リチャード・ニーリイの『リッジウェイ家の女』を読む。
著者のニーリイはサイコ・サスペンスの走りみたいな文脈で語られることもあるが、どちらかというとそれは味付け。持ち味は綿密なプロットとケレン味たっぷりのどんでん返しにある。要は読者をアッといわせることに重きを置いた、あざとさ満点のスリラーの書き手だ。
もっと人気が出ても不思議ではないのだが、なぜか日本ではそれほど売れたという話も聞かないし、いろいろな意味で早すぎた作家なのかとも思う。本書はそんなニーリイの久々の邦訳である。
ギャラリーに絵を出展していたダイアンは、自分の絵を買ってくれた退役軍人のクリスと知り合う。絵だけではなくダイアン自身にも興味を抱く素振りを見せるクリスに対し、ダイアンは心がときめきつつも一歩踏み出すには躊躇していた。彼女は今は裕福な未亡人だが、かつて夫を殺してしまった忘れがたい過去があったのだ。その事件のため、娘とも永らく音信不通になっていた。
しかし、クリスもまた似たような過去を持つことが明らかになると、二人の距離は急速に縮まり、そして再婚することになる。
そこへ疎遠になっていたダイアンの娘ジェニファーが、恋人ポールを伴って現れた。忌まわしい過去に縛られ、複雑な感情を交えつつ再開される母娘関係。やがて危ういながらも四人は同居を始めることになるが、その生活に暗い影が忍び寄る……。

ネット上では期待はずれのような意見もないではないが、いやいや、とりあえずこれだけやってくれれば十分でしょう。読者の裏の裏までかいてやろうという意欲は相変わらずひしひしと感じられる。
登場人物が少ないだけに、確かに予想はつきやすいところもあるけれど、無理なく無駄なく、きちっと落とし前をつけるテクニックはさすがである。
物語はダイアンとジェニファーの一人称で交互に語られる。ダイアンがクリスと結ばれ、ジェニファーとポールのいまが語られる前半は少々かったるいが、四人が同居を始めるあたりから、俄然サスペンスが高まってくる。
表面上はなごやかながら、読者はこのなかで何かが爆発することを当然ながら知っているわけで、その読者の期待に応えるかのように、ニーリイは疑惑のタネを少しずつ蒔いてゆく。やがてある人物に焦点が当てられて……という一連の匙加減が巧いのである。
そしてその先はお馴染みのどんでん返しで一気。大傑作とは言わないけれど、十分力作である。
難をあげるとすれば、ミステリ部分ではなく人間ドラマの部分。二組のカップルが結ばれる展開や、母娘の確執がお手軽に過ぎるところか。特に後者はストーリー上でも重要な部分だけに、もう少し愛憎のドラマを膨らませるべきではなかったか。
ニーリイにとっては この点もサイコ・サスペンスと同様、単なる味付けに過ぎないのだろうが、レンデルやハイスミスぐらいに書き込めば、評価もまた違ったものになるだろうに。まあ、逆にニーリイらしさがなくなるリスクもあるけれど。
ということで、ややドラマに弱いところはあるのだけれど、トータルでは十分合格点。読んで損はない。