ココシリーズや三毛猫ホームズ等の猫ミステリーの先駆け、という謳い文句で先日出版されたばかりのD・B・オルセン『黒猫は殺人を見ていた』。だが、コージー系が苦手な管理人のようになどは逆にそれだけでスルーするところである。しかし、著者のオルセンは黄金期のやや後の世代に属する作家で、日本ではかつてポケミスからハードボイルドタッチの作品が一冊だけ刊行されていたらしい。そういうことなら一応読んでおいてもいいかと手に取った次第。
姉、そして猫のサマンサと共に暮らすレイチェルの下にかかってきた一本の電話。それは窮地に陥ったらしい姪、リリーからの助けを求める電話だった。さっそく猫のサマンサをつれてリリーの元へと向かうレイチェル。
ところが着いてびっくり。リリーの暮らすアパートはボロボロのほったて小屋も同然で、他の部屋に住む人々も何やらうさんくさげだ。おまけにリリーは自分のトラブルについて口をつぐんでしまう始末。いったい彼女に何があったのか?
そうこうするうち、とうとうリリーは殺され、レイチェルも毒を飲まされて絶体絶命となる……。
良くも悪くもコージーミステリという感じで、謎の提出と解決はそこそこまとまっているものの、いかんせん小粒で大した驚きはない。
やはりウリは主人公レイチェルとその周辺の人々とのドラマにあるのだろう。レイチェルはミス・マープルを活発にして、推理力をもう少し落とした感じ。だから推理の冴えを楽しむというよりは、謎を解き明かすための冒険という部分により興味が向いてしまっている。
ただ、レイチェルはよいが、その他のキャラクターがいまひとつで、特にワトスン役の警部は精彩に欠ける。彼の人間的な部分をある女性との恋愛などで浮き出そうという努力もしているが、中途半端に終わっているし、姪のリリーもポイントになる登場人物の割には性格づけがいまいち。これがシリーズ一作目ということもあるのだろうが、これではなかなか飛びつきにくいだろう。
シリーズが進んで、よりこなれた(はずの)作品を読んでみたい気もするが、この作風自体が好みではないので、まあ、おそらく私はこれっきりだろうな。