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 先日プロンジーニを読んだからというわけでもないのだが、今度はマイクル・Z・リューインの新刊『神さまがぼやく夜』を読んでみた。
 リューインはプロンジーニと同様、ネオ・ハードボイルド系の作家である。私立探偵アルバート・サムスンやパウダー警部補、探偵家族ルンギ一家のシリーズなどが知られていて、どれもオススメなのだが、代表シリーズをひとつ挙げろと言われればやはりサムスンものを推したい。

 サムスンものに関していえば、どの作品も事件自体はいたって地味なものだ。そこにハードボイルドの探偵にしては極めて常識人的なサムスンが関わっていくうち、アメリカの抱える社会問題が炙り出しのように、じわーっと浮かび上がってくるという寸法。
 語り口も心地よく、シリアスな中にも程良いユーモアを漂わせる。惜しむらくはコレという絶対的な代表作がないことだが、裏返せばこれは出来にムラがないということでもある。水準はどれも一定のレベルを満たしているので、ハードボイルド云々にこだわることなく、幅広い層にオススメできるシリーズでもあるのだ。

 前振りが長くなってしまったが、本作はそんな手練れのリューインが書いた数少ないノンシリーズ作品。しかも主人公がなんと神さまだというのだから、これは気にするなというほうが無理。

 このところ新たな宇宙創造に集中するあまり、久しく人間界の様子に疎くなっていた天地創造の主、神さま。 久々に降り立った下界では、人間の進化が神の想像を遥かに超えてしまっていた。おまけにかつて自分に似せて創ったはずなのに、彼らのやることなすことがまったく理解できない。
 その上、仕事にこもってばかりいたせいで欲求不満気味でもあった神さま。人間の女性との自由意志による肉体関係にも意識が向いてしまう。そこでリサーチとばかり夜ごと酒場を巡り歩くが……。

 神さまがぼやく夜

 面白い。
 要は現状に悶々としている神さまが、たまにはいい女といい関係になりたいぞという物語である。しかし酒場で女性に声をかけるところまではよいが、そのあとが続かない。
 なんせこれまで自分の意志を一方的に行使するだけでよかった立場である。そもそもコミュニケーションなど取る必要がないので、コミュニケーション技術など無いに等しい。毎度のように女性の逆鱗をかい、平手打ちを食っては反省する日々だ。そんな神さまが少しずつ場数を踏み、ときには悪魔の知恵も借りながら、成功をめざす。

 まあ、言ってみればそれだけのストーリーなのだが、この神さまの失敗談が大変面白く、そして多くの失敗から神さまも少しずつ教訓を得て、人間的に(?) 成長してゆく様が憎らしいほど巧い。ユーモアいっぱいなのだが、徐々にウルッと来るエピソードも差し込んでくるなど、この匙加減の絶妙さはさすがリューイ ン。大学での教授とのやりとり、小児病棟での子供とのやりとり、鯨とのやりとりなどは独立した短編でもいいぐらいの鮮やかさだ。
 
 結局、本書でリューインが謳っているのは宗教論でもなく恋愛論でもなく、人間賛歌だ。
 現代アメリカの抱える様々な問題のなかで、辛いことはいろいろあるけれど、それでも前を向いて歩こうよというリューイン流のメッセージなのである。ページの端々、エピソードのあちらこちらから、リューインのそんな気持ちがひしひしと伝わってくる。
 殺伐としたミステリばかり読んでいる身としては、非常に気持ちよく楽しめた一冊であった。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 マイクル・Z・リューインの『眼を開く』を読む。いやいや、久々のアルバート・サムスン物だ。前作から何と十年以上も間が開いてしまったが、まずは心から復活を祝いたい。リューインのサムスン物に限らず、ネオ・ハードボイルドとして持てはやされたシリーズの数々が、最近では滅多に翻訳されることもなく、こちとら実に寂しい思いをしていたのだ。
 なんせ日本でいまだに刊行されているネオ・ハードボイルドといったら、スペンサーかマット・スカダーぐらいのものではないか。モーゼス・ワインやアロー・ナジャー、名無しの探偵あたりは未訳もけっこうあるはずなのにさっぱりだし、デイブ・ブランドステッターやジョン・マーシャル・タナーに至ってはシリーズそのものが完結しちゃったもんなぁ。そういうなかでサムスン復活は実に喜ばしいニュースなのだ。

 私立探偵の免許を失効していたアルバート・サムスンに、遂に免許再発行の時が訪れた。意気揚々と仕事再開に燃えるサムスンだが、そんななか大手弁護士事務所から、友人のミラー警部の身辺調査という仕事が舞い込む。友人とはいえミラーはサムスンが免許を失う原因をつくった張本人。複雑な思いで調査を開始したサムスンだったが……。

 免許を失った間のサムスンは、客観的に見ると相当情けない毎日を送っていたようだ。そのせいかせっかく仕事を再開しても、ここかしこに弱さを垣間見せ、かなりのブランクを感じさせる始末。「心優しき探偵」がサムスンの特徴とはいえ、以前はここまでダメダメな男ではなかったはず。しかし、それが久々の探偵仕事をこなすうち、徐々にではあるが本来の彼に戻っていく。これがタイトルにある「眼を開く」ということなのだろう。
 そんな再生の物語を、リューインは巧みなユーモアにくるんで語っていく。何といっても会話の妙。ときにはユーモアが勝ちすぎて、逆にやや物足りなく感じる部分もないではない。初期の作品群にあった内省的な部分は、ユーモアと並んでこのシリーズの持ち味でもあったはずだ。ところがこの最新作ではその割合がかなり変わった。だがリューインの近作『探偵家族』シリーズなどを読んでみると、こちらこそがリューインの本来持っている資質ではないかと思ったりもする。
 とりあえず今後にさらなる期待。早川さん、パウダー物もぜひ!


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 DVDで『サウンド・オブ・サンダー』を観る。監督ピーター・ハイアムズ、原作レイ・ブラッドベリという組み合わせには期待できたものの、できあがりはなかなか無惨なものであった。華に欠けるキャスト、素人目にもしょぼいCG、粗っぽいストーリーと、あまりお勧めできる代物ではない。実は制作途中でいろいろなアクシデントに見舞われたようで、かなり不運な映画ではあったらしい。しかしこれを劇場で観せられたお客さんこそいい面の皮である。

 読了本はマイクル・Z・リューインの『探偵学入門』。
 リューインは基本的には長篇作家だと思うが、この著者唯一の短編集は予想以上に上質。ことさらリューインが職人的作家だとは思わないが、長い物から短い物、コメディタッチからシリアスな物まで、意外と何でも器用にこなせることに驚いてしまった。ただ、リューインの語り口は、基本的に肩の凝らないマイルドな味わいである。「ミスター・ハード・マン」のような辛口も悪くないが、ルンギ一家もののようにユーモアを孕んだ方がより実力を発揮できるように感じられた。
 あえて本書にケチをつけるとするなら、肝心のアルバート・サムスンものが入っていないこと。もうすぐ久々の長篇が出版されるということなのでそれまでの我慢か。


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 関東地方は本日より梅雨入り。鬱陶しい日々が始まる。

 マイクル・Z・リューインの『探偵家族/冬の事件簿』を読む。
 リューインと言えば私立探偵アルバート・サムスンやパウダー警部もので知られているが、ここ最近はまったく新作が紹介されず、寂しいかぎりであった。その隙間を埋めるように登場したのが家族全員で探偵業を営む(実際は全員というわけでもないのだが)探偵家族のルンギ一家シリーズである。

 ややコミカルながらもしっかりネオハードボイルドしていたサムスンや、より真っ当なパウダー警部ものなどと違い、こちらは極めてほのぼの系だ。形式的には複数の事件が同時進行するモジュラー型といえる。
 ただし、そのどれもが他愛ない事件であり、ときには事件ですらない。加えてルンギ家に巻き起こる家族内のトラブルも発生する始末。あくまでミステリは衣装であり、中身はユーモア溢れる家族小説といった趣だ。いつものリューインの作品を期待するとかなり裏切られる羽目になるが、さすがに読ませる技術は高く、キャラクターを楽しむ物語と割り切ればまったく問題ないだろう。

 本作ではブティックへの強請り、ポケベルでの脅迫事件、伯父殺しという三つの事件が同時に進行し、しかもここに家族のトラブルが三つも四つも重なってくる。作者のサービスの徹底ぶりは恐れ入るが、正直、前半はかなり忙しなく、やや消化不良の感がある。しかし後半に入ってそれを一気に収束に持っていき、かつ家族の絆を巧みに描くところはさすがリューイン。

 というわけで一応は楽しめるレベルにある作品なのだが、それでもやっぱりサムスンやパウダー警部ものの方がいいよなぁ、と思ってしまうところに本作の限界があるような気がする。今さらこういうものをリューインが書く必要はあるのだろうか?


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