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 ハヤカワミステリマガジンの今月号はフランスミステリ特集。情報としてなかなか集めにくい分野なので、けっこう助かる。古いところはともかく、ここ二十年ぐらいのフランスミステリの動きなんてまったく見当もつかないので、概要をつかむには便利。当然、近刊予定となっているポール・アルテの新作に連動した企画なんだろうが、連動でも便乗でもいいからもっと面白い企画を増やしてほしいなぁ。

 読書の方はフランスとはまったく関係なく、リチャード・ハルの『他言は無用』。ミステリの入門書でたいてい紹介されている、世界三大倒叙のひとつ『叔母殺人事件』。作者のハルは、まさにこれ一作で日本で知られている人である。おそらく海外ミステリ好きなら一度は読んでいるはずだが、中身を覚えている人は果たして日本で何人いることやら。私も読んだのは二十年以上前である。どんな話かも、とっくに忘却の彼方。

 ベンスンはロンドンにあるホワイトホール・クラブの料理長だ。ある日、腫れ物治療のために買った過塩化水銀を、バニラ・エッセンスのビンに入れて出勤したが、その夜、クラブ員のモリスンがバニラ味のスフレを食べて死亡するという事態を招く。ベンスンの失態が外部に漏れるのを恐れたクラブの幹事(支配人みたいなものか?)フォードは、クラブ員の一人、開業医アンストラザーの協力を受け、モリスンが心機能障害で死亡したことにしたが……。フォードのもとへ突然、その事実をネタにした脅迫状が届き始めたのだった。

 英国の社交クラブの実情に詳しい著者ならではのユーモア本格ミステリ。前半は脅迫者の正体探しがメインとなるオーソドックスな展開だが、後半に入ると突然倒叙ものに変化するという珍しい構成である。なるほど、こういう倒叙ものの書き方もあるのか。大上段に構えることなく、ここがミソというところをきっちりと外さずに書いているのがよい。名職人の風格というか匠の技というか、読んでいて「少なくともこの小説で失望することはないだろう」というある種の信頼感を感じさせるのである。これはバークリーにも共通する部分だろう。
 また、適度に劇画化されたキャラクターたちがいい味を出していて、クラブ会員たちの実情ややりとり、給仕たちとの対比も読んでいて楽しい。驚愕のトリックなんてないけれど、すこぶるリーダビリティは高く、おすすめの一冊ではなかろうか。少なくとも私はこれ、好きです。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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