ジョー・R・ランズデールの『サンセット・ヒート』を読む。一時期はブームのごとく、立て続けに翻訳が出ていたランズデールだが、最近はすっかり紹介がストップしたようだ。本日の『サンセット・ヒート』はおそらく日本での最後の新刊になるはずだが(文庫化を除く)、その刊行はなんと四年前。本国では今でも精力的に新刊が出続けているので、単純に日本の売上げが奮わなかっただけなのだろうか。そのクオリティを考えると実にもったいない話だ。

さて、『サンセット・ヒート』に話を戻す。まずはストーリーから。
舞台は1930年代のテキサス。とある小さな町キャンプ・ラプチャーを大竜巻が襲った日、赤毛のサンセット・ジョーンズは治安官の夫を射殺してしまう。だが義母が彼女をかばったくれたおかげでサンセットは事なきを得、そればかりか夫の代わりとして治安官に就任してしまう。
二人の部下と共に活動を開始したサンセットだが、ある日、夫の業務日誌に気になる事件を見かける。それは黒人の畑から甕に入った胎児の死体が見つかった事件だった。調査を開始したサンセットは、やがて町を揺るがす陰謀に飛び込んでゆくことになる……。
ランズデールといえば、キャラクター造形が巧みで、プロットも鮮やか、おまけに作品の出来不出来のムラが少ないという、非常に類い希なセンスの持ち主である。本書でもその面目は十分に果たしていると思うのだが、面白いのはそのテイスト。
日本で紹介されている作品に限ると、ランズデールの作品はハップ&レナードのハチャメチャなシリーズ、あるいは『ボトムズ』に代表されるシリアスなヒューマン・ドラマと、ちょっと乱暴ではあるが、この相反する二種類のテイストに大きく分けられる。
で、先ほど面白いと書いたのは、本書『サンセット・ヒート』では、その二つのテイストが入り交じった作風になっているということ。さらには結果的に西部劇風のドラマになってしまっていることである。
初めから西部劇に置き換えた物語を意識して書いたのか、それともこれまで作品ごとに書き分けていたテイストの融合を図ったものなのか、それはわからない。言えるのは、硬軟織り交ぜた非常にバランスのよい語り口に仕上がっているということである。加えていつになく激しいアクション・シーンも見どころ。それでいて大恐慌時代のアメリカの抱える諸問題はしっかり取り込まれており、こういう抜かりのなさがランズデールの一流たる所以なのだ。
強いていえば事件の核となる謎が早い段階で割れてしまうのは少々物足りないが、ラストにもう一波乱入れてくるサービス精神に免じて、これはよしとしよう。
とりあえずトータルではなかなか満足度の高い一冊。文庫化されたらぜひどうぞ。