今週の水曜日のことになるが、ちょうどブログの『忘れられた花園』の記事をアップした直後から猛烈な寒気に襲われて、一気に体温が40度に達してしまう。40度というのはさすがにこれまで経験したことがなく、暖房をガンガンに効かせ、布団を二枚重ねても寒気がするというレア体験。
もちろん翌日は病院へ直行である。今ではだいぶ体温も下がったが、それでもまだ平熱とはいかず、いやとにかく参った。ちなみに原因は風邪と過労で、インフルエンザではなかったようだが、まあ、この週末は東日本がかなり冷え込むようなので、皆様もお気をつけて。
そういうわけでこの二日ほどは薬でかなり意識朦朧としていたのだが、そういうときは気楽に読める海外の古典ミステリかなと思い、A・E・W・メイスンの『被告側の証人』を読んでみた。
法廷弁護士の資格を得たスレスクだったが、まだ仕事は順調とは程遠い毎日。そこで気分転換のためにサセックス州へ一ヶ月の休暇に出るが、そこでステラという女性と親しくなる。だが、ともに財産のない二人。早く一人前になりたいというスレスクの意思も強く、二人はそれ以上の関係に踏み出すことなく別れてしまう。
それから八年。インドのクライアントのために現地を訪れたスレスクは、そこでステラがインド総督代理のスティーヴンと結婚したことを知り、人を介して、訪ねることにする。そこで目にしたステラは粗暴な夫に虐げられている妻の姿だった。
だがスレスクに彼女を救う手だではなく、いったんは帰国の途につこうとするスレスクだったが、そこへスティーヴン志望の知らせが届く……。

『矢の家』も読んでいないようなミステリファンはもぐりだと思っていたが、ただ、あらためて考えると、その後に出た『薔薇荘にて』や『サハラに舞う羽根』も含め、やはり必読というには無理があるな(笑)。一応、クイーンやクリスティと重なる時期もあるけれど、メイスンがミステリを書き出したのはさらに二十年ほど遡るわけで、黄金時代の到来を前にした、この差はかなり決定的なものといえるだろう。
本作『被告側の証人』も1914年の作品で、ミステリとしてはそこまで注目するところはない。ただ、それはミステリの技術的な部分に着目しているからで、本作は実はミステリというより恋愛小説の側面が強い作品なのである。比率でいえば6:4で恋愛小説が勝っているとさえ言える。そもそもメイスンはミステリ専業作家ではないので、娯楽小説を書くうえでミステリの手法も取り入れていたと考えるほうが自然だろう。
本作のキモは結局、事件の真相などではなく、スレスクとステラが、人生の岐路でどういう決断を下したかである。そしてそこに至る過程や気持ちの揺れが読みどころなのだ。主人公の二人はいつも正しい選択をするわけではなく、そこに一喜一憂したりするのが本書の正しい楽しみ方であろう。
メイスンの作品はもう一冊『ロードシップ・レーンの館』が未読なので、こちらも感想もそのうちに。