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 ハヤカワ文庫の「現代短編の名手たち」から『ババ・ホ・テップ』を読む。
 作者はあのジョー・R・ランズデール。シリアスなヒューマン・ドラマからハチャメチャなスラップスティック・コメディ、さらにはB級ホラーまでを書きまくる現代の鬼才である。その彼の日本における初の短編集ということで、かなりハードルを上げて読んだのだが、いやあ、これは凄いわ。

 なんというか、ミステリであろうがSFであろうが、はたまたエンターテインメントであろうが文学よりの作品であろうが、どういうジャンルにおいてもランズデールはランズデールなのだ。
 ジャンル分けにあまり意味がないとはいえ、その作品は大きくコメディタッチとシリアスタッチの二系統に分けられるとは思う。しかしながら、どちらを読んでも読後感にそれほど違いはない。それほどランズデールの人生観は徹底している。正直ではあるが、決してストレートではない。突飛なアプローチをするけれど、決して斜に構えてはいない。
 あり得ない設定、ありえないストーリー。そのオフビートな(こういう言葉でも生ぬるいけれど)ドラマを、まずは毛嫌いせずに体験してほしい。こういう人間の描き方もあるのだ。

 ババ・ホ・テップ

「親心」
「デス・バイ・チリ」
「ヴェイルの訪問」(アンドリュー・ヴァクスとの合作)
「ステッピン・アウト、一九六八年の夏」
「草刈り機を持つ男」
「ハーレクィン・ロマンスに挟まっていたヌード・ピンナップ」
「審判の日」
「恐竜ボブのディズニーランドめぐり」
「案山子」
「ゴジラの十二段階矯正プログラム」
「ババ・ホ・テップ」
「オリータ、思い出のかけら」

 収録作は以上。「審判の日」はシリアス路線のベスト。史上最大クラスのハリケーンが迫る中、極悪な雇われ白人ボクサーと若き黒人チャンピオンのゴングが鳴る。白人ボクサーのキャラクターが秀逸で、ラストの子供を救うシーンはかなり象徴的だ。
 ランズデール流の青春小説「ステッピン・アウト、一九六八年の夏」は、とにかく痛すぎる若者たちの究極の在り様を描く。
 書く人が書いたらいい感じのコージーになるんだろうが、ランズデールが書くとここまで下劣になるのかという代物が「ハーレクィン・ロマンスに挟まっていたヌード・ピンナップ」。シリーズ化してほしいぐらいの魅力的なキャラクターたちがいい。

 個人的にはこれらの三つがベストだが、他の作品も読み応えは十分。全体的にバカミスっぽさが充満しているとはいえ、近頃甘口のミステリが多いとお嘆きの貴兄はぜひともお試しを。


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 ジョー・R・ランズデールの『サンセット・ヒート』を読む。一時期はブームのごとく、立て続けに翻訳が出ていたランズデールだが、最近はすっかり紹介がストップしたようだ。本日の『サンセット・ヒート』はおそらく日本での最後の新刊になるはずだが(文庫化を除く)、その刊行はなんと四年前。本国では今でも精力的に新刊が出続けているので、単純に日本の売上げが奮わなかっただけなのだろうか。そのクオリティを考えると実にもったいない話だ。

 サンセット・ヒート

 さて、『サンセット・ヒート』に話を戻す。まずはストーリーから。
 舞台は1930年代のテキサス。とある小さな町キャンプ・ラプチャーを大竜巻が襲った日、赤毛のサンセット・ジョーンズは治安官の夫を射殺してしまう。だが義母が彼女をかばったくれたおかげでサンセットは事なきを得、そればかりか夫の代わりとして治安官に就任してしまう。
 二人の部下と共に活動を開始したサンセットだが、ある日、夫の業務日誌に気になる事件を見かける。それは黒人の畑から甕に入った胎児の死体が見つかった事件だった。調査を開始したサンセットは、やがて町を揺るがす陰謀に飛び込んでゆくことになる……。

 ランズデールといえば、キャラクター造形が巧みで、プロットも鮮やか、おまけに作品の出来不出来のムラが少ないという、非常に類い希なセンスの持ち主である。本書でもその面目は十分に果たしていると思うのだが、面白いのはそのテイスト。
 日本で紹介されている作品に限ると、ランズデールの作品はハップ&レナードのハチャメチャなシリーズ、あるいは『ボトムズ』に代表されるシリアスなヒューマン・ドラマと、ちょっと乱暴ではあるが、この相反する二種類のテイストに大きく分けられる。
 で、先ほど面白いと書いたのは、本書『サンセット・ヒート』では、その二つのテイストが入り交じった作風になっているということ。さらには結果的に西部劇風のドラマになってしまっていることである。
 初めから西部劇に置き換えた物語を意識して書いたのか、それともこれまで作品ごとに書き分けていたテイストの融合を図ったものなのか、それはわからない。言えるのは、硬軟織り交ぜた非常にバランスのよい語り口に仕上がっているということである。加えていつになく激しいアクション・シーンも見どころ。それでいて大恐慌時代のアメリカの抱える諸問題はしっかり取り込まれており、こういう抜かりのなさがランズデールの一流たる所以なのだ。
 強いていえば事件の核となる謎が早い段階で割れてしまうのは少々物足りないが、ラストにもう一波乱入れてくるサービス精神に免じて、これはよしとしよう。
 とりあえずトータルではなかなか満足度の高い一冊。文庫化されたらぜひどうぞ。


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 月曜火曜ととんでもない暑さと湿気。今にも一雨きそうなのにムシムシしたまま一日が過ぎ、かなりばてる。というか正直具合が悪くなって、会社を早退。

 読了本はジョー・R・ランズデールの『ダーク・ライン』。あの傑作『ボトムズ』同様、少年の成長物語をミステリと融合させた作品だ。
 とにかくランズデールの巧さが際だっている。主人公はドライブシアターを経営する一家の少年。その彼が一夏の冒険を通じて、世の中の残酷さや社会の矛盾などを知り、ちょっぴり大人に近づいてゆく様をイキイキと描く。その他の登場人物も実に印象深い。少年の父母や姉、友人や家政婦、映写技師など、決して少なくはない人々が見事なほど鮮やかに浮かび上がる。ノスタルジックな味わいもまた『ボトムズ』同様であり、ひとつひとつのシーンが視覚的にイメージしやすいのもさすがだ。
 結局、作者の書きたいところもそこに尽きると思うし、読んでいるうちに事件などどうでもよくなってくる。正直いうと事件そのものが実際イマイチなのが惜しい。また、少年が過去の事件にこだわるところは、頭では理解できてもいまひとつ納得しがたい部分もある。ただ、それらの欠点を差し引いても、本書は十分面白く、ランズデールを読んだことがない人には、安心してお勧めできる一冊である。
 でも個人的には、やっぱり『ボトムズ』の方が上かな。

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 ランズデールの初期の怪作というべきか、『モンスター・ドライブイン』を読了する。

 いやはや何といっていいものか。これをランズデールの幻の傑作みたいにいうのは勝手だが、ランズデールの名前なしに読んでほんとに感心できるのか?
 ストーリーはいたってシンプル。友人たちとドライブインシアターにやってきた主人公たち四人を初めとするお客たちが、突然場内に閉じこめられ、おりしも上映中のB級スプラッタームービーさながらの地獄絵図を体験するという話。
 主人公とその親友ボブのやりとりに、のちのランズデールの活躍をわずかながら垣間見ることはできるが、といってもそれほど飛び抜けたものではなく、やはりこれは習作意外の何物でもない。B級スプラッター映画を小説に移植した、もしくはB級スプラッター映画へのオマージュ、という言い方もできるが、それにしても……。そもそもランズデールが若い頃、本当にこんな話を書きたかったのかどうかも疑問。
 せっかく読書ペースがいい感じに戻ってきたのに、ここのところイマイチの作品ばかり読んでいる気がするなあ。

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 ジョー・R・ランズデールの『アイスマン』を今頃読む。わが国では『ボトムズ』の後に出てこれまた評判よかった作品だが、本国では『アイスマン』の方が先。どちらにしてもほぼ同じ時期に書かれた作品だから、当然ながら期待度は高い。で、見事にその期待に応えるからランズデールはさすがである。

 母親に死なれ、唯一の収入源であった母親の年金すら手に入らなくなった主人公のビル。ものすごく悪人というわけでなく、かといってコツコツと働く気もないビルは社会の底辺でわらわらと蠢くただの愚かな男でしかない。そんな彼だから、年金受け取りのサインを偽造できるようになるまでは(結局できないくせに)母親の死亡届も出さないし、腐って臭いがひどくなってもただ換気につとめるぐらいしかできない(それも最後は我慢するのみ)。
 このままじゃ食うにも困る。仕方がないってんで、結局は悪友2人を誘って家のすぐ前にある花火屋に強盗に入る。しかし、そこでもビルは手際が悪い。覆面を落として花火屋の主人に正体を見破られてしまう始末。そりゃそうだ。なんせお隣さんに強盗に入ってんだから。結局、仲間の一人が花火屋を撃ち殺してしまい、慌てて逃げるビルともう一人の仲間。だが、悪いことはさらに続く。逃げる途中に沼にはまり、残る仲間は毒蛇の大群に咬まれて死亡。自分も大量の蚊にくわれ、アレルギーからとんでもないご面相となる。
 そこを助けてくれたのが、どさ回りを続けるフリークショーの一座。犬のように行動する男、頭が二つあるシャム双生児、胸に手がある座長といった様々な奇形の男女たち。彼らはアレルギーで腫れ上がったビルの顔を見て、仲間だと思ったのだ。人のことなど言えないはずのビルだが、彼は心の中で彼らを蔑視する。彼らよりはましだ、と。しかし、行く当てのないビルは、結局彼らに頼るしかなく、フリークショーの一員として行動を共にするのだった……。

 どう見ても人生の敗残者っぽいビルという主人公。その彼が内心軽蔑するフリークたちとの交流から、少しずつ人間としての本当に大切なことを思い出していく過程がやはり見どころである。ついでにいうと、その大切なことを結局は取り逃がしてしまう駄目さ加減もまた良い。単純にハッピーエンドとはせず、苦い結末を持ってくるところに、ランズデールの上手さがある。駄目な奴は何をやっても駄目なんだ、単純にそういうことではなく、人生において本当に大切なものを得ることの尊さと難しさを、ランズデールは少々ぶっきらぼうに、そして照れながら訴えているような気がしてならない。
 風に流される雲のようにビルは他人に流される。その風となる周囲の人々がまたいい味を出している。特に親友となりうる可能性のあったドッグマンは印象的であり、ビルを誘惑する座長の妻の、イヴぶりもまたよし。その辺りについてはもっと書き込んでも良かったのではないか、という気がしないでもないが、昨今の長い小説にはちょっと辟易しているところもあるので、これはかえって潔いのかもしれない。
 個人的にはアメリカ南部独特の空気というものを一度は体感してみたい。せいぜい1週間程度の旅行ぐらいしかできないだろうが、『ボトムズ』でも見せてくれた南部の描写なくしては、やはりこれらの作品は成立しないだろう。

 とにかくランズデールは実に達者な作家である。ドタバタも書けば、ヒューマンなものもこなす。しかも元々はホラーが得意技なのである。加えてこれだけ定期的に出版し続けているにもかかわらず、質の低下も見られない、いやそれどころかレベルは上がる一方である。まだまだ追いかける価値はある。少なくとも小説が好きなら読まない手はない。いや、ほんと。

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 世間はホワイトデー。私も一社会人一家庭人として常識の範囲でお返しを贈る。そもそもホワイトデーはバレンタインデーと同様、もともとはお菓子会社が考えたイベントであるらしい。だが別段お菓子会社に踊らされてるという気はおきない。それはお菓子会社の営業努力の結果だし、イベントそのものも他愛ないし別にいいんじゃないという程度だ。エキセントリックに反応する方がおかしいと思うのだがどうだろう?

 読了本はジョー・R・ランズデール作『人にはススメられない仕事』。ご存じハップ&レナードのどたばたお下品もので、私も大好きなシリーズ。しかし、とてもじゃないが先日読んだ『ボトムズ』と同じ作家の手によるものとは思えない。もちろん、ハップ&レナード・シリーズの方が日本では先に紹介されていて、日本の読者には『ボトムズ』の方が意外だったのだが、それにしてもすげえギャップだよなぁ。
 こういうユーモアとシリアスを器用に書き分ける作家というのがいるもので、ローレンス・ブロックやドナルド・E・ウェストレイクなんかもそう。このレベルになると何を書かせても上手く、ハズレがほとんどないのは感心するばかりである。
 ところで『人にはススメられない仕事』だが、今回はハップの恋人であるブレットの娘を助け出すというロードノベルだ。レナードはもちろん、途中から一行に怪しげなキャラクターたちが続々と加わり、このやりとりがとにかく面白い。クセのないキャラなど皆無で、連発するマシンガントークの掛け合いに抱腹絶倒。ワタシ的にはレッドという小男が特にお気に入りで、レギュラーになるとよいのにとか思っていたら……アラアラ、そ、そんな展開ですか。まあ、いいや。チェッ。
 しかし『ボトムズ』でランズデールを好きになった人って、このシリーズでどんな感想を持つのか、そっちが気になる。

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 戦前のアメリカ南部で起こる連続殺人事件。主人公の少年を通して、その事件の顛末が語られるのが、昨年評判になったジョー・R・ランズデール『ボトムズ』だ。
 本当ならもう少し読むのを先にしようと思っていたのだが、この作品の成功に気をよくしたか、その後、ランズデールの翻訳が出るわ出るわ。『人にはススメられない仕事』『アイスマン』『テキサス・ナイトランナーズ』……あっという間に積読がたまってしまい、少しは消化しとこうと手にとったのが本書。
 角川文庫で出ているハップとレナードのシリーズもハチャメチャ加減が楽しくてお気に入りだが、実はもっと幅広い作風の人らしく、ミステリ以外にも『ボトムズ』のようなホラー・サスペンス系からウェスタン、幻想小説に至るまで書くという。特に幻想関係ではいろいろな賞もとっているようで、先入観はいかんと思いつつもかなり期待して読み始めたが、いや、これはいいですわ。
 それほど複雑な事件ではなく、謎も深くはない。犯人も勘のいい人ならすぐにわかるだろう。事実、私も●ページでほぼ犯人がわかってしまった。しかし、本書の読みどころがそんなところにないのは、読み終えた人なら先刻ご承知だろう。
 古い因習がはびこるアメリカ地方都市の様子が丁寧に描かれ、それによって浮かび上がるさまざまな人間関係は、当時の背景が背景だけにずっしりと胸にこたえる。例えば仲の良い白人と黒人の子供たちがいる。その二人を見て、主人公の父親が主人公にこんな話をする。
「あと何年かしたらエイブラハムとリチャードは一緒に遊ぼうとしなくなる。一緒にいようとさえしなくなるんだ」「どうして」「世の中が本来あるべき姿じゃないからだ」
 父親は正義感の強い男で、いまのアメリカの在り様に強い憤りを感じ、息子にこんな話をしなければならない時代にも強い憤りを感じている。しかし、そんな彼ですら少年時代に苦い過去を持っている。この時この地に生きる者すべてが、もしかするとみな被害者なのかもしれない。
 ところで本作の語り手は少年だが、年老いてもはや立つことすらかなわない老人の回想という形をとっている。そのせいか変な力の入り方がないのも好ましい。解説でスティーヴン・キングとの類似を指摘しているが、作者(語り手と言うべきか)と作品とのスタンスが絶妙なのだ。場面場面の描写も丹念で、だがくどすぎない。私はキングより上ではないかと思うのだがいかに?
 とにかくオススメの一冊。
 あ、あと犬好きにはけっこう切ないシーンが多い。冒頭からして涙なしでは読めないかも。

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