穢れを知らぬ箱入り娘、カレン。パトリックの前に現れた彼女はストーカーに悩んでおり、その解決を依頼する。ブッパと共に無事依頼を片づけたパトリックだったが、その六カ月後、彼女は全裸で投身自殺を図る。この半年間にいったい何があったのか。捜査を開始するパトリックの前に、ある男の存在が浮かび上がる……。

 全体のきっかけとなるストーカー事件、事件のさらなる広がり、絶対的な敵役の存在と対決、そして真相。構成の妙が冴えに冴え、いつも以上にリーダビリティが高い一冊。特に今回はパトリックの幼なじみ、ブッパが大活躍する。ヒーローとヒロインにもう一人を加えた三人組というチーム構成も最近は多くなってきたが、レヘインはそれをアクセントにするだけでなく、しっかりと事件に絡めているのがさすが。
 前作に引き続いて高レベルをキープしているが、シリーズとしてターニングポイントとなることも前作同様である。解説でも触れられているが、このシリーズは終焉を迎えようとしているようだ。
 ハードボイルドは浄化の物語であると勝手に考えている管理人としては、できればパトリック&アンジーに平穏を与えてほしいと願わずにはいられない。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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