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 原書房の海外ミステリといえば《奇想天外の本棚》がスタートして話題になっているが、ちょっと前までは「 ヴィンテージ・ミステリ」が定番であった。全部二十六冊出ており、管理人はすべて購入しているが、もちろん全部読んでいるわけではない(お約束)。
 本日はそんな未読「ヴィンテージ・ミステリ」の中からリチャード・ハルの『善意の殺人』を読む。

 まずはストーリー。
 スコットニー・エンド村の駅から発車した列車で、一人の男が不審な死を遂げた。男の名はヘンリー・カーゲート。村に最近やってきた富豪だが、その嫌味な言動ですべての人に嫌われており、その死を悲しむ者は誰もいない始末。しかし、死因が嗅ぎタバコに忍ばされた毒によるものであることがわかり、警察の捜査が開始された。
 やがて犯人が逮捕され、裁判が始まったのだが……。

 善意の殺人

 リチャード・ハルは世界三大倒叙ミステリのひとつ『伯母殺人事件』の作者として知られているが、我が国ではなぜか長らくそれしか紹介がなかった不遇の作家でもある。近年ようやく第二作の『他言は無用』が紹介されたが(といっても二十年ほど前だけど)、これがなかなか悪くない作品だったので、単なる一発屋ではないとは思っていたのだが、『善意の殺人』もまた非常に面白い作品だった。

 注目すべき点はいくつかあるが、まずはその構成か。本作は法廷ミステリであり、事件の詳細はすべて法廷での証人の話で再現されるというスタイル。それ自体は珍しくないのだが、すごいのは被告の名前を一切明らかにしないことである。
 被害者カーゲートはいろいろな人から恨みを買っており、証言や死亡時の状況から容疑者はほぼ四人に絞られてくる。もちろん真犯人は誰かと言う興味はあるのだが、その前に被告は誰なのかという興味でつなぐパターンはなかなか珍しい趣向である。しかも被告が明らかになったとして、果たして被告=真犯人なのかという疑問もあるわけで、こういう実験的作品を1938年という時点で書いたことがまた素晴らしい。
 似たようなパターンだと、パット・マガーの“被害者探し”や“探偵探し”といった趣向があるけれど、それにしても本作から十年近く後のことなので、いかにハルの着目が早かったかわかる。

 また、ラストで明らかになるのだが、全体の様相を一変させるある仕掛けが盛り込まれているのも憎い。ストーリー上は本筋というわけではなく、むしろブラックな味付けといったようなものだが、これはアントニイ・バークリーの作風に近いものを感じ、作品の価値を大いに高める要素になっていると思う。

 そういうわけで基本的には満足できる一冊。
 ただ、本作は法廷ミステリとはいえ、根っこはあくまでクラシックな本格ミステリである。現代の法廷ミステリにありがちな、検察側と弁護側の丁々発止なやりとり、あるいは頭脳戦といったような展開はほぼないので、そういうのを楽しみたい向きにはちょっと期待はずれかもしれないので念のため。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 ハヤカワミステリマガジンの今月号はフランスミステリ特集。情報としてなかなか集めにくい分野なので、けっこう助かる。古いところはともかく、ここ二十年ぐらいのフランスミステリの動きなんてまったく見当もつかないので、概要をつかむには便利。当然、近刊予定となっているポール・アルテの新作に連動した企画なんだろうが、連動でも便乗でもいいからもっと面白い企画を増やしてほしいなぁ。

 読書の方はフランスとはまったく関係なく、リチャード・ハルの『他言は無用』。
 ミステリの入門書でたいてい紹介されている、世界三大倒叙のひとつ『叔母殺人事件』。作者のハルは、まさにこれ一作で日本で知られている人である。おそらく海外ミステリ好きなら一度は読んでいるはずだが、中身を覚えている人は果たして日本で何人いることやら。管理人も読んだのは二十年以上前である。どんな話かも、とっくに忘却の彼方。

 ベンスンはロンドンにあるホワイトホール・クラブの料理長だ。ある日、腫れ物治療のために買った過塩化水銀を、バニラ・エッセンスのビンに入れて出勤したが、その夜、クラブ員のモリスンがバニラ味のスフレを食べて死亡するという事態を招く。ベンスンの失態が外部に漏れるのを恐れたクラブの幹事(支配人みたいなものか?)フォードは、クラブ員の一人、開業医アンストラザーの協力を受け、モリスンが心機能障害で死亡したことにしたが……。フォードのもとへ突然、その事実をネタにした脅迫状が届き始めたのだった。

 英国の社交クラブの実情に詳しい著者ならではのユーモア本格ミステリ。
 前半は脅迫者の正体探しがメインとなるオーソドックスな展開だが、後半に入ると突然倒叙ものに変化するという珍しい構成である。なるほど、こういう倒叙ものの書き方もあるのか。大上段に構えることなく、ここがミソというところをきっちりと外さずに書いているのがよい。名職人の風格というか匠の技というか、読んでいて「少なくともこの小説で失望することはないだろう」というある種の信頼感を感じさせるのである。これはバークリーにも共通する部分だろう。
 また、適度に劇画化されたキャラクターたちがいい味を出していて、クラブ会員たちの実情ややりとり、給仕たちとの対比も読んでいて楽しい。驚愕のトリックなんてないけれど、すこぶるリーダビリティは高く、おすすめの一冊ではなかろうか。少なくとも私はこれ、好きです。


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