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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

デレック・スミス『悪魔を呼び起こせ』(国書刊行会)

 ちょっと仕事がバタバタしていて、日記も読書も進まず。久々に読み終えた一冊は『悪魔を呼び起こせ』。
 著者のデレック・スミスは英国でも有数のミステリ研究家&コレクターらしく、趣味が高じて、遂に創作に手を染めたタイプの作家だ。その作品は本書の他にわずか一冊(なんと日本での限定出版!)があるのみ。
 本書はそういう意味で実に貴重な一冊となるわけだが、内容もガチガチの本格ミステリマニアが書いた作品に相応しい出来映えとなっている。

 プリスリー村の旧家クウィリン家に伝わる家督相続人伝授の儀式。当主ロジャーは19世紀以来途絶えていたその儀式を復活させようと、周囲の心配をよそに幽霊が出るという伝説の部屋に閉じこもる。不吉な予感に襲われていたロジャーの弟、ピーターは、地元警察のハーディング、アマチュア探偵のアルジーに協力を依頼し、三人で部屋を監視することにした。しかし厳重な監視のなか、ロジャーは密室で殺害され、さらには第二の密室殺人事件まで……。

 「密室ミステリファンによる密室ミステリファンのための密室ミステリ」と評されるように、とにかくミステリマニアのツボを突きまくった作品。ディクスン・カーには特に造詣が深いらしく、二つの密室殺人ということだけではなく、オカルト趣味的な設定は、カーの影響を受けたというより、あえてカーの作風に合わせたという感じで、この辺りもマニアならではの心意気と見るべきだろう。
 おまけに作品中でクレイトン・ロースンやディクスン・カーなどを引き合いに出し、密室講義までやってくれる。もちろん伏線や謎の設定に関してもえらく気を配っており、謎解きは少々わかりにくいがほぼ隙のない仕上がりである。

 注文をつけるとすれば、わかりにくい割には意外にあっけない第一の密室の謎。個人的には第二の密室の方がシンプルでかえって好感が持てる。また、探偵役のアルジーについては個性をしっかり持たせようとして、かえってアンバランスなキャラクターになっている気がする。ロマンス要素もなんだかなぁ、という感じは否めない。
 まあ、そういう部分を含めてもトータルではなかなか満足できた一冊。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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