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 パーシヴァル・ワイルドの『ミステリ・ウィークエンド』を読む。本業は劇作家ながら余技のミステリでも『検死審問ーインクエストー』や『検死審問ふたたび』など、専業作家顔負けの傑作を残したワイルド。本作は彼の処女長編ミステリである。

 舞台はアメリカ・コネティカット州の片田舎にあるホテル。若きオーナーのジェドは地元の資産家シモンズからホテルを買い取り、スキーやスケートなどをウリにしてようやく経営を軌道に乗せてきた。最新の目玉は「ミステリ・ウィークエンド」と名付けた冬の観光ツアーで、これがまた大当たり。
 ところがそのホテルで死体が発見される。ジェド、シモンズ、そして宿泊客の医者ハウ先生らが対処を練っているところへ闖入してきたのが自称作家のドウティ氏。シモンズに事件の手記を書くよう依頼したことを皮切りに、何かと不審な言動が目立つドウティ氏に周囲は怪しむが……。

 ミステリ・ウィークエンド

 実に巧い。本作には一応、密室ネタとかもあるのだけれど、いや、そういうトリックみたいなものはあまり重要ではなくて、きちんとしたプロットがあり、それをどういうアングルで見せるかということが大きなポイントである。著者はそれを主要人物の手記という形で料理し、語り手が変わるたびに事件の構図が変わるという趣向で見せてくれる。
 それだけでもミステリとしては面白いのだが、何より感心するのは、数々の伏線やギミックが一見とんでもないものばかりで、それがラストできっちりと回収されるところだろう。しかもユーモアとしてもがっつり機能しており、こういうところが劇作家らしいというか、上手いところなのである。
 むしろこの手の作品は現代にこそ書かれるべきだと思うのだが、なんと1938年の作品というところが恐れ入る。読んでいてもまったく古さを感じさせず、これは訳者の頑張りもあるのだろう。

 なお、本書にはボーナストラックとして、「自由へ至る道」、「証人」、「P・モーランの観察術」の三短編も収録されており、こちらもそれぞれ悪くない出来。予想以上に満足できる一冊で、クラシックファン必読といってもいいのではないか。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 パーシヴァル・ワイルドの『検死審問ふたたび』を読む。言うまでもなく前作『検死審問 ―インクエスト―』の続編である。

 舞台はニューイングランドの田舎町トーントン。売れっ子作家ティンズリーが、執筆にもってこいの静かな環境ということで移り住んできたものの、ある夜、自宅の火事によって焼死してしまう。さっそく検死審問が行われることになり、おなじみリー・スローカム検死官の登場とあいなった。ところが陪審長は、教養があり正義感も強いが、口やかましく冗談の通じないイングリス氏。スローカム検死官との審問は混迷や脱線をはらみつつ……。

 検死審問ふたたび

 ほぼ全編が検死審問でのやりとりや証言で構成されるというスタイルは前作同様。
 もうひとつの大きな特徴であるユーモアも、健在どころか、むしろパワーアップしていると言えるだろう。特に陪審長イングリスをメインの語り手に据え、注釈までイングリスに書かせる趣向は楽しい。しかもそのイングリスのツッコミが、適切どころか実はかなりズレていたりするので、ワイルドも質が悪い(笑)。ブラックユーモアとまではいかないけれど、とにかく非常にクセのあるギャグであることは確か。しかも、この人のユーモアは謎のカモフラージュという性質も備えているので、決して油断できないのである。
 だから単にユーモアミステリという形容では、本書の性格を十分に伝えることにはならない。ユーモアが本格を構成する一要素として機能している。そこが本シリーズの肝であり、同時に魅力でもあるわけだ。
 ただ残念ながらメインの仕掛けは前作並とはいかない。巧くまとめてはいるが、与えられる材料が少ないため、すれたミステリファンなら真相はすぐに予測できるだろう。とはいえ真相には二の矢が仕掛けられており、こちらの方に失望することはないはずだ。まあ、トリックだけでどうこういう作品ではないし、ミステリファンでなくとも読んでおいて損はないかと。そしてできれば前作から順に読んでほしいなと思う次第。


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 五十年ぶりぐらいで新訳されたパーシヴァル・ワイルド『検死審問ーインクエストー』を読む。東京創元社の「世界推理小説全集」版は持っていたはずだが、せっかく読みやすい新訳が出るならそっちがいいやと買ったもの。ただ、頭では『検屍裁判』が長らくインプットされていたので、タイトルがどうも馴染めないが、解説によると確かに「検死審問」の方が適切そうなので、これはまあ仕方ないか。

 ちなみに創元では、いま文庫創刊50周年記念ということで、復刊リクエストを受け付けておりますな。昔から名のみ知っているだけで、まだお目にかかったことがないのはこんなところ。ま、だめだとは思うのだが(苦笑)、個人的にはこれだけ出してくれればもう十分である。

 ヘレン・マクロイ『幽霊の2/3』
 クリストファー・ブッシュ『チューダー女王の事件』
 マージェリー・アリンガム『反逆者の財布』
 ヘレン・ユーステス『水平線の男』


 検死審問

 話を戻そう。『検死審問ーインクエストー』である。まずはストーリーから。
 検死官リー・スローカムの初仕事は、村に住む女流作家ミセス・ベネットの屋敷で起こった殺人事件であった。ーー絶大なる人気を誇る女流作家ミセス・ベネットの七十才を祝う集い。彼女の財産をあてにする親類縁者、出版社の社長、出版代理人、そして彼女の作品を酷評し続けた評論家……ひと癖もふた癖もありそうな関係者が集い、さまざまな欲望がぶつかりあう。そしてついに悲劇は起こった……。

 とまあ、こんな感じで書くとえらく深刻な話に聞こえるかもしれないが、実はかなりユーモラスなミステリである。
 そもそも構成からして面白い。物語はタイトルどおり検死審問が舞台であり、事件は関係者の証言や日記などで語られてゆく。この検死審問に出席する検死官やら陪審員、職員らは、死体の数や審問の日数、記録のページ数などで手当が増えるため、必要以上にだらだらと審問を続けるわけである。加えて検死官スローカムの審問の進行ぶりも、すさまじくいいかげんで適当。だがこれが結果的に関係者の自由な発言を促し、事件の真相が少しずつ明らかになっていく。本格としての仕掛けとユーモアのバランス。この辺の匙加減がまあ見事なのだ。
 例えば最初の証言者、ベン・ウィリットも自分の生い立ちから話を始める始末。読者はまだどんな事件が起こったのかすらわからない状態でこれを読まされ、しかもどちらかというと単なるユーモア小説のようなペースに誘われてしまう。ここで少々油断していると、いきなりその無駄話が重要な証言に変わる瞬間がくるわけで、このタイミングが絶妙である。
 そして何といっても極めつけは最終章でのたたみかけ。本書が本格としても傑作であることを証明するにふさわしい真相であり、実は巧妙に計算された作品であることがわかるのだ。

 名のみ知られただけのクラシックと侮るなかれ。本書は間違いなくオススメの一冊。


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 パーシヴァル・ワイルドといえば古くは『検死裁判』、新しいところでは『悪党どものお楽しみ』でその名を知られた一癖も二癖もありそうな作家である。その彼の日本での最新作が本日の読了本、『探偵術教えます』。まあ、最新作といっても1947年の作品だが。

 主人公はお金持ちのお抱え運転手、モーラン。彼はもっか通信教育で探偵術を受講中の身。そんな彼が偶然事件に巻き込まれ、習ったばかりの探偵術で事件解決に乗り出していく。しかし基本的にはマヌケでお調子者のモーラン。やることなすことトンチンカンで、事件はさらに混迷をきわめていくが、いつの間にか本人も知らないうちに事件を解決してしまっているというユーモア・ミステリだ。
 
 まず主人公のキャラクターを初めとする人物描写が抜群に巧み。また、物語はモーランと探偵術の講師との書簡形式(通信教育だからね)で綴られるのだが、お互いの立場を踏まえた上での皮肉っぽいやりとりも実に楽しい。
 「トンチンカンな捜査や推理で事件を混乱させるくせに、何故か事件は無事解決」というパターンはロバート・L・フィッシュのシュロック・ホームズ・シリーズが有名だが、こちらはそれに通信教育の内容を曲解したり、講師とのやりとりが加わるので、面白さではこっちの方が上かもしれない。
 ただ、主人公の失敗が上手く事件解決に結びつく、というのは、これでなかなか難しようで、残念ながら高いレベルでそれが成功しているようには思えない。タイトルでいえば冒頭の「P・モーランの尾行術」「P・モーランの推理法」、そしてお終いの「P・モーラン、指紋の専門家」は良い出来だが、会話で何とか持たせている印象の作品もいくつかある。かしこまって探偵小説を読むのではなく、ユーモア小説として読む方が正解でしょう。

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