ちょっと重い仕事に着手し始めたせいで読書がとにかく進まない。先日読み終えた『甦る推理雑誌3「X」傑作選』なんて一週間もかかっている。アンソロジーだからいいようなものの、長篇をこのペースで読んでいては、面白いものも面白くなくなる可能性があるのが辛い。もちろんゆっくり味わうのはいいのだが、個人的にはせめて二、三日で読み終えたいところだ。
で、本日の読了本は福永武彦の『加田伶太郎全集』、扶桑社文庫版である。
過去に出版された講談社版、桃源社版、新潮社版すべてに収録された序文やエッセイなども掲載し、その他のSFなどの著作もまとめた決定版で、まことに気合いの入った編集ぶり。いや、すばらしい。
著者の福永武彦氏はご存じのとおり純文学の作家である。探偵小説はまったくの趣味で、それが高じて探偵小説に手を染めたという過去を持つ。それだけに著者の探偵小説に注ぐ愛情や知識は並みではなく、各作品は本格探偵小説の伝統的ルールにのっとって、どれも一定の水準をキープした出来である。
しかし、感心はするのだが、小説として意外とこちらに残るものは少ない。単純にパズラーを読みたいというのなら全く裏切られることはないのだが、いかんせんコクがない。これはおそらく、著者の探偵小説に対する「探偵小説は決して文学ではない」という考え方にも起因しているようにも思われる。
実際、読んでみて印象に残ったのは「電話事件」「眠りの誘惑」「湖畔事件」といったところで、これらの作品も論理を追求してはいるものの、余韻や味わいという点で著者自信が気に入っている「完全犯罪」などよりも上ではないかと思う。本格探偵小説だから論理性や謎解きはもちろん重要だが、それだけではやはり成り立たない。名作と謳われ、読み継がれている作品は、みなそれ以上の何かを備えているはずだと思うのだが。