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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

柴田錬三郎『幽霊紳士/異常物語』(創元推理文庫)

 柴田錬三郎の『幽霊紳士/異常物語』を読む。時代小説の大家、シバレンがミステリも残していることはあまり知られていないが、それでも大坪砂男が協力したという『幽霊紳士』は上質な連作短編集であり、比較的知られている方だろう。本書はながらく入手難だったその『幽霊紳士』に加え、さらにマイナーな連作短編集『異常物語』を加えたお得版である。
 まずは収録作から。

『幽霊紳士』
「女社長が心中した」
「老優が自殺した」
「女子学生が賭をした」
「不貞の妻が去った」
「毒薬は二個残った」
「カナリヤが犯人を捕えた」
「黒い白鳥が殺された」
「愛人は生きていた」
「人妻は薔薇を怖れた」
「乞食の義足が狙われた」
「詩人は恋をすてた」
「猫の爪はとがっていた」

『異常物語』
「生きていた独裁者」
「妃殿下の冒険」
「5712」
「名探偵誕生」
「午前零時の殺人」
「妖婦の手鏡」
「密室の狂女」
「異常物語」

 幽霊紳士/異常物語

 管理人は十年ほど前に集英社文庫版で『幽霊紳士』を読んでいるので(記事はこちら)、今回は『異常物語』メインで。

 単なる物珍しさだけではなく、ミステリとしても十分読むに値する『幽霊紳士』だが、『異常物語』はそこまでミステリにこだわった物語ではない。歴史上の人物を扱ったり、エログロ的な内容中心だったり、読者へのアピールが激しく前面に出ており、あくまで一般的な娯楽読み物として書かれた印象だ。

 ただ、その設定は非常にバラエティに富んでおり、ヒッチコックやホームズまで扱っているところなど柴田錬三郎がミステリに造詣の深いところも感じられるし、さらには必ずオチを効かすなど、むしろその方面でのテクニックも駆使しているのは興味深い。 
 舞台は外国にした実話風読み物なので、橘外男や牧逸馬あたりをちょっと連想するが、むしろそれらよりは全然こなれており、あまり構えずに読めば十分に楽しめる作品ぞろいである。

 解説によると柴田錬三郎にはまだ他にもミステリの傑作があるらしいので、そちらも読んでみたいものだが、本書の売り上げ次第では復刊もあるのかね? 期待。


柴田錬三郎『幽霊紳士』(集英社文庫)

 意外な拾いもの、と言っては失礼か。なんせ著者はあの時代小説の大家、シバレンこと柴田錬三郎である。しかし、そのシバレンが書いたミステリと聞くと、ミステリプロパではないだけに、「どうよ?」という気持ちも沸いてくるのも確か。正直やや眉唾気味に読み始めたのだが、うむ、これは悪くない。本日の読了本は『幽霊紳士』。

 『幽霊紳士』は、見た目がグレー一色というスタイルの紳士を探偵役にした連作短編集である。物語の主人公は刑事であったり犯人であったりと様々だが、彼らが事件の解決にたどり着いたり、あるいは完全犯罪を成し遂げようという寸前、幽霊紳士は現れる。そして彼らの推理なり行動が誤りであることを指摘し、一気に物語の結末を逆転させるのである。
 解決への導き方はまずまず論理的であり、しかも鮮やか。加えて完全に統一された物語のスタイルが、著者のセンスを感じさせる。また、本筋とは関係ないが、前の作品の登場人物が次の物語で主人公になるという設定も遊び心が効いている。趣向の勝利だけではない。本書は極めて上質のミステリといってよいだろう。

 ちなみに本書の執筆に際して、柴田錬三郎はあの大坪砂男の協力を仰いでいるという。国書刊行会から出版された大坪砂男の『天狗』(国書刊行会)の解説に詳しいが、そもそも本書を読もうと思ったのも、その解説を読んだからである。
 どの程度トリックやプロットに協力したかは不明だが、本書の完成度の高さは大坪砂男の功績によるところも大きいはず。シバレンと大坪砂男がどんなふうに打ち合わせをしていたのか、ちょっと見てみたい気もする。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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